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アンティーク スターリングシルバー バターナイフ 3


No. 6825 ヴィクトリアン スターリングシルバー ハノーベリアンパターン バターナイフ with ライオン クレスト(紋章)
長さ 19.9cm、重さ 54g、ブレード最大幅 2.5cm、柄の最大幅 1.9cm、柄の最大厚み 4.5mm、1891年 ロンドン、Charles Boyton作、二万二千円
長さが20センチほどあって、重さが54グラムという持ちはかり、そして柄の厚みが最大で 4.5ミリもあるキングサイズで、頑丈な雰囲気のヴィクトリアン アンティークになっています。 柄先に向かって末広がりなハンドル部分は山の尾根のように少し盛り上がった構造で、柄の中心線が稜線のようになっています。 写真二番目にあるように、柄先には片手に短剣を持ち、立ち上がって咆哮するライオンの紋章が入っているのも、この品の魅力と言えるでしょう。

柄の裏面中ほどにあるホールマークは順に、ロンドン レオパードヘッド、スターリングシルバーを示すライオンパサント、1891年のデートレター、そしてメーカーズマークです。

写真のバターナイフはアンティークシルバー好きな方にとっては、時代考証的に見て、いろいろと考えさせられるポイントが多いという意味で珍しい品でもあります。

この品はヴィクトリアン後期の1891年の作ですが、バターナイフの柄先が手前に曲がっているハノーベリアンパターンを採用しています。 ハノーべリアン パターンというのは1710年頃から約半世紀にわたって好まれたクラシックパターンです。 その後はテーブル セッティングのマナーが変わって、それまで伏せてセッティングされる習いであったテーブルウェアが、今日と同じように表向きに置かれるようになったこともあって消えていったパターンです。

と言うわけで、ヴィクトリア後期のハノーベリアン パターンは珍しく、あまり見かけません。 そしてこのバターナイフの作者はちょっとした思い付きでスプーン柄先を手前に曲げたわけではなく、はっきりと確信犯的に、当時から見て約一世紀前のクラシックパターンを再現させたという証拠がまだあります。

写真三番目のホールマークを見ると、柄のブレードに近い部分に刻印が並んでいるのがお分かりいただけると思います、これはボトムマーキングと呼ばれます。 ジョージ三世(1760年−1820年)以降の後世のテーブルウェアでは、幅広で刻印がしやすい柄先に近い部分にホールマークを刻つのが普通です。 このボトムマーキングは1700年代前半のハノーべリアンパターンの頃のやり方なのです。

顧客の求めに応じたものか理由は分かりませんが、ヴィクトリアン後期にしっかりした時代考証に基づいてクラシックパターンのリバイバルが行われていたことは面白く思います。 英国テーブルウェアのパターン変遷については、アンティーク情報欄の「4.アンティーク イングリッシュ スプーンパターン」の解説記事も参考にして下さい。

もう一つ、このバターナイフがかなりのキングサイズであることと、鏝状(こて状)構造をしていることも、レトロなテーブルウェアを意識した結果であると感じます。 

バターナイフは元々バタースペードという鏝状(こて状)のシルバーウェアから発展してきた経緯があります。 このバターナイフはブレード面に対して柄先が4センチほど高い位置にくる構造で、その昔の「こて状バタースペード」の面影を残しているという意味で、バターナイフの歴史的発展過程を示しているわけで、博物館的な興味を感じさせてくれるアンティークとも言えましょう。 バターナイフの歴史については、「9.トラディショナル イングリッシュ バターナイフ」の解説記事もご参考ください。

最後に、この品のデートレターをご覧いただくと、その形が盾状をしていて特徴があります。 ロンドン アセイオフィスにおける19世紀のほぼ第四四半期にあたる1877年から1895年までのデートレター サイクルは「盾」と覚えておかれると、アンティークハントの時には便利です。 この時代はイギリスの国力が大いに伸張した時期にあたることから、今日においてもこの頃のアンティークに出会う可能性も高いのです。 デートレターをすべて暗記することは難しくても、「ロンドンの盾はヴィクトリアン後期」と覚えておくと役に立つでしょう。



