全成駒の天竺煙詰。手順は金による横追いの繰返し。杏、全、圭の配置順に必然性はなく、創作過程の名残が最終図に残ったもの。
この頃は左真樹氏が天竺詰の煙詰を連発していて、私もその作品群を見て、見よう見まねで天竺煙を作っていました。
この金追いの部分自体は既成手筋で、折返しの機構も左真樹氏作から直接着想を得たものです。ただ、それを徹底的に繰返し、その機構のみで煙詰に仕上げるという工夫によって、前衛賞を受賞するという栄誉を戴くことになりました。自分にとっては大変幸運だった作品です。
ほとんどの駒が趣向部分で消えてくれたため、逆算部分はそれほど苦労することなく出来あがりました。とは言っても、着想から完成までには約一月ほど掛かっています。まだ、この頃には煙詰の創作には慣れていなかったのですね。還元玉にならないかとも考えたのですが、当時の創作力では無理だったようです。
作品発表時の解説(担当は小林看空氏でした)では、山田修司氏の「死と乙女」に印象が似ているので、同じシューベルトの「魔王」と命名してはどうかという提案を受けましたが、結局命名しませんでした。仮に命名するなら「死と乙女」の旋律が変形されて出てくるジョージ・クラムの「BLACK ANGELS」の方がふさわしいかもしれません。
なお、第1番から第4番までは神無を名乗る前の作品、すなわち本名の橋本孝治で作品を出していたときのものです。
誌上で発表された順序はこの作の方が後ですが、創作の順序はこちらの方が先、というより(あらゆるルールで)自分にとっての煙詰の処女作がこれです。
先の成駒煙がアイデア一発で作品になったのとは違い、こちらではメインとなる収束の斜め往復趣向をもとに、地道に逆算して全駒煙に仕上げています。発表はしていませんが、この後もう1局天竺煙を作り、この分野からは撤退(?)しています。同じような作品ばかりになって、新しいアイデアが湧かなくなったのがその原因です。
その代わりと言ってはなんですが、関心は天竺煙から普通の詰将棋の煙詰に移っていきました。それが具体的に実を結んだのが、この作品です。
この作品では天竺煙での経験を生かし、いくつもの趣向を盛込んだ贅沢な手順の煙詰を作ることに成功しています。私にとってフェアリーと普通詰将棋は不可分のものなのです。
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[7-2b] 1985年5月 詰将棋パラダイス 橋本孝治 半期賞受賞作 |
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あるとき、双裸玉ば自を一度に7局投稿したことがあります。うち一局は小林看空氏の作品と衝突し、例題として発表され、のこり6局が懸賞出題されました。その中で最も評判が良かったのが、両王手の詰上りを狙いとした本局でした。尤も、他の5局は平凡な作品で、「完全作なのが取り柄」というだけのものでしたが...
