『月の輪書林古書目録14 田村義也の本』(050416)
 少しだけ時間ができたときに,さらっと郵便受けに入ってきた本。知る人ぞ知る,月の輪書林の古書目録。1年ぶり。

■『月の輪書林古書目録14 田村義也の本』(頒価800円)

 

 本来なら徹夜してでも読んでしまうものを,4日もかけて読むことになってしまった。「本当に自由時間が少ないなあ,私は」と,よく思いますが,多分時間の割り振りがうまくないのでしょう。

 月の輪書林の目録は,店主・高橋徹さんが興味を持った人をとりあげ,その人の作品(執筆したものや装丁・挿画など)だけでなく,生きた時代や周辺の人々に関わるものを,登場する人物の著書からの引用文などを交えて紹介していくのが基本スタイル。今回は元岩波書店編集者・装丁家の田村義也(2003年没/我が家にも田村さんが装丁された本が何冊かありました)。本文は上右のように,文字ばっかりでございます。この文字の羅列の内容が凄い。上左のこの本の表紙の「の」の字は,田村義也さんが装丁をした『鴉の死』(下左)という本のカバーの「の」の字を入れたものですが,その「の」の字について田村さんが書いた文章が掲載されています(13ページ)。

 〜「鴉」は合成したと思うのだが,「死」の文字は,この清朝時代の板本のもっている力に拠るところが大きい。
 この強い字にはさまれた「の」の字をどうするか? 結局は,作品のきびしい悲劇と恐怖を,鳥の嘴のように表現しようとして,彫ってつくった。

 月の輪書林さんは上の文章を踏まえて,この「の」の字を表紙に使い,ついでに自分の「月の輪」の「の」にもはめています。この辺は,月の輪書林さんが亡き田村さんに,「これぐらいは勘弁してくれますよね? 気に入っていただけましたか?」と言っているようです。死者と交歓している。月の輪書林目録の最大の魅力は,この過去の人との交歓の現場を,店主が見せてくれること。

 そして,「友達の友達はみな友達」のように,月の輪書林さんは,故人の生きた友人たちや社会の中に入っていきます。古書目録なので,書名・著者・発行日・価格の羅列の部分もあるのですが,それすら面白い。書名を見ているだけでも時代の空気のようなものが伝わってきます。またちょっと引用(これぐらいは勘弁してくれますよね? 月の輪さん)。

176 命三つ 初 福武書店 八木義徳 昭62 カ帯 1,500
 「よい題だと思った。たしか芭蕉の句にあったな…。
   命二つの中に生きたる桜哉
  この句は,芭蕉が故郷の友人と,旅の路上で偶然二十年ぶりに邂逅し
 たときの感慨と喜びをこめてつくった絶品。(略)
  八木さんの『命三つ』は,軍隊時代の友人や先輩の故人三人への追
 悼・鎮魂の短編であった。
  この『命三つ』の装丁は〜(以下略)」
       (田村義也「八木義徳を装丁する」★『室蘭文藝』より)

1010 やくざな犬の物語  初   丸岡 明     昭23 3,000
1018 野火        初カ帯 大岡昇平     昭27 3,000
1084 戦後日本の売春問題 初カ帯 神崎 清 320P 昭29 3,000

 古書店の目録を超えて,これだけで完結した見事な読み物になっております。毎度本当に力作・労作・名作です。参ります。私の能力が追いつかず,この本の素晴らしさをうまく表現できないのが残念。「本が好きな人ならば,美味しいものを食べたときの『絶句状態』と同じようになると保証できます」と言うのが精一杯。

 月の輪書林さんいつもありがとうございます。これから注文書をFAXします。


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