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「超」記譜法 Equiton のすすめ
初見でメシアンも夢じゃない!?
1998/12/16
Equitonとは?
Equitonは1958年、スイス在住のイギリス人R.Fawcettにより発案された。この記譜法が生まれた背景には、臨時記号が多発する無調音楽やリズムが複雑であるセリー音楽を、これまでの記譜法(伝統的記譜法と呼ぶ)で表した場合に読譜が非常に困難である事実がある。これまでの記譜法のすべての記譜技術上の可能性を包含し、かつ、新しい音楽を記譜しても読譜が容易になるような記譜法として、Equitonが最も有力視されている。
Equitonでの音高と音価の表示方法
音高表示
伝統的記譜法とEquitonの異なる点は音高と音価の表示方法である。12音音階(平均律)の場合次のように書く。
- 線はオクターブ間隔でだけ引かれる
- 2つの線の間には6個以上の音符は置かない
12音音階の場合、6個では足りないので、白と黒の色分けをすることによって対処する。同じように4分音等の微分音を使用する音楽では色分けの他に、形を変えることで対処できる。
音価表示
音の持続(音価)は極めて視覚的に表記される。
- 単位時間と小節線とが一定の間隔で現れる
- 小節をさらに区切る場合はDividerやSubdividerを用いる
- 単位時間以上の持続する場合は持続線が用いられる
- 持続線は声部を表す記号として併用できる。しかも全ての音符に付与可能
伝統的記譜法では4分音符や全音符に声部を表すための持続線(旗)は付けられなかった。
- 休止はその開始箇所で以下のような休止記号(">"などもある)を置くことで示される
持続線の書き方は自由である。
それでは、実際に譜読みの面倒そうな作品をEquitonで書いてみることにしよう。
実例:メシアンをEquitonで書いてみる
メシアン作曲「みどり子キリストに注ぐ20のまなざし」第5番「子を見つめる子のまなざし」
その1:第1小節〜第9小節
この作品は、Lentで弾かれる技術的にはそれほど難しい曲(のはず)。しかし、譜読みは非常に困難である。最初のページは読譜の点でつぎの5つの点に問題がある。
- 臨時記号が多い
- リズムが複雑であるためにタイが多用され、実際の音数より多く見える
- 実際の音価が一目で分からない
- 声部を明瞭にするために3段譜で表記されているが、そのため目への負担が大きくなっている
- 上段と中段では手の交差がある。楽譜上に左右の手の配分が書き込まれているが、なぜそのように配分されているかが実際に手を鍵盤に置くまで判別が付かない
以上の問題点を、Equitonは全て解決します。
- 臨時記号がない
- タイを必要としないため、音符の数が実際の音数と等しい
- 音価は左右の間隔の比に等しい
- 1段譜で表記しても声部の進行が明瞭に表すことが可能。これは持続線が4分音符以上の音符にも付与できるからである。また、臨時記号がないために左右の手が重なるところでもうるさくならないところに注目!
- 1段で表されるため、手がどのように交差しているのか一目瞭然である。作曲者による"m.g","m.dr."の指定の意味が容易に解釈できる。
さらに次のことが分かった。
- 1つの段に少なくとも3つの声部を併記することが可能である
- 伝統的記譜法で表現されている情報の全てが再現可能
- 空間が節約される→楽譜が安く上がる
- 全ての記号が単純なため汎用的な図面作成ツール(Visio等)で清書が可能
また、このページでは以下の工夫をした。
- 半分黒くすることで短2度を示した(Equitonでは一般的な使用法)
- 持続線を声部も表す記号としても使用した(これもEquitonでは一般的な使用法)
- 同時に打鍵するものは特別なカッコ(図中*3)を用いた(横に並べると、ルール上順に弾くことになるため)
- 装飾音・前打音についてはEquiton標準の記号を知らないため、伝統的記譜法に近い表記を行った
その2:第23小節〜第28小節
この部分は様々な長さの音符が入り乱れており、やはり音価を掴むことは直感的には難しい。
これをEquitonで表記するとこうなります。
最短の音価が64分音符となったため、横幅を2倍に広げた。このページは空間の節約という点では成功していないが、やはり、実際の音価、特に「間」が視覚的につかめるのは大きな利点であろう。
Equitonに至るまでの記譜法の変遷
1998/12/18
伝統的記譜法を改革する歴史は次の通りであった。まず、音高の記述が改良され、その後、音の持続が改良され、そして両者を統合する形のEquitonがうまれた。その変遷の歴史を辿る。(もちろん、後々には音色と音の強弱等についても改良が成されるがそれは「図形楽譜」の章で述べることにする(かもしれない)。)
伝統的記譜法の問題点
- 音高の表示
- 全音階が基盤となっているため、全音階でないものには全て臨時記号が必要となってくる
