「Desert Star」
第四話
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「船長、各セクションリーダー全員揃いました」
メリルの声に、エルがデスクの上のモニターから顔を上げる。
「ご苦労です。では、今回の依頼について、ですね。直接依頼主から聞くほうが早いでしょうから・・・」
デスクの上に手を組み、エルが説明を始める。
「今からビジフォンで詳しくお話しを伺うことにしています。ZERO、モニターを」
『はい船長』
壁に埋め込まれた大型スクリーンに「接続待ち」の画面が映し出される。
「今回の依頼者はファスティーグ・カディモス氏。惑星開発公団の顧問をされている方です。
依頼内容は行方不明の個人用クルーザーの捜索ということです。キョウコ、回線は?」
「ステーションに接続済みです。船長のコンソールからいつでも超空間通信で開けます」
「では・・・」
カタカタとコンソールに相手のアドレスを入力すると、モニターが「接続中」に切り替わり
やがて一人の男性の姿を映し出した。
30半ばぐらいの口ひげを生やした紳士が、ゆっくりとした口調で話し始める。
『ハロー?ファスティーグ・カディモスです。貴方が・・・ハウリング船長?』
カディモスのちょっと戸惑ったような表情に気づいているのかいないのか
表情を変えずにエルが答える。
「初めまして。DESERT STAR号船長、エル・ハウリングです」
『お目にかかれて光栄です、ハウリング船長。この度は急な依頼で大変申し訳ない』
「いえ、ご心配なく。ちょうどこの前の依頼が無事終了したところですので」
『では、お引き受けいただける?』
「そのご依頼について、もう少し詳しくお話しを伺いたいと思いましてご連絡させていただきました。今よろしいですか?」
『もちろんです!この捜索は現在もっとも重要な懸案ですから。それで、どこからご説明すれば?』
「行方不明になっているクルーザーのデータは頂きましたが・・・乗員がバニステッド・カディモス博士ということは・・・」
『はい・・・私の父です』
「では・・・あの時の船なのですね?」
『はい。今更、と思われるかもしれませんが、こちらの事情もありまして』
「ですが・・・そうなると捜索は非常に困難と言わざるを得ませんね」
『もちろん、あの時のままなら私も今回の依頼は思いつきませんでした。ですが、新しい情報が入ったのです』
「新しい情報とは?」
「あの!・・・お話中申し訳ありませんが」
突然、思い切ったようにメリルが口をはさむ。
「なんですか、メリル?」
「いやその・・・『あの時の船』とかって言われても、全然話しが見えなくて・・・なんなんです?」
「ああ・・・貴方ぐらいだとバニステッド・カディモス博士は知らないのですね。トニオ?」
「え、なんすか」
「貴方なら覚えているのでは?『行方不明のカディモス博士』のことを」
トニオがきょとんとした表情から、あっと驚いた顔に変わる。
「ええ・・・?カディモス・・・って・・・ええ!?ひょっとして・・・」
『・・・私から事の発端をご説明したほうがよろしいですかな?』
「恐れ入ります。お願いできますか?」
『構いません。そもそも・・・私の父が乗ったクルーザーが行方不明になったのは、今から13年前のことなのです』
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「13年前〜!?」「オレが・・・8歳の頃?」「なんでまたそんな・・・」
あっけに取られざわめくクルーを尻目に、カディモスが淡々と説明を続けていく。
『当時、恒星物理学の権威だった私の父はニューヨークで開かれる学会に出席するため
惑星マースティンから定期便で地球に向かっていました。ところが・・・何故か途中の惑星カルトロップで
定期便を降り、そこで当時としてはまだ珍しかった個人用のクルーザーを入手してカルトロップを出ました。
