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ヴィクトリア時代の灯りについて : 間接照明と持ち家志向 (アンティークの専門誌『オクルス』 2001年11月号掲載記事です。)



秋が深まるに連れて日本ではよいお天気が続いていることでしょう、羨ましい。イギリスの秋は雨が多く日本のようには楽しめないし、釣瓶落としも追いつかないほどの勢いで日が短くなっていくので、何だか寂しい気分になってきます。

こんな季節には、せめてもっと光を!ということで、家の中には明々とライトを…と思うのですが、イギリス人には間接照明の薄明かり程度の明るさが好きな方が多いようです。友達の家に遊びにいき、夕方になり辺りが暗くなってきても、なかなか明かりをつけない人も多く、日本の明るい照明になれた私には、この国の人たちとの感覚の違いを感じて、初めの頃は落ち着かないものでした。

しかしこれも慣れでしょうか、この頃は間接照明の薄明かりを雰囲気の良いルームコーディネートと思えるようにもなりました。そしてアンティークオイルランプの柔らかく落ちついた明かりが、ゆっくり考えごとをするのにとても合っていると思うようにもなりました。

夜でも昼間のように明るい現代の照明は電気のおかげです、英国人の明かりの使い方は、私達以上に過去の暮らしを色濃く引きずっているようにも思えます。

アンティークな明かりについて見てみましょう。
ヴィクトリア時代の照明の主役はオイルランプでした。この時代の初期、1847年に灯油(パラフィン)の精製法が発見されて、その後オイルランプが急速に普及します、1860年代には多くの特許が申請されて、用途に応じたたくさんの新製品がお目見えしました。

ヴィクトリアンハウスの照明を見渡すと、居間には灯心が二つあって強力なデュプレックスランプが置かれています、ダイニングにはテーブルランプ、台所には吊り下げ型のハープランプ、寝室にはハンドランプが一つずつ、その他に子供用の夜間灯やトイレには小さなウォールランプがありました。これらを合わせて普通の家庭では10ほどのオイルランプが使われていたようです。もちろんこれだけランプがあっても、現代の照明と比べればそれほど明るいものではなかったことは容易に想像できます。


(エドワーディアン テーブル ランプ: アンティーク オイルランプのやわらかな灯りを見ていると、穏やかな心持ちになり、時がゆっくり流れていくような気がします。)

No. 4484 エドワーディアン プレストグラス テーブルオイルランプ: 高さ 43.5cm、円形底の直径 10.7cm、1900年から1910年頃


そして少し大きなお屋敷ともなれば、40ものランプが使われ、ランプ管理専門の召使がいたようです。オイルの補給以外にも、灯心を削ったり、ガラスを磨いたりと手間がかかるものなのです。

また、ロンドンなどの都市でガス灯が普及したのもヴィクトリア時代の特徴です。しかし1900年以降になるとロンドンに電灯が本格的に普及しだして、霧に浮かぶガス灯は急速にヴィクトリアンのノスタルジーとなっていきました。

ヴィクトリア時代は暖かみがあって心地よい光を放ってくれるオイルランプやガスランプの時代とほぼ重なっているのです。

イギリスではこうしたノスタルジックな照明を意外と簡単に手に入れることが出来ます。ロンドン近郊にあるアンティーク照明のお店をご紹介しましょう。

アンさんとリーさんお店、High Light Chandeliersではイギリス各地はもとより、ヨーロッパからもアンティーク照明を買い付けています、品物にシャンデリアが多いのが特徴です。昔はガス灯のシャンデリアがありましたが、今ではガス圧力が当時と異なり、ガス灯そのままの使用は難しいので電灯に切り替えられるのが普通です。電気技士のアンさんが電気系統を調整した上で、リーさんの手により美しくリストレーションされた品物がショールームに並んでいます。

お客様はイギリス人の住み替えと関係していて、20〜30代の方が多いとのこと。その理由を知るとアンティーク好きなイギリス人の別の一面を垣間見ることが出来ます。

イギリス人は持ち家志向が強く、若いうちから家を買って、その後4、5回は家を買い換えます。まず独立して働き始めると、なるべく早く小さなフラットを買おうとします。結婚する時には持ち家を売って二人で住む家を買います。子供が大きくなると、また持ち家を売って、一回り大きな家を買います。子供が独立してしまうと、今度は小さな家に住み替えて、売却益の一部は手元に残すという寸法です。

英国ではプロパティラダー(不動産のはしご)という言葉がよく使われるように、家は投資の対象です。次に買う少し大きな家のためにアンティーク照明を取り付けて家の価値を高めるといった需要は20〜30代の方に一番ありというわけです。イギリス人のアンティーク好きは実利も兼ねているというお話でした。

イギリスの家は天井が高いのでシャンデリアも良いけれど、日本の住宅事情ではどうかしら?と聞いてみました。25年前にはシャンソン歌手として日本で歌ったご経験もあり、日本事情に詳しいリーさんが、マンションならウォールランプなどしゃれているし、二階建なら階段の踊り場にアンティークのシャンデリアを取り付けるのも良いのではと、アドバイスしてくれました。

今回はもう一つ、ベルギー、ブリュッセルのサブロン広場で毎週土、日曜日に開催されるアンティークマーケットをご紹介しましょう。ベルギーという場所柄か、お隣りのフランスやオランダは言うに及ばず、ドイツやスカンジナビア諸国からもアンティークが集まり、その中にアールヌーヴォーのアンティークランプを扱うお店もありました。その昔は品の良い貴族的な地区だったとされ、ステンドグラスが美しいノートルダム・ドュ・サブロン教会が建つ広場の周辺は、今では骨董街になっていて多くのカフェやレストランも軒を連ねています。ブリュッセルで一番おいしいといわれるウィッタメールというケーキ屋さんもあるし、アンティークマーケットには素敵なデザインの品が多いので、ブリュッセルに行かれる機会がありましたら、サブロン広場周辺で過ごされても楽しいと思います。


(アンティーク ランプやキャンドルの灯火を見ていると落ち着いた気分になれるので、これが日課のようになっています。 灯を入れるにはやはりヴェスタがよろしくて、そのための必需品です。)

No. 4448 ヴィクトリアン スターリングシルバー ヴェスタ: 縦 3.7cm、横(留め具含まず) 2.65cm、最大厚み 1.0cm、重さ 16g、1899年 バーミンガム

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