「Desert Star」
第二話
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メリルと新人乗組員3人を乗せたカートが
かなりのスピードで深夜の宇宙ステーションの通路を疾走する。
「うわわっ・・・」「・・っと!」「ぃてっ!」
ガタガタと揺れる後部の貨物シートに座った新人3人が時折あげる悲鳴も
運転するメリルには届いていないようだ。
「はーい、もーすぐよー」
いくつかの気密ドアを抜け、「12」と大きく書かれたドアを抜けると
それまでの狭い通路からパッと開けた空間に出る。
ステーションの最外縁部、ベイエリア第12駐港ブロック。
「結構他にも駐港してるのよね。お陰でえらく端っこに駐めなきゃなんなくて」
メリルが不平を言いながらやや速度を落として
カートをいくつかの宇宙船の間を縫うように走らせていく。
キッ、と音を立ててカートが止まったのは
ロッキングアームに固定された中型のクルーザーの前。
「はい、着いたわよ」
カートを降りた3人の前に、資料でしか見ていなかったその船があった。
銀色に輝く船体。スカートのように広がる後部のエンジンブロック。
所々から突き出すセンサーの類。
確かに、これといって特徴の無い普通の探査船だった。
だが、これから乗り組む3人の目には殊更輝いて見えた。
「うわあ・・・」
「どお?これが『DESERT STAR』。これからキミ達が乗り組む船よ」
思わず声を上げる3人にメリルがさも自慢げに話し掛ける。
と、突然頭の上から男の声が響く。
「よお!そいつらが新入りかい!?」
声のしたほうを見上げると、作業台に乗った男が船の外壁に取り付いていた。
「ハイ、マディ!こんな時間にナニやってんの!?」
「8番のノズル!オマエが直せって言ったんだろが!」
するすると作業台を乗せたリフトが下がってきて
男が手すりを乗り越えてこちらにやってくる。
中肉中背の体を作業衣で包み、頭に巻いたバンダナで茶色の髪を止めている。
メリルより少し年上ぐらいだろうか。
油で汚れた手をボロ布で拭いながら3人にチラ、と目をやって
「よう、この3人か?例の新入りってのは。また随分と・・・若いのばっかだな」
「まーね。3人とも新卒だから」
「へーえ・・・っと、マディだ。マディ・コリンズ。この船の機関長やってる。よろしくな」
「は、はいっ!」
マディは3人が慌てて自己紹介を始めるのを、腰に手を当てて値踏みするように見つめていたが
自己紹介が終わると大きく表情を崩し
「良し!ビシビシしごいてやっからな!頑張れよ!」
「はい、ありがとうございます!」
「ちょっと、しごくって、アンタのとこには配属しないわよ」
「いーんだよ、新入りってのはそーゆーもんなの。それより・・・オマエ達ちょっと堅っ苦しいぞ」
「は、はあ・・・」
「この船はな、もちっとこう・・・くだけた雰囲気でやってっからさ。肩肘張ってると疲れるだろ?」
「アンタはくだけ過ぎ。ほら、さっさとノズル直しちゃいなさいよ」
「へいへい。じゃな、坊主ども」
言うが早いか、マディがさっとメリルを抱き寄せその唇を奪う。
「・・・ん・・・マディ!」
顔を真っ赤にして突き放すメリルに笑いながら作業台に戻ると
「じゃーな、メリル。続きはオレのベッドでだ」
「!もう・・・」
上がっていくリフトを睨んでいたメリルがふと我に帰る。
「あ・・・え、えっと・・・ふ、船、案内するねっ」
「はあ・・・」
ポカンと見つめていた3人も我に帰る。
タラップに向かう途中、意を決してロイが尋ねる。
「あのー」
「・・・なに?」
「メリルさんと、マディさんて・・・ひょっとして、できてます?」
「あー・・・うん、まあ。えっと、結構この船、そういう関係の二人多いからね」
「そうなんですか?」
「うん。あー、でも・・・キミ達とか、狙われそうだなー」
「狙われる・・・」
「ま、悪い娘はいないから安心なさいな」
スタスタと歩いていくメリルの後ろでフラクが呟く。
「狙われる・・・って・・・誰に?何を?」
キースとロイは渋い表情。
