「Desert Star」

第三話

キースの船室のドアの前、ロイがインターフォンに向かって怒鳴っている。
「キース!起きてるの!?もう起床時間過ぎてるよ!?」
困った様子のロイに、自分の船室から出てきたばかりのフラクが声をかける。
「おはよー・・・どしたの?」
「ああ、おはよう。キースが起きてこないもんだから・・・さっきから呼んでるんだけど」
「ZEROに起こしてもらえば?直接部屋の中のスピーカーで怒鳴られりゃ起きるかも」
「あ、そっか。ZERO?」
『はい、おはようございます、ロイ。フラク、おはようございます』
「おはよ。話し聞いてた?キースが起きてこないんだよ。まだ寝てる?」
『はい、状況は把握しております。キースはまだ眠っていますね』
「起こせる?早くしないと朝飯食べそこなっちゃうし」
『わかりました・・・少々手荒くなるかもしれませんが?』
「・・・兄弟のボクが許す。やっちゃって!」
『了解しました。では少々お待ちを』
そのままドアの前で二人は待っていたが
やがて顔をしかめ、腰をさすりながらキースが部屋を出てくる。
「・・・おはよ・・・早いね二人とも・・・」
「全然早くないよ!早くしないと朝ご飯食べ損なうよ?」
『朝食を取られる方は1000までに食堂へどうぞ。後10分です』
「ふぁ〜い・・・」
「まったく、初日から寝坊なんていい度胸だよ、ホント」
まだ眠そうなキースをロイが食堂に追い立てていく。
その場で二人が離れていくのを見送りながらフラクがZEROに尋ねる。
「ねえZERO?」
『はい、なんでしょう?』
「どうやってキースを起こしたの?」
『寝台を収納しました』
狭い船内では船室のベッドはスペースを有効に活用できるよう使わないときは壁に収納できる。
普通は使用者がスイッチで出し入れするわけだが・・・
「収納?壁に?キースが寝てるまま?」
『はい。誠に遺憾ではありましたが、キースが受ける被害はそれほどでもない、と判断しまして』
「・・・ボクも寝坊しないように気をつけるよ」
『それがようございますな』

3人が食堂に入ったのは時間ギリギリだった。
その途端、わっ、という歓声が巻き起こる。
20人ほどの乗組員たちが全員食堂に集まって、この新しい仲間を待っていたのだった。
奥のテーブルでメリルが手を振っている。
「遅いわよー。初日から寝坊?」
「ス、スイマセ〜ン、キースがなかなか起きなくて・・・」
「おい、早くしねえとフードサーバーが止まるぞ。ほれ、そこにトレーあるから」
メリルの隣に腰掛けたマディが、ニヤニヤ笑いながら壁際のパネルと積み上げられたトレーを指差す。
「は、はい・・・えーと・・・」
サーバーから朝食を出して辺りを見回す。空いたテーブルは・・・
食堂のど真ん中。皆に囲まれたような場所だけが3人を待っているようにポッカリ空いていた。
「えーと・・・失礼しま〜す・・・」
3人が腰掛けると、褐色の肌に赤い髪の大柄な女性が身を乗り出すようにして質問してくる。
「可〜愛い〜!ね、ホントにまだ15歳なの?」
これがきっかけになって3人は質問攻めにあうことになった。
「3人ともよく似てるけど・・・兄弟なのは誰と誰?」
「オレのトコに配属されるのはどっちだ?」
「ねーねー、彼女とかいるのー?」
「・・・格闘技経験は・・・ありそうもないわね」
「どこの養成学校?アタシは第3なんだけどひょっとして後輩かな?」
「ESP班の子ってキミ?」
「なんでオレんとこには配属されないんだ?」
「こんな可愛いんだったらアタシのとこだって欲しいなー」
「好きな食べ物とかある?よかったらアタシが作ってあげるよー」
「ポーカーできるか?ブラックジャックは?」
「酒は・・・まだ飲めねえか・・・」
「まだ童貞クン?」
「やーだセピアったらー」
食事どころではない。
助けるようにZEROの声が響く。
『皆さん、3人ともお困りのようです。何かお知りになりたいことがあれば私のデータバンクから検索してください』
「それじゃつまんないじゃない。直接聞くから面白いのよ?」
「チェリーかどうかもデータに入ってんのー?」
『いえ、そこまでは入力されてはいませんが』
「ほーら見ろ。やっぱ面白いネタは直で聞かなきゃ・・・で、どーなの?」
今度はメリルが助け舟を出す。
「ほらほら、質問ばっかされるから3人とも食事できないじゃない。それより、皆が自己紹介したら?」
皆が顔を見合わせると一斉に自己紹介をはじめようとしてまた騒然となる。
「順番に!!じゃあ、ここから時計周りで、セクション毎に紹介してって」
ざわざわと人が動いていく。
「いい?じゃ、3人は食べながら聞いてて」