No.4168 アール・デコ スターリングシルバー バターナイフ with ピアストワーク SOLD
長さ 14.6cm、重さ 20g、ブレードの最大幅 1.85cm、柄の最大厚み 3mm弱、1943年 バーミンガム、二万二千円
このスターリングシルバー バターナイフは手元に置いて見るほどに、美しい銀製品と思います。 見たところフォルムのやわらかさを第一印象として感じますが、柄は最大厚みが3ミリ弱あって、銀の重みが心地よく、しっかり作られています。 

細身ブレードの先の方は最大横幅が1.85cmありますが、中ほどは絞りが入って1.2cmになり、ブレードの緩やかな湾曲とあいまって、綺麗な流線型のフォルムになっています。

ピアストワークは直線と楕円が交錯する幾何学デザインで、アール・デコの系譜上にある品と言ってよいでしょう。 手仕事で糸鋸を引いた跡が残る繊細な透かし細工は、仕上がりの良いクラフツマンシップです。

手仕事で糸鋸を引いていくのですから、職人さんの優れた技術と多くの時間がかかります。 現代のシルバースミスの方からお聞きしたことがありますが、昔の時代の手間がかかった丁寧な仕事は、現代の労働コストが上昇した英国では、大変なお金がかかり、もはや同じようには出来ないとのことでした。

写真二番目で見えるように、柄の裏面にはブリティッシュ ホールマークが、しっかり深く刻印されているのもこの品のよい特徴です。 ホールマークは順にメーカーズマーク、バーミンガム アセイオフィスのアンカーマーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、そして1943年のデートレターになります。

それから、この銀のバターナイフが作られた1943年は第二次大戦中のことになります。 英国は戦勝国とはなったものの、大変な時期であったことは間違いありません。 戦争中のロンドンはドイツから弾道ミサイルの攻撃を受けたり、爆撃機による空襲も頻繁にありました。 私の住む町はロンドンの北の郊外で、直接には爆撃の目標にはならなかったようですが、近所のお年寄りの話では、ロンドンを空襲した帰りの爆撃機が、残った爆弾を燃料節約の為に捨てて帰るコースに当たっていて、怖かったとのこと。 とは言うものの、こうした優雅な銀製品を作っていたとは、当時のイギリスは結構余裕もあったんだなあ、と思うのです。



No. 4544 バラの花 モチーフ スターリングシルバー バターナイフ
長さ 13.5cm、重さ 18g、チューダーローズの直径 1.45cm、ブレード最大幅 1.7cm、柄の最大厚み 2mm、1927年 シェフィールド、Thomas Bradbury & Sons作、一万二千円
イギリスにはバラ好きな方が多いので、バラの花モチーフは人気があるように思います。 写真の品はチューダーローズが柄先にデザインされたスターリングシルバーのバターナイフです。 作られたのは今から八十年以上前の1927年であることがデートレターから判読できます。

裏面には写真二番目のようにブリティッシュ ホールマークがしっかり刻印されているのもよいでしょう。 ホールマークは順にシェフィールド アセイオフィスの王冠マーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、1927年のデートレター、そしてThomas Bradbury & Sonsのメーカーズマークになります。

なお、この品はシュガートングやジャムスプーンとセットで一緒に求めましたので、順にサイトアップを予定しております。

このバラのモチーフは外国人にはピンと来ないかも知れませんが、英国人ならすぐに分かるチューダーローズになっています。 

英国史にあまり通じていない私たちには、見分けるのが難しいのですが、イギリスでは小中学校の歴史でチューダー時代を細かく教えますので、このチューダーローズは子供たちでも当たり前のように知っているモチーフなのです。 そういうわけで、子供の頃によほどお勉強が好きでなかった人を除いて、英国人なら普通は知っているモチーフと言ってよいでしょう。

大小二つのバラの花を組み合わせたデザインはチューダーローズと呼ばれ、バラ戦争後の英国の統合を象徴するチューダー朝の紋章となりました。 バラ戦争は赤バラを旗印とするランカスター家と、白バラのヨーク家が、新旧諸侯を巻き込んで互いに覇を競った中世末期の30年にわたる内乱で、結局は両家が共に戦いで消耗しきってしまったことから、漁夫の利を得たランカスター派のヘンリー・チューダーが次のチューダー朝(1485年〜1603年)を興しました。

