「Desert Star」
第一話
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「ここ・・・だよなぁ」
「えと・・・チョッと待って・・・うん、アドレスは合ってるよ」
大きな荷物を抱えた少年が二人、キョロキョロと辺りを見回しながら歩いている。
15,6歳ぐらいだろう。
少し小柄で華奢な体つきも、流れるようなブロンドの髪も
まだあどけなさが残る顔も、よく似た二人だった。
ステーションの中央広場に近い、公園になったこのスペースは
人工の植物や噴水を模したカクテルライトが配され
普段はステーションの利用者や勤務の職員の憩いの場となっているのだが
今は二人の他に人影はない。
「時間は?」
僅かに背の高いほうの少年が尋ねる。
「0140・・・ねえ、ホントに0200だったのかな?メール見間違えたとか」
「う〜ん・・・確かにこんな時間に集合って変だけど・・・」
昼も夜もない宇宙ステーションとはいえ、人間の生活はそうも行かない。
皆地球の標準時に従って朝昼晩を暮らしている。
その基準からすれば、今は真夜中。
公園に誰も居ないのも当然といえば当然である。
「まさか向こうが間違えてるとか・・・」
「・・・あと20分あるから、とりあえず待ってようよ」
「そうだね・・・あ、あそこ、ベンチがあるよ」
とてとてっ、と一人がベンチに走っていく。
「入り口の所で待て、って指示だったぞ?」
「大丈夫だよ、ここからでも見えるって」
そう言って、既にベンチに腰掛けた少年が、ポンポンと空いた部分を叩いて
公園の入り口で立ったままの少年を誘う。
「・・・ま、いっか」
隣に腰掛け、ごく自然な動作で肩を組む。
「・・・船に乗ったら、同じ部屋かなぁ」
「どうかなぁ・・・普通は新人は先輩と相部屋になるらしいけど」
「そっか・・・」
「同じ船に乗るんだし、所属部署だって同じなんだから・・・少しは我慢しよ?」
「うん・・・あれ?ね、誰か来るよ」
「え・・・あ、ホントだ。迎えの人かな?」
「ちょっと・・・違うんじゃない?」
公園の入り口に現れたのは、彼らと同じくらいの年齢の少年だった。背格好も同じくらいだろう。
髪は同じようにブロンドだが、少し色が濃く、軽くウェーブがかかっているのが二人と少し違う。
公園に入ってきた時の彼等と同じように、誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見回している。
「あれ?・・・あの子・・・面接試験の時にいなかった?」
「あ・・・そういえば見かけたような・・・」
「ちょっと声かけてみようよ」
二人が立ち上がって歩み寄るのと、入り口の少年が二人に気づくのは殆ど同時だった。
『今晩は〜』
「え・・あ、ああ・・・こ、今晩は・・・」
「ねえ、ちょっと聞くけど・・・」
「キミも・・・Desert Star号の?」
それまで明らかに二人を警戒していた少年が
その船の名前を聞いた途端に表情を崩す。
「うん!じゃ、キミ達もDesert Star号に乗るんだ?」
「そうだよ!じゃ、ボク達同僚になるわけだ。ヨロシク・・・えと」
差し出された右手が握り合わされる。
「フラク・ヒューベット。フラクでいいよ」
「ボクはキース。キース・フレック」
「ロイ・フレック。ロイって呼んで。キースとは兄弟なんだ.。ヨロシク!」
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自己紹介から始まって、3人はしばらくの間話を弾ませていたが
やがてキースがふと時間に気づく。
「あ・・・もう0210だ」
「え?あ、ホントだ・・・遅いね、迎えの人」
「ねえ、場所とか時間とかホントに合ってるのかなぁ」
「フラクもここに今来てるんだから・・・多分間違いないよ」
「そうだね・・・でも、ボク達以外にはそれらしい人は来てないし・・・」
「新規採用者が3人だけ・・・ってことはない・・・よねえ?」
3人が不安に襲われ始めた時、公園の入り口に向かって
猛スピードで1台のカートが走ってきた。
「あ、アレ・・・かな?」
ガクン、と入り口で急停車したカートから
弾けるようにして一人の女性が降り立つと
「ごぉめんなさぁ〜い!待ったぁ〜!?」
走りながら大きな声で3人に呼びかける。
「あ、確か採用面接の時の・・・」
「うん、えと・・・ハシェット副長・・・だっけ?」
「うん・・・まさかそんなエライ人が迎えに来るとは思わなかったけど」
3人の下へ小走りに近寄りながら、その女性−ハシェット副長が
頭をポリポリとかきながら罰の悪そうな表情で弁解を始める。
「ゴメンねー、うーっかりステーションの反対側に入港しちゃって・・・待った?」
「いえ、それほどでもありません!」
「お迎えありがとうございます、ハシェット副長!」
「あは、そんなに畏まらないでいーわよ?ウチは軍隊じゃないんだからさ」
にこやかに笑いながら3人の顔を見回し
「えっと、採用面接の時にビジフォンで会ってるけど・・・一応改めて自己紹介ね?
