『妖女のごとく』遠藤周作(040528)
 私には亡き父と義父のほかに,精神的父親がもう2人おります。遠藤周作先生と童門冬二先生。遠藤周作先生については,14歳頃に『ぐうたら人間学』で出会って以来(私の世代ではこういう人が多いと思います。遠藤周作さんのほかに北杜夫さん,畑正憲さん,星新一さんなどを読んでいる同級生が多かったです),その後10年間ほどで相当数の本を読みました(その当時,遠藤モノについては,書店で読んだことのない本がないぐらいになっていました)。その後もポツポツ読んでいたので,遠藤周作先生の単行本に関しては,読んでない本が少ししかないということになっています。で,読んだことのない本を見ると,つい買ってしまうという次第。

■『妖女のごとく』(遠藤周作/講談社文庫/本体514円)

 この作品は遠藤周作先生の作品の中では普通のエンターテイメントに属する作品と言っていいと思います。初期の作品(多分エッセイ)の中にフランス留学中に見た「フォンスの井戸」(レジスタンスがドイツに協力した人を虐殺し埋めた井戸)のことが書かれていたかと思いますが,あれが底流。遠藤周作さんは,『沈黙』があまりにも有名で,(一般に,「善人なをもて往生を遂ぐいわんや悪人をや」的“癒し”に通じるような)キリシタンに関する本を書かれた方というイメージが強いようですが,その裏で人間の陰の部分,今風(?)に言うと,スターウオーズの「暗黒面」でしょうか,に強い興味を持って,精神分析学やサディズム,黒ミサなども勉強されています。このセンで書かれた代表作が『海と毒薬』ではないでしょうかね。記憶が随分曖昧&実家に置いてあって我が家に遠藤周作さんの本がほとんどないので,そうだと言い切れないところが残念ですが。

 さて。この小説はそうした系譜に属する,二重人格の美しい女医さんとその残虐性に魅せられていく男の話。普段は天使のような人が,一方では…という,遠藤周作さんがよく使うフレーズの「疼くような快感」を描いた小説。話の流れは面白く,どんどん引きつけられていきます。でも,まあ,小説としてはいかがでしょうか。遠藤周作先生のものと思うと失敗作なのではないかと思います。退屈しない話なので,火曜サスペンス劇場の台本にはなりそうですけどね。

 というわけで,小説そのもののデキは,残念ながらよいとは思えませんでしたが,わたくし的には,久しぶりに遠藤周作先生のその語り口に触れられて満足。ちょっと補足すると,米軍のイラク人捕虜虐待などのニュースに触れると,私は,この人の悪魔性のようなものをどうしても想起してしまいますし,人がちょっと見せる意地悪な側面にゾッとすることも少なくありません。こうした後天的な感性を植えつけてくれたのが遠藤周作先生なのでございました。


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