「分岐点」

第五話

大型トレーラー3台に囲まれて、最早抜け出すことはできそうにない。
このままでは車を無理やり止められて引きずり出されるのがオチだ。
次のカーブが・・・たぶん最後のチャンス。
「レイ!しっかりつかまっててよ!」
今は時速約40マイル。これ以上速度を落とされたら上手くいかない。
前のトレーラーが速度を落とすよりも早く・・・
「いくわよっ!」
アタシは覚えていた。
今日まで何度も通ったカーブの途中。
ガードレールが一箇所、継ぎ目が広がっているのを。
そこ目掛けてムスタングを突っ込ませる!
強い衝撃。だがなんとかガードレールの隙間をぶち抜いた。
舗装路を飛び出して、荒れた土地を突っ走る。
巻き起こる砂埃で前はよく見えないし
振動に何度もハンドルを取られそうになる。
ガードレールと衝突したせいか、それともこの荒地を走っているせいか
ムスタングのエンジンが悲鳴をあげ始める。
もう少し・・・もう少しだけ走って!
だが願いは空しく、ボンネットから白い煙を上げて
ムスタングは止まってしまった。
道から外れて、まだ100ヤードも走っていない。
トレーラーの連中も車を止めていた。
こちらが止まったのを見て、作業服姿の男たちが降りてきた。
1、2、3・・・6人。
全員、SMGで武装している。
「ステラさん!早く降りて逃げよう!」
「・・・逃げる?いいえ、逃げないわ」
「ステラさん!?」
「レイ、あなたはエンジンをかけつづけて。アタシはお客さんの相手をするわ」
「無茶だよ!相手は6人いるよ!?」
「大丈夫よ・・・レイ?」
外に出ようとするアタシの手を、レイが握って離さない。
「ダメだ・・・ダメだよ・・・ボクが行くから・・・奴らの狙いはボクなんだから」
「レイ・・・早くしないと奴らが来ちゃうわ」
そっとレイの手を振り解く。
「大丈夫、アタシを信じて」
そして、短いキス。でも、今はコレで充分。
もうなにも怖いものなどない。

車からアタシが飛び出すのを見て
お客さんたちが散開する。
動きを見て、どれがチームの頭かを瞬時に判断する。
狙って、撃つ。
頭をはじけ飛ばして男が倒れる。
案の定、相手方に混乱が訪れる。
一瞬の空白の後に、SMGの掃射があたりを見舞うがもう遅い。
アタシはすでに遮蔽物に身を隠した後。
コレで少しは時間を稼げたはず。
レイは相変わらずエンジンと格闘してるようだ。
キュルキュルキュル・・・
ガオン!
突然、エンジンが咆哮をあげる。
「やった!かかったよ!早く乗って!」
「チョッと待って!エンジンの回転を上げてみて!」
ガラガラガラ・・・
生き返ったかもしれないが瀕死の状態だ。
1気筒・・・いや、2気筒ぐらい死んでる感じだ。
走れるだけでは駄目なのだ。
あのトレーラーを、振り切れるスピードが出せなければ。
そこで気がついた。
なんだ、ちょうどいいじゃない。
おあつらえ向きってのはこのことね。

