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【演奏会告知】ぴあの好きの集い 第15回演奏会
2014年8月16日(土)杉並公会堂にて開催。カプースチンの第2ソナタを演奏します。入場無料。

ピアノ・ペダルのテクニック

3本の足ペダルと指ペダルによる音色変化の技集
2005/11/14 連載開始、2010/12/29 連載終了、2012/9/23 画像追加

目次

雑誌CHOPIN
  1. はじめに
  2. 右ペダル (ダンパーペダル) 2005/11/13 連載第1回
    1. レガートペダル 2005/11/27 連載第2回
    2. 共振ペダル 2006/1/1 連載第3回 new 2012/9/23譜例追加
    3. ハーフペダル 2006/3/18 連載第4回
    4. ビブラートペダル 2006/3/21 連載第5回
  3. 中央ペダル (ソステヌートペダル、サスティンペダル) 2006/3/25 連載第6回 new 2012/9/23譜例追加
    1. 指ペダル (フィンガーペダル) 2006/4/10 連載第7回
    2. 指ペダルと中央ペダルの組み合わせ 2006/6/25 連載第8回
    3. 高度な中央ペダルの使用 2007/1/3 連載第9回
  4. 左ペダル (ソフトペダル、シフトペダル) 2009/6/21 連載第10回
  5. 3つのペダルの同時使用 2010/12/29 連載第11回最終回
    1. 左足だけで、中央・左ペダルをコントロールする 2012/2/20 追記
    2. 3本ペダル問題:Liszt「慰め」(コンソレーション)から 2010/12/29 連載第11回最終回
    ショパン2011年11月号にて
    当記事が掲載されました

はじめに

このコーナーでは、様々なピアノ・ペダル技法をご紹介致します。レガートペダル、中央ペダルによる幻惑的な響きの導出、3本のペダルを同時に操る方法等々、基本的な事柄から最も高度な技法に至るまで総括的に扱いたいと考えております。

なお、対象となるピアノはグランドピアノです。アップライトピアノについて同じ技法が適応できるかは分かりません。ただし、電子ピアノでも可能かどうかについては言及したいと思います。

右ペダル (ダンパーペダル)

ダンパーペダルは、踏み込むとダンパーが弦から離れる、というだけの極めてシンプルな機構を持っています。しかし、このシンプルな道具はピアノに無限の可能性を与えています。

右ペダルを踏んだ場合、ダンパーと弦との関わりは次のように変化していきます:

1. 遊び領域:
ペダルを踏んでも、ダンパーが全く動かない(圧力が変わらない)領域です。
2. 圧力変化領域:
ダンパーと弦の間の圧力が変化していく領域です。
3. 離脱領域:
ダンパーと弦が完全に離れている領域です。

ここで注意すべきは、おそらくどのピアノの場合も、「2.<1.<<3.」という不等式が成り立っているところです。私が知っている古めの電子ピアノの場合は、「3.<1.<<2.」です。生ピアノより性能が良いといえるでしょう。逆に本番が生ピアノの場合は、全く練習にならないとも言えます。

ダンパーペダルにとって非常に重要な圧力変化領域が極めて狭く、本質的には音色に影響のない離脱領域が広いことです。つまり、次の2点について心に留めておかなければなりません:

  1. ダンパーペダルのテクニックは、本質的に非常に狭い領域で操作されること
  2. 離脱領域での大きな動きは、ピアノの音色とは全く無関係であること

右ペダルを最小限の力で操作するには、離脱領域での無駄な動きをカットすることで対処できます。

さて、ダンパーペダルには大きく分けて、次の2つの役割があります:

  1. 音を持続させる(→レガートペダル)
  2. 音色を変化させる(→共振ペダル)

右ペダルを踏むと、ダンパーが上がるので、指を鍵盤から放しても音が響き続けます。これについて、ピアノ初心者がまず修得すべきは、レガートペダルです。

レガートペダル

指ではレガートが不可能な箇所で利用される技法です。例えばベートーベンの作品の中で、和音進行をレガートでと指示されていた場合、必要となります。

一言で説明するなら、和音をペダルで保持し、次の和音を鳴らした直後にペダルを上げ下げする技法、ということになります。単音の場合も使用されることがあります。

ポイントは、前の和音の響きが完璧に消えているかどうかです。レガートペダルの上げ下げは短時間になりがちです。ダンパーを一瞬弦に当てたくらいでは、音が残ってしまいます。 ココを注意しましょう。ペダルは耳で踏め、と言われることがありますが、このあたりにその理由があります。