19世紀のヴィクトリア期にはチューダー リバイバルの潮流がおこり、建築、家具、テキスタイル、そしてメタルワークの分野で、このチューダー ローズのモチーフが広く人気を博し、現在に至っています。

シルバースミスの「Thomas Bradbury & Sons」は1736年にシェフィールドで創業した銀工房です。 英国のシルバースミスの多くはヴィクトリア時代に始まっている中で、それよりも百年以上古い歴史を持つ「Thomas Bradbury & Sons」は老舗の一つと言ってよいでしょう。 創業時にはMatthew Fenton & Coという名前でしたが、1795年にはThomas Bradburyをパートナーに迎えて、1831年以降にはThomas Bradbury & Sonsの名前に変わりました。 1820年にはロンドンへ進出し、19世紀の半ば頃にはコーヒーあるいはティーサービスの輸出も手がける大きな銀工房になっていました。 その後1943年にはAtkin Brothers Ltdに買収されて、二百年以上にわたる歴史に幕を閉じました。
バラの花 モチーフ スターリングシルバー バターナイフ


No. 6745 ジャーマン シルバー バターナイフ
長さ 15.3cm、重さ 32g、ブレード最大幅 2.2cm、ハンドルの最大幅 1.6cm、柄の最大厚み 3mm、ドイツ製、一万三千円
この品を最初に手にした時には、その質実剛健な雰囲気から英国製のバターナイフと思いました。 銀がたっぷり使われている為に持ちはかりがあって、柄やブレードにはかなりの横幅を感じ、柄の厚みもあって、しっかり出来ている様子はイギリスのアンティークを思わせるのです。 エングレービングの様子や柄のデザインにしても、英国風に見えました。 

しかし実際には柄の裏面に「800」銀の刻印があって、ドイツ製であることが分かり、見た目と実際のギャップに興味を覚えるアンティークです。 英国オリジンにつながる何らかの背景がありそうに思います。

使い勝手のよい作りですし、トーストにバターでも、あるいはスコーンにコーニッシュクリームでも、銀の重みを楽しみながら、いろいろ使える一本としてお薦めしたいと思います。



No. 4520 エドワーディアン スターリングシルバー バターナイフ
長さ 16.5cm、重さ 32g、ブレードの最大幅 2.1cm、柄の最大幅 1.6cm、柄の最大厚み 2.5mm、1906年 シェフィールド、Henry Wilkinson & Co.作、一万七千円
ブレード背の two notches などトラディショナル イングリッシュ バターナイフの特徴がよく出ています。 今から百年以上前の1906年に作られたエドワーディアンの銀のバターナイフになります。 刃の部分がゆるやかに湾曲したスクープタイプで、博物学的な意味合いにおいても、アンティークなバターナイフの特徴を備えているのもよいでしょう。

英国のバターナイフの歴史とその特徴については、「英国アンティーク情報」欄の「5.トラディショナル イングリッシュ バターナイフ」の解説記事もあわせてご参考ください。

以前に同じシルバースミスのよく似たジャムスプーンを扱ったことがあります。 柄の厚みも2.5ミリと写真三番目で見えるようにかなりしっかりで、重厚な仕上がりとなっています。 重さが32グラムと持ちはかりがあって、銀をたっぷり使ったバターナイフであることは、Very Britishなアンティークとして特筆すべきポイントです。 

フランスなど大陸ヨーロッパ諸国のシルバーウェアと比較して、しっかりとした重たい銀器が多いのは英国シルバーの特徴で、このバターナイフはイギリス人の好みをかなり意識して作られた品であると感じます。 少し武骨な柄のデザインに加えて、銀を厚めに使ってこしらえてある様子を手にしてみたとき、私はそこにイギリスのドーバー城の質実剛健な雰囲気を感じました。

余談ですが、ディズニーランドのシンデレラ城のようなファンタジー風なお城は、フランスやドイツにはあっても、イギリスにはまず見当たりません。 イギリスのお城は敵から攻められにくそうな実用重視の四角っぽい要塞風が多いのです。 シルバーとお城は違いますが、英国人の質実剛健好みには、けっこう長い歴史がありそうに思えるのです。