「レイ、運転できるわね?」
「え・・・多分大丈夫だけど・・・」
「じゃあ、早く行って!」
「な・・・何言ってるんだよ!?ステラさんは!?」
「アナタ一人で行くの!アタシはここで奴らを食い止めるわ!」
「どうして!?一緒に逃げようよ!」
「その車じゃ、もうスピードが出ないわ。すぐに追いつかれて、また同じ事の繰り返し」
「だったらボク一人で逃げても同じじゃないか!」
「違うわ。アタシがここで、奴らを足止めする。その間にレイは逃げて」
「・・・いやだ・・・いやだよっ!」
「レイ・・・このままここに二人残っていたら、いつかやられるわ。でもアナタ一人なら・・・」
「ボク一人で助かりたくなんかないっ!」
「大丈夫よ。脱出できたら助けを呼んできてくれればいいの。それまでは持ちこたえるから」
「・・・助け?」
「そうよ。部屋に戻れば、アタシの仲間がいるわ。彼らに応援に来てもらうの」
「・・・ホントに、大丈夫なの?それで・・・二人助かるの?」
「アタシもアナタも助かるにはそれしかないの。アタシを・・・守ってくれるんでしょ?」
「・・・わかった・・・無理しないでね」
「大丈夫よ。いざとなったら逃げるからね」
「じゃ、行くよっ!」
車が奴らを迂回するように走り出す。
そう、それでいいの。
アナタはアナタの道を行きなさい。
ここが、アタシとアナタの分かれ道。
走り出すムスタングを見て奴らもトレーラーに戻ろうとする。
行かせるものか。
レイは、戻っていくんだ。邪魔なんか、させない!
飛び出して、奴ら目掛け撃ちまくる。
アタシが残っていることに気づいて、反撃がくる。
よけない。
よける必要なんて、ない。
レイは自分の道に戻っていった。
アタシの道は・・・
もう、何処にも続いていない。ここが終着点。
アタシがファミリーにいれば、レイは必ず引き込まれてしまう。
でも、アタシはファミリーから抜けることはできない。
あちらにも、こちらにも、もうアタシがいられる場所はないのだ。
だから、ここがアタシの最後の場所。
さあ、もう考えるのはやめよう。
ただ、相手を狙って、撃つ。
肩に一発もらう。反動で倒される。でも不思議と痛みはない。
すぐに起き上がって、今撃った奴に撃ちかえす。
弾けるように、相手が倒れる。
両足を踏ん張って、的が遮蔽物から顔を出すのを待つ。
奴らが叫ぶ。
「諦めろ、ジェーン・ドゥ!勝ち目はないぞ!」
思わずカッとなる。
ジェーン・ドゥ。名前のないアタシの、ファミリーでの呼び名。
でも、こう呼ばれてこんなに腹が立ったのは初めてだ。
「アタシの名前はっ!ステラ・ロバーツ!」
一歩一歩、奴らのほうに近づいていく。
時々、奴らが顔を出して撃ってくる。
が、弾が当たろうとどうしようと知ったことか。
ただ、奴らを的にアタシは撃つだけ。
的を狙って、撃つ。狙って、撃つ。撃つ。狙って・・・

目が覚めると、知らない部屋のベッドで寝ていた。
肩やら足やら、体中が包帯でグルグル巻き。
「よう、目が覚めたか」
いつもの連絡員の男が部屋に入ってきた。
「ここはどこ?」
「俺のセーフハウス。安心しろ、俺しか知らん」
「レイは?レイは無事?」
「ああ、俺たちがちゃんと保護した。大変だったんだぜ、戻るって言って聞かなくてさぁ」
「アナタが・・・アタシを助けたの?」
「まあな。6人相手とは随分無茶したな」
「・・・なんで・・・助けたりなんかするのよ」
「・・・お前、死のうとしただろ。あの坊やのためにか?」
「・・・そうよ」
「上にはな、お前は死んだって言っといた」
「・・・え?」
「抜けたいんだろ?ボスも死人は探さんよ」
「・・・どうして?バレたらタダじゃすまないわよ?」
「・・・罪滅ぼしってとこかな」
「何よそれ」
「今まで黙ってたけどな、お前を拾ってきて仕込んでたのは、俺の親父なんだ」
「え・・・そうなの?」
「親父は俺に『素質』がないって思ったらしくてな。どっかからガキを拾ってきて仕込んでた。
わかるか?お前は・・・妹みたいなもんだ。俺の身代わりにされてた、な」
照れ隠しだろうか、話しながら急に背を向ける。
「いつか・・・借りを返そうと思ってた。今がいい機会だ」
「別にアナタに貸しなんてないわ・・・でも・・・ありがとう」
「ここでゆっくり、傷を治せ。治ったら、しばらくの間どこか・・・遠くに行くんだな」
「うん・・・ねえ、借りがあると思ってるんなら、一つ頼まれてよ」

「もう行くのか?」
「頼んでたモノが貰えればね」
「ほらっ。まったく、苦労したぜ」
渡されたのは、免許証とかクレジットカードとか書類もろもろ。
「今度のは、ただ見せるためのじゃないぞ。ハッカーを雇ってまで作ったIDだからな」
ざっと書類に目を通す。
「口座には大して入ってないからな。無駄遣いすんなよ」
「これ、なんだか冴えない経歴ね」
「贅沢言うな。だいたい、名前を指定するなんて無理な注文聞いてるんだぞ」
「この名前じゃなきゃダメなの!」
アタシが欲しかったモノ。
本当の名前。
愛する人が呼んでくれる名前。
さあ、しばらくどこかでほとぼりを冷まそう。
アタシの道は、まだ続いているらしい。
ちょっと今までとは違う道みたいだけど、そのうち慣れるだろう。
そして・・・
一度分かれた道も、そのうちまた出会うこともあるだろう。
しばらく我慢してね、レイ。
「なあ、そんなにいい名前か?ステラ・ロバーツって」
「そうよ!」

〜END〜

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