最も澄んだ音を目指すには、旋律をダブらせないことが大切です。例えば、声楽でメロディを奏でる場合、前の音が次の音に重なることはありません。あるとしてもホールの残響ぐらいです。しかし、ピアノでは容易に重なります。もちろん、レガートで奏する場合は少し重ならなければなりませんが、1音符以上の長さで重なると濁って聞こえます。

この混濁を排除すると、最もクリアな旋律が浮かび上がります。もし、ペダルだけでレガートをしながら、かつこの濁りを無くす場合、1音ずつ小刻みに踏み換えるというテクニックが必要になります。

レガートペダルは、電子ピアノでも実現可能です。

ところで、レガートペダルを修得すると、あまりに便利なため、それだけの目的でしかダンパーペダルを使えなる人がいます。つまり、鍵盤を押した後にペダルを上げ下げする癖が付いてしまうのです。

次のご紹介するのが、右ペダルによる音色の変化です。この場合、打鍵前にダンパーを上げる必要があります。

共振ペダル

ダンパーペダルを踏み込んだ後に、好きな単音を鳴らしてみて下さい。ただの単音とは全く違う音色がします。 これは、打弦前に全ダンパーが上がっているため、打弦した弦以外の弦も強く共振するためです(関連語:共振部分音)。 これを共振ペダルと定義します(音質ペダル、音響学的ペダルと呼ばれることもあります)。

同じ右ペダルを使う場合でも、レガートペダルのタイミングの時の音色とも違います。これは、打弦時の振動が特に大きく、急速に減衰する、というピアノの打楽器としての特徴があるからです。 レガートペダルでは、最も振動が大きいときの響きを持続させません。

レガートペダルはベートーベンなどを練習する頃になるとどうしても必要となるため、誰もが修得します。 しかし、この共振のためのペダルは、使わなくても特に不具合は起きないため、使わない人もいます。 逆にレガートペダルを知ったばっかりに、共振ペダルを忘れてしまう人もいます。

今一度、その効果を楽しんでみましょう。以下が、効果のわかりやすい例です:

ショパン:「スケルツォ第1曲」冒頭
予めダンパーペダルを踏み込んでから、冒頭の和音を弾きます。2つめの和音も踏み換えずに弾きます。これにより最大限の音量と 深みのある音が得られます。
ショパン:「スケルツォ第2曲」299小節目
嬰ハ音を押す前にダンパーペダルを踏み込んでおきます。
ショパン:「ノクターン第16曲」冒頭 (下譜例追加 new)
変ロ音を押す前にダンパーペダルを踏み込んでおきます。
譜例
ドビュッシー:「亜麻色の髪の乙女」冒頭
これも同様。

鍵盤とダンパーペダルを同時に押し込む・踏み込むとどうなるか?これは共振ペダルになります。 なぜなら、微差で、打弦より先にダンパーが弦から離れるからです。 ただし、ここでも注意は、ペダルを勢いよく踏むことによる雑音を発生させないことです。ダンパーペダルの意味のある動作範囲はごくわずかであることを心に留めておきましょう。

では、レガートペダルと共振ペダルは両立するでしょうか?難しいですが、打鍵と同時に右ペダルを踏むことで近い音色が得られます。

他の例として、ムソルグスキー「展覧会の絵」の「キエフの大門」の冒頭については、装飾音と和音の間で踏み換えます。これにより、直前の和音との混濁を避け、かつ、レガート的な響きとなります。

共振ペダルは2つの意味で難しいです。タイミングと音の濁りです。レガートペダルは音を鳴らした後に踏み込めばよいので、猶予時間が比較的長いです。一方、共振ペダルは、最初の音や休符後の音に対しては簡単ですが、途中で使うのはタイミング的に難しいです。失敗すると音を濁らせてしまいます。

しかし、この共振ペダルこそがペダリングの醍醐味であります。ピアノの最も美しい響きを引きだすため、そして、他の人と違う演奏をするためには不可欠の技法です。

例えば、モンポウの自作自演は非常に響きの多い録音ですが、あれは録音の仕方や場所だけでなく、ペダルのテクニックによっても響かせていることが分かると思います。コンポーザーピアニストによる演奏や、古き良き時代の演奏などに触れて、ピアノの豊かな響きに耳を傾けてみましょう。

なお、電子ピアノではある意味共振ペダルは実現可能です。ただ、レガートペダルにおいても、共振ペダルの効果が出てしまうので、完全に酷似しているというわけではありません。

ハーフペダル

ハーフペダルは次のように定義しておきましょう:弦にダンパーを触れさせるが完全には響きを消さない右ペダルの技法。 従って、ハーフと言いつつ半分だけペダルを上げるという訳ではありません。遊び領域が広いため、半分ではダンバーが弦に触れないはずです。どちらかというと、音を半分だけ残す、から来ていると考えた方がよいでしょう。実際は半分以上消す場合もあります。

