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◆ お知らせ:2008年8月2日(土) 『カプースチンの祭典 〜 生誕70周年記念コンサート 』◆
(都営大江戸線牛込柳町駅)
オールカプースチンの演奏会♪コンクール覇者多数出演!

楽譜の比較

異なる版が存在する作品の楽譜選びをお手伝いします
2007/10/12 更新
Albeniz new / Alkan / Bach / Beethoven / Brahms / Chopin / Cziffra / Debussy / Faure / Godowsky / Granados / Liszt / Medtner / Mozart / Ravel / Saint-Saens / Scarlatti / Schubert / Scriabin / Szymanowski / 総評

楽譜比較検討の基準

同一曲目や曲集で複数の版がある場合、どちらを買おうか必ず迷ってしまうものです。しかし、迷えるならまだいい方で、他にもっといい版があることを知らずに最初に手に取った楽譜を買ってしまうこともあります。後により良い版の存在を知ったときの悔しさたるや…。そこで、私なりの価値基準で、複数の版が存在する楽譜全てについて(現在作業進行中)、分析を行い、お薦めの版をご紹介していきたいと思います。

以下は楽譜を比較する際の私なりの基準です。

正確さ
音が正しいのは最低限の条件ですね。
校訂報告が入念であること
入念な校訂報告により、自分自身でその音が正しいか判断が出来る。校訂者の勇み足が分かるのも重要です。
運指
譜読み時間の軽減、正しい音楽づくりに役立ちます。しかし、半分くらいは自分の指に合わないものですけどね。
曲の網羅性
出来れば一度に全部を揃えたいところ。

上記の4項目で決定できない場合は以下の観点を考慮することがあります。

価格
安いに越したことはありません。
言語
日本語または英語のものでないと太刀打ちできません(^^;。
見やすさ
どんな楽譜もしばらく見ていれば慣れてくるものですから関係ないんですけどね。
製本の出来
日本版が一番いいですね。Henle版やPeters版はほんとにもろい。

以上の観点を元になるべく冷静にお勧めの楽譜をあげていきます。数字が頭に着いている箇条書きはランキングを表します。数字がないものはお勧めとはかぎりませんが、その版の説明だけしておきます。

Albeniz

ラ・ベーガ(ラ・ベガ) new

  1. ヘンレ版 "La Vega"
    正確性=○、校訂報告=◎、運指=△、解説=なし、価格=△
    アルベニスの晩年の傑作「ラ・ベーガ」のヘンレ版が発売されました(2007年夏)。自筆譜と初版譜を元に慎重に校訂された原典版となっています。
    以前、ラ・ベーガ La Vega 〜 Isaac Albeniz イベリアの風景というページで、初版譜とイグレシアス版の違いについて言及しました。その謎についても、ヘンレ版で説明がされています(例えば、イグレシアス版は自筆譜が元になっていることが分かりました)。
    更に驚くべきことに、別バージョンのエンディングが付録として置かれています。現在流布しているものより短くなり、幻想的な中間部を失ってしまうという不利な点はあります。しかし、ラストがフォルテッシモで終わるなど、興味深いところがいくつかあります。
    ヘンレ版だけに間違いはほとんど見受けられません(1箇所176小節目の最初の音に誤記を発見しましたが)。 これまでにない両手の配分が指示されている箇所もあり、「ラ・ベーガ」好きにはたまらない内容となっております。2008年、「イベリア全曲演奏会」のおまけとして、演奏しようかと考えております。
  2. Alpuerto社版 "Iberia, La Vega, Azulejos, Navarra"(1993)
    正確性=△、校訂報告=×、運指=◎、解説=△、価格=×
    自筆譜を基にした改訂版。運指・両手の配分をかなり考え抜いて書き直しています。
  3. Union Musical Espanola社版 La Vega (初版譜)
    正確性=△、校訂報告=×、運指=△、解説=なし、価格=△
    後年の「イベリア」ほどひどくはない初版譜。参考として手元に置くものとしてはよいかもしれません。
以上 2007/10/12

