浮遊耳石置換法(エプリー法)
頭位性めまい症の治療方法です

HOMEsemicircular canal診療時間院長略歴スギ花粉症頭位性めまい症positional nystagmusめまいについて浮遊耳石置換法(エプリー法)アット・ホームページ@nifty


 浮遊耳石置換法(エプリー法)

早いもので、私が医療に携わるようになって20年以上が経ってしまいました。

その間、医学的に最もショッキングだった出来事は「Epley JM: The canalith repositioning procedure; for treatment of benign paroxysmal positional vertigo. Otolaryngol Head Neck Surg 107:399-404, 1992.」という論文との出会いです。直訳すると、「良性発作性頭位めまい症に対する治療の浮遊耳石置換法」という題名なのですが、大げさに言うとその後の私の人生を変えてしまった論文とも言えます。

あれはたしか平成5年だったと思います。恩師の朴沢二郎教授が退官され、私は弘前大学医学部耳鼻咽喉科の講師に昇格し、めまい外来で眼球運動を中心に細々と研究をしていたのですが、さて次に何をやろうかと模索していた時期でありました。医局で偶然このエプリーさんの論文を目にしたのですが、当時良性発作性頭位めまい症は耳石器の異常であろうと考えられていたのでにわかには信じられず、「ほんまかいな?」というのが第一印象でした。

この論文の内容を簡単に説明すると、内耳の後半規管の中に卵形嚢からはがれた小さな石が迷入し、それが頭位の変化により動くために異常な内リンパ流動が起きて、めまいと眼振が生じる。さらに懸垂頭位(美容院で洗髪する時の頭位)から連続して頭位変化をさせる事によって石を卵形嚢へ移動させ治癒せしめる、というものでありました。

自分の目で見たものしか信じないという疑い深い陰険な性格の私ですから、さっそく外来でその治療法を試してみました。すると見事にめまいと眼振が消失したのです。

その後症例を18例蓄積し、有効率が80%以上だったので喜び勇んで論文にし、日本耳鼻咽喉科学会会報という、一応日本では最上位の学会誌に投稿したのですがなぜか最初から掲載不可で帰ってきました。陰険だが温厚な性格の私もさすがにムカついて日本耳鼻咽喉科学会をやめようかとも考えたのですが、妻子を路頭に迷わす危険性もあるのでなんとか踏みとどまりました。しかたがないのでワンランク落として耳鼻咽喉科臨床という雑誌に投稿したところ、すんなりと掲載してもらったのでホッとしました。それ以来耳鼻咽喉科臨床という雑誌が大好きです。

このエプリーさんという方はアメリカのポートランドで開業している耳科医で、前述の画期的な浮遊耳石置換法はずいぶん前から行っていたようです。しかし学会では全く相手にされずキチガイ扱いされていたのですが、患者さんの口コミから徐々に評判が広がりアメリカの専門医講習会に招待され実技指導するようになってから一気に知名度が上がり、おそらく現在では世界で最も有名な耳科医でしょう。今では世界中から患者さんが押し寄せて来るそうです。

このエプリー法(浮遊耳石置換法)は、私が日本で最初に「平衡神経科学会」で紹介したのですが、なかなか理解されず「マユツバじゃないの?」という冷たい視線を浴び続けたのでありました。おそらくガリレオも同じ気持ちだったでしょう。
しかしこの治療法は内耳の解剖と病態生理を理解してさえいれば、特別な装置は必要ないので、その後広島大学や愛知医大などいくつかの大学で追試がなされ、徐々に効果が理解されるようになりました。平成17年の耳鼻咽喉科専門医認定試験ではついに浮遊耳石置換法が出題されるまでにいたり、やっと市民権を得たと言えそうです。

なにしろ以前はめまいの研究といっても病態を探るための検査に関する研究ばかりで、治療に関してはこれといったものはほとんどなかったのですから、このエプリー法は人類史上に残る革命的な発想と言えるでしょう。

その後私は平成9年に開業し、ほとんどメスは捨ててしまい、外科的治療がうまくいった時の喜びを感じることは少なくなったのですが、このエプリーさんの浮遊耳石理論を基に内耳の病態を想像し、治療に応用することでなんとかリサーチマインドを忘れずにすんでいます。

どんな治療でもそうですが、やはり患者さんが治ってくれるのは嬉しいものです。(平成18年2月5日記)





HOMEsemicircular canal診療時間院長略歴スギ花粉症頭位性めまい症positional nystagmusめまいについて浮遊耳石置換法(エプリー法)アット・ホームページ@nifty