ハーフペダルには大きく次の2つに分けることが出来ます:

  1. 瞬間的に上げ下げして、部分的に音を持続させるペダル
  2. ダンパーを弦に浅く触れさせた状態で維持するペダル

楽譜上にハーフペダルとして指示されているのは、ほとんどの場合1.です。また、この2つは用途が異なります。

1. 瞬間的に上げ下げして、部分的に音を持続させるペダル

右ペダルを瞬間的に上げ下げすると、少し響きが残ります。「瞬間」の長さにより残響の大きさが調整できます。

また、低音の方が残響が残りやすいため、中高音部だけ音を消すということも可能です。耳を頼りに繰り返し試してみましょう。この低音だけ音を残す方法については、左ペダル(サスティンペダル)利用すれば簡単に解決する場合もあります(後述)。

急な上げ下げをやると、ペダルを完全に戻したときにゴツンと音が鳴ります。それを避けるには、完全には戻さないようにする、 ペダルを踏み切らないようにする、などの対策があります。なぜ、ペダルに遊び領域があるか?を考えてみましょう。

これに関しては、ダンパーを完全に密着させてから上げる場合と、浅く触れてから上げる場合があります。もちろん、前者の方が比較的容易に調節できます。前者をまず修得してみましょう。

電子ピアノでは、私が知る限り、100%ペダルを上げてしまうと、音は完全に消えます。文字通り、半分くらい戻してまた踏み込んだ方がよいでしょう。

2. ダンパーを弦に浅く触れさせた状態で維持するペダル

1.とことなり、こちらはペダルの位置を固定させて利用します。楽譜上2.が指示されていることはほとんどありません。どういう場面で使用すると良いか、いくつか例を挙げてみます。

ドビュッシー 前奏曲「花火」:この冒頭部分、線香花火がパチパチと静かな音を立てているようなところですが、ここは1/4ほどだけの響きを残すような感じで、ペダル位置を固定させておきます。こうすると、神秘的な響きを湛えつつ音量を抑えられます。

ドビュッシー 喜びの島:この作品の全音音階で奏される部分(手が交差しているところ)、ここでは1/2または3/4ほどの響きを残すと、16分音符が聴き取れるようになり、フルで響かせたときとはまた違った雰囲気になります。

ベートーベン ソナタOp.111:後半、左手もト音記号になり、右手が常に32分音符になるところ、ここは1/4〜1/2ペダルを試してみたいところ。似たようなところでは、ブラームス ヘンデルバリエーション第22変奏もそう。これらはピアノで、ビブラフォンやオルゴールに近い響きを得たい場合の技法です。オルゴールでは、ピアノより急速に響きが減衰し、かつ響きを止めるものがないところを考えると、ハーフペダルがピアノをオルゴールに化かす理由も分かるでしょう。

この固定したハーフペダルは、比較的速い奏句で利用すると面白い効果が出るようです。ノンペダルと指示されているけど、微妙に響かせたいとき、またペダルを踏み込むように指示されているけど、音を透明にしたい、素速い奏句で粒建ちを際だたせたい、など。

楽譜で指定されているわけではないので、忘れがちなペダリングです。常に試せる箇所がないか気をつけてみましょう。

電子ピアノでも生ピアノと同じように実現可能です。

ビブラートペダル

ヴィブラートペダルは、フラッターペダルとも呼ばれます。ハーフペダルに近いものですが、より響きが濁らず、かつ大きめの音量が得られます。

例えば、強奏の部分で、かつ半音階が含まれる場合は、ペダルによる音量増強をしたいけど濁らせたくないことがあります。 その時に、ビブラートペダルを使います。瞬間瞬間はフルで弦を解放するため大きく響きますが、すぐに響きを抑えるので濁らないという寸法です。 この音色変化はハーフペダルでは得られません。例えば、ショパンのバラード第2番、夜想曲Op.15等。

また、ショパンのソナタ第2番第4楽章のように、あやしげな曇った響きが必要な場合は、不規則な(自由な)ビブラートペダルを使うことによって、音楽的な起伏を作ることが出来ます。

レガートが必要なトリルで、急速なデクレッシェンドが必要な場合も、ビブラートペダルを使います。

余談ですが、逆に、メシアンのまなざし第20番で、両手が両端から中央に半音階的に近寄ってくる和音アルペジオでは、急速なクレッシェンドがあります。これは、ペダルを解放したままでOKです。なぜなら、小さな音は大きな音に埋もれるからです。もちろん、徐々にハーフペダルに近づけていくと、奏句が明瞭になるので、その方法もありでしょう。

