「瞳の中の竜」

第十九話

昼時でごった返す食堂の片隅で
フラク達4人はため息をつきながら目の前の料理をつついていた。
思うように目的の人物を見つけることができない苛立ちのせいで
あまり食が進まないようだった。
・・・1名を除いて。
「なかなかみつかりませんねぇ」
バクバクバク
「クラウスさん、今までで街のどれくらいを探したのかな?」
ムシャムシャムシャ
「ざっと10分の1ってとこかな。狭いようでここも結構広いからよ」
グビグビグビ
「10分の1・・・まだまだですね。本当にみつかるのでしょうか」
モグモグモグ
「・・・セピア」
ガツガツガツ
「・・・セピアってば!」「セピア、聞いてるの!?」「姐さんってばよ!」
「ふぐ?ふぉっふぉふぁっへ・・・」
頬張ったものをエールで飲み下してから
セピアが自分を見つめる3つの視線を見回す。
「えっと・・・おかわりしてもいい?」
「・・・好きなだけ食べていいから、ちょっと話聞いてよ」
「聞いてるよ、ちゃんと?」
「じゃあ、今まででこの街のどれくらいを探したか覚えてる?」
「え?えっと・・・半分くらい?」
アキがため息をつきながら冷ややかな目でセピアを見る。
「半分・・・だったら良かったのですけど・・・」
「・・・ダメだこの姐さん」
クラウスの視線もどこか冷たい。
フラクもちょっと怒ったようにセピアを見て
「セピア・・・まだ10分の1ぐらいしか探せてないんだよ」
皆の白い視線が集中するのを感じてセピアが顔を赤くする。
「な・・・なんだよ!?いいだろ、飯ぐらい落ち着いてゆっくり食わせてくれよ!」
「食べながらでも構いませんからせめて話は聞いていてください」
冷淡な口調でアキがたしなめる。
「・・・はぁい」
「それで、どうしましょう?このまま今のやり方を続けて、果たして問題の人物を
 見つけられるものでしょうか?」
「え?大変だけど、今までやったことを後9回繰り返せば・・・いいんじゃないの?」
「そいつぁどうかな・・・相手は人間なんだぜ?いつまでも一つ所にじっとしてるとは限らないだろ?」
「あっ・・・そうか・・・」
「こちらが探しに行く前に別の場所に移動されたら、いつまでたっても見つかりませんね」
「その心配はないんじゃないの?」
「えっ!?」
他の3人は意見の内容よりも
それまで食べることに集中していたセピアが突然意見を出してきたことに驚いていた。
ふとセピアの前の皿をアキが見る。
「・・・食べ終わったのね」
「とにかく、心配ないって!今まで隠れていたヤツなんだろ?普通なら隠れているヤツは
 うろちょろ動き回らないものさ」
「なるほど・・・それもそうか」
「とは言っても、今のやり方じゃまだるっこしいのは確かだね」
そういってセピアがフラクを見てニヤリと笑う。
「・・・何か考えがあるみたいですね」
「・・・嫌な予感がするんだけど」

街の入り口近い広場で、フラクは困惑していた。
4人の前には1頭の馬。
「無理だよ、やっぱり・・・」
「だから、アタシが一緒に乗ってやるって!アンタは落っこちないようにしがみついてればいいんだよ」
「なあ、乗るなら早いとこしてくれよ。コイツを借りるのは大変だったんだぜ!」
「わかってるって。さ、アタシが押し上げてやるからさっさと乗りな」
「大丈夫かなぁ・・・」
セピアの考えはこうだった。
半日かけて街の10分の1しか回れないのは移動速度が遅いからで
移動速度を上げればもっと短時間で街を全部回れるはずだ。
とはいえ走り回るのでは自分はともかくフラクの体力が持たない。
で、馬を使おうということになったのだった。
「それにしても・・・本当に馬で城内を回れるなんて思いませんでしたね」
アキが感心したようにクラウスを見る。
貴重な財産である馬をよそ者のフラクたちがそう簡単に借りられるわけはないのだが
「組合」の幹部であるクラウスの口利きがあったおかげですんなりと借りることができた。
さらに、馬などの大型の家畜は本来は城壁の中には入れないところを
代官の伝令という名目で城内で走らせることにしていた。
こんな無理を押し通してしまえるあたり、クラウスは存外大物なのかもしれないとアキは考えていた。
「だから、苦労したんだって。しかし・・・大丈夫なのかね?」
クラウスが心配そうに馬上の二人を見上げる。
「う、うわ・・・た、高いなぁ・・・」
当然、フラクは馬になど乗ったことがない。
押し上げられたものの、その高さに身がすくみ
鞍にしがみついて固まってしまう。
「よっ・・・と。ほら、ちょっと前にずれてよ。アタシが乗れないじゃないか」
ひょい、と体を持ち上げたセピアがフラクを鞍の前壺に押しやり
その後ろに尻を押し込む。
当然、二人はピッタリと体をくっつけることになる。
「セピア・・・ちょっと離れてよ」
フラクが顔を赤らめて背中のセピアにちょっと顔を向ける。
鎧を脱いで薄物しかまとっていないセピアの胸が
ぎゅっとフラクの背中に押しつけられているのだ。
「しょうがないだろ、狭いんだから・・・さて、行くとするか。アキとクラウスはここで待ってて」
「フラク・・・気をつけてくださいね」
「う、うん・・・頑張る」
「姐さん、わかってるとは思うが、あんまりとばさんでくれよ?」
「わかってるって。だく足ぐらいにしておくさ。じゃ、行くよ!」
「わ・・わわっ!?」
パッカパッカと進んでいく馬上の二人を見送りながら
残されたアキとクラウスは同時に呟いた。
「大丈夫かなぁ・・・」

