第七日 「伝説の男」
後編
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オレ達3人の作業は順調に進んでいた。
ヤブ・スタニフラスの屋敷は思っていたより警備システムがちょろく
あっさり隠し金庫にたどり着き、簡単にソイツを開けると
K.Mが中のコンピューターに取り付いてなにやら色々道具を繋ぐ。
待つことしばし・・・
「マディ!カードが出たよ!ジョー、信号が送信されたからZEROに連絡!」
「よしっ!」「了解!」
K.Mから差し出されたカードを受け取ると、窓辺に走って
下で待っているメリルにそっと投げ降ろす。
発止とカードを受け取ったメリルが、留めてある車まで走っていくのを見送ると
出口に向かって走りながら見張り役のジョーに尋ねる。
「後何分だっ!?」
「13分!今ントコ30秒ぐらいリードしてるよっ」
「よぉっし!」
息を切らしながら走っているK.Mの表情も明るい。。
「これならメリルも余裕でZEROのトコに行けそうだね」
「そうだな」
「でも、ここからホーキンス通りまで7分で行くってのも凄いよね」
「メリルはもっと早く行けるって言ってたけどな」
「アタシ達は、もう少しゆっくりでいいよね?」
「まあな。さて、行くか」
留めてあったもう一台の車−ジョーの車だ−に乗り込んで
目指すはヤブ・スタニフラスのオフィスのあるホーキンス通り。
「・・・アタシだったら何分で行けるかな?」
「・・・頼むから普通に運転してくれ」
メリルに遅れること2分ほど。
運転の差を考えると、オレ達が現場につくのはタイムリミットぎりぎりのところか?
もっとも、現場に行った所で、その時点ではオレ達にはする事がない。
・・・ハズだった。
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現場に到着したのはタイムリミットまであと1分半、といったトコロ。
ZEROが戻るのを待っているメリルの車の横につける。
「首尾は?」
「それが・・・カードは予定よりかなり早くZEROに渡せたんだけど・・・」
「?じゃあ、問題ねえじゃねえか。何で浮かねえ顔してる?」
「だから、もう出てきてもいいハズだってのよ。なのに、まだ出てくる様子がない・・・」
「・・・トラブルか?」
「わかんない・・・呼び出してみようか?」
携帯を手にしてメリルと悩んでいると、突然呼び出しのメロディが鳴り出す。
「・・・出てみろ」
コクリ、と頷いて通話ボタンを押す。
「メリルよ」
『ああ、私だ。マディはもうそこに来ているかね?』
ひったくるようにメリルから電話を受け取る。
「オレだ。どうした、何があった?」
ZEROのしゃがれた声が意外なことを言ってきた。
『ちょっと予定変更だ。済まんがここまで上がってきてくれんかね?』
メリルやジョーは止めたが、オレは上に上がってみることにした。
ジョーが最後まで一緒に行こうとしたが
それを押しとどめてただ一人ZEROの待つオフィスへ向かう。
非常階段の鍵や警報が見事な手際で外されているのを確認しながら
オフィスのある8階にたどり着いた。
廊下に侵入してみると、ヤブ・スタニフラスのオフィスの前で
ZEROが腕組みをしながら待っていた。
「ZERO!もう時間がない、ずらかろうぜ!」
「いや・・・急ぐ必要はなくなったんだよマディ」
「なんで!?早くしねえとヤブの手下どもが・・・!」
「いや、誰も来ない」
「なんでそんなコトがわかるんだよ!?」
ZEROがゆっくりとオフィスのドアを指差す。
「ヤブ・スタニフラスは、ここにいるんだよ」
「・・・ナニィ!?」
「カード発行の信号が送られたとき、ヤブはこの上の階の別のオフィスにいたらしい」
「・・・なんてこった・・・じゃ、見つかっちまったのか?」
「ああ。ヤツはすぐに自分でここに降りてきたんだな。で、私と鉢合わせした」
「ヤツが手下を呼んでないってなんでわかる?」
「ここの電話線は警報と一緒に切ってある。持っていた携帯には発信履歴がなかった」
「ヤブは・・・その・・・殺っちまったのか?」
ZEROの表情がちょっと険しくなる。
「そうしても良かったが・・・それは私の主義に反する。縛り上げてはあるがね」
「だったら、なんでオレを呼んだんだ?サッサと金庫開けてずらかっちまえば・・・」
すると、ZEROがすっと右手を前に差し出した。
血がにじんでいる。
「間抜けな話だが、ヤブを殴り飛ばしたときに利き腕を傷めてしまったんだ」
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オフィスに入ると、ガムテープでグルグル巻きにされた太った中年男が
床に転がって唸り声を上げながらもがいていた。
直接会うのはこれが初めてだが、ヤブ・スタニフラスに間違いない。
「貴様ぁ!ただでは済まさんからなっ!!」
青痣のできた目(ZEROに殴られた跡だろう)でオレたちを睨みつけ
ちょび髭の下の分厚い唇から唾を飛ばして怒鳴り散らす。
ため息をついてZEROを見る。
「・・・アンタも運が悪いよな。なんだってコイツはこんな時間にオフィスにいたんだ?」
「俺は仕事熱心なんだ!お陰で貴様らを見つけられたぞ!」
「ああ、そうかい。お陰で縛り上げられてるじゃねえか」
「くっ・・・覚えてろよ、絶対に貴様らを逃がさんからな・・・」
ヤバイ。
顔見せちまったじゃねえか!