バーバーのピアノ協奏曲第1楽章練習番号16の5小節目以降、作曲者自身による「flutter pedal」の指示がみられます。

また、ルチアーノ・ベリオの作品には、右ペダルに「Random」と記された箇所があります。これもビブラートペダルの一種と考えて良いかもしれません。

電子ピアノでもある程度近い効果は得られるでしょう。

中央ペダル (ソステヌートペダル、サスティンペダル)

中央ペダルは、ソステヌートペダル、サスティンペダル、、第3ペダルなどと言われることがあります。以下に楽譜上の表記方法を並べました。見落とさないようにしましょう:

第3ペダルと言われる理由は、3番目に一般に採用されたペダルだからです。なので、ペダルが並んでいる順番とは違います。また、採用される前に、左ペダルが第2ペダルとして既に楽譜に記入されていたためでもあるでしょう。

原理は、ダンバーが弦から離れているときに中央ペダルを踏むと、踏んでいる間そのダンパーだけが離れたままになる、というもの。 従って、ダンパーが1つも離れていない場合は、踏んでも意味がありません。逆に、中央ペダルを踏んだ後にダンパーを上げても普通に元に戻ります。

ダンパーを上げる手段は、2つ。鍵盤を押した場合と、右ペダルを踏んだ場合。右ペダルを踏んだ場合は、例外なく全てのダンパーが弦から離れるので、その後中央ペダルを踏むと、全てのダンパーが上がることになります。従って、中央ペダルを利用する意味が無くなります。 つまり、鍵盤を押してダンパーを上げた場合にのみ効果があるペダルということになります。

中央ペダルがどうしても使いたくなる最初の作曲家は、ドビュッシーであったという人が多いかもしれません。では、例を挙げてみてみましょう。

映像第1集第2曲「ラモーを讃えて」第5小節
ベース音となるGisは4回ほど右ペダルを踏み換える間、ずっと響きが保たれなければなりません。弦の長いコンサートグランドならまだしも、家庭サイズのピアノではほとんど消えてしまいます。実際は残っているのですが右手の音より遙かに小さい響きで聞こえなくなります。この場合、Gisを押さえた直後に中央ペダルを踏み、2小節の間保っておくと、右ペダルを何度踏み換えてもGisの響きが残ります。
同曲第20小節 (下譜例追加 new)
最低音部Aのオクターブを残しておきたいです。アルペジオになっておりますので、下からA→A→中央ペダル→E→A→Cis→E→ACisEAというような順番でペダルを差し挟めば、望み通りの響きを残したまま、中上声部の複雑な響きをクリアに処理することが可能となります。
譜例
ブラームス ヘンデル主題の変奏曲とフーガ「第9変奏」冒頭
両手共にB音を残さなければなりません。よほど手が大きければ可能かもしれませんが、そうでない方には中央ペダルが助けになります。0小節目の16分音符を押さえた直後に中央ペダルを踏めばよいでしょう。他の箇所も同様。

構造上、中央ペダルのハーフペダルは存在しません。電子ピアノでも中央ペダルが付いているものはたくさんあります。最近のはどうか分かりませんが、私の電子ピアノは、右ペダルを踏んだかどうかにかかわらず、鍵盤を押した状態のものだけ、中央ペダルを踏むと音が伸びる、という仕組みになっております。つまり、生ピアノより高機能なわけですが、演奏会で初めて生ピアノに接して困り果てたことがあります。ご注意下さい。

指ペダル (フィンガーペダル)

「ペダル」には「持続音の」という意味もあります。従って指ペダルという言葉は、指による音の持続と訳せます。これを指ペダルの定義とします。

指ペダルについては、2つの技法があります:

  1. 音を鳴らして、鍵盤を押し下げたままにしておき、音を持続させる。並行して鳴らされる他の音は短く切る。
  2. 音を鳴らさずに、鍵盤を押し下げて、元々鳴っていた音、あとで共鳴される音を持続させる。

1.として記譜されている例を挙げるならば、ショパンのワルツなどで、ベース音が付点2分音符になっているような箇所です。足ペダルを使わずに指だけで音を持続させる技法です。 また、和音アルペジオが伴う部分で、最上声部をレガートで保たなければならない場合、右手の小指だけを押したままにして右ペダルを踏み換える、といった技法もあります(リスト:ペトラルカのソネットNo.104のラスト等)。

2.については、再び「ラモーを讃えて」を例に説明しましょう:

映像第1集第2曲「ラモーを讃えて」最後から4小節前
前項で紹介した同曲第20小節と同様、最後から5小節前で、ベースのGisオクターブを中央ペダルで保持するという案もあります。ただ、もし中央ペダルがなかった場合にどうするか?その時は、最後から4小節前の3拍目までに、左手でGisオクターブを音を鳴らさずに指で押さえます。その直後右ペダルを踏み換えることによって、ベース音を残しながら、上声部の濁りを消し去れます。