組曲「イベリア」

  1. EMEC-EDEMS(Schott)社 Guillermo Gonzalez版 "Albeniz,I. Iberia [Edicion Revisada]"(1998)
    正確性=◎、校訂報告=×、運指=◎[優!]、解説=◎、価格=×
    左右の手の配分・運指の工夫が徹底的に行われている、自筆譜を元にした校訂版。控えめな春秋社版や、工夫箇所にムラのある後述のAlpuerto版を凌駕する、大胆かつ繊細な譜面改造の嵐。難しい箇所をそうでなくするのは当然。更に、それほど難しくない部分でも、徹底的に弾きやすくする工夫が12曲全般に渡って考察されているのが素晴らしい。しかも、このGonzalez版は、自筆譜、原典版、そしてこの校訂版のセットで出版されているのです。校訂報告はありませんが、自筆譜およびそれを元にした原典版が出版されているので特に必要ないのかもしれません。アルベニス研究の最新の成果がこの3冊に込められています。春秋社版と同く1位としました。こちらも若干の誤謬があります(理論的に合っていないケアレスミス系が多い)。
  2. 春秋社版 アルベニス集 1巻2巻(イベリア全4巻、ナバーラ)
    正確性=◎、校訂報告=◎、運指=◎、解説=◎、価格=△
    「イベリア」で初めて正確な楽譜が登場しました。極めて詳しい校訂報告。1000ヶ所以上の誤謬訂正。楽譜の鏡ともいうべき日本が世界に誇れるもの。全てのイベリア・ファンにお勧めできます。音符の並びなどは初版譜にほとんど忠実でアルベニスがどういう音を要求しているか分かるようになっている。複雑に交差した音型の両手への割り当ては"easy going"にならない程度に再配分されている。しかし、少しではありますが、変更してしまっているところもあるので、原本を知りたい場合には、Dover版などの初版譜リプリントをひもとく必要が有ろうかと思われます。若干の誤謬もあります(理論的には音は合っている)。→イベリアの風景で指摘しました Albeniz
  3. 全音版アルベニス「イベリア組曲」全曲(2004)
    正確性=◎+、校訂報告=○、運指=◎、解説(別売)=◎、価格=○
    自筆譜およびEMEC-EDEMS Gonzalez版を元にした版。後発の強みを生かした最も信頼のある版。自筆譜の間違いすら指摘している部分もあります。とはいいつつ、個人的にはまだ迷わせる音の選択もあり。やはり自筆譜が必要か。校訂はトーマス・シューマカーによるもの。彼は既に「アルベニス 演奏の手引き」を全音からも出しており、解説が必要であれば、この別冊を別途購入する必要があります。校訂報告は、脚注にわずかに記載されている程度ですが、元々が正確なGonzalez版なので、それほど必要ないのかもしれません。脚注にはアルベニスによるフランス語の書き込みの翻訳が載っていて便利です。音符の書き換えはしておりませんが、手の配分の指示は点線によりこと細かく指示されています。Gonzalez版ほどいじくってはいませんが、春秋社版より手厚く書き込まれています。12曲全て揃って2940円という安さにも注目。別冊の解説は1575円ですが(^^;。
  1. Alpuerto社版 "Iberia, La Vega, Azulejos, Navarra"(1993)
    正確性=△、校訂報告=×、運指=◎、解説=△、価格=×
    運指、というか両手の配分が再構成されている点が斬新です。ただ楽な演奏を目指すものではなく、アルベニスの意図する音色を守り、よりうまく演奏できるような様々な工夫に満ちあふれています。また、音楽性を損なわない音の省略も記載されており、より完璧な演奏を目指す場合にはこの楽譜は欠かせません。春秋社版ほどではないですが、初版譜やInternational社に比べると音符も正確です。ラローチャのお墨付き。

アスレーホス(グラナドス補追完成)

  1. Alpuerto社版 "Iberia, La Vega, Azulejos, Navarra"(1993)
    独自の運指割り当てが興味深い。自筆譜による校訂をしているので従来の版と異なる部分があります。しかし、自筆譜の誤謬をそのまま反映していると思える部分もあるし、純粋な誤植も多々見受けられます。初版かSchirmer版と共に使用できれば心強いでしょう。なお、たいへん高価です(購入当時アカデミアで13800円しました)。
  2. Schirmer版 Albeniz Piano Album
    初版のUnion Musical Espanola社版(絶版?)よりやや正確ですが、やはりこれも誤植が含まれます。短いながら曲目解説の内容が貴重です。値段が手頃なので最初に手に入れるにはこの版が良いかもしれません。

スペイン組曲、スペインの歌

  1. 春秋社版アルベニス集 第3巻
    正確性=◎、校訂報告=◎、運指=○、解説=◎
    これら楽譜がそれほど込み合っていない2つの曲集でも、巷に流布している楽譜は間違えだらけです。特に目立つのがフレージングや強弱の指示についてです。編集者の改竄が多く、スペイン音楽のリズムを逸脱してしまったものもあります。やはり、ここでも、森安氏がいいかげんな版に対する断罪を行っています(^^)。運指はイベリアほどは凝っていないので○にとどめておきました。この2つの曲集に関わる作品の入り乱れ方は他に例を見ないものですが、解説で全ての謎が解き明かされています。

Alkan

短調による12の練習曲

    Alkan
  1. Dover版 ピアノソロによる交響曲、協奏曲、イソップの饗宴等
    Hamelin監修。Billaudot社版のリプリント。校訂報告はない。運指はそれほど多くない。しかし、アルカン自身の運指は独創的で勉強になります(速いパッセージでは黒鍵も気にせずに親指を当てていくなど)。練習曲の全てが揃っているわけではありませんが、US$17.95という安値でこれだけ揃うのでお勧めです。

Bach, J.S.

