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IBM Thinkpad s30の記録
2004年8月8日





 以前モバイルギア2の記事を書いたが、あれは機能が限定的すぎてなじまず、短編を一本書いただけでお蔵入りした。(その後故障し、最近復活したものの予備役)
 2001年末にシンクパッドのs30を買ってからは、それが主力となっている。どれぐらい主力かというと、購入から今までの小説をほとんどすべてそれで書いたほど。文庫12冊プラスアルファを生産したことになるので、元は十分に取れた。CDドライブがないことを除いてほぼフルスペックのPCをナップザックで持ち歩けるということは、私のライフスタイルによく合致した。(電車よりも車で移動することが多いので、CE機ほど小さくなくてもよかった)
 今さらの感もあるが、この名機の記録を残しておく。ちなみにこの記事もs30で書いている。

 購入を決意したのは、2001年の種子島取材。その時私はまだノートPCを持っておらず、父の大時代なダイナブックを借りて持っていった。これは性能の割りに重く大きくて、邪魔者以外の何物でもなかった。
 同行した笹本祐一氏がシンクパッドを持っていて、しきりに勧めてくれた。ノートPCの必要性を感じた私は帰宅してからネットを巡り、s30を発見した。確か笹本氏のものは違う機体だったが、s30のほうが気に入ったのでそちらに決めた。

 s30の性格を一番端的に表しているのは、光学ディスクドライブを持たないことである。12センチの円盤を拒否することで、s30は素敵に軽く小さくなった。
 CDからデータを吸い取る時は、母艦のデスクトップ機からLAN経由で受け取ることになる。ほとんどの場合それで不便はないが、困るのはOS更新のような大仕事をする場合である。WindowsMEからXPにするときはどうしても方法がなく、知り合いのIBM純正外部ドライブを借りて作業した。
 IBMはこのOS更新作業をカバーするために、内蔵HDDに専用パーティションを切って、更新用OSを入れるという方法をとった。これは苦肉の策というのがぴったりで、OSトラブル、ディスクトラブルの際など、不便で仕方がなかった。
 私はXPに更新する時に専用パーティションを切り捨ててしまった。光学ドライブがないことに起因するこの辺りの煩雑さが、s30の最大にして唯一の欠点だと思う。

 その点に目をつぶれば、s30は優秀である。この場合の「優秀」とは、ずば抜けた高性能を誇るという意味ではなく、全体の調和が取れた使いやすいマシンだということだ。

 CPU動作周波数は600MHzだが、省電力を目的として300MHzに切り替えられる。これは自動でも主動でも簡単にでき、バッテリー駆動時は300MHzが基本である。
 どちらにしろ2004年の目で見ると高い数字ではないが、小説執筆用のテキストエディタは300MHzでも十分動いてくれる。資料閲覧用にIEをいくつか開いて、イヤフォンでMP3を聞いてもまだ余力がある。
 画像を大量に見ようとすると300MHzでは足りなくなるので、600MHzに変更する。500KBの写真ぐらいまでなら何とか連続閲覧できる。済んだら300MHzに戻す。たいした手間もかからない。
 自宅でACにつなぐ時は600MHzで使う。画像・映像系の重い作業以外では、ここでも主役を張れる。
 以上はメモリを256MBに増設することを前提としているが、総じるに、計算機として劣ったところは何もないということを言っておく。

 小説を書くことは大量のキー入力を行うことなので、キーボードの善し悪しが重要である。購入時にもその点は気を使った。
 モバイルギアでの教訓により、あまり小さなキーボードだと気が散ってしまうことがわかっていた。十分なキーピッチが必要だった。
 s30と同程度のキーピッチを持つノート機はいくつかあったが、s30はある意味冒険的なことをやってキーピッチを稼いでいた。キーボードだけ左右に突き出してしまったのである。(設計者は、魚類のエイの形状をイメージして「スティングレイ・キーボード」と名付けたなどと悦に入っていたが、そんなことはどうでもいい)
 私がこの冒険的設計に幻惑されたということは、言えなくもない。全体の幅を広げる設計でも、運用面では特に不便はないだろうからだ。
 とにかくs30は18.25mmのキーピッチがあって、指の太い私でもブラインドタイプができた。
 また、キーの感触も大事である。幅よりもむしろ感触でs30は得をしている。IBMのノートはキーの感触がいいとよく言われる。私もそう思う。キーの一つ一つの「高さ」があり、軽く触れた時ふらふら動かず、押した時の抵抗感、底付き感、はね戻り感もいちいちくっきりしている。今思いついたたとえだが、うまく炊けたときの粒の立ったお米を連想した。
 それやこれやで、s30のキーボードを叩くのは心地よい。「文章を入力する」ということに、一つ特典が増えたような感じすら受ける。

