第七日 「伝説の男」
中編
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「ヘルキュレス・ダイアモンド?」
「そう、それが今回の獲物だ」
ストリップ・バーの丸いテーブルで顔を付き合わせるようにして
ZEROから聞いた獲物はオレの予想外な品だった。
「いや、ちょっと待ってくれよ・・・確かそいつぁ・・・?」
「私が8年前に盗んだはず、というんだろう?」
「ああ、そう聞いてる。新聞にも出たし、仲間内でもアンタの仕業って・・・」
「確かに、銀行から盗み出す事には成功した。だが、その後奪われてしまったんだよ」
終始にこやかだったZEROの表情に怒りの色が浮かぶ。
「奪われた?誰に?」
「ヤブ・スタニフラスだ」
メリルとジョーの顔色が変わる。たぶんオレの顔色も変わっているだろう。
名前だけはZEROと同様、裏の世界じゃ知れ渡っているが
こちらはどう考えてもお近づきにはなりたくないタイプだ。
平たく言えばマフィアの幹部なのだが
どこからか泥棒稼業の噂話を聞きつけては
仕事の上前をはねていく。それも腕ずく、力ずくで。
ある意味、警察より質が悪いかもしれない。
「成功したって思ってたけど・・・分け前がなきゃ仲間だって黙ってないでしょ?」
「自腹を切ったんだ。つまらんプライドだがね」
「でも、奪うってどうやって?」
「ドライバーが一人で隠れ家までブツを運ぶ手はずになってたんだ。そこを狙われた」
ZEROの怒りの色が濃くなる。こめかみには血管が浮き出し
テーブルの上の拳が握りしめられる。
「その・・・ドライバーの人は・・・」
「殺されていたよ。ひどい死に様だった・・・多分口を割らせるために拷問を・・・」
握り締められた拳がブルブルと震える。
慌てたようにメリルが話を変えた。
「えっと・・・そのダイアモンドって、まだヤブが持ってるの?」
「そうらしい。私もつい最近情報を得たんだがね」
「なんで売りにださなかったのかしら?」
「奴は勲章のつもりらしい。この私から奪った戦利品だからね」
ZEROは苦虫を噛みつぶしたような顔をしていたが
やがて不適に二ヤリと笑った。
「ま、だからこそ今度の仕事を計画したんだ。まだ奴が持っているのなら、奪い返す」
「なるほど、しっぺ返ししてやろうってわけだな?」
オレも二ヤリと笑って返す。さすが、いい根性してるぜ。
「さて・・・獲物も相手もわかったと思うが・・・どうするかね?」
「どうするって?」
「相手が相手だ。一筋縄じゃいかんし、仕事の後もヤバイ目にあうかもしれん」
「そうだな・・・オレは構わないんだけど・・・ちょっと席外していいか?」
「構わんよ。よく相談してくれ」
メリルとジョーに目配せしてテーブルを離れる。
店の隅まで行くと、ついてきた二人を見る。
「さて、どうする?相手があのヤブ・スタニフラスとなるとかなりヤバイ目も覚悟しなきゃなんねえ」
「なぁに言ってんの!?アンタここまで話聞いて引き下がるっての?」
「見損なってもらっちゃ困るわよ。アンタが受けなくてもアタシはZEROに手ぇ貸すからね」
心配するまでのことはなかった。
コイツラ妙に義理人情とかってのに篤いんだよな・・・
「じゃ、話受けていいんだな?」
バンッ!
