『経済学の正しい使用法』ロバート・J・バロー(060523)

 いかにも面白そうなタイトルに惹かれて,BOOK-OFFで購入。1997年に発行された本。著者は当時,ハーバード大学教授。

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■『経済学の正しい使用法』(ロバート・J・バロー・著/仁平和夫・訳/日本経済新聞社/本体:1,600円)

 経済学の教科書はあんまり面白くないですが,経済学者のものの考え方を書いたような本(本書もそのテの本)は,たいていわれわれの日常感覚とズレがあって,「なるほどね〜」と思わされることが多いです。これはもしかすると,経済学的勉強を日本人はほとんどしないということの成果なのかもしれませんが。経済の勉強というと「株取引」を模擬体験させるなんてことしか思いつかない経済学オンチな小学校・中学校もあるようですし(株も経済学の重要なテーマではありますが,子どもに教えるべき経済学はもっと基本的でシンプルなところをやってもらいたい)…。

 経済学が面白いのは,たとえば「分業はよいこと」なのでミンナで力を合わせて公平に分担を決めてやりましょう,と,「機械的に分担を割り振る」場合,その「分業が集団の最大利益を実現しない場合がある」と教えてくれるところ。経済学用語で「比較優位」ということなんですが,単純な話,力はあるが計算が苦手な人に会計係を,力はないが計算が得意な人に運搬係を頼んでどうなのよ,ということです。先人は「適材適所」と,簡潔に表現されてますが。

 また,「独占は悪いこと」なので独占禁止法があるのですけれども,一方で「独占禁止法が,独占期間を認めることの意義」も経済学は教えてくれます。またまた話は簡単で,たとえば独創的技術を使って,ある一定の期間「独占的利益」を上げることを容認しなかったら,独創的技術を追求する人は相当減るだろう,ということは容易に想像できるんですね。変な言い方になりますが「独占を認めるのはよいこと」でもあります。

 某会社のエライ方々が,こんな簡単なことだけでも小学校か中学校で学んでくれていれば,社員に一律で同じスペックのコンピュータを持たせることが「平等」なので「正しい」なんて思うようなことはなかったはずなんですけどねえ。「ネズミさんとゾウさんに同じ分量の食事を与えることが〈平等〉ってコトなんですか?」とわかりやすく言っても理解してもらえなかったりして…。

 さてさて。本書は上記のようなミクロの話ではなくて,主としてマクロ経済について「経済学的に考えるとこうなるよ」と,実証的根拠などを示しつつ(残念ながら私には理解不能なところも少なくなかったのですが)教えてくれます。いくつか結論を引っ張ってきますと…

 経済成長と民主主義を扱ったところでは…

 欧米の先進国が貧しい国の発展を助けたいと思うなら,政治体制を輸出するよりも,経済体制(財産の保護と自由市場の原理)を輸出するほうが有効である。多くの場合,政治体制というのは,国民の生活がある程度豊かにならなければ,安定しないものなのだ。貧しい国に経済の自由を根づかせることができれば,経済成長は加速し,その国はやがて,自らの手で民主化を進めていくことになる。(28ページ)

 民営化を扱ったところでは…

 地方自治体サービスの民営化を,より小さい政府(おそらくはより良い政府)と解釈すると,(中略)公務員への能力主義導入,政府購入基準の設定,公務員労組の力の抑制,政府の借入・支出能力の制限などは,いずれもよい考えである。短期借入を禁止し,債務に上限を設け,自治体の救済を認めないことなども,財政均衡を義務づけるより効果がありそうだ。(188ページ)

 面白いですねえ。民営化のほうで言うと,たとえば「公務員労組の力の抑制」についてどう考えましょう? また「自治体の救済を認めない」とすると,財政破綻した自治体の住民にはどうしろというのでしょう?(おそらくは「豊かな自治体に引っ越せばいいんだよ」というのが経済学からの答え) いずれも,素直に同意できない答えではありますが,でも「経済学的に考えるとこうなるよ」ということを知りつつ議論するのと,ただ感情論で議論するのでは,政治における答えにだいぶ差が出ることでしょう。ハーバード大学で客員准教授として教えたこともある,われらが竹中平蔵・総務大臣もこの結論は多分,ご存知でしょうねえ。

 あ〜,おもしろかった,と。おススメです。


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