背の高い、どことなく冷たい感じのする青い瞳の女性が立ち上がる。
「ステラ・ロバーツ。保安部主任。よろしく」
続いて小麦色の肌のラテン系らしい陽気な女性。
「ジョー・モラレスよ。保安部所属でーす。退屈になったら遊びに来てね」
東洋人のような男性が軽く会釈をして
「UM88−A2。保安部所属」
3人とも、えっ、という表情になる。
「あの・・・アンディなの?」
アンドロイドを俗に言う言葉でロイがおずおずと尋ねる。
「そう。まあ、色々あってこの船に乗ってる。UM88−A2が正式名称だけど・・・カノウって呼んでくれたらいい」
「じゃあ、次はオレだな」
口ひげを生やした小太りの中年男性が立ち上がる。
「トニオ・バレッタ。物資班の主任だ。何か欲しいものがあったら出航前に言ってくれよ?」
「ここじゃ一番の年寄りだよねー」
ジョーが混ぜ返す。
「あー・・・そっか、バルーグの爺さんが降りちまったからなー・・・って大きなお世話だ!」
トニオの後ろから身を乗り出すように、ウェーブした長い黒髪の女性が名乗りをあげる。
「はーい、シズカ・モリサワでーす。物資班員・兼・コックなの。何か食べたい物があったら言ってね♪」
「味は保証できないけどな」
「あ、ひどーい!今朝のメキシカンスクランブルエッグだってアタシが作ったのよぅ」
マディが茶々を入れるとシズカがぷぅとふくれる。
「ハイハイ、お次はアタシね。キョウコ・ナカザワ。通信・探査部の主任よ。よろしくね」
黒髪を短く切りそろえた、ちょっとボーイッシュな女性が微笑みながら挨拶をする。
「アタシの名前は・・・ケイレスティリアーナ・ムルディダニエシュカっていうんだけど・・・」
フラクたちとそう年の変わらなそうな少女が、短い赤毛をかきあげながらためらいがちに名乗る。
「は?・・・あの・・・ケ、ケイレ・・・」「・・・ムル・・・ダニエシカ?」
「・・・K・Mって呼んで。通信・探査部よ。キミ達の一期先輩になるのかな?よろしく」
「はじめまして。船医のアキ・キュリシェスです。どうぞよろしく」
茶色の髪を長く伸ばした優しげな女性が、丁寧に頭を下げてゆっくりとした口調で挨拶をする。
「ドクター・キュリシェスのお手伝いをさせていただいています、エリコ・タカイと申します。よろしくお願いします」
こちらは髪の色は黒だが、ゆっくりした口調や雰囲気がどことなくアキに似ている。
「先生達はホント丁寧すぎなのよねー・・・あ、ヨウコでーす。医療班だよ。よろしくねー」
濃い茶色のウェーブした髪の女性が、ちょっとおどけたように笑いかける。
「・・・UF86−R2だろ。一応義務だ、話しとけよ」
UM88−A2・・・カノウが釘をさすように言う。
「んー・・・実はアタシもカノウとおんなじ。アンディなんだけど・・・ヨウコって呼んで欲しいな?」
「カノウとヨウコは・・・確かにアンディだけど、でも『仲間』であることには変わりないから。そのつもりで、ね」
フォローに3人が頷くのを見てから、メリルがちょっと考える。
「・・・アタシは・・・昨日自己紹介したからいいかな?」
「じゃ、ボクの番か。レイモンド・フォスター。K・Mと同期だからキミらの一つ上だね。一応、副航宙士」
フラクたちの一つ上、と言う割には、どことなく大人びた感じのする少年だ。
続いてマディが周りを見回し
「え、オレ?あ、オレももう昨日こいつらに会ってるんだよ。えっと・・・いーよな?」
「待ってました!そんじゃよーやっとアタシの番だね?・・・あーあー、ウホン!」
質問攻めのきっかけを作った大柄な女性がバッと勢いよく立ち上がる。
「アタシ、セピア・ボグティクス。機関部員でぇ・・・只今お相手の男性募集中!年下OK!」
「あ、ズルーイ。アタシも年下OKだからねー」
「なんだよ、アンタ相手は女でもいーんだろ?」
「うるさいな、怪力女。アンタに抱かれたら華奢なこの子たちじゃ壊れちゃうわよ」
「なーんだってぇー!?」
ジョーが割り込んでくるのをセピアが迎え撃つ。
「やれやれ・・・大変だな、お前ら・・・」
20ぐらいの背の高い男性がため息をついて3人を見る。
「カズキ・サクマだ。カズでいいよ。甲板長・・・っても、お前らがくるまで甲板員がオレ一人だったんだけどな」
「おかげで随分手伝わされたよな」
マディのぼやきに苦笑しながら
「いや、でもホント来てくれて助かったよ。えーと、キースに、ロイ・・・だっけ?オレんとこ来るのは?」
「あ、はい、そうです」「ボクがキースで、こちらがロイです」
「うん、ま、ヨロシクな」
「あら・・・アタシで最後・・・かな?」
つややかな黒髪を腰まで伸ばした細身の女性−30ぐらいだろうか−が周囲を見回して
「メラニ・シンクレアよ。ESP班の主任・・・キミがフラクね?」
「はい、そうです」
「すごいパワーね・・・何もしなくても溢れてきてるみたい。期待してるからね」
「メラニは年下OKと違うのー?」
「年下ってよりは、自分の子供・・・イテテテテッ!?」
口元を引くつかせて、メラニが茶々を入れたジョーとセピアに手をかざしている。
「力」を使っているのがフラクにははっきりわかった。
二人は妙な姿勢で固まったように動かない。
「ィテッテッ・・・ちょ、メラニそれ反則!」
「わかった!わかったからコレちょっと勘弁!」
メラニがスッとかざした手を下げると、姿勢を崩してドテッと二人が倒れる。
「・・・まあ、今のはこういう力の使い方は良くない、という例ね」
「イテテテ・・・人を教材にするなよ・・・」
その時、突然食堂の入り口から声が響いた。
「自己紹介は終わりましたか?」
皆が一斉に声に反応して入り口に目をやる。
黒ずくめの船員服に身を包んだ細身の人物。
顔を仮面のように隠したバイザーと頭の横から突き出したセンサー。
「船長!・・・あ、はい、たった今!」
メリルの返事にかすかに船長−エルが口元をほころばせる。
「そうですか。では1100に各セクションのリーダーは船長室に集合してください」
「は?何かありました?」
「はい。先ほど地球の事務局から専用回線で連絡がありました」
皆がざわめく中、エルが言葉を続ける。
「次の仕事です」

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