- 音程を計るために数えることが必要
- オクターブ離れた同じ音が、(同じ音部記号の中でさえも)異なって見える
- 最高音(低音)部では記号"8va---"が必要となり、ピアノ譜での多くの場合1段譜では記述できない部分が生じる
- 音価の表示
- 音価と譜面の時間軸の比が一定ではない。つまり楽譜の図形的性質がうまく活用されていない。したがって、複雑な音楽では音符から音価を翻訳する必要が生まれる。
- 時価に関して2の倍数・分数を表す音符しか用意されていない。そのため3,5,6,7などの中間的な値は複数の音符をタイで結んで表現する必要がある。これは音符が実際の音より増えて見えるという誤解を生ずる。
- 8分音符とそれより小さい音符については旗で相互に結ぶことができ、フレージイングを明示できるが、4分音符以上の音符は不可能である。
- 小節線を越えて延長される音はタイで結ばれる。これもまた実際の音数より増えて見えてしまう。
新しい記譜法
新しい記譜法において最低限満たされているべき条件を列記する。
- 伝統的記譜法を含めた古い書法の全ての記譜技術上の可能性を包含していること
- 複雑な音楽を古い書法よりも簡単に表す能力を持っていること
- できるかぎり汎用的であること(一定の様式のみを代表するものであってはならない)
- 微分音をも容易に表現できること
- 視覚的効果がそのまま聴覚的な事柄に簡単・明瞭に移行(翻訳)できること
音高表示の改革の例
無調音楽を記述するための簡単化の最もシンプルな例は半音をすべて♭1種類だけで記すというものである。しかしこれは、アチャカトゥーラ(gis-a-b)などの密集和音を表す場合に読譜を困難にしてしまうという問題が発生する(同一音にフラットとナチュラルの両方を付与しなければならない)。
ワルター・シュテフェンスの記譜法
次に紹介するのは、臨時記号を無くすため、オクターブの12の音を縦に並べてしまうという考え方です。図例1b2はそれらの考え方の中でも成熟していると言われているブゾーニとハウアーに基礎を置いたワルター・シュテフェンスの提案である。線上の音符がちょうどピアノの黒鍵の位置に来るように配置する。直感的ではあるが、次のような問題がある。
- 音程に対して上下の幅が広くなってしまい、また、加線も相対的に増え、目に負担をかける
- 線がピアノの鍵盤に似せてあるので全音階が基盤になっていることにかわりはない(鍵盤楽器以外には不適合である)
- 音価は従来通り重い翻訳作業が必要である
カール・ヨハニスの記譜法
これも音高のみを改良したものである。音高の記述は後のEquitonに近い。シュテフェンスの記譜法の弱点1.は解消されている。しかし、音価については同じ弱点を持つ。
音価表示の革命的改革
クラバールスクリボ(Klavarscribo)
クラバールスクリボを一言でいうと、シュテフェンスの記譜法の弱点であった音価を視覚的に表し、音高と時価の軸を逆に配置したものである。音高についてはさらにピアノの鍵盤に則しており、黒鍵は黒玉、白鍵は白玉、しかも、それぞれ符尾の上下にさげるという区別をしている。これは密集和音を記述するための改良法の一つといえよう。軸を逆に配置したもの音高をピアノの鍵盤の配列に平行に表すためである。
音の持続に関して詳しく改良点を述べる。
- 常に持続の長さと譜面上の長さが一致している。
- 全ての音符は鳴り始める場所に置かれ、その終わりは停止記号(∨)または次の音符で示される
- 小節線をまたいでもタイは必要ない
- 長さに関わらず、全ての音符に多声的声部進行を示すための旗を結ぶことが出来る
この書法はやはりシュテフェンスの記譜法における音高面での弱点を継承している。
- 音程に対して左右の幅が広くなってしまい、また、加線も相対的に増え、目に負担をかける
- 線がピアノの鍵盤に似せてあるので全音階が基盤になっていることにかわりはない(鍵盤楽器以外には不適合である)
そして、音高と音価の二つを改良したものとしてEquitonが生まれた。
最後にブーレーズの2台ピアノ作品「構造I」をKlavarscriboおよびEquitonで書き直したものを原譜と比較してみる。音楽の理解しやすさと見やすさに置いてEquitonがいかに優れているかが一目瞭然であろう。なお比較のためKlavarscriboは縦横反転させてある。
今後の予定
- Equitonへの批判に対する議論
- Equitonの先にあるもの…図形楽譜:音色と音の強弱の視覚的記述への挑戦
- Equiton習得にどれくらい時間がかかる?
参考文献・引用楽譜
- エルハルト・カルコシュカ著: 現代音楽の記譜(1966,1977): 全音
- Equitonについて書かれている日本語唯一の文献(多分)。
- Olivier Messiaen: Vingt Regards sur L'Enfant_Jesus: Durand
- メシアンの楽譜はこちらから引用させて頂きました。