四つのブリテッシュ ホールマークがボール裏面部分にしっかり深く刻印されているのもよいでしょう。 ホールマークは順に「Henry Wilkinson & Co.」のメーカーズマーク、シェフィールドアセイオフィスの王冠マーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、そして1906年のデートレターになります。

英国のシルバースミスの歴史をたどると、ヴィクトリア時代に始まった銀工房が多い中で、「Henry Wilkinson & Co」はかなり古い歴史があって、1760年創業の老舗です。 1851年の万国博覧会には多くのシルバーウェアを出品して、評判のよいシルバースミスでした。
エドワーディアン スターリングシルバー バターナイフ


No.5580 エドワーディアン スターリングシルバー バターナイフ SOLD
長さ 17.9cm、重さ 37g、ブレード最大幅 2.5cm、柄の最大幅 1.8cm、柄の最大厚み 2.5mm、1909年 シェフィールド、Atkin Brothers Silversmith Ltd.作、一万七千円
今から百年ほど前に作られたエドワーディアンのスターリングシルバー バターナイフです。 柄幅が広くふっくら感があり、柄先のデザインはシェルパターンの派生形と思いますが、Atkin Brothers Silversmith Ltd.がデザイン登録していることから、この銀工房のオリジナル デザインであることがうかがい知れます。

シルバースミスは一流どころのAtkin Brothers Silversmith Ltd.です。 柄の裏面にはメーカーズマーク、1909年のデートレター、スターリングシルバーを示すライオンパサント、そしてシェフィールド アセイオフィス王冠マークの四つのブリティッシュ ホールマークがしっかり深く刻印されています。 

英国の多くのシルバースミスはヴィクトリア期の19世紀後半創業という会社が多いのですが、この品を作ったAtkin Brothers Ltd.はその創業が1750年という老舗です。 

また第一次大戦を経て英国の勢いがピークを過ぎるとともに消えていったシルバースミスが多い中にあって、Atkin Brothers Ltdの勢いは衰えませんでした。 1930年代にはこの会社は当代一流の職人を抱える会社として名を馳せていました。 

1938年の英国産業展覧会ではAtkin Brothersご自慢の職人、親方衆がクイーンメアリーに謁見を許されお褒めの言葉を授かったとの記録が残っています。 親方衆の中には、Atkin Brothers勤続63年のハリーデニスや勤続62年のジョンストークスが含まれていました。 そして当時31人いた親方衆の平均勤続年数は47年4ヶ月だったそうです。 こうした親方たちの手仕事に支えられたシルバーウェアのクォーリティは相当高かったと考えられます。

徒弟制度の善し悪しは別として、当時のAtkin Brothersのような職人集団は、今日の世の中では望むべくもありません。 あるシルバースミスの方からお話を伺ったのですが、人件費の高騰した今日のイギリスにあっては、昔のシルバースミスと同じ仕事は到底出来ないとおっしゃっていました。



No. 4480 ヴィクトリアン スターリングシルバー Queen Anne パターン バターナイフ
長さ 13.4cm、重さ 20g、ブレードの最大幅 1.7cm、柄の最大幅 1.4cm、柄の最大厚み 2.5mm、1899年 ロンドン、Josiah Williams & Co.作、一万三千円
今から百十年前に作られたヴィクトリアン アンティークで、しっかり持ちはかりがあって銀の重さが心地よい、Queen Anne パターンのバターナイフですです。 柄先のデザインからQueen Anne パターンと呼ばれます。 

小振りなバターナイフになりますが、20グラムと持ちはかりがあるのは、柄の最大厚みが2.5ミリと銀が厚めに作られているからでしょう。 英国風なしっかり感がある銀のアンティーク バターナイフと感じます。

このデザインは1880年代にイギリスで初めて登場し1900年頃にはかなりの人気となりました。 あるいは別名ではオーバニー(Albany)パターンと呼ばれることもあります。 ヴィクトリア期の有力シルバースミスであるフランシス・ヒギンスのパターンブックで、 Queen Anneパターンとされて以来、Albany あるいは Queen Anneと両方の名前が使われるようになりました。

写真二番目に見えるホールマークは順にロンドン レオパードヘッド、スターリングシルバーを示すライオンパサント、1899年のデートレター、そして「Josiah Williams & Co.」のメーカーズマークになります。 なお、写真一番目で柄元に近いブレード部分に見える飾り彫りは、「ACJ」のサイファーです。

