『一法学徒の歩み』三ケ月章(051001)
 この本は,知人から随分前に薦められて借りていたもの。本棚の前に置いてあるCDデッキの裏に落ちていて,ずっとその存在を忘れておりました。

■『一法学徒の歩み』(三ケ月章/有斐閣/本体2,800円)

 三ケ月章先生は,1993年成立の細川内閣で法務大臣を務められた民事訴訟法の大権威。東京大学名誉教授。
 よくテレビの太平洋戦争の特集番組などで,今の国立競技場で行われた雨中の「出陣学徒壮行会」のフィルムが流されますが,まさにその場で行進された方。学生達の先頭は東京帝国大学。その先頭は法学部法律学科の中隊長だった三ケ月先生だったとのこと。政治学科の中隊長は藤原弘達さんだったそうです。東條首相の訓示の後,「生(せい)等もとより生還を帰せず」と答辞を述べたのは後の東京大学教育学部の江橋慎四郎教授で,この江橋先生と三ケ月先生は「東大紛争の折,苦楽を共にすることになった」(27ページ)と書かれています。
 別のところ(254ページ〜258ページ)で,三ケ月先生は「(私には)二波の『戦争』があった」とされ,一つは太平洋戦争,もう一つは大学紛争であったそうです。そしてこの二つ目の戦争について,「私自身,これを第二の『戦争』として受けとめていること自体,その傷痕が私の中に深く残っている証拠である」「学園紛争が残した世代間の断絶感は,ただ,私のような傷痕をもった老兵が消えていくことによってのみ,再びこの大学(東京大学)で埋められることが可能なのかも知れないと思う」と,実に苦〜い文章を残されています。
 元動員学徒だった先生の,マッカーサーの「老兵は死なず〜」(Old soldiers never die; they just fade away)を想起させるような,このお言葉を,どう受け止めればよいのか私にはわかりません。

 戦後復員され,民事訴訟法という当時専門家の少なかった分野に挑戦され,日本の法制史とともに歩んでこられた先生の文章には(昭和30年代に書かれたものでさえ),感嘆・感動します(専門的なことは私にはサッパリわかりませんが)。失礼ながら,本そのもののツクリは,断片の集積で,いま一つ「シマリがない」感じなのですが,そんなことは,「どーでもいいじゃん」と思わせる迫力が地の文章にあります。お高いですけどオススメです。

 刑法学者の香川達夫先生の『老松』,哲学者の木田元先生の『闇屋になりそこねた哲学者』以来の,学者さんの回想物。いい勉強になりました。


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