コイツは蛇みたいに執念深いんだっけ・・・
ZEROに耳打ちをする。
「・・・顔、見られちまったよな」
「ん?ああ、そうだな」
「・・・その・・・ガンマンを呼んだほうがいいか?」
ここで始末を付けちまわねえと、後々面倒になるだろう。
となりゃあ・・・
だが、ZEROはゆっくり首を横に振る。
「マディ、そんな必要はないよ。それより早く金庫を開けよう」
「いや・・・だってよ・・・」
「開けられるもんか!その金庫は特別製なんだ!貴様らみたいなチンピラに開けられっこないぞ!」
「・・・提案」
「なんだね?」
「とりあえず・・・コイツの口にもガムテープ貼っといたほうがよかぁねえか?」
オレの提案にいたずらっ子のようにZEROが笑う。
「そりゃあいいな。どうせならその憎ったらしいちょび髭にべったり貼ってやろう」
そして、ただうんうんと唸るだけになったヤブの目の前で
オレはあっさり金庫を開けて見せてやった。
ZEROがそっと手を差し伸べ、獲物を押し頂くように手に取る。
「さ、ずらかろうぜ・・・おい?」
「先に行っててくれ。もう少しコイツに用があるんだ。5分でいい」
「・・・そうか・・・じゃ、先に行くぜ。5分待って来なかったら・・・」
「そんなコトにはならんよ」
何故か自信たっぷりのZEROを残して、オレはまた非常階段を降りていった。
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車に戻ると、質問攻め。
「何があったの!?」
「ZEROは?どうしてまだ来ないの?」
「ダイヤは?ダイヤはどうしたの?」
「一度に喋るなっ!」
やれやれ・・・女3人寄れば、ってヤツか?
「ダイヤなら、オレが持ってる。トラブルは、オフィスにヤブ・スタニフラスが来ちまったことだ」
『えぇ〜っ!?』
「ZEROがぶん殴って縛り上げたから、手下どもが来る心配はない」
「なんだ・・・ソレを早く言ってよ・・・アタシエンジンかけそうになったわ・・・」
「あれ・・・じゃ、なんでマディを呼んだわけ?」
「ヤブをぶっ飛ばしたときに右手を痛めちまったんだと」
「ZEROは?なんでまだ戻らないの?」
「いや・・・なんかヤブの野郎にまだなんか用があるらしい。もう少し待とう」
「はあ・・・心配して損した」
だが、オレの心配はまだ消えない。
ヤブ・スタニフラスに顔を見られている。
ZEROは何とかするみたいなコトを言ってはいたが
ヤツの口を塞がない限り、安心してこの街では暮らせない。
・・・住み慣れたこの街ともオサラバするときが来たのか。
そんな感慨もジョーの声で消える。
「あっ、ZEROが出てきたよ!」
年齢を感じさせない速さでZEROが非常階段を駆け下りてくる。
そのままダッシュで車まで走ってきた。
「お待たせしたね。さ、行こうか」
「なあ・・・ヤブのヤツは・・・どうした」
「眠ってもらったよ」
「・・・殺ったのか?」
「いいや。だが、心配はいらんよ。ヤツは今夜のことは誰にも話さん」
「?」
「さあ、早く戻って祝杯をあげようじゃないか。そうだ、トニオも呼んでやろう」
「賛成!さ、マディも早く乗って!」
なにか釈然としないまま、こうして今夜の仕事は終わった。
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「これが・・・」
「すごい・・・こんなダイヤ初めて見た」
テーブルの上で燦然と輝く今夜の獲物、ヘルキュレス・ダイアモンド。
この美しい獲物に、オレ達はすっかり心を奪われていた。
「いったい・・・いくらぐらいになるんだろうね・・・」
「さて、どうだろうね。しかしどうだね、この輝きは・・・実に美しいじゃないか」
「ホント・・・綺麗・・・」
「じっと見ていると、まるで吸い込まれるような気がしてくるだろう?」
オレ達はただ黙ってZEROの言葉を聞いている・・・
「さあ、もっとよく見てごらん・・・見て・・・見て・・・」
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目が覚めると、皆テーブルに突っ伏してまだ眠っていた。
祝杯のシャンペンをつい飲みすぎちまったらしい。
とにかく、今夜の仕事は大成功だった。
ヤブ・スタニフラスのオフィスに忍び込み
見事に50万ドルという大金をせしめたのだ。
トニオを入れても、一人頭10万。
今、テーブルの上には獲物の札束が鎮座している。
よくもこれだけの仕事を、いつものメンバーだけでやってのけたもんだ。
オレもやればできるんだなぁ・・・
「ん・・・あ、アタシ寝ちゃってた・・・」
ジョーが目をこすりながら起きてきた。
「別に寝ててもいいんだぜ。一仕事終わって疲れてるんだし」
「一人10万かぁ・・・マディはなんに使う?・・・あ、メリルに借金の返済か」
「うお!忘れようとしてたのに!」
「アタシはねー、でっかいダイヤの指輪買うんだ」
・・・でっかい・・・ダイヤ?
