『歴代首相の経済政策 全データ』草野厚(050213)
 政治学者の草野厚先生(近頃の読書(2003.3.15))が経済政策? というのが新聞広告を見たときに最初に思ったこと。とはいえ,慶應義塾大学の先生方には幅広い分野でご活躍の方も多いし,草野先生もいろいろなところでご活躍で,経済政策について本を書かれることも“そう不自然なことではないのかあ〜”と思い直したことでした。興味津々。

■『歴代首相の経済政策 全データ』(草野厚/角川oneテーマ21/本体781円)

 実によくできている本であります。草野先生の記述の歯切れのよさ,無駄のなさは毎度のことで感心してしまうのですが,この本では,特に本そのものの設計に思い切り感心してしまいました。実にスマートな,“よく考えられた作り”のいい本です。

 巻頭のカラーグラビアの冒頭は1945年10月(終戦直後)の議事堂と霞が関周辺の写真。その後は歴代内閣の出来事,支持率・不支持率,為替レート・公定歩合・日経平均株価,一般会計予算・社会保障費・公共事業費・防衛費・ODA,GDP・一般会計予算・国債発行残高のカラーグラフ,新府省体制となった2001年1月の議事堂と霞が関周辺の写真(うまい! 焼け跡からここまで来たんだなあと,誰でも感動するでしょう),最後は西暦・年号対応表(これも実は非常に親切。この本の本文は西暦で統一されているようですが,他の本を読んだときなどは当然年号で記述されたモノがあるわけで,この辺りの配慮は,先生ご自身のものなのか編集者あるいは学生さんからのリクエストなのかはともかく有用です)。巻末の参考文献もまさに「参考」になりますし,索引も親切にできています。細かいことですが,人名・地名,常用漢字以外の漢字にルビが振ってあるのもありがたい。轢死(れきし)なんて読めないと辞書も引けません。使嗾(しそう),紊乱(ぶんらん)なども…。

 さらに,本文冒頭には下のように,歴代首相の名前・写真(これも効いています。この写真があるのとないのでは学習効果はまったく違ってしまうでしょう。石橋湛山〈いしばしたんざん〉さんはこういう感じの方かあ〜なんて思うだけで随分その後の記述の記憶がよくなるでしょう)だけでなく,代数,出身地等が出ています。名前の上の円は,小泉首相就任時の国家予算(2001年/82兆6524億円)を100としたときの,扱う首相の就任時の国家予算が示されています。下の東久邇稔彦(ひがしくになるひこ)内閣のときの国家予算(1945年)はわずか291億円。ここから約10年後の岸信介内閣の1956年度予算では1兆円を超え,さらに約10年後の佐藤栄作内閣の1967年度予算で4兆9984億円(私の記憶にある最初の首相はこの人。長期政権だったので,私らの世代〈1958年生まれぐらいの人たち〉では,巨人・大鵬・佐藤栄作はお馴染み),20年後の中曽根康弘内閣の1987年度予算で54兆1010億円,村山富市内閣の1996年度予算で75兆1049億円。ちなみに2005年度予算政府案は82兆1829億円です。こんな推移が視覚的につかめます。いいアイデアですよね。なお,巻頭のカラーグラフによるとGDPは1955年の50兆円弱から2003年には550兆円となっています。こういう数字を追いかけるだけでも勉強になります。下の円グラフは,その内閣が組んだ一般会計歳出予算の内訳です。巻頭にグラフがあるとはいえ,自分で費目別にノートに書き出して「お小遣い計算」をしてみたくなります。まあ,それをやると最近の借金地獄で暗〜い気分になってしまうのかもしれませんが…。

 さてさて,肝心の経済政策に関する記述ですが,この本では,歴代内閣がどういうことを狙って,どういう政策を実施し,その結果はどうであったかが語られます。きちんと書名どおりその点は押さえられていますが,ざっと拝読して,相対的におもしろいのは,選挙結果などを踏まえた当時の政治状況や国際情勢に触れられた部分です。これは経済政策に関する記述がつまらないということではなく,生意気に言わせてもらうと歴代首相の演説等の引用をうまく織り込んで「周辺の部分が非常に生き生きと,よく書けている」ということです。この本は,実は先に挙げたいろいろなデータを踏まえて読むと一層おもしろいのですが(学生さんが政治史や経済史のレポートを書くときには相当重宝しそうです),地の文章だけでも充分興味深く読めます。お年を召した方なら,本当に戦後すぐから「あ〜,そんなこともあったなあ」と,当時の新聞の見出しなどを思い出しながら読んでいけることでしょう。

 ちょっと引用。197ページ。「村山内閣の功績についても触れておきたい。今では当然である行政の透明性と国民参加を担保する法的枠組の実質的論議がこの時期に始まっている。情報公開法とNPO法(特定非営利活動促進法)である。社会党や新党さきがけの加わった連立政権だからこその成果であった。」
 もう1つ引用。216〜217ページ。「森内閣ならではの新しいアイディアもあった。それがIT戦略の具体化である。(中略)森内閣は,臨時国会で,関連四〇法案からなるIT基本法を提出し,超党派で成立させた。」

 こういう目配りというか,公平さというか,さすがに草野先生のクールなところだと思うのですが,通常,村山内閣で論議が始まったということなどは飛ばしてしまうのではないでしょうか。また,森内閣の末期の惨憺たる状況を思うと,語る気(読む気)も起きないのが普通ではなかろうかとも思うのですが,草野先生は重要なところにはビシっと楔を打ち込んでおられます。

 オススメです。大変勉強になりました。草野先生,いつもありがとうございます。


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