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研究計画書をどう書くか

大学院入試における研究計画書の重要性は相当高いものです。院試塾でも,研究計画書作成指導の件数が指導全体に占める割合はかなり高くなっています。しかし,残念ながら,多くの人の研究計画書に対する準備はけっして十分ではありません。そもそも「研究とは何か」といった段階からわかっていないのではないか,と考えざるを得ない場合もあります。

「院試塾ニューズレター」ではこのような現状をふまえ,研究計画書を書く際の基本的な考え方を「研究計画書をどう書くか」という連載記事で解説してきました。ここに挙げてあるのがその記事の内容です。

院試塾では「研究計画書作成指導」として,大学院進学時に提出が必要となる研究計画書の作成指導を行っています。また,この指導の結果合格した皆さんのコメントも掲載させていただいていますので,ぜひ参考にしてください。

研究題目の設定

研究題目とは,単に研究に名前をつけることではありません。かなり漠然とした題目を研究計画書などに書いているケースがあるようですが,これではいけません。題目設定にあたっては,研究対象と方法論の,少なくとも2つをしっかりとおさえておく必要があります。1つの典型例としては「○○の××的研究」というのを頭に置いておくとよいでしょう。もちろん,このとおりになる必要はありませんし,研究科や専攻によっても事情が違いますが,このような題目のとらえ方をしておくことが大切です。 具体的に題目を設定する前に,自分の研究分野の学術論文のタイトルに目を通しておくとよいでしょう(当然のことながら,丸写しは困りますが)。研究とは何か,がきちんとつかみ切れているかどうかを自分なりに確かめる方法としても有効でしょう。もちろん,すぐに論文執筆に取りかかることができるほど特定的な題目が設定できている必要はありませんが,大学院では定められた修業年限で一定の成果をあげることが要求されますから,全くの素人だというのも困りものです。少なくとも基本的な文献には目を通してあることと,入学後の研究を方向づけるだけの基礎理解があることがわかるような題目である必要があります。研究計画において,「何を」「どのように」はもっとも大切な要素です。研究計画書の作成に具体的に着手する前に,まずはこの点をはっきりさせておく必要がありますね。

計画書の骨格作り

研究計画書を前にして,何を書いたらよいか悩んでしまう人は多いでしょう。そんな人がおすすめするのが,「キーワード法」とでも呼ぶべきものです。まず第1段階として「ブレインストーミング」を行います。今までの研究,今興味を持っていることなどについて,なるべく発想を自由にするようにしてキーワードを書き出してみます。少しでも頭に浮かんだことをなるべく肯定的にとらえながら,「こんなこと書いても大丈夫かな」と思えるようなことまで羅列します。第2段階では,羅列したキーワードを並べ替えてグループを作ります。似たような内容・方向性のキーワードがひとまとまりになるように並べ替えてください。その時,ひとつだけぽつんと孤立しているキーワードがあると思います。こうしたキーワードに対処する方法は2つあります。1つは,そのキーワードに関連するキーワードをさらに出すこと。そしてもう1つは,そのキーワードをリストから外してしまうことです。できる限り出てきたキーワードは活かす方向で考えるのがよいのですが,あまりに他の項目と関係の希薄なキーワードは,最終的には削除していくことになるでしょう。そして第3段階では,そのキーワードのグループを文章にしていきます。まずはキーワードを組み合わせて見出しを作成し,その見出しに対応する本文を作成していくとよいでしょう。この方法で計画書を書く場合に注意しなければならないのは,文章としてのまとまりがつかなくなりがちだ,ということです。必ず全体を読み返し,細部の調整をしていくことが大切です。

参考文献

研究計画書を書くうえで案外見逃されやすいのが,参考文献の重要性です。学術文書で大切なことの1つに,自分の考えと他人の意見をしっかり区別することがありますが,このために参考文献はぜひ必要なものです。また,研究計画を立てるうえで,理論的なバックボーンに言及することも必要になってきますが,このような場合にも参考文献への言及は必要不可欠であると言えます。

たとえば,皆さんが書いた卒業論文,ないしはそれに類するゼミ論文・レポート・研究報告などを思い返してみてください。研究を方向づけるうえで大きな影響を受けた研究論文や著作があるはずです。そしてそれらについては,参考文献として論文中で言及したはずですね。研究計画書においても同じです。今後の研究計画を考えるとき,出発点となる研究,対称軸となる理論,あるいは基本となる考え方などがあるはずです。これらについては,研究計画書の中で必ず言及しておきましょう。それが,学問の世界での「掟」なのです。計画書の内容はもちろんですが,これらの部分がしっかりしている計画書は,それだけでも書いた人の学問的な成熟度がにじみ出ている,と言ってもよいでしょう。

