活きたモーションを作成するために
「慣性」の表現
物体には必ず慣性という物理法則が働きます。
(止まっている物は止まり続け、動いていつものは動きつづけるっていうやつです)
慣性の大きさは物体の質量に比例するので、物体の重さを表現するための重要な要素となります。
ですから、慣性をうまく表現したモーションデータは、とても存在感のあるものになります。
慣性を考慮すべき主なポイントは運動状態が変化する時なので、「動き始める時」「止まる時」「方向が変わる時」の3つで大半を占めてしまうでしょう。
- 「動き始める時」
- 静止した物体が動き始める時には、慣性によって止まり続けようとする力が働きます。
そのため、いきなり加速するのではなくゆっくりと加速していくことになります。
物体の質量が大きければ大きいほど、加速はゆっくりになります。
したがって、加速の具合で物体の質量を表現することができます。
また、機械であれば突然大きな力を出すことも出来ますが、人間の場合はそうもいきませんので、動き始めには「ため」「引き」といった動作がつきものとなります。
これも間接的に慣性を表現することになり、「リアルな動き」を作るには有効です。
- 「止まる時」
- 止まる時には動きつづけようとする力が働きます。
ですから動いている状態からいきなり静止状態になるということはなく、何らかの反動が起こります。
これも軽いものは小さな慣性が、重いものは大きな慣性が働きますので、質量に見合った動きをつけてあげましょう。
- 「方向が変わる時」
- 基本的には「動き始め」と「止まる時」の組み合わせと考えることができます。
どの方向に加速の力が加わるのか、その方向に減速の力が加わるのかを考えれば、おのずとそれに対する慣性の方向も見えてくると思います。
物体としては移動を続けるので、ともすれば見落ちしがちのポイントでもあります。
無造作に移動方向を変えるだけではなく、その際にどんな向きへの慣性が働くのかを考えるようにしましょう。
サンプルムービー
慣性を考慮していないものと考慮したものの違いがわかるようにサンプルを作ってみました。
(サンプル1)
慣性を考慮していないサンプルです。
単純に腕を振り上げて、また振り下げるというものです。
なんとなく味気ない印象がありますね。
154KB 2秒
(サンプル2)
振り上げ、振り下ろしの止まる所に慣性の表現を加えたものです。
慣性により、止めようとする位置をちょっと行き過ぎてから停止位置まで戻ります。
これだけでも、結構印象が変わってきます。
171KB 2秒
(サンプル3)
剣の重さを強調してみました。
剣に体が振り回されるといった感じを表現することで、剣の重さを印象付けることが出来ます。
手首の向き(剣の向き)を考慮するのも、結構効果的です。
最初のサンプルとはかなり印象が違うでしょ?
252KB 2秒
それでは「サンプル3」を例にして、モーションを作る上で考慮した点を解説してみましょう。
この剣を構えたポーズがモーションの始まりです。
まずは剣を振りかぶる訳ですが、重い剣を動かすには大きな力が必要で、腕の力だけで簡単に動かすという訳にはいきません。
そのため、まずは体ごと反り返るようにして剣を持ち上げることになります。
右図を改めて見てみると、もう少し剣の動きを控えめにしても良かったかなと思います。
(腕の力で持ち上げているようにも見えるので)
剣が加速するに従って、必要な力は小さくなっていきます。
そのまま力を加えつづけていくと後ろにひっくり返ってしまう事になるので、反っていた体を重心の中心へと戻していきます。
振りかぶりが終わりに近づくと、今度は減速させる方向に力を加える事になりますが、慣性の力によって体が後ろに引っ張られてしまいます。
停止位置まで達した時、慣性によって停止位置で止まる事ができず、一旦行き過ぎてから停止位置まで戻ることになります。
次は、剣の振り下ろしです。
これも振り上げ開始時と同様で、体を使っての振り下ろし動作で始まります。
剣に速度がついたら、一気に振り下ろします。
この時点では、勢いに任せて振り下ろすので、体にはそれほど力が加わりません。
振り下ろしたら剣を止めるわけですが、やはり慣性によって体が引っ張られることになります。
引っ張られていた体を停止位置まで戻せば動作終了です。
これで、サンプル3のモーション説明はおしまいです。
いかがだったでしょうか?
基本的には、「動き始め」と「止める時」の慣性を考慮しただけですが、それでもこの位の考慮すべき点が存在しているのです。
まあ、これは私の頭の中だけで動きをシミュレートしたものなので、実際の動きとは異なるでしょうし、ましてこれがベストなモーションな訳でもありません。
どのような力が加わっているのかを自分なりに考えながら、自分好みのモーションを作り上げてください。
コラム:「動きのデフォルメ」
現実に存在する物理法則を考慮することは、リアルなモーションを作るためには不可欠なことです。
それでは、最後に行き着く究極のモーションとは「動作時に働く力を全て物理計算させて、現実とまったく同じ動きにしたもの」とか「モーションキャプチャで取り込んだ現実の動き」になってしまうのでしょうか?
いえいえ、私はそうは思いません。
何故なら、人は事実をありのままに認識するものではなく、頭の中で補完された情報を知覚しているからです。
例えば写真と直接目で見る風景とでは印象が異なるように、事実そのものの動きを実現したとしても、それが最良の表現方法たりえるとは限りません。
時には現実では起こりえないくらいの動作をさせることで、よりインパクトのある表現になることもあるでしょう。
映像作品としてのモーションは物理的な事象を正しくシミュレートすることが目的なのではなく、見る人により「それらしい」印象を与える事が目的となるのです。
表現したい内容に合わせて動きを上手くデフォルメし、より印象的な動作を表現するという事も、モーション作りの醍醐味になるのではないでしょうか。
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