『月の輪書林それから』高橋徹(051016)
 いや〜な予感がした。この本は相当面白いはずだ,と。どっぷりハマッてしまうぞ,と。予想通り,ズンと胸にこたえました。

■『月の輪書林それから』(高橋徹/晶文社/本体2,200円)

 月の輪さんは私と同い歳。同級生。こんな文章を書きます。

「森銑三の著作に高い本はない。今後も高くなることはないだろう。うちも三十冊ほど在庫を抱えたままだ。時折,その棚を見て「均一」にしてしまおうかとよからぬ思いを持つこともある。実際,お金に困って森銑三を何回か手につかんだこともある。でも,今日の評伝ビデオを観ながら,思いとどまってきてよかったと心底思った,「学者」という名にふさわしい男の本を安く売ってはいけない。」(64ページ)

「しかし,大石誠之助の字は美しい,こんな美しい字を書く人を,死刑にしてしまったんだなあ。このことに,ぼくは哀しみをおぼえる。」(275ページ)

 月の輪さん。あんたはおかしい。ほぼ狂人であります。天下の周縁人,ストリートワイズ(2004.12.26)と呼ばせてもらいます。君は死んじまった人と話をする。君の文章を読みながら何度も涙が出た。昨日はうまいへぎ蕎麦や茄子の漬け物をつまみに1合1,000円の黒龍を飲みながら,半ベソかきつつページをめくりました。きっとね。月の輪さんのお友だちの坪内祐三さんや石神井書林さん,なないろさん,山口昌男先生,『彷書月刊』の田村治芳さんなど,同じマインドを持つ方々が周囲にいらっしゃるのでしょう。編集者・中川六平さんとかね。まあ何と言っても奥さんの美央さんがどこに飛んでいくかわからない凧の糸を握ってくれているのでしょうが。坪内祐三さんの本から,こんな文章を抜いてくる。これを載せた坪内さんもすごいけど,それを見逃さない月の輪さんもすごいわ。

「身には疾(やまい)あり,胸には愁(うれい)あり,悪因縁は逐(お)えども去らず,未来に楽しき到着点の認めらるるなく,目前に痛き刺激物あり,慾あれども銭なく,望みあれども縁通し,よし突貫してこの逆境を出でむと決したり。五六枚の衣を売り,一行李の書を典し,我を愛する人二三にのみ別れを告げて忽然(こつぜん)出発す」(271ページ)

 幸田露伴であります。美しい文章だ。ほんとに。坪内祐三『慶応三年生まれ 七人の旋毛曲がり』(2004.11.27)からの孫引き。参るなあ。この2日間はどっぷりと月の輪さんの文章にハマリました。酒も思い切り飲みました。私もあっちに行ってました。久しぶりに父のことを思い出し泣きもしました。いい読書でした。ありがとうございました。月の輪様。


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