また,参考文献の挙げ方については各学問分野で若干違う部分もありますので,専門雑誌の論文や専門書の記述法を確認しておくとよいでしょう。とくに,学界で有力な論文誌の投稿規定などに従うのも1つの方法です。

テーマ探し

研究計画を立てる際に,テーマ探しで苦労しているという話をよく耳にします。テーマ探しで苦労する人の多くは,あまりに壮大な研究計画を立てようとして行き詰まってしまっているように感じます。研究計画とは,なにもよそ行きの特別なものではありません。大学院での研究生活の1日1日を方向づけるための「指針」のようなものです。

大学院に入って2年間で,いろいろな研究を手がけることになるでしょう。それはバラバラであっては困るわけで,修士論文(またはそれに代わる研究)という形に修練していくものでなければなりません。つまり,修士論文にいたる過程は,いくつかの小規模な研究に分類されると考えるわけです。そこでまずは,この小規模な研究について考えてみるとよいでしょう。

たとえば,学部卒業の際に卒業論文ないしはそれに代わる論文を執筆しており,それにつながる研究を考えている人なら,そこから出発していくのもひとつの方法です。論文執筆の際に用いた参考文献などから,さらなる発展の方向性を考えてみるとよいでしょう。この際,少し研究の対象を広げてみるとよいでしょう。学部の卒業論文の場合には,取り組みやすい,つまり比較的対象の限定されたテーマに取り組んでいることが多いと思いますが,修士論文ではもう少し大きなスケールの研究に取り組むことになるでしょう。たとえば,卒業論文では事例研究に取り組んだ場合,修士論文ではそれを理論・体系につなげていく,ということが考えられます。

具体的に言うと,たとえば自分が取り組んだ事例研究の成果が,原稿の理論・体系の修正につながらないか,ということを考えてみるとよいでしょう。また,それが既存の枠組みでは説明がつかない,ということになれば,かなり大がかりな研究になりますね。この見極めには,ある程度理論を知っていることが必要になります。また,事例から理論を見渡す「視点」も必要です。これが持てるようになれば,もうテーマは決まったも同然と考えてよいでしょう。

どこまで具体的に書くか

 院試塾の研究計画書作成指導に寄せられる計画書に多く見受けられる問題点として「具体性の欠如」が挙げられます。研究計画には,ある程度の具体性が必要です。というのも,研究計画書は単に研究計画を述べるだけではなく,計画の実行可能性についてプレゼンテーションを行う場でもあるからです。いくらすばらしい計画を立てても,それが実行できなければしかたがありません。

ここで必要となる具体性とは,たとえば何らかの資料を収集する必要がある場合,その資料をどのように集めるか,といったようなことです。「〜についての資料を収集し」とだけ書くのではなく,「〜についての…な資料を○○から/によって収集する」と書くわけです。また,目的と手段・方法の関係を明らかにすることも大切です。特定の目的があってはじめて,ある方法が選択できるわけです。自分の頭の中では当たり前のこととしてつながっていることでも,はっきりと書いて示すことが重要です。

具体的に書こうとする姿勢は,さまざまなところによい影響を及ぼします。まず,これによって研究計画がより練られたものになる,という点が挙げられます。自分自身の頭の中でも,より具体的に考えようとする思考回路が形成され,その思考回路は記述のしかた全体ににじみ出てくるものです。また,具体的であればそれだけ,研究計画がしっかりしたものであるという印象を与えます。上で述べた実行可能性についても,具体的なものが定まっていると思われる分,研究がうまくいきそうだという感触を読み手に与えるのです。

研究計画書は,いわば自分を大学院に売り込むためのものです。つまり,説得力のあるものでなければなりません。そのためには,抽象的な議論だけでなく具体的に話を進めることが大切です。できれば他人に読んでもらい,「ここはどういうこと?」「ここはどうするの?」と質問してもらうのもよいでしょう。

的確に書くということ

研究計画書の中には,かなり詳細に書くべき項目を指定しているものがあります。このような研究計画書を書く場合にとにかく多く見受けられるのが,設問にきちんと答えていないものです。たとえば「本研究の意義を述べよ」という指示が出ているにもかかわらず,先行研究の不備を羅列しているような場合がこれに当たります。 たしかに,先行研究に不備があり,それがわかっているからこそ新しい研究を積み重ねるのであり,それは意義の一面ではあるかもしれません。しかし,意義の核心ではないはずです。

このような過ちを犯さないためには,設問に対する答えをまず1文で簡潔にまとめることです。今考えている例題で言うならば,「○○のメカニズムを明らかにする」など,研究の意義を簡潔に述べるわけです。そして,これに肉付けをする形でパラグラフを展開していきます。学術的な文書の一種である研究計画書ですから,トップダウンの段落展開,つまり,最初に主題を明確に述べ,それを支持する文を付け加えることで段落展開を作っていく手法をとるのもよいでしょう。