この時に知っているとお得なのは、音を鳴らさずに鍵盤を押し下げる場合、鍵盤を底まで完全に下ろす必要がないことです。

ジョージ・クラムの「Gnomic Variations」の第1変奏冒頭
depress silentlyと書かれた和音が所狭しと使用されています。 鍵盤を底まで落とさなくても実現可能であることを知らないと、極端に難しく感じることでしょう。

この、音を鳴らさずに、という例、他にもいくつか例がありますので、ご紹介します:

シューマン 「謝肉祭」の「オイゼビウス - Eusebius」24小節目 (下譜例追加 new)
左手の和音を消さずにペダルを踏み換えたいところ。ここは、2拍目に入る直前に、Es-B-Esの和音を無音で弾き直します。そうすると2拍目に遠慮無く右ペダルを踏み換えることが出来ます。
譜例
ブラームス ソナタOp.5第1楽章55小節目
上と全く同じ手法。こちらは、左手As-Es-Asの和音を無音で押し直します。
ドビュッシー 前奏曲「沈める寺」42〜45小節目(♯4つで記述される小節の前5小節)
これらの小節の最後の四分休符を表現するには、(3/2拍子と考えて)3拍目までに、最初の和音を音を鳴らさずに押さえて、右ペダルを放します。
ラヴェル 「クープランの墓」の「メヌエット」最終小節の1つ前 (下譜例追加 new)
「sans faire vibrer」(この音を鳴らさないで)と指定された和音は、指ペダルの2番目の技法そのもの。
譜例

上の3例ついては、中央ペダルを用いることでも代替できます(やや高度)。しかし、同時にソフトペダルを使いたい場合は、3本ペダルの技法(後述)をマスターしていなければなりません。 指ペダルを使用した方が容易になります。

次の例は指ペダルでしか実現できないものです:

シューマン 「謝肉祭」の「パガニーニ」最終小節
説明がいらないほど有名な箇所ですね。全弦が共鳴している中、音を鳴らさずに和音を弾いて、右ペダルを放し、指ペダルによって音を残すという技法です。よく、うっかり音を鳴らしてしまっている演奏を耳にしますが、鍵盤を底まで押し当てなくて良いことを知っていれば、成功確率がぐっとあがります。
ドビュッシー 「亜麻色の髪の乙女」最終小節
ラストの四分音符、この7つの音からなる和音だけを記譜通りに響かせたければ、左手で3つ、右手で4つの鍵盤を無音で押し込み、ペダルを放します。と言っても、高音部のGesはダンパーがないため残りますけどね。

電子ピアノで可能なのは、私が知る限り1.のみです。

指ペダルと中央ペダルの組み合わせ

上記「指ペダル」の項で説明した技法の2.(無音で鍵盤押下)と中央ペダルの組み合わせによるテクニックについて説明します。 早速例を挙げてみましょう:

ラヴェル:「夜のガスパール」第2曲「絞首台」冒頭 (下譜例追加 new)
曲全般にわたって左ペダル(ソフトペダル)も使用したい場合、最初のBのオクターブ和音を音を鳴らさずに指で押さえ、中央ペダル・左ペダル両方を左足で踏み込みます。その後曲を開始すると、ずっとBのオクターブが響き渡り、よい効果が得られます。後述する「3つのペダルの同時使用」の最も簡単な例でもあります。
譜例
ジョン・ケージ:「エチュード・オーストラレス」全曲(予め記譜されている例)
無音鍵盤押下と中央ペダルの組み合わせ技法が実際に記譜されている作品。この作品はどの曲も、最初にある音(単音or和音)を無音で押さえ、中央ペダルで保持されます。しかし、これらの音は、曲を通じて直接打弦されることはありません。共鳴のみによって響きが生まれるのです。星座表から作られたこの作品にぴったりの宇宙的な響きがします。
ドビュッシー:前奏曲第1集「帆(ヴェール)」冒頭
全音音階で始まるこの作品、「エチュード・オーストラレス」を真似てみることが出来ます。例えば、最初に一番低いD-Fis-Gis-D-Fisの和音を中央ペダルで保持してください(J. Banowetz氏による提案)。全曲が宇宙空間に漂ったような感じになります。
バッハ 平均律第1巻第20曲イ短調、長大なフーガのラスト (下譜例追加 new)
83小節目(Coda)で鳴らされるA音のオルゲル・プンクト。これは、Pedal Harpsichordsを想定して書かれていると言われ、二手だけでは音を濁らせずにA音を持続することが困難です。そこで、中央ペダルを使用します。
案1(2.無音で鍵盤押下):82小節目の4拍目両手8分休符にて、無音でAをおして中央ペダルに引き継ぎます。これを曲ラストまで継続して、このA音を最後まで響かせることができます。電子ピアノをご利用の方は、途中で音が消えてしまうのでは、と思われるかもしれませんが、生ピアノでは共鳴の作用により、他の音が鳴らされたときに、このA音も響くのでずっと維持されているのと同じに聞こえます。しかし、この案では、短い8分休符上で無音押下しなければならなく、失敗もあり得ます。また、共鳴作用により、必要となる以前にA音が響いてしまいます(汚れて聞こえます)。これらの打開策として、案2もご紹介します。
案2(1.有音で鍵盤押下):83小節目4拍目左手1音目、これがスタッカートであれば、この1音目を短く切った後に中央ペダルを踏み込めば、きれいに低い(小指の)A音が持続します。その後小指を放しても、中央ペダルを放さない限り最後まで響いてくれます。
譜例