平均律クラヴィーア曲集第1巻、第2巻

バッハの楽譜を選ぶ場合、特に迷うのが原典版と解釈版のどちらにするかです。原典版ではバッハが書き込んだもの以外は基本的には付加されません。ただし、誤記は訂正され、校訂報告で修正個所を明示しています。一方、解釈版は、フレージングや装飾音などを当時の慣例や現在の理論を元に付加したものです。原典版を見ても分かるように、バッハはスラーやスタッカート、強弱記号、速度表示などほとんど書き入れていません。だから、解釈版を見たとしても、余計な情報をすべて無いものとして読譜すれば原典版として使用可能のように見えます。しかし、装飾音についてはいいかげんに付加されたり変更されたりしているものが多く、バッハが書き込んだ装飾音を知るためには原典版を利用するのが無難です。解釈版は一概に校訂報告が省略されていますし。

以上を踏まえると、やはり最初に手にすべき楽譜は原典版ではないかと考えます。実はバッハに限らずどんな作曲家に関しても当てはまるかもしれません。解釈版については、原典版を手にした後、各自が気に入ったもの、先生に薦められたものを使用すればよいでしょう。どれもこれも千差万別です。誰かの演奏を聴くというのも同じレベルでしょう。なお、解釈版同士の比較について…解釈の仕方については校訂者の個人的なものなので敢えて優劣はつけませんでした。

さて、10種類以上あるバッハの楽譜、順位をつけてみましょう。

  1. 市田儀一郎版(全音) 1997年 第1巻のみ
    正確性=◎'、校訂報告=◎、運指=◎、解説=◎
    最新のバッハ研究が反映されているベーレンライター原典版(全音)を底本とし、運指を付与した実用研究版。したがって、正確さではこれ以上はない信頼性を有します(ただし、1ヶ所誤謬を見つけてしまったのでダッシュ付◎')。市田儀一郎氏は国内の平均律解説書としては最も分厚い平均律クラーヴィーア曲集I,II 解釈と演奏法(音友)の著者として知られる。厳密には校訂報告はありません(ベーレンライター版と重複するため省略したのでしょう)が、ベーレンライター、ウィーン、ヘンレの3大原典版の相互比較が巻末に付けられているのが非常に役立ちます。また、運指は最も進化した技法が詳細に付与されています。オーバーラッピング(指が他の指の上を超える)、アンダーラッピング、換え指、スライドなど、(「箸の文化」的に)利用価値の高い運指が独自の記号を用いつつ紹介されています。曲の解説はフーガの分析から学習上の留意点まで必要充分な内容です。若干難解なところや省略されているところもあり、市田著「平均律クラビーア曲集I 解釈と演奏法」を別に用意する必要があるかもしれません。春秋社森安氏校訂版と肩を並べる優れた版です。第2集の出版を願ってやみません。それにしても、全音は4種類もの平均律を出していることになります。もう、古い版は捨てちゃってもいいんじゃないでしょか!?

    ★ 第5番前奏曲の運指について解説に面白い記述があるので引用させていただきます:

    「軽やかでスムーズな音楽的表現を目指すならば、大きな声では言えないが、本版の運指を参考にしていただきたい。殊に手の小さい人には利するところがあると確信する。」(ずるをしているので声高に言えないのです)
    「練習曲として素晴らしい価値を有し…充分な指運動の訓練を重ねて欲しい。但し運指は是非「他の版」に従い…」(あまりに楽ちんなので練習にはならないということ)
  2. ウィーン原典版 第1巻第2巻(音楽之友社、赤本) 1977年
    正確性=○、校訂報告=◎、運指=○、解説=△
    何を底本としてどういうコンセプトで校訂されているかがすべて明確に示されています。特に作曲年代がばらばらでさまざまな修正(バッハ自身によるもの)が施されている第2巻の文献系統図は圧巻。平均律の運指はどの版も一概に高いレベルにあります。そんな中、ウィーン原典版は一歩先んじています。指示の量こそ控えめですが、譜面上は左手で取るべきところで、少し無理な動きを含んでいたりすると、右手の親指がすかさず出てきたりします。演奏解説はコンパクト。各曲の解説などはありません。装飾音の正しい奏法は示されています。
  3. ベーレンライター原典版(全音、青本) 1989年
    正確性=◎、校訂報告=◎、運指=×、解説=×
    新バッハ全集といわれる原典版。最新のバッハ研究の成果がここにあります(ウィーン原典版より新しい)。妙に分厚いのにはわけがありまして…例えば第二巻はロンドンの自筆譜とアルトニコルの伝承による版がそれぞれ24曲ずつ掲載されています。この2つは思いのほか異なっており、見ているだけで楽しい。バッハもこんなに試行錯誤したのかと。ただし、運指が全く付与されておらず、ピアノを弾くには非実用的です。研究者向き。
  4. 音楽之友社・学習版
    正確性=△、校訂報告=×、運指=△、解説=◎
    解釈版の中では利用価値が高い。この版の特徴は楽曲分析の詳しさにつきます。その分楽譜のサイズも分厚くなっています(お値段も張ります)。この手の分析、平均律であれば個別に解説本で得ることもできますので、敢えてこの楽譜を用意する必要は無いかもしれません。各曲の音楽的印象について述べているのも特徴的です。どの作品から手をつけるか考えるいい指標となりましょう。初学者向き。

