『出がらし ものぐさ精神分析』岸田秀(080713)

 これまで岸田秀先生の本は結構読んできました。『ものぐさ精神分析』,『続・ものぐさ精神分析』, 『性的唯幻論序説』『日本がアメリカを赦す日』『不惑の雑考』『[対論]幻想論対欲望論 現代日本人の恋愛と欲望をめぐって』(岸田秀・竹田青嗣)『二十世紀を精神分析する』『官僚病の起源』『なぜ日本人はいつも不安なのか』(岸田秀・町田静夫)など。そうした中で,今回の,この本が一番難しかったような気がします。随分時間を経て読んでいるので,あくまで印象ですが…。

■『出がらし ものぐさ精神分析』(岸田秀/青土社/本体:1,748円)

 本書は1992年6月第1刷。でも収められている文章は,1959年の修士論文,1967年の博士論文のほか,1975〜80年に雑誌や新聞で書かれたもの。まさに「かき集めましたね?」という感じ。いくつか引用。

 個人は,人間関係の網の目のなかの一つの結び目のようなものである。個人は,他の誰かにとって何であるかということによってはじめて,世界のなかにおけるおのれの位置を獲得する。個人は,(中略)彼の位置を規定してくれる他者が一人もいなくなれば,何者でもなくなり,無に転落する。(10ページ)
→秋葉原無差別殺傷事件の犯人は現実で疎外され,ネットで無視されたと思い,あんなことにまで至った風ですよね。話はややずれますが,単純に言って配偶者を持たない人は,夫や妻はもちろんとして,将来の父母,祖父祖母なんて「位置」もパスすることになるわけですね。
 たまたま昨日「就活」(就職活動の略)ならぬ「婚活」について取り上げた番組があって,結婚相手をネットで探すという事例が出ていました。「相手のスペック(仕様:spec/specification〈スペシフィケーション〉の略)がわかっていい」と言っている女性がいました。英語でこういう言い方をするんですかねえ??? 私はPCをネットで探している人の言葉みたいでゲッソリきました。「ネエチャン,でな,男も女もお互い,そのspecはさ,時代遅れになるのは当然として,とても醜く劣化することも頭に置いといてな」と言いたくなりました。それはともかくとして,しかし,う〜,どうでしょうねえ。ネットで「婚活」ですかあ。はああ〜。認めたくない気持ちはあるものの,これもアリに決まってると思いますねえ。私は。「あなたが第一志望です」と言うのが常識・礼儀とかってなことになるのでしょうねえ。ヤだな〜。さらに,結構頻繁に内定を「蹴った」りもするのね。「婚活市場」の裏では「短期婚姻(恋愛)市場」も発達して,「迅速で丁寧なご対応,ありがとうございました。また機会がありましたらよろしくお願いします」なんてコメントしつつ,相手を星で評価したりして…。
 それでも,こういう「結び目」ができるほうが,個人にとっては「無」=「孤独}よりはマシなんでしょうかねえ? 多分,そうなんでしょうねえ〜。(ふー。やっと戻ってきた。笑)

 太宰治について。今年で没後60年。

 太宰治は甘えの態度を強くもちつづけた人である。要するに甘ったれなのである。(57ページ)
 要するに,太宰が迷い苦しみ,そして一つの解答を出した問題は,幼いときから誰でも多かれ少なかれもちつづけている甘えの傾向にどう対処するか,そして自我体制をどう確立するかという,(中略)人びとにとってきわめて重大な,根本的な,クリティカルなことにかかわる問題である。この問題にどういう態度を取ったかが,太宰に対する心酔と嫌悪のわかれ道である。(68ページ)

 戦争について。

 敗戦から三十五年目の夏がめぐってきた。(1980年初出の文章)三十五年前,われわれ日本人は「本土決戦」とか「一億玉砕」とか叫んで死にもの狂いになっていたが,何を守ろうとしていたのであろうか。「一億玉砕」なんて言っていたわけだから,国民の生命,財産を守ろうとしていたのではないことは確かである。大日本帝国の国体とやらを守ろうとしていたらしい。しかし,戦争に負けて大日本帝国が崩壊してみると,そんなものはなくなっても別にどうということはないことがあまりにも明らかであった。(128ページ)
→今年は戦後63年。世界からまだ戦争はなくなっておりません。みんな,何を守っているのでしょうか???

 本書は約400ページ。比較的柔らかい文章は175ページまで。その後は「フロイド理論の発展と批判」(修士論文),「あるひとつの精神分析的人格理論」(博士論文)であります。私には超ムズカシかった。でも,こういう論文を読むチャンスはなかなかありませんので,そういう点では勉強になりました。岸田秀ファン,必読の一冊ではあります。


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