Rebirth・Reverse

第二話

キョロキョロキョロ・・・
ドアから顔だけ出して辺りを窺う。誰もいない。
隣でちぢこまってるコイツ以外は。
「ふう・・・どうやら、逃げられたみたいだね」
「・・・でも、いずれ見つかりますよ。なんとかしないと・・・」
ここは校舎の外れの・・・男子トイレ。
・・・なんでまたトイレなんだよ!しかも今度は男子用!?
逃げ込むにしたってもうちょっと考えて飛びこめよ!
「で?いったいどういうコトなわけ!?」
「どういう、って?」
「とぼけないでよ!アンタ、あいつらのこと知ってるんでしょ!?何なのよいったい!?」
そう、アタシには訳のわからないことばかりだ。
あのデカイの二人が何なのか
なんでアタシを追いかけてくるのか
逃げまわる校舎の中になんで他に誰もいないのか。
「・・・そもそも、アンタ一体なんなの?ストーカーみたいにアタシをつけまわして・・・」
「えーと・・・一応名乗っておくべきかな・・・笹本修二・・・です」
「笹本クン、ね。アタシは・・・」
「藤岡祥子さん、ですね。この大学の文学部の2年生」
「・・・ああ、やっぱもう知ってるんだ・・・」
「大学進学の際に上京、現在同窓生の星野智美さんと同居中。身長177センチ、体重・・・」
「ちょと待て!・・・それ以上知ってるわけ!?」
「一応、調べました。同居している星野嬢とは恋愛関係に・・・」
「止め〜っ!」
・・・やっぱストーカー・・・
「とにかく!ちゃんと事情を説明してもらおうじゃないの!」
「ふう・・・やっぱり記憶がないようですね。彼等のことも忘れてるみたいだし」
「あんな知り合いいないわよっ!」
「わかりました。お話しますが・・・その前に見ていただきたいものがあります」
「何よ、見せたいものって?」
ヤツは黙って・・・
何故シャツのボタンを外し始める!?
ゴィンッ!
「脱ぐなぁ!」
「っ・・・痛いなぁ・・・殴らなくてもいいでしょう!」
「アンタの裸なんか見たくないわよ!」
「しょうがないじゃないですか、脱がなきゃ見せられないんだから」
「わ、よせコラ・・・脱ぐなってば!」
「上だけですから・・・はい」
ぱさりとシャツを脱ぎ、上半身裸になったのを横目で見る。
「何よぅ、もう・・・何もないじゃない」
「背中です」
そう言ってクルリと振り向いた背中。
「見えますね?アナタの体にも、これと同じようなものがあるはずです」
そう、確かにそこには見なれたものがあった。
幾何学模様のような、文字のような、大きさは掌ぐらいの不思議な印。
「・・・なんで・・・アンタにソレが・・・」
生まれたときからアタシの胸に浮かび上がっていた印。
最初は小さかったのだけど、成長するにつれ大きくなっていた。
もっとも今は胸が成長しちゃったから谷間で少しゆがんでるけどね。
それに・・・もう一つ、この印をアタシは見てる・・・
初めてあの子にソレを見たときは『運命』ってヤツを信じかけたっけ。
「アンタ・・・何者なの?」

「生まれ変わり?」
「そうです。貴方は藤岡祥子としてこの世界に生まれてくる前は、別の世界にいたんです」
「前世・・・ってヤツ?」
「そう、ともいえますね」
「アンタも・・・その、別の世界の誰かの生まれ変わりってコト?」
「この世界には笹本修二として生まれましたけどね・・・」
ちょっと困ったような顔になる。
「で、つまり、アンタとは別世界での前世からのお付き合いってわけ?」
「そうです」
あー・・・普段なら『なんだコイツいかれてやがる』ぐらいにしか思わないんだろうけど
あのデカイ鎧野郎とこの印を見せられた後だとなんとなく信じるなぁ。
「あのデカイの二人ってなんなの?」
「グラール・・・私達のいた世界ですが、そこからの追っ手です」
「追っ手?アタシ達、追われてるわけ?」
「はい・・・どうもあちら側の次元通過のための条件が整ったようです」
「今までは追っ手なんてなんにもなかったのに・・・」
「次元の移動は大魔法ですからね。条件が揃わないとまず成功しません」
「それにしても、なんで追いかけられなきゃなんないのよぅ」
「それは・・・」
む。閃いた。
「ひょっとしてアイツら悪い魔王の手先で、実はアタシが『選ばれた勇者』とか言うヤツ?」
「・・・違います・・・っていうか、逆ですね」
「・・・逆?」
「私達は逃亡中の犯罪者なんですよ」
「・・・はい?」
「貴方は『魔剣士・ドレイク』。私は『魔女モルギニア』と呼ばれ、グラール中で恐れられてたんですけど」
「・・・なに?」
「グラール中でお尋ね者になって、捕まったあげく脱走してこの世界に逃げ込んだ重罪犯なんです」
な・・・な・・・なんですとぉ!?
「あの鎧を着た連中は『法の守護者』が私達を捕らえるために送りこんだ魔導人形です」
「ちょぉっと待てぇ〜!!」

