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『あぶく銭師たちよ!』佐野眞一(030323)
この文庫を見つけたとき,“これはきっと面白い”と思いました。佐野眞一さんの細かなルポをたくさん読んできたわけではありませんが,『性の王国』を読んだ経験から,そう確信してしまいました。佐野眞一さんは『遠い山びこ』『巨怪伝』『旅する巨人』『カリスマ』『東電OL殺人事件』などで知られ,最近では『だれが「本」を殺すのか』や,情報公開,個人情報保護法案に関してときおりテレビ出演もされているルポライターです。
この本は1989年10月に『昭和虚人伝』というタイトルで文藝春秋から単行本として出されたものを文庫にしたもの。1998年12月発行。単行本が出てから約10年経ってます。佐野さんがしつこいのか筑摩書房にしつこい編集者がいたのか…。ともかく,この本が殺されなくてよかった。これは名著でございます。
■『あぶく銭師たちよ! 昭和虚人伝』(佐野眞一/ちくま文庫/本体720円)
「文庫本のためのあとがき」で,佐野氏はバブルの時代を振り返っています。いまや皆さん忘れがちなこと,学者さんたちが無視しがちなことが語られています。プラザ合意―急激な円高―中曽根民活路線・内需拡大の大号令―地価上昇・株価上昇―過剰投資―世界一の債権国…。西武セゾングループがインターコンチネンタルホテルを買収,ソニーはコロンビアピクチャーズを取得,三菱地所はロックフェラーセンタービルを買い取ったなどなど。中曽根さんがボードを使って記者会見し,「みなさん内需を拡大しましょう」なんて説明していたシーンも思い出すなあ(前川リポートに触れていないのは残念)。
佐野氏は単行本のためのあとがきでこんなことを書いておられます。「昭和の末期に跳梁,暗躍した六人の人物を通して,この時代の明るい狂気を描きたかった」
さてさて,で,取り上げられている6人というのは,リクルートの江副浩正,最上恒産会長・早坂太吉,代々木ゼミナール理事長・高宮行男,占い師・細木数子,フジサンケイグループ・鹿内親子,ファッションデザイナーの斎藤都世子といった皆さん。ただ,フジサンケイグループに関する記事をはじめ,どの記事も細かな取材をされており,登場人物がだいぶ多いです。佐野氏が「六人の人物」と言っておられるのは,「6件の事例」と読み替えたほうがいい。ま,わざわざ,んなまだるっこしく括る必要もないのでしょうが…。
さすがにこの歳になると,そうそう拝金人間の生き様に驚いたりはしないわけですが,それでもまあ,やりきれない気分になったり情けなくなったり…。佐野氏が強調しすぎるのか事実として偶然そうなだけなのかよくわかりませんが,どなたも家庭的には不幸そのもので,社会に対する関わり方がマトモじゃない。金銭的欲求は満たされたのかもしれないけれど,心の中にはいつも大きな空洞がある。いや空洞があることを直視しない,さらに言えば空洞があることに気づいてすらいず,その場その場で“裸の王様”であり続けることでしか他者と関わっていけない人たちだったのかもしれません。
何だかなあ〜。主として経済的な意味合いで“失われた10年”なんてよく言われますが,今,“こういう人って多いよね”という思いを禁じ得ないところが怖い。私たちの中に「明るい狂気」はやんわりと溶け込んでしまった気がします。この10年で我々が失った最も大きなものは,もしかして,土地とか貯蓄とか有価証券評価額とかいういわゆる“金銭的資産”でなく,人として普通に生きていくのに必要な“精神的資産”=“愛情”とか“友情”とか“信頼”じゃなかったのですかね。こんなことを言った時点で思わず自分でも苦笑してしまうあたりが,つまりは今現在の,我々の精神的貧しさの反映なような気がしてしまいます。おとなだけでなく子どもたちもこうなってないか? と考えるとゾッときます。そして,こう考えると,米英のイラク攻撃に関し,政治家が何だか他人事みたいに語ることも,テレビ番組でアナウンサーがイラク関連のニュースの後にサラッと「では,ヤンキースの松井選手の情報です」なんて気分転換できるのも,会社の人たち・我が家の子たちがそれほどショックを受けているように見えないことも説明できてしまいます。はあ〜。かく言う私自身も相当鈍感になっているわけなんですが…。
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