    以下はお勧めできない楽譜です。順位もあまり意味がありません。

  5. ヘンレ原典版(輸入版)
    正確性=○、校訂報告=○(×:日本語でない)、運指=△、解説=△
    大変広く親しまれている原典版。質の高い校訂がなされています。しかし、情報は若干古いです。ウィーン原典版やベーレンライター版が邦訳されている現在敢えてヘンレ版を選ぶ理由はないでしょう
  6. トーヴィ版(全音)
    正確性=△、校訂報告=×、運指=△、解説=○
    解釈版。1曲毎の解説が重宝します。
  7. ムジェリーニ版(ヤマハ)
    正確性=△、校訂報告=×、運指=△、解説=△
    解釈版。コルトー版のように脚注が多く、無駄に譜めくりしなければならないのが残念。しかし、フレージングの指示などの評判が良いようで、世界中で利用されているようです。ロシアで流行っているという情報も入っています。
  8. バルトーク版(輸入版)
    正確性=△、校訂報告=×、運指=△、解説=×
    優れたピアニストでもあったバルトークによる解釈版。曲順が特殊。
  9. クロール原典版(全音)
    正確性=△、校訂報告=?、運指=×、解説=×
    旧バッハ全集版(ブライトコプフ&ヘルテル、DOVER等)の日本版。1850年〜1900年の編集で、最近の研究成果は含まれておらず信頼性に欠けます。

その他、有名なものだけでも以下のような版が存在します。

ゴルトベルク変奏曲

  1. Kirkpatrick版 ゴルトベルク変奏曲(全音) 1938年初出
    正確性=○'、校訂報告=○、運指=×(記譜=○)、解説=○
    オリジナルの彫刻版を元にした原典版。少々古いため信頼性に欠けますが、今のところ間違いは発見していません。元々2段鍵盤のハープシコードのために書かれた作品であり、1段鍵盤で弾こうとするとは異常な手の交差が発生する変奏がいくつかあります。この版では手の交差が多いところでは、両手への手の割り振りが自然になるように書き換えられた譜面が併置されています。ピアノで弾くのであればこの楽譜ですね。装飾音についても複雑な場合は同じように別の譜面を用意し実際の音程と音価を示しています。演奏解説も多彩で、装飾法、フレージング、テンポなど個別に事細かに説明されています。この版の唯一の欠点は指使いが全く書かれていないこと。
  2. ウィーン原典版 ゴルトベルク変奏曲(音楽之友社)
    正確性=○、校訂報告=○、運指=○、解説=○
    運指の付いた日本語版ならこれ。ただしピアノを意識しているわけではない。2段鍵盤用変奏についてはピアノ奏者が自分で再考する必要がある。校訂報告・演奏法共に詳しい。
  3. ベーレンライター原典版 ゴルトベルク変奏曲(全音)
    正確性=◎、校訂報告=◎、運指=×、解説=×
    新バッハ全集。最新の研究成果がここの反映されています。ただし、運指が無く実用的ではありません。

理想はアルベニス・イベリアのAlpuerto社版のような手の交差を極力避けるよう書き直した楽譜なのですが、まだ無いようです。

フーガの技法

  1. Henle版 フーガの技法
    正確性=○、校訂報告=○、運指=×、おまけ=○
    この版を含め運指が載っているものは未だ存在しません。しかし、この版では左右の手の振り分けが演奏しやすいように記述されています。声部進行を示す補助線の記述も充実。校訂報告も詳しい。さらには未完のフーガを完成させてあります!ただし、1ページに収まる小規模なものです。

インベンションとシンフォニア

  1. 市田儀一郎版(全音)
    正確性=◎、校訂報告=◎、運指=◎、解説=◎
    最新のバッハ研究が反映されているベーレンライター原典版(全音)を底本とし、運指を付与した実用研究版。正確かつ便利な版です。

Beethoven

ピアノ・ソナタ全集

とりあえず、以下の2つの版を手元に置かれることを推奨します。優れた演奏法が付記されている実用版と、現在の標準となっている原典版です。

  1. カセッラ版(リコルディ社。第3版。3分冊バージョン)
    正確性=?、校訂報告=×、運指=◎、解説=△(演奏法の解説=◎)、価格=×
    2001年末現在、最も凝った運指を載せている全集と言えます(私がヘンレ版に書き込んだ左右の手への音符の再割当ての8.5割以上が既に印刷されていて感激しました)。装飾音の奏法についても詳しく、最高の実用譜として使えます。特に有用なのが、傍らに書かれている、KlindworthやMoszkowskyの運指。例えば、28番、左手が3度進行するところ、両手に分けて弾くと楽なんですが、まさにそれに近い割り振りが紹介されているではないですか!先人達の工夫をたくさん知ることが出来ます。なお、この第3版には3分冊バージョンの他に2分冊バージョンもあります。2分冊のものは演奏法解説が端折られている部分があり、もったいない。運指は変わらないものの、できれば3分冊バージョンの方を入手したいところ。 Beethoven Sonoda版
  2. 春秋社版(校訂・運指:園田高弘、1曲ずつの分売)
    1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8「悲愴」, 9, 10, 11, 12, 13, 14「月光」, 15, 16,17,18, 19, 20, 21「ワルトシュタイン」,22 23「熱情」, 24「テレーゼ」, 25,26,27,28,29「ハンマークラヴィーア」,30,31,32番
    正確性=○、校訂報告=×、運指=○、解説=○
    ピアニスト園田高弘による解釈校訂版。自筆譜を始め各種の原典版、校訂版を参考にした信頼のおけるもの。何より注目されるのは、運指の巧妙さです。左右の手への配分が練られ、日本人の標準的なサイズに合わせた指使いは参考になります。次に、的確な演奏指示も有効。ご存じのようにベートーベンの自筆譜は汚い。スタッカートやスラー、ベダル等の指示記号は結構適当なもの。ヘンレ版などの原典版では不統一なまま印刷されていますが、園田版は統一感を持たせるように補っています。私情は最小限に抑えられているので、ほぼ原典版として譜読み可能でありましょう。装飾音の解説も充実しております。 ウィーン原典版と共にお勧めの版。
  3. ウィーン原典版 第1巻第2巻第3巻
    正確性=◎、校訂報告=?[別冊]、運指=○(ムラ有り)、解説=○
    最新の研究成果が反映された新版。第3巻の刊行は2002年2月でした。運指、正確性共に満足の行くレベル。ただし、運指は曲によって担当者が異なるため、平凡なものもありあす。園田高弘版、カセッラ版と共にお薦めの版。まずウィーン原典版を買って、運指や解釈などに自信がもてなくなったら、園田版・カセッラ版も買うという形が良いでしょう。