 モバイル機としては、やっぱりバッテリーの持続時間が大事だ。
 s30の標準バッテリーは、初期に5時間持続した。私はファミレスで使っていたので、十分に感じた。人間として無用に長時間ファミレスに居座るのはどうか。2時間でも長いのではないだろうか。
 しかし、s30を手に入れた私は、それまでの社会常識をも逸脱してしまうことになった。バッテリーが尽きるまで5時間居座ることが珍しくなくなったし、予備バッテリーを買ってからは10時間近くまで延びた。
 今私は古いのを2本と新しいのを1本持っていて、ファミレス滞在13時間という最長不倒記録を持っている。さすがにこれだけ居座る間には注文も増やすようにしているが、店側としては複雑な気分だろう。幸い、今常駐している店では店員さんと仲が良くて、追い出されるようなことはないのだが。
 話が逸れた。
 2時間持続のバッテリーと5時間持続のバッテリーでは、モチベーションが大きく違ってくる。大体、執筆作業をしていて本格的に興が乗ってくるのは、開始から一時間以上たってからなので、2時間バッテリーだと早くも残量が気になってしまうところだ。
 まだまだ電池はあるぞと思うことが、仕事のはかどりに多いに影響していると思う。――手前味噌のようだが。
 弊害もある。バッテリーが持ちすぎて、遊んでしまうのだ。なあにまだ時間はあるさと音楽を聴いたり、PHSでネットを閲覧したり、果てはs30の記録を書いたりしてしまう。
 そういう場合、結局小説を書かずに帰ることが多い。意志の弱さを実感する。
 以上の話は300MHzで使用した場合である。600MHzにあげると、体感で半分近くまで持続時間が落ちる。真面目に仕事をするつもりなら、300MHzでエディタだけを開いてしこしこと文章を書かねばならない。
 
 s30はPCカードスロットが一つあるので、私はそこにPHS用のモデムを刺しっぱなしにしている。執筆中どうしても資料が必要になると、これでネットにつなぐ。
 ただ、エアーエッジのような定額制接続契約はしていない。契約するとやはり遊んでしまうからだ。
 私がファミレスで仕事をしているのは、遊ばないためである。自宅にいると家族がいて、本があって、ネット常時接続のデスクトップ機もあるので、どうしても遊ぶ。それを防ぐために先回りして遊べない環境へ移ることにしているのである。(図書館は喫煙者の私が仕事を出来る環境ではない)
 だからしてs30に刺したPHSモデムは、堤防に開いたネズミの穴というか、極めて危険な道具である。ネットで遊んでしまう。しかしそれがないと仕事に差し支える場合もある。そこで、モデムは刺すけど接続ケーブルを車に残してくるという、なんとも情けない手段で敷居を高くして、むやみにネットで遊びたがる自分を制している。
 また話が逸れた。要するに、それもまたs30の持ちのいいバッテリーのおかげで起きる悩みなのだ。

 PCカードの話が出たのでインターフェースに目を向けると、s30はシリアル・パラレル・PS/2のレガシーインターフェースを切り捨てている。だがUSBが二つあるので何も困ることはない。
 LANポートがあるが、56Kモデムは残している。V.90規格なので、世界中どこへ行ってもネットにつなげられるぞという安心感がある。まだs30を本州の外に出したことはないが。
 CFカードスロットもある。デジカメのデータ取り込みに大活躍する。泊まりの取材旅行などでデジカメがいっぱいになったとき助かった。また、他のノートPCユーザーにもCFカードを使う人は多いから、データの交換に役立つ。
 この辺りは「必要にして十分」というコンセプトが最大に発揮されている。s30のデザインの中でも最も気配りの行き届いたところだと思う。

 s30には初期に20GBのHDDが内蔵されていた。私はそれを最近40GBのものに変えた。やはり20では少ない。40あるとほっとする。
 それと同時に望外のおまけがついた。作動音が皆無になったのだ。いやむしろ、今まで異常にうるさかったことにようやく気づいた、というほうが正しい。
 初期のHDDは電源投入とともにちゅいーんと高い音を立てて回りだし、アクセス時のカリカリ音もはっきりしていて、HDDランプなど見なくても動作がわかった。私は交換時にネットで調べて、それが名だたる爆音HDDだと初めて知った。半信半疑で取り替えてみると、新しいHDDのなんと静かなことか。恐らく以前のHDDは、その作動音を立てるためだけに相当の電力を消費していたに違いない。
 
 s30の重さは1.45Kgである。ペットボトル一本分だがそれほどの重量感はない。体感的に喩えると、手提げ鞄で持ち歩くには重い。ナップザックに入れるとだいぶ軽く感じる。しかし資料の本やゲラを加えるとつらくなる。少なくともその状態で電車には乗れない。
 だからs30を持って電車で出かけるときには、他の資料を減らす。s30自体はよほどのことがない限り置いていかない。その程度には軽い。これとパンツとシャツを入れて一泊取材に出ることがよくある。
 車で出るときはためらわず持っていく。本体と資料に加えて、予備バッテリー二本を備えたフル装備にする。逆に言うと車でなければフル装備はできない。

