『経済心理学のすすめ』子安増生・西村和雄〈編〉(080629)

 西村和雄先生の本でかつ,心理学がらみということで,試しに購入してみました。あ〜,ムズカシかった…っと。例によってわからないところはバシバシ吹っ飛ばして,わかるとこだけ読みました。で,わかった(つもりになっているものを多数含む)ことだけ覚書。

■『経済心理学のすすめ』(子安増生・西村和雄〈編〉/有斐閣/本体:2,700円)

 本書は京都大学の子安増生先生と西村和雄先生の共編。執筆者はこのお2人のほか,経済学者・心理学者・脳磁波計測の専門家も加えて合計15人で,

 わが国最初の「経済心理学」(エコノミック・サイコロジー)の成書(285ページ/「あとがき」より)

 とのこと。「経済心理学」という分野では,ハーバート・サイモン(ノーベル経済学賞を1978年に受賞),ダニエル・カーネマン(同,2002年),エイモス・トヴァスキーといった人たちに先駆的業績がある模様。

 『行動経済学』(友野典男)で学んだところの,「経済学がこれまで想定してきた『合理的経済人モデル』は実はアヤシイ。経済学の土台を疑うという視点を持ってないとマズイぞ」という話が何度も出てきます。

・カーネマンとトヴァスキーが「フレーミング効果」と呼んだ事柄。ひき肉は赤身部分と脂身部分に分けられるが,「脂身25%」と表示されたひき肉よりも,「赤身75%」と表示されたひき肉の方を消費者が好意的に選択することがわかっている(Levin&Gaeth,1988)。(51ページ)
→コップに半分入っている水を見て「まだ半分ある」と考えるか「もう半分なくなってしまった」と思うかという話に似ていますねえ。また,遠藤周作先生が,「君はまだ週に一度しか入浴してはならぬ」と言うかわりに「君は週に一度は入浴できるようになったんだよ」と言えば,内容は同じでも患者に与える感じは全く違ってくる。前者は制限だが,後者は患者によろこびと希望と自信を与える言いかただ。言葉の微妙なニュアンスのちがいが,何ものかに寄りすがろうとする病人心理に,どんな大きな影響を与えるか,若い医者は知ってほしい。」『信じる勇気が湧いてくる本』)と書かれたことを思い出しますねえ。私たちは,こういうことを知恵として,知ってはおりましたが,経済学的モデルの中には,うまく取り込めないできたというなんですね。

 カーネマンとトヴァスキーが「心的会計」と呼んだ事象も大変興味深い。
10ドルのチケットをなくした場合と,10ドルのチケットを買うために持っていた現金10ドルをなくした場合で,その後の反応(チケットをまた買うか)に差が出るというもの。(51〜52ページ)。
→チケットをなくしたときは再度買うのをためらうケースが多いが,お金をなくしたときは買い直す人が多い。こういう話,大好きであります。プロスペクト理論というのも面白そうだったのですが,難しい文字が並んでおり,パス。(^_^;)
■その他のキーワード:モンティ・ホール・パラドクス,アノマリー(思い違い/正しいと思ってやっているのだが合理性がないこと,と理解)

◆投資家心理の持つバイアス(P.151〜156)
(1)自信過剰:人々が確実に起こると思っている事象の80%しか起こらない。20%の確率で起こる事象を,人々はまず起こらないと考えるようだ。自信過剰は人間にはつきものであり,その自覚がないことが特徴。自分自身の予想に対しては過度に自信を持ち,楽観的になる一方で,自分の予想と異なる他人の予想や評価はあまり信用しない。
(2)代表性バイアス:人間の脳は複雑な情報を処理する際に,必要最低限のものだけで意思決定をするという簡便法を用いることが知られている。この簡便法が代表性バイアスと呼ばれるバイアスを生み,ときに誤った結論を導くことがある。代表性バイアスの存在は,投資家が市場でトレンドを追いかけることをうまく説明できる。そういう場合,人はランダムであるとはどういうことかを理解できていない。統計学で「クラスター・イリュージョン」と呼ばれるものも代表性バイアスの一つ。「チャンスの後にピンチあり」とか。
(3)ハーディング(横並び行動):herding=群れ。盲目的に集団行動をとること。アナリストは有名になった後は,他人に追随するという横並び行動(ハーディング)がとるべき戦略となる。予想がはずれても名声を失うリスクが少ないから。予想もつかないような混乱状況のときほど,人は他人の行動に追随する傾向が強い。
(4)損失回避:1万円から得られる喜びの大きさは,1万円を失うことから受ける悲しみほどには大きくない。人間は損失の確定を嫌う傾向にあり,この現象は損失回避と呼ばれている。(これまでやってきたことを「ムダ」と思いたくない)。

 以上。A5・320ページもある本でこれしかメモれないとは…。(^_^;) でも,収穫がなかったよりはマシですよね。

 京都大学経済研究所長である西村和雄先生は,国際教育学会の会長(『クオリティ・エデュケーション』(創刊号/2008.3))もされており,その他多くの要職に就いておられます。驚きますねえ。その興味関心,業績の幅広さに。哲学がまだ政治学とか経済学とか数学とか生物学と未分化だった頃の学者さんのように,フトコロが深いというか,きっと学問を正しく究めようとすると,そこまで考えて行かざるを得なくなるんでしょうねえ。これは果てしない挑戦であります。先生には,釈迦に○○ですが,機会費用と予算制約をご考慮いただき,過労にならないよう,心からお願いしたい。


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