●善悪の評価(2001.9.29)
 アメリカの同時多発テロとアメリカの報復関連のニュース,相撲の結果,日本のプロ野球の推移,イチローの成績などに関心を奪われつつ,『心理学者が語る心の教育』(行吉哉女・田中敏隆編著/実務教育出版)を読み終えました。私は基本的に学者さんの書かれたモノは好きでして,「で,それで儲かりまっか?」なんて無粋な価値観と違うところにいらっしゃるような学者さんのお話は大抵面白いのでございます。今回の読書も結構充実してまして,たくさんの心理学者がいろいろなことをおっしゃっておりますが,とりわけ感銘を受けたのは牧野順四郎・筑波大学心理学系教授の文章でした。定価2500円,税込みで2625円というやや高価な本ですが,私にとりましては,高いとは思えないような一文に巡り会いました。
「子どもははじめから善悪の判断など不可能なことは明らかである。それは社会的道徳心が生得的にはないことを意味している。言いかえれば,それは個々の自分の行動のエピソードから学んでいくしか方法がなく,そのときどきにおとなの善悪の評価が絶対に必要なのである」
 はは。私の見るところ,やっかいな問題については,「それはお父さんには,むずかしくてわからないなあ…」と判断を留保してしまうのが,近頃の賢いお父さんな気がします。国際的にも国内においても信じがたいことがバンバン起こり,歴史は捏造され,なんてことを見てますと,「お父さんがどう言おうと,なるようにしかならんべさ」と,お父さんがそう思い,子どもにもはっきりしたことが言えなくなってしまうのも,「ま,すっかたねえか」と現役お父さんとしては思います。とはいえでございます。こういう留保は子どもを不安に陥れる,善悪の判断基準を持たせないことにつながるんだぜ…と改めて思った次第です。その判断が正しいのか誤っていたのかは子どもに将来考えてもらうこととして,何か重大なことがあった場合(何を重大と捉えるかも大切だと思いますが),子どもに,父は○○を○○と見る。それは○○であるがゆえに正しい(誤っている/支持する・しない)と(いちおうにせよ)示してやることが必要なのだなと思った次第です。こういう形になっていないと,子どもはその時点においても,将来においても批判のしようがないのですね。で,我が家の子どもには今こう言ってます。「人を殺しちゃいけないってことは,人類の最低のお約束で,ブッシュやアメリカの人たちが何と言おうと,大勢のアメリカの民間人が殺されたからアフガンの民間人を巻き込んでいいってことにはならない」と。ついでに,アメリカの報復を速攻で支持してしまった尻尾を振るライオン・オジサンは,間違った対応をしていると思う,と。

 本来,国単位,組織単位で考えれば,法や規則を構成員が遵守しなければ集団としてやっていけないという経験則があるはずなのに,国際社会は,いまだ法や規則をベースに物事を判断できないでいる状態に見えます。今回のテロについて,アメリカはヒステリックに「戦争だ!」として対応し,アメリカに近い国々も同調していますが,これは国際社会に対する「犯罪」として扱い,法的に処理する方向で考えていかないと報復の応酬に歯止めがかからないのではないでしょうか。アメリカに罪人とみなされたら,攻撃されても致し方ない…と,これでいいのでしょうか? アメリカの価値観=国際社会の価値観とは思えません。今回のアメリカの動きを見ていると,実はアメリカもまた国際社会における「ならずもの国家」なのではないか,と思ってしまいます(超平たくいえば,ドラえもんのジャイアンみたいな存在なのではないでしょうか。日本はスネオですが)。ロシア,中国,アジア,イスラム諸国,南米の国々,アフリカ諸国などいろいろな価値観があり,それらを踏まえてルールを共有して善悪の判断をするような体制をつくっていくのが望ましいと考えます。アメリカの判断基準を準用し,アメリカ以外の国が同じように「アメリカを支援する国も同罪であり容赦しない」などと言い出したら,それもまたわれわれは認めるわけにはいかないはずなのです。

「善悪の判断」抜きに周囲の状況をうかがって強いモノに同調し「長いものには巻かれろ」「寄らば大樹の陰」といった対応をしていけば小国が生きやすいのはわかりますが,できればこの国際的なルールづくりをしていこうじゃないか,と,日本から言い出してほしいと思います。

 ついでに。ライオン・オジサンは,アメリカに嫌われたくないばかりに,このところ国内ではかなり滅茶苦茶やってくれてます。気ままというか場当たり的に超法規的措置をしています。超法規が頻発するようだと法そのものの重みがなくなってきますよね。国内社会が拠って立つところのものを為政者自らないがしろにしているという形でして,これはイカンでございます。


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