第六日 「ツキ」
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「あんまり気乗りしねえ仕事だよなぁ」
ぼやくオレにメリルが釘を刺す。
「贅沢言っちゃダメだよマディ。わざわざトニオが回してくれたんでしょ?」
「その『トニオ』からってのがなあ・・・ここんとこアイツの回してくる仕事で上手くいった試しがねえ」
「ソレはアンタがドジ踏んだからじゃないの?」
ジョーが混ぜっ返す。
「馬鹿言え。ただちょっとばかしツキがなかっただけだ」
「だったらトニオのせいにしちゃ可哀想じゃない。それに、今度はツキに恵まれるかもよ?」
「そうそう。なんたって幸運の女神が二人もついてるんだからね」
二人ともオレには貧乏神にしか思えねえ・・・
なんてコト言ったら命が危ないから言わないが。
「・・・だといいがな。大体、請負仕事ってのは好きじゃねえんだよ」
「そういうもんかな。アタシは請負仕事ばっかりだったから気にならないね」
「そりゃそうだ。自分で勝手に仕事してるガンマンがいたらおっかなくてしょうがねえや」
「お喋りはそれぐらいにしたほうがいいわよ」
メリルが車のスピードを落とし始める。
「次のブロック」
「やれやれ、もう着いちまったか・・・しょうがねえ、やるか」
「ちょっとぉ、もっとヤル気だしてよ。コッチまで萎えちゃうわ」
「ジョーだって最初は嫌がってたじゃねえかよ」
「そりゃあ・・・あんまりいいカンジの仕事じゃないもの」
「そうよねえ・・・金庫の中身をすり返るだけって言っても・・・」
「遺言状だもんねえ・・・」
3人揃ってため息をつく頃には、目的の屋敷の裏手に車が滑り込んでいた。
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「でっかい屋敷。玄関にたどり着くだけでも1時間はかかっちゃいそうね」
「そんなにノンビリはしてらんねーぞ」
門のロックは既に外してあるが、庭には無数の警報センサーが張り巡らしてあるらしい。
携帯電話でK.Mを呼び出す。
『もしもし、マディ?コッチは準備できてるよ』
「じゃ、早速始めてくれ」
『OK・・・すぐ片付けるからそのまま待ってて』
カタカタとキーボードを叩く音だけが聞こえていたが、やがてK.Mが話し始める。
『ゴメン、ちょっと手間取った』
「もういいのか?」
『うん。いい?ヨーイドンできっかり2分だけセンサーを眠らせるから、時間内に玄関までたどり着いて』
「わかった」
メリルとジョーに目配せをしてから、また携帯に話し掛ける。
「よし、やれ!」
『ヨーイ、ドン!』
合図とともにゲートを少しだけ開け、するりと体を滑り込ませるとそのまま玄関までダッシュ!
息を切らしてドアの前に飛び込むと、続いてメリルとジョーが走りこんでくる。
時計を見れば・・・ただいまの記録、1分40秒ってトコか。どうやら、セーフだな。
携帯は繋いだままだった。
「どうだ?」
『セーフだよ・・・今センサー回復するトコ』
「サンキュー。出るときまた頼むからな」
『了解。じゃ、気をつけてね』
さあ、ここからが腕の見せ所ってわけだ。
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「じゃ、アタシはここで待機ね」
「おう、頼んだぜ」
廊下にジョーを見張りで残し、メリルと二人で金庫のあるはずの部屋に入る。
「ねえ、やっぱりアタシよりジョーにやってもらったほうがいいんじゃない?」
「なんで」
「もう・・・アタシがそんなに手先が器用じゃないのわかってるでしょ?」
「ただ合鍵を回すだけなんだからオマエでも大丈夫だよ。タイミングさえ合わせてくれりゃあな」
今度のヤツは、まず最初に離れた2ヶ所のキーを同時に操作しないと開かないタイプだった。
おそらくカギの一つは弁護士が、もう一つは立会人が持ってるんだろう。
改ざんされたり盗み見されないようにとの配慮ってコトだな。
専用の合金で手早く合鍵を作ると、メリルに一方を渡す。
「じゃ、いくぞ・・・1、2の、3!」
カチャ
う〜ん、いつ聞いてもいい音だぜ!
