| 自転車ツーリング再生計画2009/6/28作成 |
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私が峠に魅せられる理由 |
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新しい自分に出会える場所 門岡 淳 もう40年近く前,十和田湖の南にある発荷峠。目の前に大きく広がる青い十和田湖に,一人の少年が立ちつくしていました。少年は,来た,来た,ここまで来た,自分の力で来た!と叫びだしたいほど嬉しかったのです。少年はその早朝,三戸駅に重い輪行袋を担いで夜行列車から降り、駅前でおぼつかない手つきで自転車を組立て、交通量を多い国道をひたすら登ってきました。あの高校2年の暑い夏の日から,峠は私のツーリングテーマです。行ったことのない峠には行ってみたい!と思ってしまいます。ナントカと煙は高いところに上りたがるのです。高い峠があると聞けば輪行袋を担いでどこへでも行きます。 峠は,郷と郷・国と国を隔てると同時に,郷と郷・国と国を結んでもいました。昔,人々は歩いて,多くは重い荷物を背負って峠を越えました。生まれ育った故郷を離れて,見知らぬ城下へ・京へ・江戸へ出ていく若者もいたことでしょう。峠で故郷を振り返り,二度と帰ることがないだろう故郷に別れを告げたことでしょう。同じ峠を再び越えて,故郷に戻る人もいたことでしょう。峠の向こうに再び見えてくる故郷をどんな想いで見つめたのでしょうか。 時は移り,昔の峠道には車道が作られ,トンネルが掘られ,交通量が増えるとさらに広くて立派な新道や新トンネルが作られ,旧道や旧トンネルは忘れられていきました。峠を走るとき,新道や新トンネルよりも,標高が高くても遠回りでも古くからの峠道,旧道,旧トンネルを走りたいと思ってしまいます。昔の人が,峠の向こうを見たとき,峠で振り返ったときに感じた気持ち,想いを感じられると思っているのかもしれません。単に,旧道の方がのどかな気持ちのいい道だからかもしれませんが。 はるかな高みを目指して峠を登るとき,呼吸はリズミカルにテンポを上げ,いつもは眠っている筋肉も目を覚まします。心拍が送り出す血液は身体中をドクドクと流れ,心にたまった澱も洗い流してくれます。息を切らしてペダルを回す私を,サルやカモシカが見送ってくれることもあります,いささかいぶかしげに。上りきれずに止まってしまった私に,谷を渡る風がエールを贈ってくれます。新緑の明るい緑は,私の心を和ませてくれます。峠にたどりつけば,はるかな山なみ,大きな空が広がっています。 峠で,心はいつもより高いところにあります。より高くから自分を見ることができるのかもしれません。またつまらないことに囚われているな,無駄な心配をしているな,と。峠は新しい世界への入口でもあります。ひょっとしたら向こうの世界には新しい自分が待っているのかもしれません。あの暑い夏の日,私は,発荷峠で新しい自分に会ったのです。心配していてもしょうがないでしょ,やってみればなんとかなるかも,と言える自分に。 No16(山と渓谷社)2009年夏号掲載 さあ,風になって風と一緒に下りましょう。ちょっとだけ新しい世界に,ちょっとだけ新しい自分になって。自転車人 |