「困ったね・・・」
「まあ、なるようになるさ」
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タラップを上って船内に入った途端、柔らかな男の声が通路に響く。
『お帰りなさい、メリル』
「ただいま、ZERO」
声はすれども他に誰の姿もなく、どこから声がしたのかもはっきりしない。
『そちらが、新しくこの船に乗り組まれる方々ですね?』
「そうよ。船長はもう寝ちゃった?」
『まだ執務中でいらっしゃいます』
「あ、あの・・・今喋ってる人どこにいるんですか?」
キースがそっとメラニに尋ねる。
「ああ、ゴメンゴメン。これは、この船のメインコンピューター。ZEROっていうの」
「ああ、音声応答なんですね」
『はい、そうです。フラク・ヒューベットさんに、キース・フレックさん、ロイ・フレックさんですね?』
「えーと、はじめまして・・・」
『お手数ですが、それぞれお名前をお願いできますか?』
3人が名前を名乗ると
『声紋登録完了。採用データに音声が含まれていなかったもので、お手数をおかけしました』
「ZEROは船内のどこにいても、緊急時以外は呼べば応答してくれるからね」
『はい、御用の節は何なりと』
「・・・随分礼儀正しいなぁ」
「そうなのよねー。この船でZEROはこーゆー喋り方する数少ない一人」
『これでもかなり譲歩しているのです』
「そーお?」
『ファーストネームで呼び捨てなど、本来の私の仕様ではないです』
「ふーん・・・じゃ、これからよろしくね、ZERO」「よろしくー」「よろしくねー」
『はい、フラク、キース、ロイ。DESERT STARにようこそ』
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「さてと、まずは船長に挨拶かな。荷物は平気?先に個室に置いてくる?」
「あ、大丈夫です」「僕も」
「それに・・・早く会ってみたい気もしますし」
「そうね、じゃ挨拶済ませちゃおっか?道すがら、船内の案内も簡単にしてあげるわ」
「お願いしま〜す」
「資料でも見たと思うけど、この船はおおまかに言って4つの部分に分かれてるの。
最後尾の機関部、その前に貨物室、居住区がその前にあって、最前部にブリッジ。
4つの部分をぶち抜くカンジで中央にメイン通路が通ってるから
最初のうちは迷ったらメイン通路に一旦戻るといいわね。
これから行く船長室は居住区の最上階最前列・・・と、ここがメイン通路ね」
「今はどのあたりなんですか?」
「貨物室と居住区の中間ね。居住区は3層あって、第1層は個人の船室。
ここは第2層で、共用スペース。食堂や医務室、娯楽室なんかがあるわ。
で、船長室や各セクションリーダーの個室、客室なんかはこの上の第3層。簡単でしょ?」
「今は誰もいないみたいですね」
「ま、この時間だからね・・・食堂で誰か飲んでるかもしれないけど。あ、ここが医務室」
これは3人にもすぐにわかった。中央に大きな赤十字のドア。
「医務室には交代で必ず誰かいるから、もし具合が悪くなったらいつでも来て平気よ」
「こんな夜中でもですか?」
「そうよ。ほら、ドアの脇のランプがグリーンでしょ?」
「あれでわかるんですか?」
「医務室に限らず、室内に誰かいるときにはドアのランプはグリーン。誰もいないときは赤」
「居留守は使えませんね」
「そういうこと。はい、ここがエレベーター。じゃ、上に行くわよ」
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「船長?メリルです。今いいですか?」
『CAPTAIN』と小さく書かれたドアの脇でメリルがインターフォンに呼びかけると
ややあって『どうぞ』と静かな返事が返ってくる。
「こんな遅くまでお仕事されてるんですね」
「そう・・・船長の謎の一つに『いつ寝ているのかわからない』ってのがあるぐらいだからね」
「謎って・・・」
「謎が多いのよ、ウチの船長・・・失礼します」
パシュ、と軽い音を立ててドアが開く。
