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『嫁より先に牛(ベコ)が来た』役重真喜子(050913)
役重さんのことは,ずいぶん前に新聞の小さな記事で拝読しておりました。「農林水産省の東大法学部卒の若い女性キャリア官僚が,岩手県東和町の職員になった」という記事でした。著者略歴によると,平成5年に農水省を退職されて東和町の職員になったそうですので,私が記事を読んだのは,12年も前のこと。
■『嫁より先に牛(ベコ)が来た』(役重真喜子/家の光協会/本体1,400円)
この間の衆議院議員選挙では,自民党・民主党ともかなりの数の元官僚候補者を出しました。「官僚経験を国政の場で生かす」と言われると,反発したい方も少なくない(この国をダメにしたのは霞が関の官僚だと思っている方々など)ことでしょうが,私は官僚経験者が代議士になることについて,そんなに悪くないと思っております。官僚経験者や国会議員経験者が知事などの自治体の首長さんになることも,同様に悪くないと考えています。“素人の発想”とか“女性ならではの視点”といったことも大事ですが,ある特定の分野の行政に携わって七転八倒された経験や,政治的目標を達成するために多くの人と接し,また駆け引きをしてきた人の経験は,よい方向で使っていただければ,公的部門の大きな戦力になるのではないでしょうか。竹中平蔵大臣に次いで,猪口邦子外務大臣という学者→大臣コースの成果も是非見てみたいものです。
さてさて。ところでこの役重さんは,この本の副題は「はみだしキャリア奮戦記」となっていますが,実質1年ぐらいしか霞が関では勤務しておられないようです。平たく言うと,新人研修で行った東和町がすっかり気に入って,2年目ぐらいに農水省から東和町に出向させてもらい,3年目が終わった頃には農水省を退職されたようです。「キャリア」というには失礼ながら「キャリア不足」な感じ。とはいえ,それがこの本の価値を下げてしまうかといえば,そんなことはありません。若い優秀な夢見る女性の泣き笑い奮戦記とでもいいましょうか,非常に面白い読み物になっています(NHKのドラマにもなったようです)。我が家の子どもたちにもぜひ読ませたい。「その気になれば,こんな生き方もあるんだね」と,特に就職を間近に控えた大学生の,長男長女に読んでもらいたい。この子たちは,普通に行けば,これからの10年で就職し結婚し親になります。この本で役重さんが見せてくれたストーリーはかなり参考になりそうです。
エピソードとして方言との格闘を書かれたところも面白かった。ちょっと引用(109ページ)。
「モスモス? ベゴのカスヅケのことだども…」
(これを「牛の粕漬け」と思った役重さんが,そばの人に転送)
「あのう,フクコさん,牛肉の漬物のことでお電話なんですが」
(その電話を引き取ったフクコさんがしばらく話した後…)
「カスヅケじゃなくて,『かしつけ』。牛の貸付事業のことよ」
私も,方言のキツイお電話をいただいたときに,脂汗をかきつつ「お電話が遠いようなのですが…」などと誤魔化しつつ,必死で知っている言葉と方言をスロットマシーンのように揃えようとすることが少なからずあるだけに,この状況がわかります。“ゾッとしながら”笑わせてもらいました。
霞が関の法律事務官としての常識が地方行政の現場では通用しない,といった話も出てきます。これは国家公務員の方,公務員を目指す人にはぜひ参考にしていただきたい。役重さんは,生身の人たちとの触れあいを通じて,公的事業や制度はいかにあるべきかということを考えることに「働きがい」を見いだされたようです。インターネットで検索すると,今は教育行政に携わっておられるようです。その後,「若い優秀な夢見る女性」はどんなお役人になられたのでしょうか。役重さんは昭和42年生まれで今年39歳(お。女性としてはちょっと思うところのありそうな年齢なんですね)。機会があったら,また,ぜひ,この方の書かれた物など拝読したいものです。
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