『洗脳の楽園 ヤマギシ会という悲劇』米本和広(080913)

 米本和広さんの『我らの不快な隣人』『カルトの子 心を盗まれた家族』を読んで,大宅壮一賞候補になった本書も,是非とも読んでおかねばと思いました。本書では,ヤマギシ会のいわゆる「洗脳」の要である「特講」に参加,取材した体験を中心として,〈ヤマギシ会とは何なのか〉が米本さんの体験や見聞を踏まえて語られています。米本さんは『Views』に連載した「巨大カルト集団 ヤマギシ“超洗脳”体験ルポ」で1997年に日本ジャーナリズム賞を受賞。戦場や犯罪の現場などに取材に行くのも怖いけれど,こういう取材も怖いですねえ。ルポライターさんやカメラマンさんは大変だ。ご苦労様です。ありがとうございます。

■『洗脳の楽園 ヤマギシ会という悲劇』(米本和広/洋泉社/本体:2,200円)

 本書は1997年12月発行。約10年も前の本です。私はヤマギシ会ではなくて,「洗脳」に大きな興味あり。

 以下,ざっと基礎知識。ヤマギシ会の村(=ヤマギシズムを実際に顕した地という意味で「実顕地」と呼ばれる。030ページ)の住人となるには,「特講」(1回受けたら2度と受けられない)を受け,「研鑽学校」に入り,土地を含めすべての財産を提供して「参画請願」をする(048ページ)。住人となったら,農業を中心とした労働(無給!)はしなくてはならないものの,村内ではお金を払うことなく衣食住が満たされる。もちろんいつでも腹一杯食べられる。住民は「無所有一体」という考えを共有しており,たとえば下着以外は衣服も風呂で使うタオルも共有。外出に必要になるおシャレな服・靴・装身具など(グッチやバレンチノもあるそうです。035ページ)は,「衣生活館」といった,無料のレンタルショップのようなところで入手。散髪も病院も葬儀も墓も無料。住民は「無我執」(むがしゅう)という考え方も共有しており,自己や所有へのこだわりを持たない(=だれとでも仲良くできる)のだそうです。「自分の子」も「自分」も自己のものではないという考え。「私は世界であり,世界は私だ」的な,わかるようなわからないような境地であります。子供は村社会のものなので,親元から離れ別の施設で生活します。

 本書の章立ては以下のとおり。

 プロロ−グ 僕なんか死ねばいいんだ
  第一章 地上の楽園
  第二章 脱走する子どもたち
  第三章 交わることのない〈2つの真実〉
  第四章 脳を洗う(四月二八日〜二九日)
  第五章 脳を洗う(四月三〇日〜五月五日)
  第六章 脳を洗った八十八人のその後
  第七章 脳に浮かんだユートピア
  第八章 「地上の楽園」の実態
  第九章 ユートピアの終着点
 エピローグ 重い十字架
  ヤマギシ実顕地での事故一覧表
  あとがき

 第四章・第五章で,洗脳のための「特講」の様子が具体的に報告されています。第六章では,米本氏が作成した特講の記録を読んで,精神科医の斉藤環氏が「記録を読むと,特講を受けた人は解離状態になっていますね。あなたも軽い解離状態に陥っていたようです。(中略)報告を読んでいたら,私まで気分が悪くなった」とおっしゃったことが紹介されています(209〜210ページ)。そうなんです。私も第四章・第五章を読んで,すっかり気分が悪くなってしまいました。解離状態というのは酔って判断力がおかしくなったときのような状態を言うようです(210〜211ページ)が,私は,シラフで判断力がおかしくなってくることによってやたら気分が悪くなる感じでした。車酔いとか鏡の間に入ったときの混乱のよう。一服で酔いが治る薬とか,すぐ脱出できるドアとか,単純な「問題解決法」が欲しくなります。

 第六章以降では,「親に捨てられた子どもたち」のこと,米本氏と一緒に「特講」を受けた人たちのその後などに触れつつ,ヤマギシの実態が批判的に明らかにされていきます。決定的に個人や家族をダメにしかねない,こういう「特殊な大きな社会」が,現実に合法的に今も存在していることに驚きます。何とかならないのかと強く思うものの,かなりムズカシイ問題です。思想良心の自由に対する制限を認めるわけにはいきませんものねえ。なので,大人はともかくとして,せめて子供の保護については,身体検査・精神鑑定などを駆使して,できないものですかねえ?


Google


TOPへBACK

このサイトは「目次部分」「本文部分」という2分割の画面で表示される仕様にしていますが,検索エンジン経由ですと単独のページがピックアップされる場合があります。そのような場合には,恐れ入りますが以下をクリックして,新たにアクセスし直してください。
【注】2分割で表示されている場合に下をクリックしますと,フレームの中に2分割の画面ができてしまいますのでご注意ください。その場合はブラウザの「戻る」ボタンを押していただくと,現在の画面に戻ります。
http://homepage1.nifty.com/kanen/