この図は発表原図ではありません。原図は「36王+飛金桂香、67玉」の8手詰であり、ここに掲載の図は6手逆算してあります。当時はfmという強力なツールがなかったため、逆算など怖くてとてもできないのが実情でしたが、あの時代にfmがあったら、きっとここまで逆算していたでしょう。
この作の発表からもう15年が経過していますが、いまだに両王手の詰上りを主題とした双裸玉ば自は他にないようです。双裸玉ば自という条件作自体が、あまり希少価値がないためにあまり試みられていないこと、また対面等の組合せルールの開発が進んでしまったことがその要因かもしれません。
最終形で玉方の角には紐が付いていませんが、これを同王で取ると、その瞬間、73玉が飛に化けて王を取ってしまいます。従ってこの角は取れず、この形で詰め上がりです。
こういうルールの特異性を利用した詰上りを「法則型」の詰上りと呼ぶのですが、「法則型」の詰上りを主題とした問題、いわゆる法則問題は、一発芸で終わってしまうことが多いものです。つまり、最初に出てきた時は確かに意表をついているのですが、作例が積み重なるに従って、当り前になって、陳腐化するのも早いと言う宿命を持っています。
本作を作るときも当然その意識があったので、なんとか詰上りだけでなく、そこに至る手順にも工夫を加えようと頑張りました。23飛の限定打もそうですし、26から46へ中途半端に飛ぶ玉の動きも、当然意識してそうしたものです。
当時はこういう変身物とば自を組合せたルールはそれほど作例がなかったせいか、解答者にとってはかなりの難解作だったようです。
本作は後にカピタン誌上で行われた前衛賞の投票で短編賞を取ることができました。私が長編以外で賞を取ったのは、今のところ本作だけです。
私が神無一族に加入したのはこの前年のことでした。服部さんから電話でお誘いがあり、一族の会合へ参加。その場で加入を決めました。ちょうどこの頃は普通詰将棋の活動も停滞気味、パソコン通信なども始め、自分が変わる時期だったのかもしれません。
神無一族との出会いで特に刺激的だったのは、やはりfmでした。初めてこれに接したときは、単なるプログラムというより、「神の声を伝える道具」のように見えたものです。「お前は少し詰将棋ができるからといってイキがっているが、所詮はこの程度のものなのだ」というお告げを運んできている感じがしました。そしてfmへの関わりから、創作の内容も形態もそれ以前とは全然違うものになっていきました。
本作もそうした中から生まれてきた作品のひとつです。これ以前には、対面詰というのはほとんど手がけたことがなかったのですが、fmを相手に「対面ば自双裸玉マップ」を作りながら、対面の手筋を習得していって、徐々に創作らしきものもできるようになっていきました。
この作品の場合、「手は続くがなかなか詰まない局面」を作り、配置や持駒を調整しながら完全作に近付ける方法で創作を行いました。ですから収束に両王手が出て、鮮やかに詰め上がったように見えるのは、計算の上でそうなったのではなく、実は偶然の所産です。
本作は記念すべき第1回の神無一族の氾濫に出題し、解答者からも上々の評判を得ました。作者自身も気に入っている作です。
馬金銀の3者による複式金鋸。
フェアリーの趣向作と言うのは、得てして単純になり易い傾向があります。それは作る人間自体が、そのルールでどんなことが出来るのか、本当に分かってないためでもありますし、どの分野も大抵は未開発の状態なので、単純な趣向でも通用してしまうせいもあるでしょう。
本作は趣向の1サイクルをできるだけ複雑化することによって、単純な構造になるのを避けようとした作品です。手順構成は並べていただければ分かる通り、銀と馬の斜めの上下運動の間に金が絡んで鋸引を行っていき、89とを取って戻ってくると言う、一往復の趣向です。特徴としては、各王手が皆逆王手になっており、逆王手49回の記録を生んでいることが挙げられます。
この作品、実はfmの発展に大きく寄与した作品です。当時のfmでは本作のような長手数の作品は検討できなかったのですが、この作品(の原図)を解くために検討した局面をメモリに保存するように次郎さんにお願いしてやって貰ったところ、効果が覿面に現れ、驚くほど短時間で全検が終了しました。そこから長手数対応版のfmが現れたというわけです。
またこの作品、どういうわけか妖精賞の長編賞を受賞しています。
「15歩、
「25歩、