提出された航行プランでは、惑星エクナスに向かうとのことでしたが・・・そのまま行方がしれなくなりました。
異常に気づいた管理局がエクナス−カルトロップ間およびその近辺をくまなく捜索しましたが・・・』
「そうだ・・・いや、思い出しましたよ船長!当時は『謎の失踪』なんて随分騒がれましたっけ・・・っと、こりゃ失礼」
思わず口を出してしまったトニオに苦笑いしながらカディモスが続ける。
『いや、まったく・・・家族にとっては迷惑な話で。私と母は随分記者連中につきまとわれましたよ。
その母も5年前に亡くなりましたが・・・おっと、話しが横道にそれてしまいました。結局、船は見つからず
捜索は打ち切られてしまったのです・・・ところが、今になって新しい事実が発見されたのです。
今から2週間前、カルトロップから惑星ニューロネイアに向かう貨物船が
漂流している宇宙船の残骸の一部を発見・回収したのですが、これが分析の結果
当時父の乗っていたクルーザーのものと判明したのです』
「ニューロネイア・・・エクナスとはまったく逆方向ですね」
『はい。疑問に思ってカルトロップの出航管理局の記録を再調査したところ
なんと父は出航直前に目的地をニューロネイアに変更していたのです!それがなんの手違いか
前の航行プランが正式なものとして残ってしまい・・・父は今まで宇宙をさまよっているわけです』
エルが振り向いて小声でアキに尋ねる。
「ドクター、その・・・生存の可能性はありますか?」
アキが残念そうにゆっくりと首を横に振る。
「・・・お時間がたちすぎています。冷凍ポッドで凍結状態だとしても・・・蘇生は難しいですわ」
『いや・・・父の生存については私もあきらめています』
「では、せめてご遺体だけでも回収したいと?」
『正直に申し上げれば、私が必要なのは父の研究データなのです。遺体など・・・もうどうでもいいのですよ』
「それは・・・」
『ご不審に思われるのも無理はありませんが・・・父は研究一筋に生きていた人でした。
私たち家族のことなど何一つ省みることの無い・・・ですが、その研究データは非常に貴重なのです』
パッとモニターがカディモスの顔から星図に切り替わる。
『これは今我々惑星開発公団が開発中の、恒星カーマインの第3惑星『カーマインV』です。
6年前から調査を始め、2年前から開発スタッフが惑星上で調査・改造に着手しています。
これが上手くいけば『カーマインV』は将来が非常に有望な殖民惑星になるのですが・・・』
画面が恒星のアップに切り替わる。
『1ヶ月ほど前から、恒星カーマインが異常活動を始めました。非常に不安定な状態で放射線量も増大し、
惑星上は人類が生存するにはかなり危険な状態と言えます。
我々が調査を始めてから、こんな状態になったのは初めてでした。
これが一時的な現象なのか、カーマインの周期的に起きる状態なのか
それとも・・・このままさらに状態が悪化していくのか・・・いずれにしろ
我々は『カーマインV』をあきらめるか、それともこのまま開発を続けるかの判断を迫られていました。
そこに、父のクルーザーが見つかる可能性がでてきた、というわけです。
父は長年にわたり恒星研究を続けており、その研究データの中には
我々が調査を始める前の恒星カーマインのデータも含まれているのです。
父の研究データがあれば、撤退にせよ続行にせよ、きっと有効な判断材料になります』
再びモニターがその表情に真剣さを増したカディモスの顔に切り替わる。
「なるほど・・・お父上のデータが必要というのはそういうことですか」
『状況が困難なのはそう変わらないかもしれませんが・・・どうかお引き受けいただけないでしょうか?
今まで『カーマインV』に投資した6000万クレジットを無駄にしないためにも・・・
なにより、いまだに『カーマインV』で、僅かな希望を捨てず頑張っている開発スタッフ1200人の命のために!』
ガタン!と椅子が音を立てる。エルが立ち上がっていた。
「お引き受けします!何故・・・何故もっと早くそのことを仰ってくださらないのです!?