一般にヴィクトリア時代創業のシルバースミスが多い中にあって、この品を作ったJosiah Williams & Co.はジョージアンの時代に始まった老舗の一つになります。 1800年創業のJosiah Williams & Co.はブリストルのメーカーで、地方では最大のシルバースミスでした。 メーカーズマークは当時の共同パートナーであった二人、George Jackson & David Fullertonの頭文字GJDFが刻まれています。 

今日でも中世の街並みや大聖堂が美しいブリストルは、16世紀にはエイボン川河口の貿易港として栄え、その後はイングランド南西部の主要都市として発展しました。 しかし大きな都市であったがゆえに、第二次大戦中の1940年11月24日にはドイツ軍による空襲を受け、Josiah Williams & Co.も工房を失い、残念ながら140年の歴史に幕を閉じました。

この品が作られたヴィクトリア時代については英国アンティーク情報欄にあります 「14. Still Victorian」や「31. 『Punch:1873年2月22日号』 ヴィクトリアンの英国を伝える週刊新聞」の解説記事もご参考ください。
ヴィクトリアン スターリングシルバー Queen Anne パターン バターナイフ


No. 4129 ヴィクトリアン スターリングシルバー バターナイフ SOLD
長さ 16.2cm、重さ 27g、ブレード部分の最大幅 2.2cm、柄の最大幅 1.35cm、1890年 バーミンガム、一万六千円
ブレードとハンドルの全面にわたって手彫りのエングレービングが施され、力強い波模様の彫刻、ヴィクトリアンに典型的なファーンパターン、そして小花の彫刻も可愛らしく、見所の多いヴィクトリアーナになっています。 作られたのは今から百二十年ほど前のヴィクトリアン後期にあたる1890年のことで、アンティークとしての古さも魅力になっています。 見たところ華やかな印象のアンティークでありますが、その一方で27グラムと持ちはかりがあって、柄は最大で3ミリほど厚みがあり、しっかり作られた銀のバターナイフであることもポイントです。

ブレードの先の方にはウェーブパターン、中ほどにかけてはファーンパターン、そして柄先に向かっては小花のエングレービングが効いています。 植物文様とウェーブパターンの融合デザインはオーソドックスなヴィクトリアン アンティークの特徴です。 

ファーン(Fern)パターンとは、シダ模様を指します。 19世紀のイギリスにおいては、稠密かつ精巧なナチュラルデザインとしてファーンが好まれ、コンサバトリーで育てる人気の植物となっていました。 ウォード箱を使ってさまざまな種類のファーンを収集することも広く行われておりました。 そうしたことが背景にあって、ファーンパターンはヴィクトリアン装飾の中でも特に人気の高いモチーフのひとつとなったのでした。 ヴィクトリアンのフラワーコード(花言葉)によれば、FernにはFascination(魅惑)、Magic(不思議な力)、Sincerity(誠意)といったコードがあてられています。

波模様のウェーブパターンは、Continuation(続いていくこと)や Eternity(永遠)を象徴するクリスチャンモチーフで、ヴィクトリアンやエドワーディアンの時代に好まれました。

手彫りの彫刻はかなり細やかな仕事で、写真では十分にその繊細さがお伝え出来ませんが、アンティークハント用のルーペがお手元にあれば、この限界的な職人技の素晴らしさを分かっていただけると思います。 ルーペでじっくり観察していくと、彫りの跡から彫刻刀を振るった向きまでもが窺い知れ、銀職人さんの息遣いが伝わってくるところにも私は惹かれます。

柄の裏面には四つのブリティッシュ ホールマークが刻印されています。 ホールマークは順にメーカーズマーク、バーミンガム アセイオフィスのアンカー、1890年のデートレター、そしてスターリングシルバーを示すライオンパサントとなっています。

ちなみにヴィクトリアンの物品を示すアンティーク専門用語に「Victoriana」という言葉があります。 ヴィクトリア時代は1837年から1900年までの六十余年の長きにわたり、英国の国富が大いに伸びた時代なので、アンティークコレクターにもヴィクトリアーナ専門という方が英国には結構いらっしゃるようなのです。