何かがオレの心に引っかかる。
なんだ?オレは・・・今夜ナニを盗んだ?現金?そうだったか?
「でね、プレゼントするの。ほら、打ち合わせに使ったストリップバーにいた女の子でさ・・・」
・・・?打ち合わせにストリップバー?
そんな場所で打ち合わせを・・・したか。でもなんでストリップバー?誰が誘ったんだっけ・・・
「結構その気があるらしくてさぁ、名前がね、エリカちゃんってんだけど・・・」
・・・エリカ!?
誰だっけ・・・聞き覚えがあるぞ・・・何か・・・何か忘れてるぞオレは・・・
「・・・ねえ、聞いてる?アンタも早くメリルにお金返して借金ZEROに・・・」
「・・・やられたあぁっ!!」
「わ、ナニ!?」
ちっくしょおぉっ!!分け前もらえばそれでいいってもんじゃねえぞ!!
「ん〜・・うるさいな〜・・・あれ・・・ナニ怒ってんの・・・」
起きてきたメリルには答えず、オレはまだ日の昇らない街へと飛び出した。
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朝もやに煙る墓地の入り口で、オレはただ待っていた。
ここしかない。
ZEROは結局オレ達には自分の事は何一つ話していなかった。
ただ一つ、愛する女が眠る墓のある墓地の名前だけを除いて。
やがて、朝もやの中から一人の男が現れる。
「来ると思ったぜ」
これはハッタリ。ここしか当てがないんだからここで待ってるしかなかった。
「・・・術にかかったと思ったがね」
「誰も正体を知らない訳だ。金庫破りにして催眠術師とはな・・・」
「まあ、そうはいないだろうね」
「ヤブにも術をかけたんだな?だから顔を見られても平気だったんだな?」
「何故ここに?・・・分け前に不満でも?」
「そんなんじゃねえ!ただ・・・腹が立っただけだ」
「・・・一緒に墓参りでもするかね?」
そう言ってスタスタとZEROは歩いていく。
「ああ、付き合うぜ・・・とことんな」
歩きながらZEROが話す。
「まだZEROと呼ばれる前・・・仲間の裏切りにあってね。それから催眠術を使うようになった」
「寂しいじゃねえか、誰も自分を覚えてねえなんてさ」
「一番私を覚えていて欲しかった女は・・・私より先に逝ってしまった」
「エリカには使わなかったのか?」
「使った。だが、かからなかった。お互い惚れてしまっていたからね」
「じゃあ、オレもアンタに惚れてるわけだ。思い出せたんだからな」
「・・・そうかもな」
やがて一つの墓の前でZEROが立ち止まる。
墓石に手をかけ、なにやらこねまわしていると
ガコン!という音とともに墓石の一部がドアのように開いて、小さな四角い窪みが現れた。
ポケットに手を入れ、ZEROがヘルキュレスダイアモンドを取り出すと
その小さな窪みにそっと収める。
「もともと・・・エリカに贈るつもりだったんだ」
「そうか・・・いいのか、オレに見せて?」
「キミはこれをここから取ったりしない。だろう?」
「そりゃ・・・ちぇ、アンタって何でもお見通しだよな」
またガコンという音とともに扉が閉じ、傍目にはそこに何かあるようには見えなくなった。
「さて、どうすんだい?またオレに術をかけたいか?どうしても、ってんなら・・・いいぜ」
「いや・・・構わんよ。キミは口が固そうだしな」
「そうかい?・・・なあ、朝っぱらから飲める店があるけど今からどうだい?」
「いいね。8年越しの仕事がやっと片付いて、一杯やりたいところだったんだ」
「一杯といわず、とことんやろうぜ」
日が差し始めた墓地を肩を組んで鼻歌交じりで歩く二人の男。
他人が見たらどう思うか知れないが、オレは今気分がいい。
「伝説」と肩を組んで歩いてるんだぜ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・Fin・・・・・・・・・・・・・・・・・
いかがでしたか?ではまた!
もう一日遊んでいこう!![]()