『とほほのほ』『僕にはわからない』中島らも(080714)

 中島らも研究。『今夜、すべてのバーで』『西方冗土』『なにわのアホぢから』の次は軽いエッセイ。この文庫のカバーイラストは2つともいいですねえ。原画を見たい。

■『とほほのほ』『僕にはわからない』(中島らも/双葉文庫/本体:各460円)

■『とほほのほ』

 「あと書きかえて」によると,本書は『週刊大衆』での60回にわたった連載をまとめたもので,「個人的な『時間のひねりつぶし方』のレシピだったといえる」そうです。すらすら読めますが,ちょろっと引っかかったことを覚書。

 「幸福を知るまでは人は不幸ではない」という諺がある(114ページ)

 確かに。熊本で美味しい馬刺を何度も食べてしまったわたくしは,東京で美味しい馬刺になかなか出会えなくなってしまいました。佐世保で食べた以上のイサキを食べたこともありません。

 世の識者の人たちはよく若い人たちの活字離れを嘆いてみせる。(中略)いまの若い人たちがテレビやビデオの映像メディアに走るのは,そのメディアに面白味と説得力があるからで,必要な情報はすべてそこから汲み取れているのだから,活字メディアに閑古鳥が鳴くのは理の当然なのだ。(中略)我々が必要とするのは水=情報なのであって,それを水道から汲むか井戸から汲むかは問題ではない。(155〜156ページ)

 これは頭に置いておきたい。一方,テレビを見ていて思うのは,見る価値があると思える番組があまりにも少ないということ。ニュース・天気予報・交通情報を除くと,あとはほとんどが一過性でいい加減な,たれ流し的な番組という感じがします。「うまい馬刺を食べるまで人はマズイ馬刺がわからないし欲しない」。「お下劣テレビ番組の影響大→お下劣視聴者増加→お下劣視聴者ニーズ増加→お下劣テレビ番組増加→お下劣テレビ番組の影響大→」という,「お下劣フロンティア開拓・掘下げ」というか「お下劣スパイラル」というか「自分の尻尾を食うヘビ」みたいになっているような気がします。とうとう馬鹿が馬鹿を笑って安心するような,“多くの人が亡くなった戦争の後60余年,俺らは一体何をやってきたんだろう?”と情けなくなるほどの,まさに品のない超お下劣番組まで出現してきております。お利口ぶるつもりはもちろんなく,お下劣を全否定するつもりもありませんが,今のテレビ番組はひどすぎる。頑張ってくれよ〜,テレビ屋さん。海外の映像とか(元気だった頃の?)活字メディアに学んでいただきたい。

■『僕にはわからない』

 この本は面白かった。

 「生きている」の反対概念は「死」ではなくて,「生きていない」でなければならない。「生」というものが「在る」ものならば「生きていない」という言葉は「無」を意味するはずである。「生きている」か「生きていない」か,この二つのありようのどちらかなのであって「死」という状態は想像力によってのみ想定され得る架空の概念でしかない。(27ページ)

…こんなことが書いてあります。この本を読むと,中島らもという人は,すごい博識なんだということがわかります。それをベースに,

 僕は広告の仕事を本業にしている(145ページ)

だけあって,センスのいい,耳ざわりのいい言葉で,読者を中島らもの世界へ引き込みます。そこでフラフラするのが,結構心地よいです。巻末の,わかぎえふさんの「私にはわからない」という文章によると,

 このエッセイの大部分は,うちの社長がアルコール性肝炎で入院していた当時から退院後の二年ぐらいの間に書かれました。(268ページ)

…ということで,お酒くさくもありません。


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