「35歩、
「45歩、
「55歩、
「65歩、
75歩、
キルケルールを活かした易しい送り趣向。最初のサイクルさえわかれば後は、自然に収束まで並べられる作品です。
私は新しいルールで趣向を作るとき、まず送り趣向が出来るかどうかから考えていきます。どのようなルールでも送り趣向は趣向の基本だからです。送り趣向はその性質上、駒が多くなりがちですが、本作の場合は駒数も少なく、うまく出来たと思っています。
ずばり、ば自双裸玉の最長手数を狙った作品。それまでの記録が12手だったので、大幅に記録を更新できたことになります。
手順の中でポイントとなるのは8手目の48歩です。ここ、49香を先に打つと、どうしても20手では詰みません。早く合駒を入手をしたいところをぐっと堪えて、香打ちを後に回すことで、この収束に結びつけることが出来るのです。
もちろん、この作以外にも長手数に挑んだ作品はいくつかあるのですがそれらは玉を99辺りに置いて、呼出してくる型のものでした。結果的には玉と王が近いほうが長手数を実現できたわけで、これは意外なことでした。
その他に試したのは「攻方36王持駒角、受方18玉」の形から出発して、後は持駒に桂馬を加えて完全作になるかどうかでした。もし完全作が存在していれば、おそらく最長不倒の記録が生まれていたと思いますが、残念ながら完全作は存在しませんでした。詰将棋とはうまくいかないものです。
正解者ゼロの問題作。使っている駒はわずか3種類 ― 駱駝、金(と金)、歩。盤面の総枚数もわずか7枚です。それでもパラの解答者の誰も正解に到達することはできませんでした。作者の私ですら、こんな手順がどうして成立するか分からないのです。結局この作は人間の解図能力の限界を超えているのでしょう。
創作は詰上りからの自動逆算です。基本として「攻方49歩75と78と、受方79駱」を決めておき、逆算がなるべく長く行えるように、まわりの配置を調整していきました。逆算途中には歩以外の駒は発生しないようにとの条件付きでの逆算です。
そしてその結果生まれたのがこの作品です。神無太郎氏が「詰上り位置指定」という条件下で、このような怪物的な難解作が存在することを発見していましたが、本作はそれをそのような条件なしで実現した作品です。
この作からはどうしても人間の限界と言うものを思い知らされます。詰将棋の世界は本当は人間の手に負えるほど甘いものではないのです。いや、人間+コンピュータの連合軍でもどうにもならない世界が広がっているのです。「機械を使っての創作などもっての外」などと叫んでいる人達は、詰将棋の世界の本当の奥深さを知っているのでしょうか? 人間の手だけでどうになかるチマチマした世界で満足する気なのでしょうか?
我々はまだ詰将棋の深淵の入り口に立ったに過ぎません。その奥への道が開けていくのは、まだまだこれからの事なのです。
3×9の密集型。こういった作は大抵手順は単純なものですが、本作はいくつも考えるポイントがちりばめられています。まずは3手目銀を打つか、単純に龍を切るかで迷います。結局、後の趣向部とのスムースな接続には、銀を打つしかないのですが、手数をちゃんと数えないと結論を出せない面倒なところです。
中盤はきれいな趣向が出てくるので、筋に入ったと分かるでしょうが、問題は収束。11とを取ってしまっては、金輪際詰みません。ですから11とを残して、なおかつ攻めが続くように、金を一旦遠回りさせたりなどの工夫が要ります。
さて、この詰め上がりなのですが、実はこれ、忘れもしない私の詰パラ初登場作と同じ物なのです。
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[7-10b] 1981年12月 フェアリーランド 橋本孝治 |
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詰パラに登場する前、私は近代将棋に4回入選して、4回とも余詰という悲惨なデビューをしています。更に追い討ちがこれ。と金を全部はがさずに、1枚だけ残すというのがこの作の構想だったのですが、見事早詰。私が落ち込んだのは言うまでもありません。
しかし、時は私に創作力とfmを与えてくれました。15年の時を経て、初登場作の構想を、より拡張した形で実現することができたのです。初心の頃に果たせなかった夢を、より良い形で実現したこの作のおかげで、むかしの暗い思い出が、昇華された気がします。