「む・・・」
魔術師は引き続き「魔法の目」でフラクたちの様子を監視していたのだが
一行が二手に別れたことで、どちらの監視を続けるか一瞬躊躇する。
馬上には赤鬼と見習いらしい魔術師。
三つ手と組合の幹部はまだその場に残っている。
どちらがより脅威になるかは判断に苦しむが
自分を発見する手立てを持っているのは魔術師のほうだ。
考えた結果、この魔術師に先に消えてもらうことにした。
組合のほうはあの男が何とかするだろう。
赤鬼や三つ手はその後でゆっくり片付ければいい。
そろそろあの連中も来る頃だ。
だが。
一つ、女魔術師の心に引っかかっていた。
相手方の魔術師の顔がちら、と見えたとき
光線の加減のせいか、その目の色が金色に輝いていたことが。
(まさか、な)
疑念を振り払うように立ち上がり、部屋を出る。
久しぶりの戸外だった。

「ねー、まーだ見つからないのかーい!?」
「今のところはー!」
フラクとセピアは大きな街路を一本はずれ
裏通りの探索に入っていた。
「でもやっぱり早いねー。これならすぐにこの街を回れそうだよ」
「見て回るのが目的じゃないんだからね。潜んでる魔術師を見つけるの、忘れないでよ!」
「わかってるってば!まったく、そんな・・・あ!」
「どうした?」
「右の方から、魔力を感じるよ!」
「右だね?」
馬首を巡らせてさらに狭い路地へと駒を進めるが
「あれ?今度は左!」
「ちょっとぉ!ホントに魔力感じてるの!?」
「それは間違いないけど・・・動いてるんだよ、相手が!」
「なぁる・・・どうやら、見つけたみたいだね・・・それっ!」
セピアが馬を急がせて曲がった先は、路地の行き止まりだった。
「あれ?行き止まりじゃないか」
「待って!あそこに誰かいる!」
「ああ・・・あいつがお目当ての魔術師らしいね」
行き止まりの奥、建物の陰になった所に立つ黒いローブの人影。
「どうするの?」
「・・・とりあえず、アタシが声かけるから」
セピアが先に馬を降り、フラクの手を取って降ろしてやると
「ねえ、ちょいとアンタ!組合から頼まれてアンタのこと探してたんだ。
 話を聞きたいんで、一緒に来てくれるかい?」
魔術師は振り返り、二人を一瞥すると
「断る。同行する気はない」
「じゃあ、ここででもいいからちょっと話をさせなよ」
「それも断る」
「なぁんだよ、話ぐらいいいだろ!?」
「死にいくものに聞かせる話などない。お前たちはこの場所同様、もう行き止まりだ」
その言葉を合図にしたかのように
フラクたちの背後から十数人の男たちが陰から湧き出るように姿を現した。
「ち・・・!気づいてて誘い込んだってわけか」
男たちの中の頭目らしいものがニヤニヤ笑いながら腰の短剣を抜き
「今更それがわかったところでしかたねえだろ?」
他の男たちも手に一斉に武器を構え、フラクたちを取り囲み始める。
「フラク!アタシから離れるんじゃないよ!」
セピアも腰の長剣を抜き放ち、背中にフラクをかばうように立つ。
「う、うん!」
「へっ、そんなお荷物がいるんじゃ、一人っきりよりなお悪いなぁ、赤鬼さんよ?」
「くっ・・・」
まずいことになった、とセピアが唇を噛む。
自分一人ならこの程度の囲みは抜けられなくもないが
フラクを守りながらとなると自信がなかった。
(結構・・・やばいかも、ね・・・)

ぐるぐると回りながら長い時間セピアの正面に一人が立たないようにして
そしてじりじりと包囲の輪がせばまっていく。
(くっそー・・・慣れてやがんな)
そのときだった。
「どうしたんですかー?」
路地の曲がり角から響くアキの声。
「アキ!?」「アキさん!?」
「三つ手!?どうしてここに!?」
はぁはぁと息を切らしながら
取り囲んだ男たちのすぐ後ろまで走ってくる。
「二人だけでは心配だったので、後から追いかけてきたのです。目立っていたおかげで
 足取りはすぐに掴めましたからね・・・それで、これってどういう状況なんですか?」
「あー・・・例の魔術師を見つけたんだけどね」
「見つけた、っていうより、誘い込まれちゃったみたい」
「どうもあちこち嗅ぎ回られるのはお気に召さないらしくてね」
「まあ。それで皆さん、こんなに剣呑な雰囲気なのですね。でもよく話し合えば・・・」
「アキさん、急いでクラウスさんを呼んできて!」
「おっと、そいつはさせねえよ!」
二人を取り囲んでいる輪の一部が崩れ
アキをもその輪の中に取り込む。
「あーあ・・・なぁんでさっさと逃げないんだよ!?」
「あら。なんで逃げないといけないの?」
「よく見ろ!話し合いって雰囲気かこれが!?」
「・・・あら。随分、話がこじれてしまったようですね」
「あーもう!とにかく、アタシの後ろに!」
「ご心配なく。降りかかる火の粉を払う術なら、私にもあります」
そう言って、セピアに並ぶように立つとアキがすっと両手を前に構える。
「・・・拳法?」
「まあ、そんなところです」
「あのさぁ・・・相手は光り物出してるんだよ?」
「もう見えています」
「やれやれ・・・無理だけはしないどくれよ?」
「セピアこそ、ね」
「ふん・・・所詮女二人にガキ一人。なぶり殺しにしてやれ!」
男の声が合図になったように
じりじりと3人を取り囲む輪が小さくなり始めたとき
不意に狭い路地に女の声が響いた。
「おーっとぉ、最初の勘定が間違ってるねぇ、スティック」

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