「っ痛ぇっ!?」
ジョーの手がオレの背中をしこたま引っ叩いた。
メリルが腕組みをして呆れたような顔でオレを見る。
「くどいよ、マディ。ホラ、さっさとテーブルに戻って話の続きを聞こうじゃないさ」
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「言っておくが、これはそんなに簡単な仕事じゃない。チームを二つに分けてやらにゃならん」
ZEROが説明を始めたのっけから疑問にぶつかる。
「二つに?狙うブツは一つなのに?」
「そうだ。ヤブはブツを自宅ではなくオフィスの金庫にしまっているらしい」
「じゃあ、そのオフィスに忍び込むだけ・・・じゃないの?」
メリルの横槍にZEROがゆっくりと首を横に振る。
「残念ながら。オフィスの金庫は最新式の電子ロックでワシの手には負えん。マディ君でもな」
「じゃあ、ウチのハッカーがなんとかできるんじゃないかな?」
ジョーが尋ねると、今度はZEROはニヤリと笑った。
「確かにハッカーも必要だ。だがそれはヤブの自宅で働いてもらう」
「う〜ん・・・よくわかんねえな。どういうことだ?」
「オフィスの金庫を開けるには、パスワードと鍵が必要だ。だがパスワードは毎日ランダムに変わる。
しかもパスワードは暗号化されて磁気カ−ドに記録されたものなんだ。
そのパスワードを決定し、カードに記録できるのはヤブの自宅のコンピューターだけなのさ。
だからそれをハッキングする。ここで自宅にハッカーが必要になる。
オフィスの金庫はただの端末でそこからハッキングはできないからこれしか手はない。
自宅のコンピューターも金庫に隠してあるから、ここで一人金庫破りが必要だ。
ヤツの自宅にはボディガードなんぞもいるから、念のため護衛役もいるだろう。
パスワードを記録したカードを手に入れたら、大急ぎでドライバーがカードをオフィスまで運ぶ。
時間に余裕がないから、ここで腕のいいドライバーが必要になる。
後はオフィスで待機しているもう一人の金庫破りがカードを使い、錠前を破る。どうだね?」
ひゅう。すげえや。よく調べたもんだ。流石は、ってとこか。
「でも・・・そんなに急いでカードだけ運んだり、あらかじめオフィスに待機してる必要ってあるの?」
またもやメリルが口を挟む。
「ヤブは用心深い男だ。パスワードを発行するたびにヤツの携帯に着信するようにしているらしい」
「それって・・・解除できないかな?」
「難しいな・・・コンピューターを隠した金庫そのものをぶっ壊すしかない」
「じゃ・・・すぐにばれちゃうじゃない」
「だがヤツもまさか警察には通報はせんだろう。自分の部下をオフィスにまわすのに15分はかかると見ている」
「15分・・・時間との勝負ってわけだ」
「そう、その通りだ。パスワードを発行してから15分以内に全てを終わらせねばならん」
「コレは、アタシの腕の見せ所ね!」
メリルがテーブルの上で拳を握り締める。
「金庫が二つか・・・オレはどっちを受け持てばいい?」
「自宅の方を頼んでいいかな?なるべく早くヘルキュレス・ダイアモンドにお目にかかりたいもんでね」
ZEROの顔に悪戯っ子のような笑いが広がる。
「さあ、もう少し詳しく話を詰めようじゃないか・・・ハッカーの娘さんはどうしたね?連れてないようだが?」
「あ、ヤサに待たせてるんだけど・・・ねえ、なんなら今からアタシ達のヤサに来ない?」
「そうね、ここは煩いし・・・そうだ、トニオも呼んでさ、どう?」
「おいおい、パーティ始めるわけじゃないんだぜ?」
まったく、ウチの連中ときたら・・・
ま、いいか。
「伝説」が我が家に来るっての悪くないよな。
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話が全て終わって、女たちが皆自室に戻り、トニオも家に帰って
リビングにはオレとZEROだけが残った。
「ちょっと聞いてもいいかな?」
「なんだね?」
「なんで、今更8年前のコトを蒸し返したりする気になったんだ?」
「・・・いかんかね?」
「そりゃ、引退前の大仕事にケチがついたんじゃ悔しいだろうけどさ」
「言っただろ、ワシのつまらんプライドさ」
「それだけ?なんか・・・執念みたいなの感じるんだけどさ」
「・・・そうだな。マディ、もしメリルが殺されたりしたらどうする?」
「はあ?なんだよ急に」
「仕事の上がりを運んでいるメリルが、何者かに殺され上がりが奪われたらキミならどうする?」
「そりゃ・・・決まってるさ。何処のどいつがやったか突き止めて・・・」
そうか。そうだったんだな・・・
「わかってもらえたかな?」
「ああ・・・8年は長かったろうな」
「まったくだ・・・何時まで待たせる、とあの世からエリカがせっついてかなわなかったよ」
「エリカ、か・・・アンタが惚れるんじゃよっぽどいい女だったんだろうな」
「ああ・・・だが、ワシはその惚れた女を守ってやることが出来なかった・・・マディ」
「なんだ?」
「メリルは・・・いや、いい。お前サンがたのことだからな」
「・・・上手くいくといいな」
「上手くいくさ」
空いていた二つのグラスにまた酒を注ぐ。
チン、と高い音を立てて二つのグラスが触れ合うと、二人で乾杯をした。
「エリカに」
「メリルに」
・・・・・・・・・・・・・・・・・Fin・・・・・・・・・・・・・・・・・
いかがでしたか?ではまた!