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『癒しの楽器 パイプオルガンと政治』草野厚(030309)
「この本は面白そうだ」とビビッと来て,読みました。「当分新刊は読まないだろう」などと言ってたくせに…。
■『癒しの楽器 パイプオルガンと政治』(草野厚/文春新書/本体680円)
草野厚先生は慶應義塾大学総合政策学部教授。ご専門は政治学。ただし従来の机上の政治学理論には,あまり関心がおありでない風。現実の政治過程・行政過程について批判的検討を加えていくのが本分とお考えのようです。この道はシンドイ。常に敏感なアンテナを張り,現状を凝視していないとならない道です。この道を行くということは,古い業績の上に胡座をかいて“権威でございます”と言うポジションを最初から放棄しているということで,草野先生のこのスタンスは実にご立派であります。学者としての“退路を断つ”ということでしょうか,“生涯現役を貫く”という心意気にシビれます。
慶應義塾大学の教授で,ハンサムで,その上,さらに,まさか音楽にも造詣が深いとは存じ上げませんでした。テレビで観ている限り,いかにもスマートで“切れる”方だなとは思っておりましたが…。
さてさて,で,この本ですが,興味深く面白く拝読いたしました。さらっと読むと,「パイプオルガンをこんなに公的施設に配備するってどういうことなのよ」とか,「高価なパイプオルガンをこんなに配備しているにも関わらず,市民の利用に供しないって何なのよ」とか,「パイプオルガンの導入過程って何か変じゃないか」とか,そういったいかにもスキャンダルめいたことがバーンと頭に入ってしまいそうです。この本に付けられた帯にも「クラシック音楽も危ない! 典雅な響きの裏に利権と税金の浪費が」なんて書かれています。こんな風にして売ろうとする文春の姑息な姿勢がだいぶ気に入りません。それも大のオルガン好きの先生の一つの狙いではあると思いますが,この本は,実は「政治過程」「行政過程」の入門書的性格を持った本であります。是非そういう点に注意して読んでいただきたい好著です。
かつて,岩波ジュニア新書の『警察はなぜあるのか』(原野翹・著)という本を読んだとき(これも名著です!),行政法のエッセンスをつかんだ気がしたことがあります。今回はそれと同じような体験をさせていただきました。政治学や行政学の難しい言葉はなく,われわれに体感・把握できる言葉で,わが国の政治・行政過程の抱える問題点を浮き彫りにしてくれています。「うー,この体質こそが最もやっかいで,大きな問題なんだよなあ〜」と何度も思ったことでした。さらに言えば,今回,先生が取材された対象は,自治体や大学が多いのですが,実はここに挙げられたことは,他の民間企業などの組織・社会集団一般も加えて,わが国に根づいた『妙な権威主義』『妙な官僚制』『妙な互助システム』の悪しき面なのだと思ったことでした。われわれの属する集団には,縦にも横にも何やら合理的説明のしがたい変数が散らばりまくっております。
役所だけでなく,顧客からの例外的なリクエストについて“規則ですから”と断る光景はよく見られます。“顧客第一”“住民第一”という理念が,その“セコイ規則の前にあるだろーがよー”と,私も再確認しなくてはなあ…と思ったことでした。よい読書でした。草野先生どうもありがとうございました。お疲れ様でした。
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