『探究の生涯 長尾克子の軌跡』長尾龍一編(070416)

 何かで長尾龍一先生の『文学の中の法 新版』という本が発行されていることを知り,ネットで検索したら,この本もリストアップされてきました。『文学の中の法 新版』とともにこの本も注文し,先に読むことにしました。

■『探究の生涯 長尾克子の軌跡』(長尾龍一編/日刊工業新聞社/本体:1,800円)

 

 法哲学者の長尾龍一先生(1938年生まれ)が,2003年に奥様・克子先生(1939年生まれ)を亡くされたことは存じ上げておりましたが,このような本があることは知りませんでした。

 長尾克子先生は経済学者で,『日本機械工業史―量産型機械工業の分業構造』(1995年),『工作機械技術の変遷』(2002年)といったご著書があります。

 上のカバー画はご長女・長尾かやさんの作品。私には万葉的あるいは仏教的な景色に見えますがいかがでしょうか。丁寧な造本で,巻頭の克子先生のお写真の前に,写真が傷つかぬよう一枚の和紙が綴じ込んであるといった配慮も素晴らしい。

 本書は,すい臓癌で亡くなった長尾克子先生の「生涯の概略と友人知己の追悼文等を編集したもの」(「はじめに」より)で,大きく,以下の四部構成。

■第一部 長尾克子の軌跡…龍一先生による克子先生の履歴,学問の概観などの紹介。

 一五日(日)午後,強烈な苦痛に襲われ,強い鎮痛剤とモルヒネを投与され,以後意識朦朧状態となる。六月一九日(木)より昏睡状態となり,そのまま二三日(月)…(中略)…永眠。(6ページ)

 この15日から23日までのご家族のお気持ちを察すると,私のこれまでの経験ともダブり,胸がつぶれそう。

■第二部 追悼―長尾克子さんを偲んで…多くの方からの追悼文,追悼書簡・電報
■第三部 お別れ会(二〇〇三年七月六日)…お別れ会の講演など
■第四部 特別寄稿 長尾克子さんを偲んで いいだもも
 
これは大作。

 長尾龍一先生の痛恨や克子先生への愛情,また,何よりもその業績と克子先生が目指していた学問的探究分野(歴史的実証的日本産業の研究〈他国のそれとの比較を含む〉)の再確認をし,その地平を示しておくといった強い「学者さんならでは」の「責任感」のようなものを感じます。

 たとえば『工作機械技術の変遷』(2002年)といった,経済学の分野では地味に見える(一方,国際経済を数値的に観測し短期予測をする仕事は派手)仕事も,歴史的に「工作機械技術」を研究するだけでなくして,実は世界の経済的発展の源泉をつかむという壮大な研究のための,方法的実験の1つでもあったのだと私は理解しました。恥ずかしながら私は,マルクス経済学の衰退以降,こうした学問は経営学的研究以外ではほとんどパスされていると思っていた(2007.1.7/『新しい教養のすすめ 経済学』での大西広先生の記述に感動したり)のに,そうでなかったと知ったことも衝撃的でした。いい読書をさせていただきました。長尾龍一先生,ありがとうございました。


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