『「粗にして野だが卑ではない」石田禮助の生涯』城山三郎(050509)
 この本が出版されたとき,タイトルを見て,猛烈に“読みたいナー”と思いました。が,何となく買いそびれてしまっていたら文庫になり,先日BOOK-OFF(「文学書と経営書」(050507))でついに購入できたという次第です。

■『「粗にして野だが卑ではない」石田禮助の生涯』(城山三郎/文春文庫/定価420円)

 粗にして野だが卑ではない…。こんなオヤジが私の理想。私の生家は職人の家だったこともあって,周囲にこういう人たちが大勢いました(格好いいんだな,これが…。プライドのある職人さん,ね)。もちろん現在の私のように「粗にして野で卑」という人も少なくはないのですが,「外見はスカしているけど中身は卑しい」という人はそんなにいなかった。「勤め人」には,「外見はスカしているけど中身は卑しい」とか「外見はスカしているけど頭空っぽ(もちろん技術もなし)」な人が随分いるなあ〜というのが私の印象です。「昼下がりの情事」だったと思うのですが,オードリー・ヘプバーンのお父さん(役の上で)が「当節の女性は貞操はないがしろにしても服は大事にします」みたいなことを言っていて,「んだなー。多分」と思った記憶もあります。はは。

 JR福知山線の事故に関する報道が頻繁に流れる中,偶然,この本を読んだのも何かの縁でしょうか。三井物産に35年勤務した後,78歳で国鉄総裁になった石田禮助の物語。この文庫の初版は1992年6月。

 1963年に総裁就任直後に発表した石田氏の文章が紹介されています。

「風の向きによって,ときに夜汽車の響きが寝室にまでとどくことがある。深夜である。万物が平穏なひとときをひたすら貪っている時刻に,なお起きていて職務に励む人のあることを思うと,厳粛な気持ちにならざるを得ない。“神よ,願わくは安全を守りたまえ”と祈る気持ちになる」

 石田氏は「安全」を願うこんな文章を,朝の通勤ラッシュの状況等を見て書かれたそうです。が,就任早々の同年,横須賀線鶴見事故(死者161人)が起こります。その後の「安全」への取組みも,いま読むと,そのまま来てくれればよかったのに…と,思わざるをえません。それと。「なお起きていて職務に励む人のあることを思うと,厳粛な気持ちにならざるを得ない」…こんな気持ちを,かの企業の幹部の方々は抱いたことがあるのだろうか,我が社のエライ方々が考えたことがないことはほぼ確実としても…なんて思ってしまいました。「組織」じゃなくて「人」を思うココロが第一なんですよね。

 さて。この本で感動するのは,上記ではありません。「卑ではない」人の生き様に頭が下がります。職業や家庭生活を通じてパブリック(公的)な視点を失わない生き方というのでしょうか。純粋な青年の心意気を保ったまま歳を取ると言ってもよいでしょうか。パブリック・マインドを持った自分に殉ずるというか…。ともかくシビレました。オススメです。


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