2つの鍵穴の真中の扉を開けると、さらに小さなダイヤル式の金庫が収まっていた。
多分、こいつのナンバーはまた別のヤツが知ってるんだろうな。ご苦労なこった。
ま、この程度なら軽いもんだ。さっさと開けちまおう・・・
「マディ!」
「うわ!驚かすなよジョー・・・って見張りはどうしたんだよ!」
「何か・・・何か来たんだよ!」
ジョーの顔からはすっかり血の気が失せていた。
コイツがここまで取り乱すとは・・・何があった?
「なによ、何かって・・・わあ!」
ソレは音もなく部屋に入ってきていた。ドアも開けずに。
薄ぼんやりと光る、半分透き通ったような女・・・
「出・・・」
「きゃ・・・」
叫びだしそうになった二人の口を手で塞ぐ。
騒ぎ出したいのはコッチだって。
冗談じゃねえや、こんなのが出るなんて話は聞いてねえぞ!
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「相手が幽霊なら別に逮捕もされねえし証言台に立たれもしねえ!このまま片付けるぞ!」
強がってはみたが、膝は笑うし手は震えるし。
ちょっと落ち着いたほうが、と思っていたらメリルが耳打ちしてきた。
「ねえ・・・この人・・・見覚えない?」
「何?オレは幽霊に知り合いなんぞ・・・」
いや、言われてみれば見覚えがあるような・・・
「ああ!この遺言状書いたの、この人じゃない?」
「そうよ!トニオに写真みせてもらったじゃない!」
「シーッ!お前ら声でかすぎ!」
だが、確かにその通りだった。
若くして多額の遺産を引き継いだが、自分も病に落ちてそのままおっ死んじまったんだっけ。
ついてねえ女だよな、と思ったらなんだか同情心がわいてきちまった。
「なあ、悪いけどコレがオレの仕事なんだよ。邪魔しねえでくんねえかな?」
幽霊女の顔が悲しげに歪む。
両手を胸の前で組んで、顔を左右にゆっくりと振る。
「止めてほしいってか?」
「そりゃそうだよねえ。せっかく書いた遺言状をすり返られちゃイヤだよねえ」
よく見ると、泣いてやがる。
あ〜〜〜っくそっ!!
「・・・帰るか」
「そうね・・・」
幽霊女の顔が、幽霊のクセにパッと明るくなる。
だがまだ消えない。
「なあ、もう諦めたからさっさと消えてくれよ!」
今度はニコニコしながら手招きをしてやがる。
「・・・付いて来い・・・ってこと、かな?」
「そうらしいな」
「・・・行くの?」
「祟られたりしてもヤだしなぁ・・・しょうがねえ、オレ一人で行くから先に玄関まで戻っててくれ」
そう言って、オレ一人でフワフワ漂う幽霊女の後を付いていくことにした。
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案内されたのは、屋敷の端の小部屋だった。
使用人とかが使う部屋だろう。
幽霊女が壁の絵を指差す。
「ん・・・」
ピンと来た。廊下の突き当たりまでの距離と、部屋の壁までの距離が微妙にずれてたからな。
「隠し金庫、だな?」
こくり、と頷く。
「いいのか?」
また、こくり。
「じゃ、遠慮なく頂いてくぜ」
絵を外すと、小さな金庫が現れた。
急いで開けると、ネックレスやらブローチやら、結構値打ち物が入っていた。
ふと思いついて、ネックレスの一つを女の首筋に掲げてみる。
「よく似合うぜ・・・ホントにいいのか?」
驚いたような表情だったが、やがてはにかむような表情で、こくりとまた頷く。
「そっか・・・ありがとな。じゃ、いくぜ」
すーっと女の姿が消えていく。
ポケットに獲物を押し込むと、二人が待つ玄関まで走った。
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「お帰り!どうだった、首尾は?」
部屋に戻ると、K.Mが待ちわびたようにドアで待っていた。
「あ〜・・・本来の仕事は失敗したが、思わぬ副収入があったので、まあよしとしよう」
「ナニそれ・・・どうかしたの?みんな顔色悪いよ?」
「そうか?」
「うん。幽霊でも見たみたい」
「・・・なんでわかった・・・」
「あれ?後ろの人、誰?」
『!!!』(×3)
「・・・マディ、振り向いて見てよ」
「やだよ。オマエ見てみればいいだろ」
「ねえ、誰なのよう、その人!」
コイツも、ココに居座るつもりなのかなぁ・・・
ツキはツキでも幽霊ツキかよ・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・Fin・・・・・・・・・・・・・・・・・
いかがでしたか?ではまた!