この技法については、ピアノによってはちゃんと底まで押し当てないと中央ペダルが効かない場合があります。ピアノに応じて、臨機応変に対応しましょう。

高度な中央ペダルの使用

中央ペダルを、極めて短いタイミングで踏み込む例を2つご紹介します。

プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番第1楽章
下譜例3小節目、下声部でGのオクターブを維持させたまま、上声部で「secco(かわいた、みじかく)」と指示された奏句を両手で弾かなければなりません。いくつかタイミングがあるのですが、最初の「☆」マークのあるところで、ソステヌートペダル(S.P.)を踏むと、上記を実現できます。☆の前の右手和音C-Eの音だけが切れた瞬間にS.P.を踏み、その後A♭を弾くわけです。中央ペダルを踏み込むタイミングは、とても短いです。他の「☆'」のタイミングでも可能ですので、失敗したらやり直すことは可能です。
譜例
ドビュッシー:雨の庭
下譜例以降16小節の間Gのオクターブを維持させなければならないところ。譜面通りに演奏すると、ハーフペダルを使っての維持になります。しかし、後半「la m.g. en dehors」と書かれた部分は、6小節間弾き直すことが出来ず、ハーフペダルではほとんど音が消えてしまいます。これをソステヌートペダルで実現するには、少し楽譜を弄らなければなりません。下譜例のように、最初にGオクターブを弾く際、右手のHを左手より遅らせることによって、Gオクターブのみをソステヌートペダルで引っかけることが出来ます。遅らせることはドビュッシーの意図ではありませんので、聴衆に気づかれないくらい短くなければなりません。したがって、これもタイミングが短いので、やや難しいと言えます。なお、この「遅らせ」はルバート表現の1つと考えられるため、音楽的な意図として故意に実施したと言えるようなバランスで演奏すれば良いでしょう。
譜例
〜 中略 (ずっとS.P.踏みっぱなし) 〜
譜例

ドビュッシー自身はソステヌートペダルの付いたピアノを持たなかったと伝えられるので、中央ペダルのテクニックは使っていなかったと考えられます。しかし、このように ドビュッシーの脳内で響いていた音を実際の耳で聞けるのはなかなか楽しいものです。

左ペダル(ソフトペダル、シフトペダル)

2009/6/21

グランドピアノの場合、左ペダルを踏むことでハンマーが右に弦1本分ずれます。そのためシフトペダルとも言われます。ずれることによって、音色と音量が変わります。 しかし、中高音部の3本弦の場合、その変化は単純ではありません。ハンマーの凹凸と関係があるので、以下のように音色・音量が4段階で変わっていきます。

■ 3本弦 … 4段階に変化
踏む深さ踏まない浅め深め踏み切る
弦の本数3本3本2本2本
ハンマーの当たる位置
音色硬い軟らかい軟らかい硬い
音量

「音量」行の2つの「中」は必ずしも同じ音量を示すものではありません。最も深く踏む(踏み切る)と再び音量が大きくなることがポイントです。 音色についてはハンマーの凹んでいるところが硬く、凹んでいないところが軟(柔)らかいです。最も深く踏むと再び音が硬くなります

低音部の2本弦、1本弦については以下の通り。最も深く踏んでも、音量が大きくなったり音が硬くなったりはしません。

■ 2本弦 … 3段階に変化
踏む深さ踏まない浅め深め踏み切る
弦の本数2本2本1本同左
ハンマーの当たる位置同左
音色硬い軟らかい軟らかい同左
音量同左
■ 1本弦 … 2段階に変化 ■
踏む深さ踏まない浅め 深め 踏み切る
弦の本数1本1本同左同左
ハンマーの当たる位置同左同左
音色硬い軟らかい同左同左
音量同左同左

一方、アップライトピアノでは左ペダルを踏むと、ハンマーが弦に近づきます。おそらくファツィオリの第4ペダルと同じく、ハンマーに力を与える時間が短くなるために音量が小さくなるのでしょう。音色は変わらないと思います。以下はグランドピアノの左ペダルを想定して書きます。

どういう場合に使用するか?