 功罪取り混ぜてs30の話をしてきたが、トラブルももちろんあった。最近はなくなったが、ME時代には悪名高いブルースクリーンのせいで執筆中の原稿が吹っ飛んだことが二度ほどある。もっともこれはs30の罪ではない。
 ファイル防衛策としては、RealSyncというバックアップソフトを導入した。HDDのデータを五分おきにCFカードに複写する設定にしてある。(余談だが私は仕事のファイルを二系統五重にバックアップしている。ノートPCで二重、デスクトップ機で三重である。更新する時は両方の系統を交互にやる。こうすれば、バックアップファイルを上書きしてしまうという最悪のミスでも、一つバージョンは落ちるが別系統のファイルが生き残る。――理想的には、誰か信頼できる遠方の知人に、いちいちファイルを送りつけるのがいいと思う。災害などで自宅が崩壊しても助かる。しかし、そこまでして保存する価値のあるデータを作っているのかと言われると、うーんどうだろうと首を傾げるしかない)
 s30最大のトラブルは2003年秋に起きた。確か導きの星4巻の執筆中だったと思う。電源を入れると画面が真っ白に焼きついてしまうのだ。情報収集の結果、s30を含むシンクパッドシリーズに特有の、ディスプレイ配線に関係するハードウェア故障だとわかった。ハード故障ではどうしようもない。修理に出して、仕方なく自宅機でだましだまし仕事をした。(自分では、四巻にその影響は出ていないと思う)
 
 2004年夏現在、s30はもう売っていない。Thinkpad X40という後継機が出ている。s30と比べてX40は幅が11mm大きく、重さが180g軽く、バッテリー持続時間が3.5時間だそうである。バッテリー7時間のグレードもあるが、そちらは奥行きが24mm増える。CFカードスロットはSDカードスロットに変わる。あと、妙なことに新規格の赤外線ポートもつくらしい。
 この新型、バッテリーがどうも気に入らない。3.5時間というのは少なすぎる。7時間のほうは大きさが不満だ。
 もっとも、実際に使えば慣れると思うが、さしあたって買う気は起きない。私の用途だとs30が一番あっている。(s30を使っていた知り合いのプログラマーの方は、メモリ256MBではやってられんとX40に一ギガ乗せて買った)
 まだ当分s30を使うつもりである。だが、将来何度買い換えても、この機体と比べてしまうと思う。


IBM Thinkpad s30  (2639-43J、無線LANなし・鏡面塗装)

寸法 257×213×22.5〜32.3o B5サイズ
重量 1.45Kg (標準バッテリー時)
材質
 天面 マグネシウム・アルミニウム合金
 パームレスト CFRP
 底面 マグネシウム合金

性能
 CPU 超低電圧MobilePentium3 600/300MHz
 チップセット 440MX
 メインRAM 256MB PC-100 SDRAM (初期128MB)
 HDD 40GB (初期20GB)
 V-RAM オンボード4MB
 OS Windows XP HomeEdition SP1 (初期Windows ME)
 ※光学ディスクドライブは無し

外部インターフェース
 IEEE1394 左1
 USB1.0 左1 右1
 外部CRT 左1(要アダプタケーブル)
 PCカードType2/1 左1
 CFカードType2 左1
 Ethernet 10/100Base-T LAN 右1
 V.90 56Kダイアルアップモデム 右1
 ステレオイヤホン 右1
 マイク 右1
 電源 左1 (中間にACアダプターを挟むコード)
 ステレオスピーカー
 ※パラレル、シリアル、PS/2は無し

キーボード
 109日本語 7列 キーピッチ18.25mm(不等間隔)
 ※「スティングレイ・キーボード」キーボード部分が本体両側からはみ出す構造
 テンキーなし
 ポインティングデバイス IBMトラックポイント
 マウスの左右クリックボタンとセンターホイールに相当するボタン各1

バッテリー
 標準 リチウムイオン6セル (ロングライフ9セルあり)
 実測稼動時間 初期5時間、一年使用後(推定総使用時間、800時間)で3時間
 実測充電時間 3時間
 消費電力 56W

ディスプレイ
 10.4インチTFT液晶 XGA
 
購入価格
 2001年末 実売18万円
 2004年夏現在 生産終了 中古相場は約10万円
  
備考
 背面バッテリーに「スウィングバック・フィン」があり、本体を傾斜できる


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