| 七郎のフェアリーセレクション @ |
fmを使うと、全検や自動逆算で、「作者のいない詰将棋」を作ることが出来ます。このセレクションではそうした自動創作の成果の中から、七郎の気に入った成果を一部紹介してみたいと思います。
まずは一族最初の大規模全検プロジェクトとなった「対面ばか自殺詰双裸玉持駒1枚」の成果からです。
持駒金1枚から信じられないような豪華絢爛たる手順が現れます。対面ルールの面白さが味わえる一局です。
| 七郎のフェアリーセレクション A |
@で対面を紹介したので今度は、「背面ばか自殺詰双裸玉持駒1枚」の成果から選題しましょう。対面の方が一族の初期の頃から始まったプロジェクトで、次郎さんと七郎の共同作業で5年くらいかかったのに対し、背面の方は次郎さん単独で半年未満で終わってしまいました。
これは背面が対面に比べて結果的に易しかったこともあるでしょうが、対面の検討に掛かっていた5年の間にマシンの性能が10倍くらいに上がってしまったのが大きな要因でしょう。この分野での技術の進歩は驚くべきものです。
初手に対する限定合と、詰んでいるのか一瞬ではわからないちょっと奇妙な詰上りが特徴の一局。最終形で22王とすると23の銀が玉の利きになり、王を取ってしまうのです。従って、最終手のあと22王とはできません。一族ではこれを「影の利き」と呼んでいますが、これが出てくると手順にもグッと高級感が出てきます。
| 七郎のフェアリーセレクション B |
「対面ばか自殺詰双裸玉持駒1枚」のようなある分野を完全に覆ってしまうような大規模な全検の他に、ちょっとした思いつきで狭い範囲の全検を行うことがあります。
ここでは「安北ばか自殺詰双裸玉持駒桂2枚」の全検結果から一局紹介しましょう。
玉と王がよく動き回り、安北の面白さが良く出た一局です。この条件での最長手数は15王、95玉型の28手ですが、それよりもこちらの方がパズル的な味があります。
| 七郎のフェアリーセレクション C |
今まで双裸玉の全検物ばかりを紹介して来ましたが、ここで自動逆算の成果をひとつ紹介しましょう。題して「コンピュータが初めて作った煙詰」。1995年7月17日のことでした。
天竺ばか詰の無防備豆腐煙。飾り駒だらけで手順も単純ですが煙詰には違いありません。詰上りは七郎が与えたものです。
| 七郎のフェアリーセレクション D |
マシンの性能が上がるにつれ、全検の能力も上がってくるわけですが、それに比例して、全検する分野の難度も上がってきます。中には全検を始めたは良いが、途中でめちゃくちゃに時間の掛かる問題に遭遇して、全然進捗がなくなってしまう場合もあります。
「キルケばか自殺詰双裸玉持駒1枚」もそうした難しい分野のひとつ。ですが、王位置11については全検が終わっているので、その中から一局紹介します。
なかなか良い作が採れなかったキルケの中では例外的な好局。特に最終形の取れそうで取れない角による詰上りはキルケのルールが活きていますし、それに至る手順に飛の限定打と角の不成が味を添えています。
| 七郎のフェアリーセレクション E |
同じようなルールでもちょっと条件が違うと、かなり異なった結果を得ることがあります。
例えば「マドラシ」の場合は、玉もマドラシの対象になるKマドラシと、玉は対象外のnonKマドラシがありますが、ば自双裸玉にするならnonKマドラシの方が面白い結果が得られます。
では、「nonKマドラシばか自殺詰双裸玉持駒金」の中から一局紹介します。
王が九段目まで降りる妙手順。余詰が発生しやすい詰上りですが、本局は例外でした。
| 七郎のフェアリーセレクション F |
既存の全検結果に、ちょっとした条件を付加すると、全く違った結果を得る例として駒詰からの成果を紹介しましょう。八方桂とその仲間を歩で詰めるばか詰については、その結果をすでにOFMやホームページ上で公開していますが、それに「成禁」という条件を付ける事によって違った成果を上げることが可能なのを示したのが六郎さんでした。
その中で特に特徴的な一局を紹介します。
普通の条件ならば歩が7枚あれば、ゼブラを詰めるのは可能なのですが、本局ではなんと15枚もの歩を消費します。「成禁」というちょっとした条件の付加で結果がガラリと変わるという一例でした。
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