冗談じゃない!
そりゃ清廉潔白に生きてきたとは言わないけど
あんなゴツイのに追いかけまわされるような真似はしてない!
・・・よな?
「前世では貴方は『破壊の帝王』とか『欲望魔人』とか呼ばれて恐れられた大悪党でした」
ぐあ・・・酷い呼び名・・・
「それって前世でのことなんでしょ!?生まれ変わったんだから関係ないわよ!」
「転生しても記憶は残るはずだったんで、いつかまたグラールに帰るつもりだったんですよ」
「だから覚えてないんだってば!そんな前世でやったことなんか!」
「・・・いずれ思いだすはずです・・・なにより・・・」
クス、と彼が笑う。
「何よ?」
「性格は、変わってません・・・私が愛した、貴方のままです」
ドキ。
あー・・・ひょっとして・・・アタシとコイツって前世では・・・
笹本クン、だっけ・・・こうしてじっくり見てみるとそんなに悪くはないよね。
・・・って、そうじゃないだろ!
「だから・・・知らないわよ、そんなの・・・」
「冷たいんですね・・・本当に忘れてしまったんですか?」
アタシの顔を見つめる目が悲しみにひそめられる。
「だ、だいたい、アタシは忘れてるのになんでアンタは覚えてるわけ?」
「ん〜・・・多分、転生と次元移動の魔法を両方同時に使ったからではないかと」
「・・・よくわかんないわね?」
「どちらもかなり大掛かりな術なんですよ。魔女と呼ばれた私にですら困難でした」
「ふーん・・・って、さっきも言ってたけど・・・魔女?アンタ男じゃないの?」
「えーと・・・私、前世では女だったんですけど、ちょっと手違いで・・・」
そう言うとモジモジし始める。
・・・男のそういう仕草はちょっとアレだが
中身っていうか精神構造は女なんだよな。
ん?・・・なんかこのシチュエーションには心当たりが・・・
「・・・本来転生すべき肉体が入れ替わっちゃったんです」
「入れ替わった、って・・・つまり、何?アタシって前世では・・・」
「・・・男性でした。魂のほうの性別は転生しても変わらないんですけど・・・」
・・・思い出が蘇ってくる。
ガキの頃からやれ男女とからかわれ
長じては同性に言い寄られつづけた日々。
今まで・・・自分の性別で随分苦しんだのは・・・
「アタシが今まで『男女』とか言われてきたのは・・・お前のせいかぁっ!?」
「私のせい、って、貴方がやれって言うからやったんですよぉ!?」
「結局ドジ踏んだんだろうが!」
「私だって男の人の体になっちゃって悩んだんですよぉ!」
「やり直せ!最初から男だった人生をアタシに返せ!」
「無理ですー!!」
「だぁ〜っ!このヘッポコ魔女!いや、男だからヘッポコオカマ魔法使い!」
「オカマじゃないですー!中身は純粋に女なんですー!」
・・・しばらくの間状況を忘れ
不毛な言いあい(と言うかアタシが一方的に罵倒してたわけだが)を続けるアタシ達だった。

