『誰が本を殺すのか』佐野眞一(020615)
 この10日間ほども,仕事と「飲み」(の後遺症含む)とワールドカップでほとんど読書ができないでおりましたが,2か月以上にわたって地道に読んできた『本コロ』,ようやく読み終えました。

■『だれが「本」を殺すのか』(佐野眞一/プレジデント社/本体1,800円)
 2か月ほど前に,講演を聴いた佐野眞一さんの本です。会場で佐野さんにサインをしていただいた続刊を読む前に,先に出たほうを読んだというわけです(この辺の事情は,東京国際ブックフェア2002(2002.4.21)をご参照ください)。装幀は菊地信義さん。渋い。
 この刺激的書名は約10年前の日本経済新聞社のベストセラー『だれがケインズを殺したか』(近頃の読書(2001.11.03)でちょっとコメントしてます)を意識したものなのでしょうか? それともこういうタイトル付って多いのかなと不勉強な私は余計なことを思ってしまいます。
 この本の初版は2001年2月15日。私が借りて読んだのは2001年2月26日の2刷。出してドーンと売れて即増刷ということですね。素晴らしい。

 なるほど,拝読しまして,売れた理由はわかった気がします。われわれが親しんできた本という商品というか文化に関わっている人達や企業などを,佐野眞一さんらしく真面目にコツコツ取材し,佐野眞一さんらしく真面目にいろいろ考えられたことなどが記されています。出版不況(出版社が結構倒産してますし,雑誌は創刊・休刊・廃刊いろいろですし)というのは,よく聞く話ですが,このように多方面に取材し,これってどういうこと? とガップリ四つで取り組むというスタンスで書かれた本はなかったように思います。妙な言い方ですが,逆プロジェクトXという感じです。出版業界(代表的なのは著者・出版社・印刷所・取次・書店といったところで,図書館,ブックオフ,オンライン書店などの話も出てきます)の構造や風習,実績などの現状が,実際そうした業務に携わっている人たちのナマの声や資料を交えつつ説かれています。佐野眞一さんは展望が開けないモノかと希望を探す旅に出られたように見えます。しかし,どこへ行っても決定的な確信が得られない。実に面白い。一種の探検小説みたいにどんどん暗闇というか洞窟に入っていく感じです。ひどい言い方になってしまいますが,私は,ダメになっていく業界ってこうなんだよなあ〜とか,日本もなあ〜とか,我が社もなあ〜とか,そんなことを考えながら読みました。

 さて,それだけであるならば,いわゆる重厚長大産業の危機とか繊維産業興亡史,○○炭坑物語というところで,申し訳ありませんがヒトゴトのように読めてしまう(私ナンゾは特に想像力が不足してますので)のですが,モノが「本」となると,ちょっと待て…と思ってしまったのでした。

 「デジタル化の波が押し寄せ,出版界はグーテンベルク以来の大改革に直面している」というご指摘には,「はい,そうでしょうね」と軽くお返事できます。出版業界がそれへの対応で四苦八苦しているということを,業界の問題として見れば,「別にどの産業だって,そういう危機はあるじゃん」とも思います。が,われわれは,これまで知識なるモノのかなりの部分を印刷物から得てきたのではなかったかと思うと,何やら気味が悪くなってくるのです。「知は力」。知の伝達の手段は別に本でなくともいいとは思います。しかし,仮に現状でのんびりしている出版業界が沈没したとして,では,これまで蓄積されてきた膨大なコンテンツはどうなってしまうのか…と,そういえばすでに多くの本が「短期で売れない」という事情で絶版になってきていると気づかされてしまったのでした。

 ニーズがないものは消える。これは経済学の基本です。洗濯機の出現で洗濯板はなくなった。でも,「知」ってそういうものとは違いますよね。出版業界が沈没するのと併行して,それに代わる「知の伝達産業」が立ち上がってくればいいのですが,いまのところ規模的に期待できそうな商品に置き換わってきていない。地道にコツコツ日々短期で売れない『知』が消えています。あれ? やばいじゃん。

 残念ながら,今回の私の感想はここまでです。どうしていいのかわからないし,どうなればいいのかもわからない。でも,このままじゃ…。これについてはちょっと時間を置いて,続刊『だれが「本」を殺すのか 延長戦』を読みつつ考えたいと思います。直観的には,どうでしょう。介護保険のように,要保護認定とか保護を要する本のランク付けを専門家にしてもらうことにするのがいいのでしょうか? 検閲,映倫,利権なんてことも考えてしまうと,それもどうもなあと思ってしまいます。


Google

TOPへBACK

このサイトは「目次部分」「本文部分」という2分割の画面で表示される仕様にしていますが,検索エンジン経由ですと単独のページがピックアップされる場合があります。そのような場合には,恐れ入りますが以下をクリックして,新たにアクセスし直してください。
【注】2分割で表示されている場合に下をクリックしますと,フレームの中に2分割の画面ができてしまいますのでご注意ください。その場合はブラウザの「戻る」ボタンを押していただくと,現在の画面に戻ります。
http://homepage1.nifty.com/kanen/