1秒遅れれば、それだけ1200人の命の危険が増すのですよ!詳しい事情など後回しです!」
それまでと打って変わって厳しい口調をカディモスに叩きつける。
表情はバイザーに隠されて見えない。
が、すぐ傍にいたメリルにはその拳が固く握り締められているのがわかった。
メリルが立ち上がり、直立して支持待ちの姿勢をとると
それが合図のように、一人また一人と立ち上がっていく。
エルがくるりと振り返り、室内の一同を見渡すと
すでに全員が立ち上がっていた。
「出航準備!最優先で作業せよ!目的地、カルトロップ!出航、1300!」
「了解!!」
全員が声を揃えて船員らしく船長に敬礼をし
モニターの中のカディモスにも一礼して、あわただしく船長室を出て行った。
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急にがらんとした船長室で
一人残されたエルにカディモスがモニターの中で頭を下げていた。
『感謝します、ハウリング船長・・・なんとお礼を言えばよいか・・・』
「頭を上げてください、カディモスさん。それより・・・お引き受けしたからには全力を尽くしますが
公団の宇宙船は使えないのですか?何隻かで捜索すればそれだけ発見も早いのですが」
また優しげな口調に戻ったエルにカディモスがさらに頭を下げる。
『申し訳ない!公団の恒星間宇宙船は今全て『カーマインV』に全速力で向かっています・・・
捜索のためにカルトロップに向かわせてしまうと、脱出のチャンスがなくなってしまうかもしれません』
「いや、愚問でした。当然の処置ですね。なによりまず脱出手段を確保しなければ・・・」
『軍にも出動は依頼しましたが・・・見つかるかどうかわからないクルーザーの捜索までには
船は回せないとのことで・・・なんとか、DESERT STARだけででも捜索していただきたい』
「承知しました。ですが、事は一刻を争う事態と思います。発見を待たずに
とりあえず脱出だけでも済ませてしまうわけにはいかないのですか?」
カディモスがモニターの中でだんだん小さくなっていく。
『開発班の責任者にはそう勧めたのですが・・・惑星改造は続けて行わなければ
それまでの苦労が水の泡になってしまうことがよくあるのです。
ギリギリまでは、1日たりとも『カーマインV』を離れるわけにはいかないと言って・・・』
「・・・わかりました。関連データは全てこちらに送っておいてください。
出航後の・・・そうですね、1600にまたご連絡させていただきます。
では、私もブリッジに参りますので今日はこれで・・・と、後一つ、よろしいですか?」
『はい、なんでしょう?』
「お父上のご遺体はお探ししなくてもよろしいのですか?」
『その必要はありませんが・・・結果的には父の遺体を見つけていただくことになるでしょう。』
「・・・何故です?」
『父は研究データを手放すようなことは死んでもしないでしょうから。
もし脱出ポッドで脱出するとしたら、まず持っていくのはデータディスク。そんな人でした』
エルが聞きたかったのは、「何故」遺体を捜さなくても構わないのか、だったのだが
カディモスの冷たい答えは違うようでいて答えになっていた。
「そう、ですか・・・では、失礼します」
心なし気落ちした様子で、エルがコンソールのパネルに触れると
プン、と音をたてモニターが一瞬ブラックアウトし再び「接続待ち」に変わる。
「ZERO?」
『はい、船長』
「13年前の遭難事故に関するデータ、揃えておいてください。あと・・・」
『ファスティーグ・カディモス氏に関する情報も、ですね?』
「そう・・・なるべく遡って、事故の前後ぐらいまで。家庭環境はどうだったか、暮し向きはどうだったか・・・」
『家庭環境、ですか?今回の捜索のためにそこまで必要でしょうか?』
エルはその場で立ったまま腕を組み、しばらく考えていたが
やがてゆっくりと腕を解くとZEROに答えた。
「必要に・・・なるような気がします」
『わかりました』
ZEROに答えた後も、まだしばらく考え込みながら
「そう・・・きっと・・・必要になる・・・」
動かないでいるエルにZEROのほうから話し掛ける。
『船長?そろそろブリッジへ』
「ああ、ごめんなさいZERO・・・そうでしたね」
今はすでに真っ暗になっているモニターに、エルがチラと顔を向け
そして足早に船長室を後にした。
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