    その他、運指に優れた全集を挙げます。

  4. ヘンレ版(全曲)
    正確性=○、校訂報告=×、運指=△、解説=×
    自筆譜に忠実な原典版。自筆譜のミスは訂正してあり、正確ではあります。コンクールなどでの標準版ともなっており、持たざるを得ない版でしょう。運指もたまには参考になります。でも、この運指で弾けと言われても、弾けない部分も多々あります。必ず2冊目の実用版(出来ればカセッラ版)を用意すべきです。
  5. 全音版第1巻第2巻(校訂者・出版年不明、解説:諸井三郎、全曲)
    正確性=△(音=○、表現記号=×)、校訂報告=×、運指=○、解説=△、価格=○(^^)
    驚くべきことに、2001年末の頃、全音版(トーヴィー編でもないく、リスト編でもない)の運指が最高レベルにありました(私がヘンレ版に書き込んだ左右の手への割り当ての半分以上が既に印刷されていて少し感激しました)。残念ながらフレージング等はどこかの版の受け売りでまがい物の解釈が入っています。まだ発売されていないウィーン原典版ソナタ集第3巻、園田高弘版の出現を待てない方は、とりあえずこの楽譜でお茶を濁しておきましょう。実は音楽之友社版も運指に関しては全音と同じくらいのレベル(書き写し?)。しかし、たわいもない記譜間違いが見られたので却下とします。
  6. ペータース・アラウ版(全曲)
    正確性=△'(音=△、表現記号=×)、校訂報告=×、運指=○'、解説=○
    運指についてはかなり練られています。しかし、ずる賢さにおいて僅差で全音に及ばず。ただし、1-2-3-4のスケールを1-2-3-5と割り当てるなど癖のある運指は勉強になります。正確性はイマイチ。自筆譜の間違いをそのまま引きずっている感じ。装飾音の解説は丁寧で詳しいです。

以下は全集ではありませんが、役に立つ楽譜です。

ピアノ・ソナタ作品28番まで

Brahms

ヘンデルの主題による変奏曲・パガニーニの主題による変奏曲

  1. Henle版 ブラームス 変奏曲集
    運指が他と比較して現代的。左右の手への振り分けを再考察したり、ゴドフスキ考案の指使いを応用したりしています。これ以外の版はどれも似たり寄ったり。もちろん校訂報告もあります。

その他の小品集

  1. ウィーン原典版 ( ワルツOp.39, ピアノ曲集Op.76, 2つの狂詩曲Op.79, 3つの間奏曲Op.117, Op.118, Op.119, 3つの間奏曲―中級, )
    ウィーン原典版で出ているものはこれをゲットしましょう。

Chopin

ピアノ作品全般

  1. エキエル編「ナショナル・エディション」(英語) 1995年改訂新版出版開始(旧版は1967年初出)
    正確性=◎、校訂報告=◎(別冊)、運指=、解説=○、網羅性=△
    最新の原典版。1980年代に相次いで公表された研究成果が盛り込まれ、既存の全楽譜を検討した最も信頼できる改訂新版です。手に入るのは現在以下の通り(一部未刊あり):
    Aシリーズ(作品番号あり) ショパン「ワルツ集」エキエル版
    1. バラード
    2. エチュード(全27曲)
    3. 即興曲(第3番まで)
    4. マズルカ(Op.63まで)
    5. ノクターン(Op.9,15,27,32,37,48,55,62)
    6. ポロネーズ(Op.26,40,44,53,61)
    7. 前奏曲(Op.28,45)
    8. ロンド(Op.1,5,16)(未刊)
    9. スケルツォ
    10. ソナタ(2,3番)
    11. ワルツ(Op.18,34,42,64)
    12. 作品集(華麗なる変奏曲、ボレロ、タランテラ、演奏会用アレグロ、幻想曲、子守歌、舟歌)
    13. 協奏曲第1番(ソロ版)
    14. アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ

    Bシリーズ(主に作品番号なし)
    1. 作品集(幻想即興曲、夜想曲嬰ハ短調 それぞれ2バージョン他)
    2. 協奏曲第1番(二台版)(未刊)
    3. 協奏曲第2番(二台版)