この品が作られたヴィクトリア時代の背景については、英国アンティーク情報欄にあります「14. Still Victorian」や「31. 『Punch:1873年2月22日号』 ヴィクトリアンの英国を伝える週刊新聞」の解説記事もご参考ください。 



No. 4330 ヴィクトリアン スターリングシルバー バターナイフ with フラワーエングレービング
長さ 18.3cm、重さ 38g、ブレード最大幅 2.7cm、柄の最大幅 1.7cm、柄の最大厚み 3.5mm、1892年 ロンドン、John Aldwinckle & Thomas Slater(=Holland, Aldwinckle & Slater)作、二万三千円
全面に施された手彫りのフラワーエングレービングが美しく、ブレード幅も最大で2.7センチと大きめなバターナイフで、手にしてみると 38グラムという銀の重さが心地よいヴィクトリアーナです。 サーバーとしても使えそうなビックサイズで押し出しが強い上に、デザインも素晴らしいことから、ゴージャスの一言に尽きるシルバー アンティークと思います。

ブリティッシュ ホールマークが深くはっきりと刻印されているのも良い特徴です。 柄の裏面に見えるホールマークは順にJohn Aldwinckle & Thomas Slaterのメーカーズマーク、ロンドンレオパードヘッド、スターリングシルバーを示すライオンパサント、そして1892年のデートレターです。

シルバースミスの「Holland, Aldwinckle & Slater」は、英国シルバーウェアの歴史の中でも大きな役割を果たしてきた有力メーカーの一つです。 イギリスのアンティーク シルバーウェアに関する参考書を紐解きますと、ヴィクトリア期の重要シルバースミスとして、ジョージ・アダムスとフランシス・ヒギンスが挙げられることが多いようです。 この二大メーカーを繋ぐ役割を担ったのが「Holland, Aldwinckle & Slater」でありました。 

「Holland, Aldwinckle & Slater」はヴィクトリア時代が始まった翌年の1838年に、ヘンリー・ホランドがロンドンで創業した銀工房です。 1866年にはElizabeth Eaton & Sonを買い取って、事業規模を拡大していきます。 1883年には新たに二人のパートナーが加わり、工房名は「Holland, Aldwinckle & Slater」と変わりました。 その後もいくつかのシルバースミスを買収し、ヴィクトリア期を通じて有力なシルバースミスに成長していきましたが、1883年にこの時代の最有力シルバースミスであったジョージ・アダムスのChawner & Coを買収したことは大きな出来事となりました。 Chawner & Coから移ってきた腕の確かな銀職人たちは「Holland, Aldwinckle & Slater」の名声を高めることとなったのです。

その後の工房史も見ておきますと、エドワーディアンの時代以降まで優秀な銀職人が集まる一流メーカーとして活躍しましたが、1922年にはフランシス・ヒギンスに買収されることになって、その歴史を終えました。 ヴィクトリアンとエドワーディアンの時代を通して、英国シルバーウェア史の中心に常に位置してきた「Holland, Aldwinckle & Slater」は、当時の一流メーカーの一つと言ってよいでしょう。

それから、この品のデートレターをご覧いただくと、その形が盾状をしていて特徴があります。 ロンドンアセイオフィスにおける19世紀のほぼ第四四半期にあたる1877年から1895年までのデートレター サイクルは「盾」と覚えておかれると、アンティークハントの時には便利です。 この時代はイギリスの国力が大いに伸張した時期にあたることから、今日においてもこの頃のアンティークに出会う可能性も高いのです。 デートレターをすべて暗記することは難しくても、「ロンドンの盾はヴィクトリアン後期」と知っておく価値はあると思います。

この品が作られた当時の時代背景については、「英国アンティーク情報」欄の「14.Still Victorian」の解説記事を、そして英国のバターナイフの歴史については、「9.トラディショナル イングリッシュ バターナイフ」もご参考ください。
ヴィクトリアン スターリングシルバー バターナイフ with フラワーエングレービング


No.4148 エドワーディアン スターリングシルバー バターナイフ SOLD
長さ 16.4cm、重さ 29g、ブレードの最大幅 2.3cm、柄の最大厚み 2mm、1913年 シェフィールド、John Round & Son Ltd.作、一万八千円
今から百年ほど前に作られたフラワーエングレービングの可愛らしいスターリングシルバー バターナイフです。 エドワーディアンの時代が終わってすぐ後ぐらいに作られていますが、その優雅な雰囲気からいって、デザイン上の区分としてはエドワーディアンといって差し支えないでしょう。 