小さな、何の飾り気も無い部屋に普通の事務机。
およそ船長室と呼ぶには相応しくない部屋だったが
一つだけ、変わった所があった。
事務机の後ろ、天井に近いところが横3メートル、高さ2メートルほどの大きなガラス窓になっていた。
こんな大きなガラス窓は強度の問題から
大気圏離脱・突入可能な船には普通は取り付けない。
もし取り付けるならよほど分厚く、強度に優れた高価な素材が必要だろう。
何も高価な品が見当たらないこの船長室で
この窓が唯一、そしてかなり贅沢な品といえた。
宇宙に出れば、おそらく星の海を見渡すことができるのだろう。
そして、その窓の前に一つの人影立っていた。
メリル達が部屋に入ると、その人がクルリと振り向く。
「お帰りなさい、メリル。ご苦労でした」
すこししゃがれたような声。
身長170ぐらいでほっそりした感じ。
肩まで伸びた真っ直ぐな黒髪。
きちんと閉められた黒ずくめの船員服の襟からのぞく細い首。
白い肌、とがった顎、細い鼻筋・・・
だが、一番フラク達3人の目を引いたのは
額から顔半分を隠すように被さった大きなバイザーだった。
黒光りするバイザーにさえぎられて、目元はまったくうかがえない。
よく見れば、左右の耳も小さなセンサーで覆われている。
(この人が船長?まさか・・・目が・・・?)(それに・・・耳も・・・)(でも、宇宙船乗りなんだぜ・・・?)
大きなバイザーは視力補正用のものではなく、視覚代行のそれであり
耳のセンサーもこれほど大きな物となると
よほどの旧式か、聴覚代行機能を果たすもののはずだった。
着任の挨拶をする間も、3人は船長の顔ーというよりはバイザーにちらちらと目をやる。
挨拶が済むと、口元に微笑を浮かべて船長がゆっくり3人に近づいてくる。
「ようこそ、『DESERT STAR』へ。船長のエル・ハウリングです・・・コレ、驚きましたか?」
そういって自分のバイザーを人差し指でツンツンと突付く。
「は・・・あっ、いっ、いえっ!」
「ウッソー?アタシ初めて船長にあった時はスッゴイ驚いたけどなー」
「あの時のメリルは驚きすぎでしたね。私は少し悲しかったんですよ?」
「アハハ、スイマセ〜ン」
「さて・・・今日はもう遅いですから話しは明日にしましょう。トニオも寝てしまったようですし」
「そうですね」
「ではメリル、ご苦労ついでにこの子たちを船室に案内してあげてください」
「はーい、じゃ失礼しま〜す。さ、行こっか?」
「あ・・・はい!失礼します!」「失礼します」「えっと・・・お休みなさい」
ドアを出ると、キースがメリルに不満を漏らす。
「ヒドイなぁ・・・メリルさん前もってその・・・船長のコト教えてくれればいいのに」
ロイが続く。
「そーですよー。ああは言いましたけど、やっぱり驚いちゃったですよー」
「なんだか・・・不思議な感じの人ですね・・・」
フラクがポソリと呟くと
「でしょ?謎の多い人だし・・・っていうか、殆ど謎だわね、ウチの船長」
「喋り方も、なんかすごく丁寧ですよね」
「この船で一番偉いハズなんだけどねー」
ロイがふと気づいたように質問する。
「船長ってお年は?何歳なんですか?」
「さあ?そんな年寄りじゃないみたいだけど」
「わからないんですか!?」
「だから、謎なんだって。ZEROのデータにも何にも入ってないのよ」
『残念ながら、メリルの言うとおりです。船長については年齢、出身、経歴一切が不明です』
突然通路にZEROの声が響く。
「そーなんだ・・・不思議な人なんだね、ホントに」
続いてフラクがZEROに尋ねる。
「ねえZEROこれは?船長って・・・男性?女性?」
「あ・・・」
「そういや・・・どっちなんだろ。ね、ZERO?」
『残念ながら・・・』
「それも謎。ね、どっちだと思う?アタシは男だと思うんだけど」
「えー!?そっかなー?ボクは・・・」
根拠の無い憶測を並べながら
4人は深夜の宇宙船の通路を騒がしく歩いていった。
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