    (作品番号のないものは含まれない場合が多い)。どれも、それ以前の版とは異なる点がいくつもあり、驚かされます。運指は、ショパンの書き込みとエキエルによる優れた指示が併記されています。ショパンの遺言を反映し、生前に出版されたものはAシリーズ、遺作はBシリーズと分けられています。日本語版の出版も追随しています。
  2. ウィーン原典版 ショパン ピアノ作品集(音楽之友社) 1970-
    正確性=○、校訂報告=○、運指=○、解説=○、網羅性=△
    パデレフスキ版より後発の原典版。ショパンが弟子に指示した奏法が多く示されています。また運指は様々な可能性が併記してあり参考になります。装飾音などの奏法の解説も的確。現在、全作品が含まれているわけではない。続刊が待たれる。
  3. パデレフスキ版 ショパン ピアノ作品集(日本語版) 1949-1961
    正確性=△、校訂報告=○、運指=○'、解説=○、網羅性=△
    徹底した校訂報告と演奏ノートが素晴らしい。装飾音の奏法に関する解説は極めて的確。全てのピアニストに再読してもらいたい。出版された時代が古いため必ずしも全ての音が正しいとは言えない。遺作が抜けている等網羅性に欠けている点も残念である。しかし、値段が安く、製本が見事な点は評価できる。リプリントのため印刷はそれほどきれいではない。 Cortot
  4. コルトー版 ショパン ピアノ作品集(日本語版あり)
    正確さ、網羅性共にいまいち。しかし、運指が素晴らしい。脱力を極めています。

ピアノ遺作集

  1. 全音出版社版 Chopin ピアノ遺作集
    全音の数ある楽譜の中で最も入念な校訂報告が成されているのではないでしょうか。夜想曲嬰ハ短調の初期稿が載っているのも見逃せません。

Cziffra

2つの演奏会用練習曲「熊蜂」、「トリッチ・トラッチ・ポルカ」

  1. Peters版 Cziffra Transcriptions 第1巻
    シフラの息子による採譜。ブダペスト版より演奏が容易。ハードカバーの豪華な製本で内容も豪勢。ブラームスのハンガリー舞曲集なども収録。第2巻が待望されますが、資金難から滞っているようです。
  2. Budapest版 Cziffra 2つの演奏会用練習曲
    シフラの演奏より妙に音が多い版。誰の採譜なのか、あるいはシフラ自身によるものなのかよく分かりません。音色的にはそれなりにまとまりがあります。演奏はそれぞれカツァリスとシチェルバコフにより聴くことが出来ます。

Debussy

12の練習曲

  1. Henle社版 Debussy Douze Etudes pour le piano (右図)
    運指が書かれている数少ない楽譜。詳細な校訂もうれしい。誤謬の訂正も徹底している。ドビュエチュを本格的に取り組むならこれ以外にはないでしょう。ただしこの運指は音楽的であるがそれほど思い切りはない。4300円とちょっと高めですがそれだけの価値は十分あります。

前奏曲集、2つのアラベスク、子供の領分、ベルガマスク組曲

Faure

ピアノ曲全集

フォーレ 春秋社版
  1. 春秋社版 フォーレ全集第1集第2集第3集第4集
    運指、校訂、網羅性、どれもがダントツ。世界に先駆けて、フォーレの遺言(曲目の配置指定など)を具現した楽譜集です。ピアニストの藤井一興が運指を担当しています。

Godowsky

Albeniz=Godowsky Tango

  1. Carl Fisher版
    ゴドフスキの譜面は運指とペダリング(それらの関わりも)が極端に素晴らしい。優れたピアノ教師であったゴドフスキの一面を垣間見ることが出来ます。
  2. Schott版
    ごくごく少量ではありますが装飾音がCarl Fisher版と異なる部分があります。ボレは多分こちらを使用しているのでは。

J.Strauss=Godowsky Die Fledermaus

  1. Southern Music Pub.版
    表紙に逆さにぶら下がったこうもりがワイングラスを片手に指揮棒を振っているのが何ともお洒落。2ページにわたるOssiasが入っています。両手シュトラウスもの全般について、ゴドフスキの作品にしては運指に気合いが入ってません。
  2. Musica Obscura版
    非常に劣悪なリプリントで、Southern社のものより値段が高い。しかし、Ossiascが付属している。
  3. Cranz版
    シュトラウス=ゴドフスキはこの版で見かけることが一番多いでしょう。Ossiasはありませんが入手はしやすいかと。

Granados

Goyescas

ラローチャ監修のグラナドス全集が続々発売されています。入手次第レビューを書きます。

  1. 春秋社版 Granados ピアノ名曲集
    ゴイエスカスのうち「嘆き、またはマハと夜鶯」と「わら人形」が収録されています。2曲だけですが、恐らく運指が用意された唯一のゴイエスカスの楽譜です。「わら人形」を単体(ピース譜)で購入するより安い価格(\1600)で手にはいるのでお勧めです。
  2. 音楽之友社版 Granados Goyescas
    網羅性が○。1999年に入って「わら人形」が入った版が発売されました。簡単な解説も追加。残念ながら運指はありません。相変わらず安くて1500円。