なんだかアタシは疲れてしまった。
いきなり訳わからん前世とやらの相棒がやってきて
貴方は元は大悪党だったので追っ手に化け物がやってきました
とこう言うわけだ。覚えちゃいねーんだよ、ンなこたぁ!
しかも本当は男だったというオマケ付きだ。
「・・・で、アタシは何で前世の記憶がないんだって?」
ちょっと拗ねた笹本クンがそっぽを向いたまま答える。
「多分、肉体の性別が入れ替わってしまったせいではないかと・・・」
「アンタは覚えてるじゃないの?」
「代わりに、殆どの魔法が使えなくなっちゃいました・・・」
・・・使えねー・・・
「体の・・・アザみたいなのはなんなの?」
「烙印です・・・魂にかけられた法印なので、転生しても必ず肉体に現れます」
「くそう、乙女の柔肌にそんなもん付けやがって・・・誰の仕業よ?」
「『法の守護者』です・・・私達一度捕まって、烙印を施されて牢に入れられてたんです」
「なんで捕まえたのにまた烙印なんてものまで付けるのさ?」
「多分、脱走されても追跡できるようにでしょう。実際逃げましたしね」
「そのままおとなしく牢屋に入ってれば良かったかなー」
「脱走したときには、追跡隊が3カ国から2000人出たんですよ」
「2000人!?」
「まあ、流石に逃げきれなくてこちらの世界に移動・転生したわけですけど」
「アタシって・・・そんっなに悪いこと、したの?」
「えーと・・・滅んだ街や村の数でいうとグラール史上最悪の犯罪者です」
がぁくぅー、と力が抜ける。アタシって・・・
「で、でも盗んだ財宝の額では史上2番目ですし、さらった女性の数は3番目ですよっ?」
「・・・全然フォローになってないよ、それ」
「傷害や殺害の件数なら全然少ないですよっ、えっと確か史上5番目か6番目か・・・」
「いや、もういいって・・・あ〜あ、信じらんないなぁ・・・アタシがそんな極悪人だったなんて」
「私は・・・そんな極悪人だとは思ってませんでしたけど♪」
「ひょっとして・・・アンタにそそのかされてたとか」
「あ、ヒド〜イ!主犯はあくまで貴方なんですからね?」
「ホントかぁ?魔女って呼ばれてたんだろ?女の色香でアタシを誘惑したとか・・・」
「無理やりさらってきたのは貴方でしょ!?」
「無理やりぃ?じゃ、なんで言うこと聞いてたのよ?」
「だ、だって・・・貴方が初めてだったし・・・」
「はあ?」
いかん。こんな話をしている場合ではない。
「とにかく、あのデカイの二人をなんとかしないとな・・・」
「今度捕まったら・・・多分『霊魂凍結』の刑です・・・」
「なによその『霊魂なんたら』・・・いや、いいや。聞きたくもない」
どーせなんかろくでもない罰なんだろ。
「そういや、なんでアタシら以外に誰もいないんだ?」
「あの魔導人形が結界を張ったみたいです。次元をずらしてるので転移してきたもの以外は存在してませんね」
「助けは期待できないか・・・あんなの相手にどうすりゃいいんだ?」
「魔導人形は烙印が発する微弱な魔力に反応して自動的に追跡してきますから・・・」
「・・・つまり、逃げられないってことね」
「それに、あの2体がいる限り私達はこの結界から出られません」
「ってことは、アイツらをぶっ壊すしかないのか・・・どうすりゃいーのよあんなの」
「そうですね・・・シェイラがいれば良いんですけど・・・」
「シェイラ?」
「一緒に転生してきた私の使い魔です・・・反応は近くに感じられるんですけど・・・」
あ。今まで忘れてた。
「・・・ひょっとして、その使い魔にも烙印がある?」
「?ええ、一緒に捕らえられましたから」
血の気が引いていくのがわかる。
「ヤバイ!忘れてたよ!」
「ど、どうしたんですか!?」
「智の臍の下にもアタシと同じ模様があるんだよ!」
「智、って・・・さっきまで一緒にいた、同居してる女性ですか?」
「そう!あの模様があるならあの子も転生してきたアタシの仲間なんじゃないの!?」
「間違いなさそうですね。多分・・・この結界に取りこまれてますよ」
「ヤッバー!あんなのに追い掛け回されてたら・・・さ、探さなきゃ!」
ドアを開けてトイレから飛び出たその時
『・・・助〜け〜て〜ぇ〜!祥ちゃ〜ん!』
聞き違いようのない、智の悲鳴!
「2階か!?」
ドカーン!ガシャン、バリーン!
いろんなものがぶっ壊れる音も聞こえる。
「探さなくてもすぐ見つかりそうですね」
「のんびりしてる場合!?行くよ!」
階段に向かって走るアタシに後から声がかかる。
「ちょ、ちょっと待って!行ったってあの魔導人形2体相手にどうするんですか?」
「知るか!とにかく、アタシの女に手ぇ出すヤツはぶっ飛ばす!」
「・・・変わってないなぁ、ホントに・・・」

〜続く〜

第三話へ

雑貨屋入り口に戻ります

案内所に戻ります