『世阿弥能楽論集』小西甚一編訳(070504)

 どういう縁からか,わが家にずっとあった立派な本。A5判・2段組・約400ページの大著。

■『世阿弥能楽論集』(小西甚一編訳/たちばな出版/本体:3,048円〉

 『風姿花伝』『至花道』『人形』『花鏡』『六義』など,17本の能楽論と書簡など付録が4編収められています。おおまかに言って,2段組の上段が読み下し文で,下が口語訳。

 現在,世阿弥の直筆のものはほとんど残っておらず,誰かが原本を書き写したものをベースに,別の写本などとつきあわせて訳ができています。なので,「この部分は多分写し間違いであろう」という指摘がたくさんあります。また,この小西先生と同じような仕事をされた先達もおり,「○○博士はこの部分をこう解釈されたが,誤りであろう」といった記述も随所にあります。なるほどね。古い文書の解釈にも「最先端の知見はもちろんあるのだ」と思ったことでした。国文学もこんな風に学ぶと,ものすごくスリリングな学問になるんですねえ。先学の見解を否定するには,それなりの証拠もなければならず,これは大変な作業だと拝察いたしました。

 さて,で,能のことをちっとも知らないわたくしは,一般的な芸能論として,しかも上段の読み下し文はほとんど読まず,下の口語訳をツラツラと読んだだけ。「花」「序破急」だの「幽玄」だのといった言葉に,ほうほうと唸りつつ…。最低の読者でございます。世阿弥様,小西先生,すみません。人前でものを演ずるということや,その修行の仕方,楽器の使い方などについての記述には,そういうものなんだなあと,感心した場面多数。酒席で演ずるときとか貴人(目利き)の前で演ずるときの注意点なども,まさに「現場」の棟梁が弟子に生々しく指導をしている感じ。ちょっと一般の人には言いづらいことなどもあり「秘伝」の連発。

 現在でも,能など伝統芸能の世界ではこうした「秘伝」が生きているのかなあ,などとも思いました。ある一定のレベルに達した人に,順次,ワザを伝えて行くんでしょうね。きっと。それはそれで,1つの組織の独自性を維持するために必要なことなのでしょう。コカ・コーラの製造法なども,現代の「秘伝」なのですよね。

 と,わたくし,こんな程度の感想しか持てなかったのですが,この本は熱心にバンド活動をしている息子に渡します。少しでも参考になるとよいのですが…。


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