Liszt

ピアノ独奏曲集について

リストの楽譜は飛び抜けて優れた版が出版されていないので選択が難しくなっています。網羅性で決定的なBudapest版も質にムラがあり全てがお勧めというわけにはいきません。そんな中最近徐々に出版されつつあるHenle版はなかなかの注目株です。これは自筆譜を入念にチェックするなど正確性において信頼がおけます。また、春秋社・井口基成版も運指の面ではそこそこ利用価値が高いと言えましょう。コルトー版は様々な練習法が載っているのが特長でもあり、そのために譜面を見づらくしてという意味で短所でもあります。

ピアノ・ソナタ、巡礼の年、バラード、演奏会用練習曲集

  1. Henle版 ピアノ・ソナタ、巡礼の年、バラード、演奏会用練習曲集
    正確性、解説が○。リストの楽譜を探すならまずこの版からチェックするのが良さそうです。これからの注目株です。

半音階的ギャロップ

  1. Budapest版 ピアノ・ソロ作品集第13巻
    正確性、解説が○。こだわりの運指もなかなか。ブダペスト版はムラがあるのですが、これは優秀です。笑えるOssiaやシンプル・バージョンも付いていたりして資料的価値も高いです。この巻には2つのポロネーズも入っています。

超絶技巧練習曲集

その他の版についてBudapest版はほとんど運指が載っていないなど手抜きとしか思えないような編集。ザウアー校訂のPeters版も同じく、味気ない楽譜です。

Medtner

ピアノ・ソナタ集

  1. Dover版 Medtner ピアノ・ソナタ集全2巻
    正確性、網羅性、価格、解説が○。運指はあまり書き込まれていません。アムランの録音したメトネル・ソナタ全集CDの発売とほぼ時を同じくして出版された全集楽譜。安価で製本状態の良いDover版であることが素晴らしい。校訂はアムラン。これまでに作曲者自身などによって発見されていた誤植と、アムランが演奏する際に気付いた誤りが修正されています。演奏ノートはメトネルを積極的にとりあげているピアニストGeoffrey Tozer。Dover社としても最も気合いの入った楽譜の一つでしょう。

なお、校訂者1999年2月来日時、この版にも1箇所だけ間違いが残っているとのことで、直筆のメモをいただきました。以下にご紹介します。

Mozart

ピアノ・ソナタ集

  1. ウィーン原典版 Mozart ピアノ・ソナタ第1集第2集
    他の版をまじめに調べていないのでたいしたコメントはできません(^^;。運指良くて、詳細な校訂報告あり、かつ日本語版ということで選びました。

Ravel

ピアノ独奏曲集

ラヴェル 春秋社版
  1. 春秋社版 Ravel ピアノ独奏曲全集第1巻第2巻
    正確性=◎、校訂報告=◎、運指=○、解説=◎、網羅性=○
    アルベニスの初版譜と同様、ラベルの初版譜(Durand社版等)は誤謬の巣窟でした。校訂をつとめた森安氏は18種の楽譜を比較検討し、全ての誤りを明らかにしました。しかも、それにとどまらず、ラベルが弟子に指示した改訂や演奏方法も楽譜に反映されています。

ラヴェル ペルルミュテール版
  1. 音楽之友社版 ペルルミュテール校訂 Ravel ピアノ作品集
    正確性=○、校訂報告=×、運指=◎[優!]、解説=◎、網羅性=−
    この版の特長はなんといってもその音楽的な運指にあります。ペルルミュテールは、ラベルにどのような響きで演奏すればよいのか…ということに関して教えを受けた。その教えを元に、ペルルミュテールは自らじっくり時間をかけてその響きを実現するための運指を考えた。その熟考された運指、およびラベルが伝えた音楽観がここに全て反映されています。
    1. 古風なメヌエット、亡き王女のためのパヴァーヌ
    2. 水の戯れ
    3. ソナチネ
    4. 夜のガスパール(IV巻以下続刊。刊行時期未定)
    5. ハイドンの名によるメヌエット、高雅で感傷的なワルツ、前奏曲、…風に
    6. クープランの墓

    第II巻までが発売されています。内容があまりにも優秀なので、春秋社と同じく1位にしました。全集が完成すれば、十分単独1位になる実力のある楽譜だと推測しています。ほんとに完成が待ち遠しいです。(2001/11/30)

その他に今のところ全集ではないですが、音符が正確で指使いが参考になる楽譜があります。

Saint-Saens

ピアノ作品集

  1. 春秋社版 サン・サーンス ピアノ独奏曲集(全1巻)
    正確性、網羅性、運指、解説全て合格。ただ、サン・サーンスの楽譜はそこそこ正確だったので既に楽譜を持っていれば改めて買い直す必要はないかもしれません。運指は使えますけどね。たった一巻で終わっているところも注目。やはり再出版する価値のある作品が少ないということかな!?

