『全一冊 小説 吉田松陰』童門冬二(090131)

 童門先生のご著書を拝読したのは,昨年,『人生で必要なことはすべて落語で学んだ』など,「人生で○○なことはすべて○○で学んだ」シリーズ3冊をまとめて拝読して以来。童門節に触れると,私はゆったりとした気分になります。

■『全一冊 小説 吉田松陰』(童門冬二/集英社文庫/本体:1,000円)

 実はこの小説を拝読するのは2度目。前回は単行本の『吉田松陰 上巻・下巻』(童門冬二/学陽書房)でした。単行本は文字が大きいのはいいのですが重い。文庫本は軽いけど文字が小さい。病人やお年寄りには読書は楽しくないかもしれません。文字が大きくて軽い本のニーズはこれからどんどん高まっていくでしょうねえ。それはともかく。

 本書は昨年暮れの発行。苦しいときは辛抱して勉強して,新たな力をつけるとか従来の力を増強するとか,現実を凝視してこれまで見落としてきたことへの対応を考えるということをするわけですね。

 松陰先生は,わずか29年の生涯。山口県萩の生まれ。長州藩でございます。九州遊学,江戸や脱藩して東北に行ったり,京都に行ったり,ロシア船に乗ろうとしたり,その後ペリー艦隊とともにアメリカに密航しようとしたり,それが原因で牢に入れられた(約1年8か月)ものの何とか出してもらって約3年松下村塾で多くの門人とともに寝起きしたのが“生涯の華”のとき。その後はまた藩にパクられて(安政5〈1858〉年12月),さらに江戸に移送され,幕府によって処刑されてしまいます(安政6〈1859〉年10月)。ちなみに,桜田門外の変は,安政7(1860)年3月3日。実に高濃度な人生。辞世は

 身はたとひ 武蔵の野辺に 朽ちぬとも 留めおかまし 大和魂

 この辞世に触れると,「大和魂」の意味はいろいろ考えられますが,オリンピックで(入学式・卒業式とかのじゃなくて)掲揚される「日の丸」を見て泣けてくるのと同様,条件反射的にウルウル来ます。家族に宛ててはこんな歌を送ったそうです。

 親思ふこころにまさる親ごころ けふのおとづれ何ときくらん

 私は,これも大和魂だなと思います。この小説の最後に,松陰が『留魂録』の最後に書いた5首が紹介されています。そのうちの1つ。

 呼びだしの声まつ外に今の世に 待つべき事のなかりけるかな

 29歳独身で,松陰先生はこんなところまで来てしまったんですねえ〜。本書のテーマは「吉田松陰における他人との出会い」(序/14ページ)だそうですが,松下村塾のスターである高杉晋作・久坂玄瑞・伊藤博文などはほとんど出番がなく(山県有朋も“棒切れ”としてちらっと登場するだけです。笑),金子重輔,黒川嘉兵衛,佐久間象山,富永弥兵衛,福川犀之助,松浦松洞,吉田栄太郎という,ほとんど一般には知られていない人との交流が描かれています。そしてこれらの人々の何人かは,松陰先生と交流があった頃が「華」だったようなんですねえ。松浦松洞,吉田栄太郎に関しては胸が苦しくなりました。童門先生の作品は毎度いろいろなことを考えさせてくれます。ありがたいことです。テレビで拝見したり講演なども拝聴しておりますので,文章からお声が聞こえてくるようなのもうれしいです。

 さらに今回は,何と巻末に,あの安倍晋三さんとの対談も掲載されています(テレビ通販みたいな言い方ですみません)。安倍さんの後の,その場凌ぎばかりの福田さん,麻生さんや,政権への涎をたらしまくりの小沢さんなどを見ていると,少なくとも安倍さんは国のことを,純粋な気持ちで根本から考えてはいらしたなあと,(1つも賛成したいことがありませんでしたし,2度と総理大臣になってほしいとも思いませんが)何だか懐かしくなってしまいました。

 そうそう,それと,今年のNHK大河ドラマ「天地人」は直江兼続を取り上げたものだそうで,直江兼続といえば,私は童門先生の『北の王国』(本書と同じシリーズの文庫では『全一冊 直江兼続 北の王国』)と井口朝生『愛と鬼謀の軍師 直江山城守』(河出文庫の書名では『完本 直江山城守―愛と鬼謀の軍師』らしいです。実物を見ていないのでアヤフヤですみません)がオススメです。

     


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