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【演奏会告知】P2演奏会「花鳥風月 〜無常の美に寄せて〜」
2014年12月20日(土)かつしかシンフォニーヒルズにて開催。リャプノフ、フェインベルクを演奏します。入場無料。

ピアノ演奏時の椅子の高さ

椅子を低くすると指回りが良くなります
2001/5/15
→その科学的根拠はこちらに記載しました「シンプルピアノメソッド『椅子の高さ』」2004/9/12

椅子は低めに設定しています

皆様はピアノを弾くとき、椅子の高さはどのあたりに設定していますでしょうか。弾きやすくしようと高くしていませんでしょうか。

私は肘の高さが鍵盤位置くらいにくるように設定しています。最初からではなく、社会人になってしばらく経ってから方針を変えました。低くするようにしたきっかけは次のようなものでした:

  1. 重音進行を軽やかに弾くには指に重みをかけないようにすると良い、と物の本に書いてあった。
  2. 鍵盤の構造を考えたとき、ピアノの音量は鍵盤を押す力によるのではなく押すスピードによることに気付いた。
  3. ホロビッツ、ミケランジェリ、グールドなど音色が美しい演奏家は皆椅子を低く設定している。

1.について、重みをかけないとなぜ良いのかは、次のように考えてみると納得できるかもしれません。指を机に押しつけるようにして動かすのと、空中で指を動かすのとどちらが早く動くか?試してみるまでもなく空中の方が楽に動きますね。ピアノを弾くという行為はその中間に位置するものです。鍵盤を押しつけるように弾くのと、力まずさらっとしたタッチで弾く場合で、どちらが軽やかになるか…もう分かりますね。

鍵盤というのは底に当たる直前にハンマーへの力の伝達が終わっています。したがって、底に当たった後も鍵盤を力強く押すことに何の意味もありません。特に弱音時は鍵盤を底に当てる音が雑音となって目立ちます。グールドやホロビッツは軽く弾くとき鍵盤をひっかくようにしていますね。鍵盤を底に当てないようにしているくらいです。軽やかな指さばきを「宙に浮いたような」と形容することがあるのですが、原理的にも正しい比喩なのです。テイタムやルデンコは指が宙に舞っているようです。これは音質にも指回りにも良い影響を与えているに違いありません。

このように弱音・強音に関わらず、指に重みをかけないようにする一つの回避策が、肘を手首より低い位置に持ってくるという策です。肘の位置が高いと鍵盤をねじ伏せようという形になってしまいがちです。そうならないように私は椅子を低めに設定しています。

2.に気付いたとき、やはり鍵盤を腕から押さえつけることはやめようと思いました。ハンマーは鍵盤にはじかれるようにして飛び出し弦を叩きます。このはじく速度が音量に直結します。もちろん鍵盤を押す力に音量は比例しますが、力を入れる必要はないのです。素早く鍵盤を移動させればそれで良いのです。堂々とした音は体重を乗せるものだとの思いこみからなかなか椅子を低くすることが出来ませんでしたが、このことに気付いて、安心して椅子を低くすることにしました。

3.は何よりも説得力のある事実ですね。余談ですが、微動だにしない上半身もとても参考になります。身体で歌えなんていう指導もあるそうですが、私にはどう見ても無駄な動きのような気がしてなりません。心で歌えばいいのです。指で歌えばいいのです。

椅子を低くするにはちょっとした気合いあるいは好奇心が必要

実際の移行(高→低)はスムーズではありませんでした。電子ピアノで練習しているせいもあってか、演奏会本番での生ピアノの鍵盤が一概に重く感じたのです。重いんだったら、それに対抗すべく体重をかけるため椅子は高い方がいいのでは?…としばらく高いまま練習を続けていました。

これは甘口カレーの愛好者に近いかもしれません。子供の頃に食べさせられるカレーはほとんどの場合甘口でしょう。非常に味覚が敏感なのでそれは仕方ないことかもしれません。しかし、大人になってもその味を楽しんでいる輩[やから]は許せません。だって、甘口カレーがインドにあるでしょうか???あれはカレーではないんです。日本のカレー会社が市場を開拓した結果生まれた出来損ないなのです。椅子の高さについても、、、子供の頃に設定した高さを無意識のまま維持し、自分の成長に気付かずにいた結果が妙な演奏形を生んでいるような気がするのです。

辛口カレーを食べるようになったのは純粋に好奇心からでした。大人の食べているものが食べてみたかった。なぜ、うどんに七味をかけるの?ラーメンにコショウかけるのって格好いいよね。自分もやってみよ。そして、味覚の敏感さを少し犠牲にしつつ、スパイスによる味覚の緊張感を知っていくようになり、食の芸術をめいっぱい堪能できるようになっていきました。

同様に、椅子を低くしようと決心したのも、きっかけは強い好奇心でした。大ピアニスト達のやっていることを真似てみたかったのです。結果まず感じたのが、薬指の自由度が上がったことです。かつてはなるべく使わないようにしていた指ですが、今は「超」運指法のところでも紹介しているようにかなり積極的に使っています。2-3の開きに無理があるとき、2-4で補填することが非常に増え、ミスタッチの軽減にとても役立っています。

低いと疲れない?

椅子を下げると相対的に身体の位置より手首の位置があがるので疲れないか?という懸念があるかもしれません。実際、最初こそ少々肩こりが発生しましたが、ほどなく慣れていきました。

以前、グールドより低いくらいの椅子(ソファー)でピアノを弾いてみたことがあります。意外と弾けるもんだなぁと感じましたが、さすがにイベリアなど手の交差の多い作品は厳しかったです。グルードがあの低さでゴルトベルク変奏曲を弾ききっているのは不思議です。

そこまでいかなくとも、ミケランジェリやホロビッツのように肘や手首を鍵盤より低くして弾いてみたいものです。 しかし、現在所有している電子ピアノのおまけで付いてきた椅子は今以上は下がらず実施できていません(^^;。

手首より肘の高さが少しだけ低くなるような椅子の高さ…自分にはとてもフィットしています。