■ソフトペダルは、最後の一音に使用する、ここから始めるのがよいと思います。

最も簡単に効果が分かるのは、弱音で終わる作品の最後の1音に使用するというもの。モンポウの世界 〜 2. 脱力の美学でご紹介しております。ドキッとするような効果があります。

打弦が2本になるので深みがなくなると思い込んでいる方もいらっしゃいます。しかし、実際は余った1本も解放されているので響きが伝搬します。 十分に深い響きがしますので、お試しください。

■逆に避けた方が良いのは、弱音部分で全て左ペダルを踏み切るというもの。これでは左ペダルを音量の上下にしか使っていないことになります。音色にも影響を与えることができるので、音色の変化を聴衆に気づかせるような使い方をした方が良いです。

■一方で、ある旋律を際だたせるために使用する場合があります。例えば、多声部のある旋律だけを浮き立たせたいとします。他の声部を弱音にしにくい場合、 左ペダルを踏み込むと、全体の音量が小さくなります。他の声部を通常の音の強さで弾き、その上である旋律だけを強く弾くと、全体としてはうるさくない状態で旋律が浮き出ます。

■以下、作曲家の左ペダルに関する言葉に耳を傾けてみましょう。

作曲家の言葉と共に

ベートーヴェン

ベートーヴェンはピアノソナタ第28番第3楽章で左ペダルを使用するように書き込みました:Mit einer Saite(=Sul una corda)。左ペダルを放す指示もあります:Nach und nach mehrere Saiten(= Poco a poco tutte le corde)。

更に第29番「ハンマークラビーア」ではより細かく指示があります。長大な第3楽章では、u.c.(una corda), t.c.(tre corde, tutte le corde)の指示が他の発想記号(pf)を伴わず、何度も単独で現れます。u.c, t,cの指示そのものが発想記号の役割を担っているとも解釈できます。

最後の2音ではpppppの記号があるにもかかわらず、t.c.との指示があるところも注目です。左ペダルが出現した時代の、左ペダルの目的を知る大変意義深い楽章の一つと言えます(ただし、版によっては続く楽章「Largo」にt.c.の指示を移動させているものもある[C.F. Peters])。

ショパン

ショパンは左ペダルを使いこなしていた伝説が残っています(後述)。しかし、意外にも楽譜上に左ペダルの指示を残しておりません。

例外的に、弟子のノクターン(夜想曲)Op.15-2の楽譜に「2」という数字がいくつか書き込まれており、これが「2つのペダルで」という意味なのであろう、とされています(書き込んだのがショパンかどうかは分かっていません)[文献: ショパンのピアニズム]。個人的には「セカンドペダルで」という意味ではないかなとも思いますが。ウィーン原典版ではこれを「i due Ped.」と書いています。

以下は、弟子達の言葉です。ショパンと左ペダルとの関わりを知ることが出来ます:

「ペダル(ウナ・コルダ)を使わずに、音を弱める練習をなさい。ペダルは後で使えばよいのです」(とショパンは言っていた。)

「ショパンはペダルを好まなかったのですが、やはり使うことは使っていました。とりわけウナ・コルダのペダルなどは、自分の弟子にも使う箇所を指示せず、そのために響きが重苦しくなったり、極端なものにならぬようにしていました。」

「左のペダルによる大変美しい装飾音はよく知られている…<中略>…ショパンは右のペダルから左のペダルへと一気に踏み換えてしまうことが、ことに同名異音的転調の時などは頻繁にあった。」
[文献:弟子から見たショパン―そのピアノ教育法と演奏美学]

左ペダルを使わなくても弱音が奏でられるようにしておく、その上で効果的に使用していたように推測できます。

ブゾーニ

ブゾーニは次のように語っています:

ソフトまたは左ペダルに関して、まず最初に、ピアニッシモのようなダイナミックスでの最弱奏のみに、左ペダルが使用されるのではなく、メゾ・フォルテやその他の中間段階のダイナミックスでの陰影付にも使用されるのだということを、言っておきます。ある経過楽句の演奏では、ソフトペダルを使用して弾いた場合よりも、使用しないで弾いた時の方がよりソフトに弾けるといったことも起こりえるのです。ここで意味していることは、左ペダルは、音響の柔らかさを出すために使用するのではなく、特殊な音質を創造するのに使用するのだということです。