メリル・ハシェットよ。Desert Star号副長兼主任航宙士。メリルって呼んでね」
「え・・・いやお言葉ですが・・・その、やっぱり失礼かと・・・」
「いーからいーから!ウチじゃ船長以外は皆ファーストネームで呼び捨てなの。年齢役職関係なしにね」
「はあ・・・じゃメリル・・・さん?」
「ん、まそんなカンジで。えーと、フラク・ヒューベット君に、キース・フレック君、ロイ・フレック君、と」
3人の名前と顔を確認するように順番に見つめると
「じゃ、行きましょうか?適当にカートの空いたトコ座ってねー」
「え?あのー、新規採用者ってこれで全部?」
「そーよー。大体ウチってそんな大所帯じゃないのよ・・・あ、ガッカリした?」
「あ、いえ、そういうわけじゃ・・・」
「ま、質問はカートに乗りながら聞くわね。アタシ早く戻って出航準備しなきゃなんないの」
そう言ってスタスタと入り口に停めたカートに戻っていく。
ロイが小声でキースとフラクに囁く。
(なんか思ってたのと違うね)
(まあ、堅苦しくないってのはいいんじゃない?)
(でも、これがあのDesert Star号・・・なのかなぁ?)
「どしたのー?置いてっちゃうわよー!」
「は、はーい、今行きまーす!」
3人はまた顔を見合わせ、そして頷く。
「行こう!」
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西暦2182年。
超空間航法が開発され、人類が太陽系外に進出するようになって50年あまり。
急速にその版図は広がり、いまや第2の大航海時代と言われている。
発見された惑星のいくつかには殖民が行われ、
多数の宇宙ステーションや人口コロニーが星々を繋ぐ航路上に散らばる。
だが、宇宙は果てしなく広く、その果てしない海を渡るのは
大航海時代の地球の航海同様、危険を伴うものだった。
不幸な事故、遭難、行方不明・・・
星の海に散って逝った船は数え切れず。
それでも人は突き動かされるように宇宙を目指した。
やがて、ここ15年ほどで民間にも宇宙船を保有するものが出始めた。
初めは大企業だけが宇宙船ビジネスに携わっていたが
技術の進歩によって宇宙船の価格が下がってきて
個人営業のように宇宙船1隻での仕事を始めるものが出てきたのが5年程前。
地道に運送業を営む者もいれば
一攫千金を狙って危険な仕事を始める者もあり
そして、Desert Star号のようなちょっと変わったビジネスを始める者も・・・
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「サルベージっていやあ聞えはいーけどね。結局、何でも捜し物屋、ってトコかな」
ガタガタと揺れるカートの運転席で、メリルがハンドルを片手に
後部の荷物スペースにしがみついている3人に怒鳴るように話し掛ける。
「でも、Desert Star号って結構有名ですよね。遭難者の救助とかで」
「ま、物でも人でも、宇宙での捜し物なら何でも見つけます、ってのがウチの売りだから」
「でも、今年だけで4件の遭難救助でしょ?スゴイよねー」
「そのスゴイ船の乗組員に、キミらもなるんだからね」
「どうしてそんなに実績あげられるんですか?やっぱり船足が速いとか?」
フラクの疑問にメリルはしばらく考えて
「んー・・・遅いとは言わないけど、せいぜい並みの巡洋艦クラスね」
「じゃ、武装が強力とか?」
「障害物除去用に粒子砲が二門あるだけだけど」
ロイの疑問には即答。
「バッカだなロイ、捜索活動に武装は関係ないだろ?センサーが優秀なんですよね?」
「一応一通りのセンサー類は装備してるけど、皆市販品よ」
キースの意見も否定されてしまう。
「うーん・・・何かDesert Star号って特別なトコってないんですか?」
「そうねー・・・ま、乗り組んで一緒に仕事してればわかるんじゃないかな?」
「・・・ねえ、メリルさん?」
再びフラクの質問。
「なーにー?」
「どうしてボク達みたいな、養成学校でたばっかりを採用したんですか?」
「うーん・・・実を言うとねー、書類選考で船長が『この3人にしましょう』って決めちゃったのよ」
「はあ!?」
「アタシの面接は確認みたいなもんでね・・・船長がキミ達を選んだ理由まではちょっと・・・」
少し決まり悪そうに応えたメリルが、唖然とする3人に気づき慌ててフォローを入れる。
「あっ、でも船長はちゃんとした理由で選んでるはずだからね!」
「でも、書類だけで選んじゃうなんて・・・」
「うーん・・・アタシも含めて、ウチの乗組員って皆船長の選択ってのを全面的に信頼してるから」
「そんなに・・・スゴイ人なんですか?」
「そうね・・・Desert Star号で特別なものがあるとしたら、それは船長よ」
「へえ・・・」
3人の期待と不安−やや不安が大目−を乗せたカートは
何時の間にかもうDesert Star号の待つベイエリアに近づいていた。
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