竜頭(リューズ)
時計は、午前0時を回っていた。
しんしんと降り続く雪は、あたりをうっすらと染めている。
バレンタインの夜、あたりはこの時間も甘い空気が漂っている。
一人、家路につくCOYOTE。
「たく、こんな日に残業なんか・・・」
といっても、空のポケットが虚しいだけ。
「はあああ〜・・・」
吐くため息が白い。
”次の角曲がったら、家だ・・・”
ポケットに手をつっこんだまま、手探りで鍵を掴む。
と、家の前に、誰かがいた。
白い傘とおそろいの、ショートブーツ。
薄桃色のゆったりしたコート。
振り向いた女の子の顔は、見覚えがあった。
よく遊びに行ってる雪風艦長のとこの・・・
「…香椎…さん?」
「こんばんわ。」
嬉しそうに、笑顔を向けてくれる彼女。
「どうしたの?こんな時間に…」
答えの代わりに、彼女が両手で差し出したもの。
あかいリボンのハートの包み…
「きょ、今日、バレンタインデイですから…
どうしても、このチョコ、お渡ししたかったんです。
いつも、お越しいただいてる貴方に、感謝の気持ちをこめて作ったんです・・・」
それで、今まで…
「あ、ありがとう・・・でも、もう15日…」
しまった。余計なことを・・・
だけど、彼女は悪戯っぽく微笑んで。
「まだ、5分、ありますよ。ほら・・・」
そう言って、彼女は腕時計の小さな文字盤を見せる。
確かに。
時間は11時55分だった。
だけど。
時計の針は、止まっていた。
…あたりまえだ。
竜頭が引かれていたのだから…
「ね?まだ、14日でしょう・・・」
彼女の気持ちがいじらしくて、じ〜ん、とくる。
「有難う…ありがたく、ご馳走になるよ・・・」
「はい!」
にっこり笑う彼女の手は、冷たかったけど。
渡された気持ちは、とてもあったかくて・・・
お礼を言おうとした時には、もう彼女は、
手を振りながら、駅に駆けて行っていた。
2月14日。
聖・バレンチヌスに、乾杯。
FIN