29グラムと持ちはかりがあって、持った感じがしっかりしているのは英国風ですし、ブレード背の two notches などトラディショナル イングリッシュ バターナイフの特徴もよく備えたアンティークと思います。 古い品ですが、コンディション良好で綺麗なのもよいでしょう。 ブレード部分と柄に施された手彫りのエングレービングがとても繊細で上品な印象に仕上がっています。

柄の裏面に刻印されたホールマークは順にシェフィールドの王冠マーク、スターリングシルバーを示すライオンパサント、1913年のデートレター、そしてJohn Round & Son Ltd.のメーカーズマークです。

写真のバターナイフが作られた頃の出来事として、1912年:タイタニック号氷山に衝突して沈没とか、1914年:第一次大戦始まる。 あるいは日本では明治時代が終って大正時代になり、夏目漱石の『こころ』が世に出た頃のことであって、ずいぶん昔のことなのです。 アンティークを手にしていると、百年に近い時の経過があらためて身近に感じられるのは楽しいことです。

メーカーのJohn Round & Son Ltd.はシェフィールドの大きなシルバースミスで、アンティークとしても今日でもよく見かける有名メーカーの一つです。 ジョン・ラウンドによって1847年シェフィールドで創業され、当初はスプーンとフォークのメーカーでした。 職人技の素晴らしさとデザインの優雅さで、次第にその評価を確立して、息子のエドウィンをパートナーとして迎える頃には、銀器なら何でもこなすシェフィールドの大メーカーに成長していました。 第一次大戦を境にしてイギリスの国力が衰えていくと、多くのシルバースミスも衰退していった中で、John Round & Sonは1962年までシルバースミスとして仕事を続けていたというのも珍しい例と思います。



No. 5049 George Unite ヴィクトリアン スターリングシルバー バターナイフ with アイボリー ハンドル SOLD
長さ 18.6cm、重さ 34g、ブレードの最大幅 2.5cm、柄の最大幅 1.55cm、柄の最大厚み 8.5mm、1843年 バーミンガム、George Unite作、二万三千円
今から百六十年以上前の1843年に George Uniteの銀工房で作られたアイボリーハンドルのスターリングシルバー バターナイフです。 かなり古いアンティークでありながら、コンディションはまず良好で、古さと共にこの品の魅力になっています。

六十余年続いたヴィクトリア時代を前期、中期、後期の三つに分けるとすればこの品が作られたのはヴィクトリアン前期で、この頃はイギリスの世情もダイナミックに動いていた時期にあたります。 ヴィクトリアン前期を歴史年表で眺めてみると、ヴィクトリア女王が即位してまもなくアフガン戦争やアヘン戦争が起こり、1851年には第一回万国博覧会、そしてクリミア戦争と同じ頃にセポイの反乱、インドの直接統治開始と、荒々しい激動の時代だったことが分かります。 

ブレード部分の手彫りの彫刻はウェーブパターンですが、波頭に向けて勢いのあるエングレービングで、質実剛健なヴィクトリアン前期の時代風潮をよく反映した豪快な雰囲気が伝わってきます。

ブレード部分が曲面状に緩やかに湾曲しているのは初期のバターナイフの特徴です。 また、長さが18.6センチと、現代的な感覚からはバターナイフとしては大きく感じますが、これは古いアンティーク バターナイフほど大きいという傾向に沿っています。 

ブリティッシュ ホールマークがしっかり深く刻印されているのも好印象です。 写真三番目のホールマークは順に、スターリングシルバーを示すライオンパサント、ヴィクトリア女王の横顔でデューティーマーク、1843年のデートレター、バーミンガム アセイオフィスのアンカーマーク、そしてGeorge Uniteのメーカーズマークです。

ジョージ ユナイトについては、英国アンティーク情報欄の「3.ジョージ ユナイト(1798−1874)」解説記事を、また、英国のバターナイフの歴史については、「9.トラディショナル イングリッシュ バターナイフ」も合わせてご覧ください。 


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