理解するのが難しいところですが、例えばバッハのオルガン編曲物で、オルガンの音栓の組み換え「レジストレーション」による効果を出すのに左ペダルを使用する、と言ったことについて触れていたりするものと思われます。

■以上をまとめますと、やはりドキッとさせる効果を出せないのであれば、使用する意味がない、というところで一致しているようです。リヒテルは「音楽とは意外性である」と語っています(DVD:謎・エニグマ)。左ペダル(ソフトペダル)も「意外性」のために存在していることを意識した方が良さそうです。

左ペダル(ソフトペダル)の表記方法

左ペダル表示用語は以下の通り:

左ペダル解放用語は以下の通り:

左右2本のペダル同時使用の用語は以下の通り:

3つのペダルの同時使用

まず、パーシー・グレインジャーの言からご紹介しましょう:

演奏者は、サステイニング・ペダルを保持したままソフトペダルを踏んだり放したり出来なくてはなりません。小さな足の演奏者でこの技術に関して初めての者は、これが不可能であると考えがちですが、今までの経験によりますと、どのような大きさの足の人でも正しい練習によってこの二重ペダルの技術を習得することが出来ます。この技術は近代ピアニズムにとって絶対に必要な演奏技術であります。

オーストラリア・イギリスの作曲家兼ピアニストであったグレインジャーは、自分の作品に事細かく ペダリングの指示を記載したことで有名です(ただし上記のようなペダリングについて書かれた楽譜は 出版されているピアノソロ譜を見る限り出会ったことはありません)。

3本のペダルを同時使用する際、問題となるのが足が2本しかないと言うことです。 足2本で3本のペダルをどのように踏み分けるか。まず、どちらの足を使用するかを検討するために 3つのペダリングの差を復習してみましょう。

右:ダンパーペダル
中央:ソステヌートペダル
左:シフトペダル(ソフトペダル)

以上から、右足はなるべく右ペダルに集中させたいところ。 したがって、通常は中央と左ペダルを左足1本で操ることになります。

1. 左足だけで、中央・左ペダルをコントロールする new

2012/2/20 追記

膝をうまく使うと、中央ペダルを踏みながら左ペダルを上げ下げすることが可能です。 その逆もしかりです。ただし、靴は必要。大きな足でない限り、裸足では難しいと思われます。以下、そのコツを整理しました:

  1. 靴を履く
  2. 中央と左ペダルの中央に足を置く
  3. 中央と左ペダルを同時に踏めることを確認
  4. 左膝を内側に振る → 中央ペダルのみ踏み込める
  5. 左膝を外側に振る → 左ペダルのみ踏み込める

女性の細い靴で上記がうまくいくか、よく分かりません。試された方のご連絡をお待ちしております。

ここまで2012/2/20 追記

最後に、リストの「コンソレーション第3番」のペダリングを紹介してこの連載を終わりにしたいと思います。

2. 3本ペダル問題:Liszt「慰め」(コンソレーション)から

Twitterで掲載した以下の問題の解答案を解説する。

【3本ペダル問題】リスト「慰め」(コンソレーション)第3番の低音の持続について、ハーフペダルを用いずに実現せよ。
問1:4小節目 問2:21小節目 問3:28,29小節目

3本ペダルの利用方法を示すため、ここでは全般にソフトペダルを押す作品と仮定して話を進める。

【解答案:問1】第1小節、音を出さずdesの鍵盤押し、左・中央ペダルを同時に押す(ラヴェル「絞首台」冒頭と同じ)。そうすると第4小節目以降もはっきりとdes音を残せる。

譜例

【解答案:問2】第20小節手前、左ペダルを左足裏半分で踏む。踏んだまま第21小節左手des/右手fのオクターブを弾く。その直後に中央ペダルも踏んでdesを次小節も持続させる。中央ペダルを踏む際、左ペダルも上げるとfだけ硬い音になってしまう。fはアルペジオであり軟らかくあるべきである。 中央ペダルの動作をしつつ、左ペダルを上げない工夫が必要となる(グレインジャーの言参照)。 ちなみに、第21小節は中央ペダル踏みっぱなしでよい(右手が同じf音なので)。

譜例

【解答案:問3】第27小節、fを音を出さずに左手で押し直し持続。その後、中・上声部を右手に任せる。ペダルは左と右ペダルの2本のみの使用でOK。ただし、問2の解答案と同様の解もある。

譜例

以上で足かけ5年の連載は終了いたします。

ピアノの音色同様、ピアノのペダルの技法は、ペダルがどのような動きをしているかをつぶさに観察できていることが大切。耳だけではなく、ピアノの作り手の眼で観察もしてみましょう。デジタルな部分とアナログな部分が見えてきますので、ペダルのコントロールが確実となるでしょう。