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『軍国美談と教科書』中内敏夫(071018)
沖縄の集団自決に関する記述が教科書検定で削除されたことが大きな問題となっています。昨年の今頃だったら無視されかねない感じでしたが,これは先の参院選で,国民が自民党に「あんまり図に乗るなよ」というパンチを食らわせた成果でありましょう。また,昨今の状況は,歴史というのは,その時々の政治状況でフラフラするんだということをよ〜くわからせてもくれますねぇ。
■『軍国美談と教科書』(中内敏夫/岩波新書/定価:480円)
上のカバーの帯には,“木口小平,広瀬中佐,「水平の母」… 「聖戦」を支えた美談の主の驚くべき実像!”と書いてあります。が,これはちょっと違うなあと思いました。“〜を支えた美談の驚くべき実像!”ぐらいが適当で,故意に読者の興味を引くべく“の主”を入れただろという感じ。「木口小平さんはあんなに美化されたけど,ホントはこんな人だった」という『週刊新潮』みたいなセンで売りたかったのでしょうが,天下の岩波書店にしては,ちと「はしたない」感じ。
それはともかく,本書の内容は非常におもしろいです。奥付は1988年8月。終戦記念日を狙って発行したと思われるトコロもいやらしいなあ〜。あ,これもともかく。中内先生は,この本が出た当時は,一橋大学教授(教育学・教育史)。はしがきからちょっと引用。
軍事教材は,じつは軍部と民衆の,軍事をめぐっての,せめつ,とられつの闘争と妥協の,さらには協調の場所のひとつだった(iiページ)
中内先生は,戦時中などの教育について,軍部とこれに従属した文部省によって民衆が「洗脳」された(たとえば「軍国少年」とか「皇国少年」)という面もあるけれども,それだけじゃないという見方。妥当…(タメ)…なんだろうと思います(近頃,政治家などがよく使う話し方のマネ。笑。わが社のエライさんでもマネしている人がいる。爆笑)。今回の「集団自決」問題が(アジアの国々やアメリカの意向にも配慮しつつ)どんな「協調の場所」に落ち着くのか,注目されますねえ。
この本では,いわゆる「軍事教材」が,どのように誕生し,どのように受け入れられていったか,またその過程で,どのように変えられて行ったかなどが検証されています。「一人の英雄」の話が,だんだん「集団主義的」教育にふさわしい話に変えられていく様など,驚きます。一方で,同じネタ(たとえば「水兵の母」)を使ったプロレタリア教育の教材を見ると,本当に「ソ連のマワシ者」が日本を弱体化させようとしてたんじゃないの? という匂いがプンプンしてもおります。
中国などでの「抗日=排日教材」も紹介されています。たとえば「国恥種類表 不平等條約」「掃除国恥」と書かれたポスターの図版を見るだけでも,中国民衆の怒りが伝わってきます。
また,戦後,「軍事教材」は墨で塗りつぶすなども含めて「削除」という処理がされたわけですが,そのことについて,
国家の手による「削除」というこの方法は,軍国主義と軍事教材をほうむるうえでの純然たる技術的問題にとどまらず,多分に思想性をもつひとつの立場の選択である。この立場は,(中略)日本の「民本主義」,中国の「五・四運動」,そして朝鮮の「三・一運動」以来の日・中・朝の民衆による主体的リアリズムの立場を,一括してしりぞける点に特徴をもつ。いわゆる軍部の帝国主義戦争の正体についての認識と国民的体験の整理のうえに,国定軍事教材の批判と否定の決定をおこなうのではない。国民的体験の切断のうえに,占領軍とそのもとにある政府司直の手によって,これらの教材とそれにまつわる近代日本の歴史のしがらみを一括して処理しようとするのが,その哲学である。(209〜210ページ)
…と書かれています。ちょっとまだるっこしい言い回しだと思いますが,こんな記述を読むと,昨今の「集団自決」に関するすったもんだ自体が大きな意味のあることなんだと思えてきます。終戦直後よりは「まし」なんだ,と。一方,国ってのは,いつでもこうなのかと思ったりもするわけですが…。
その他もろもろこの本からは多くのことを学ばせていただきました。理解できていないことももちろんたくさんありますが,少なくとも「水兵の母」「一太郎やあい」「三勇士」(三勇士と「部落」に関連する話なども出てきます。これも,かなり心臓にコタえます)といった“美談”があったことだけでも知ったことは,私にとっては大きな収穫でした。
最後にもう一点だけ。本書では,以下のような反戦・厭戦気分を表出した歌も紹介されています(もちろん節はわかりませんが)。こんな歌を歌いながらも,依然,「皇国少年」であり続けた子どもたちがいたそうです。
お国のためとは 云いながら/人の嫌がる 軍隊に
志願で出てくる 馬鹿もいる/可愛いスーチャンと泣き別れ(157ページ)
寒風ついて浦戸湾/進むはどこぞ土佐キテイ(柱・動員工場名)
悪夢のごとき土佐キテイ/われらは奴隷と早変わり(以下略)(158ページ)
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