ここで悪い例として挙げたような計画書がまずいのは,単に文章としてだけではありません。設問にきちんと答えられないようだと,研究能力そのものまで疑われる可能性もあります。そのようなことになってしまってはどうしようもありませんね。

読み手を想定する

すべての文章を書くうえで言えることですが,必ず「読み手」を想定しなければなりません。自分のなかに架空の読み手を設定し,言いたいことがその読み手にきちんと伝わるかどうかを考えながら,書き進めていく必要があるわけです。

研究計画書の場合,第一に伝えるべきことは自分がどんな研究がしたいかです。研究内容を相手に伝えようとする際,相手にどの程度の前提知識があるかを見極めることが重要になります。読み手は大学院の教官ですから,初心者にもわかるようにかみ砕いて書く必要はありません。しかし,自分の研究内容を熟知している指導教官にしかわからないような書きかたでは困ります。

1つの指針として,学会発表のレベルを想定するとよいでしょう。学会発表ですから,当該分野の前提知識が全くない人を対象とするわけではありません。しかし,学会発表を聞きに来る人はかなりいろいろな人がいるわけですから,それなりに先行研究の概略を紹介したり,今までの自分の研究に言及したりといったことが必要になってきます。「これから大学院に入るのだから,学会発表などしたことない」という人も多いでしょう。そういう人は,一度学会発表を聴きに行くのがよいですね。あるいは,学会誌に掲載された学会発表の概要だけでも読むとよいでしょう。

また,学会発表の概要を読めば,参考文献の挙げかたや研究用の言葉遣いについても学ぶことができます。特に参考文献の挙げかたについては,学問分野ごとにある程度決まった約束事があるので,そういう点でも参考にするとよいでしょう。

先行研究について

ある大学の研究計画書の書式指定で,「今後読まなければならないと思っている本・論文のリスト」という項目があります。たとえばこのような課題が出たときに,きちんと対応できるでしょうか。この項目がきちんと書けるのであれば,たしかに研究計画はそれなりに固まっていると考えることができるでしょう。

「こんな研究がしたい」というだけであれば,大学院に進みたいと考えている人ならだれでも構想はあるでしょう。しかし,博士前期課程の場合2年間という短い時間で一定の成果をあげ,それを修士論文という形にまとめなければいけません。そのためには,問題意識がある程度はっきりしていることが必要となります。

また,大学院における研究では,一定のオリジナリティ,つまり当該学問分野に対して一定の貢献をすることが要求されます。そのためには,先行研究について調べておくことは必要不可欠です。「今後読まなければならないと思っている本・論文のリスト」が書けるくらいの準備ができていれば,先行研究はある程度おさえてあると言えるのではないでしょうか。もちろん,単に本や論文のリストが作れる,というだけでは不十分です。そこに挙がっている本が,本当に研究内容と関係があるかどうかが問われることは言うまでもありません。下手な本を挙げれば,それによって研究能力が疑われてしまう可能性も否定できません。

さてそれでは,この項目をきちんと書くためにはどうすればよいのでしょうか。まず,卒業研究を行った,学部卒業間もない人であれば,その時に残した問題を調べてみるとよいでしょう。学部卒業から時間の経っている人,卒業研究のテーマとは異なる研究を志している人が問題になるわけですが,そのような人はまず当該分野の入門書・概説書で,なるべく新しいものを読む必要があります。そこに挙げられている文献を読み,ある程度問題の方向性をはっきりさせておく必要があるでしょう。

理論的視点を持つ—再び先行研究について—

多くの研究計画書原稿に欠けているのが「理論的視点」です。「理論的」と言うと「自分には関係ない」と思うかもしれませんが,研究を行う以上,理論を全く考慮しないということはあり得ない,と言えるのではないでしょうか。事例研究も立派な研究ですが,この場合にも理論的視点は必要です。「理論的視点」とは,具体的に言うなら「研究を学問領域の中で位置づける」ためのものです。学問の場である大学院で研究を行う以上,学問領域の中に自分の研究をきちんと位置づける必要があります。およそ研究というのは,既存のものの不足を補うものでなければなりません。すでに言われていることに不備があるからそれを修正する,既存の理論にはない視点からものごとをとらえ直す,理論の検証のための事例研究を行う,など,理論と向き合う場合の視点はいくつもありますが,何らかの形で「理論」と向き合わなければならないのは,いかなる研究についても言えることでしょう。

それでは,このような姿勢が具体的に表れている研究とは,具体的にどのようなものでしょうか。最低条件として「先行研究についての言及がある」ということです。先行研究に言及すると言っても,その具体的方法は研究計画書の長さや研究の性質などによって変わってきますが,先行研究についての言及が一切なく,「自分はこういう研究がしたい」ということだけが述べられているものは,残念ながら「研究計画書」ではないと言ってしまってよいでしょう。

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