Scarlatti, Domenico

ソナタ集

  1. 音楽之友社版(中山靖子編) Scarlatti 90のソナタ集Vol.1,Vol.2,Vol.3(全90曲)
    カークパトリックが編集した筆写譜のファクシミリを元に過不足無い校訂をしたもの。入念な演奏ノート及び解説も素晴らしい。運指は必要最小限ですがなかなか良質なものです。全3巻は次のように構成されています:

    とりあえず第1巻を買って、更に勉強を進めたい場合他の巻を買うという揃え方が出来るのも良いところです。

その他の版について(順不同)

スカルラッティ・ソナタ集の楽譜を選ぶのは大変難しい。その第一原因はなんと言っても全555曲という膨大な数にあります。目の前の楽譜には自分の弾きたい曲が入っているのだろうか?楽譜から漏れているもので名曲が存在しているのではないだろうか?この点については心配ご無用です。非全集楽譜の場合必ず漏れています(^^;。スカルラッティのソナタは全て同じように演奏されるべく価値を有しています。これはスコット・ロス(cemb)の全集録音を一聴すれば分かると思います。しかしながら、実際問題全曲を揃えるのは金銭的にもスペース的にも、そしてそれを譜読みする時間を考えても現実的でない場合が多いでしょう。ということで、ここでは全集か選集かを問わずに比較をしてみました。全集が理想ではあるのですけどね。

Schubert

ピアノ・ソナタ全集

  1. ウィーン原典版 Schubert ピアノ・ソナタ全集 第1巻第2巻第3巻(音楽之友社)
    正確性=◎、校訂報告=◎、運指=?、解説=○、網羅性=○
    1999年全3巻が完成。序文に「これまでで最も厳正かつ完全な実証にもとづく校訂を実現したものであり<中略>徹底的に楽譜と関わり合おうとするすべての音楽家に自信をもって推奨する」(アルフ レート・ブレンデル)とあるように、今買うならこれしかないように思われます。シューベルトの記譜は大変いい加減なことで有名。それを根気よく研究し、その曖昧さのすべてが校訂報告に載せられております。最終的には演奏者の判断に委ねられるように書かれているところが素晴らしい。これぞ楽譜の鑑。マルティーノ・ティリモ校訂・運指。他の版は余り見ていませんが、定評のあるファーガソン版(1979)でも既に古いでしょう。

Scriabin

ピアノ・ソナタ、練習曲集

スクリャービン 春秋社版
  1. 春秋社版 Scriabin ソナタ集第1巻第2巻練習曲全集(第3巻)
    正確性=○、校訂報告=△、運指=◎、解説=○、網羅性=○
    校訂報告は他の春秋社の楽譜を担当していた森安氏のものに比べれば微々たるものですが、楽譜そのものが比較的正確なのでお勧めです(手元にある初版本は臨時記号の付け忘れなどは結構あります)。また、運指・両手への配分は現存の楽譜で最高のものです。手の小さな人への演奏の工夫も述べられています。
  2. 全音出版社版 Scriabin ソナタ集1,2 練習曲全集
    正確性=◎、校訂報告=△、運指=○、解説=○、網羅性=○
    校訂報告は無し。楽譜そのものは正確です。運指・両手への配分は春秋社版ほどは練られていません。

前奏曲集

  1. 春秋社版 Scriabin 前奏曲集(第4巻)
    正確性=○、校訂報告=△、運指=○、解説=○、網羅性=○
    前奏曲集として出版された作品をすべて網羅しています。ただし、他の曲集に含まれる前奏曲は春秋社版スクリャービン全集の第7巻「小品集」に収められる予定です。初版を元にした校訂、左右の手の配分を考慮した自由な運指(ねじれ、スライドの活用)、各作品毎のエピソードなどを添えた充実した解説など、前奏曲集としては唯一無二の価値を有する楽譜です。編集校訂は伊達純、岡田敦子。
  2. 全音版 Scriabin 前奏曲集(第4巻)
    正確性=○、校訂報告=×、運指=△、解説=○、網羅性=×
    90曲ある前奏曲のうち65曲が抜粋され収録されています。運指はスクリャービンの良き紹介者であったヨゼフ・レヴィーンが伝えたとされるものらしいですが、春秋社版ほど使えるものではありません。校訂報告はありませんが、自筆譜、生徒への指示などを研究しており信頼性あり。編集は平井丈二郎。

詩曲「炎に向かって」等

  1. 春秋社版 Scriabin ピアノ作品全集第6巻
    正確性=○、校訂報告=△、運指=○、解説=○、網羅性=○

Szymanowski, Karol

ピアノ作品集

シマノフスキ 春秋社版
  1. 春秋社版 シマノフスキ・ピアノ独奏曲全集第1巻第2巻第3巻第4巻 森安芳樹・田村進編集・校訂
    正確性、網羅性、運指、解説全てにおいて◎!森安氏渾身の一撃、日本でも世界に自慢できる楽譜が現れた瞬間でした。詳細な運指の指示はもちろんのこと、シマノフスキ作品によく見られる複雑な臨時記号の指示がより詳しく補完されていることが従来の版より譜読みへの負担を軽減させてくれます。特に第2巻に収録されているシマノフスキ最大のピアノソロ作品であるソナタ第2番がお勧めです。

総評

出版社別で見ると最も気合いが漲っているのはウィーン原典版春秋社版(特にシマノフスキ以降の森安氏による校訂版)ですね。校訂、校訂報告、解説、演奏ノート、運指、どれをとっても現在最高水準です。この2つの版で出版されていない楽譜はヘンレ原典版を当たってみると良いかと思われます。また、最近の大御所が関わりだしたDover版も見逃せなくなってきました。