DESTINY

第六話

『今こちらを出たわ。予定通り』
「了解。準備をはじめるわ」
携帯でのカーラからの連絡を合図に行動を開始する。
ここにカリノスの乗った車が到着するまで、後約1時間。
この狭い山道を通って、カリノスは毎週金曜日に
幹部全員を連れて自分の山荘に赴く。
そこで何が行われているのかまでは調べる必要はなかった。
要はターゲットがお誂え向きに揃ってやってくる、ということだ。
それに今さら調べようにも難しいだろう。
今週は彼は山荘にはたどり着けないのだから。
用意したオフロードバイクにまたがり、予定のポイントに向かう。
左側は山。右が深い谷になった舗装されていない山道を走り
調べておいた視界の悪いコーナーの出口につくと
バイクを降り、作業をはじめる。
カーブの出口すぐのところの道の下に、ほんのちょっぴり爆薬を仕掛ける。
下まで60・・・いや、70メートルはあるだろう。
所々に背の低い木がはえているぐらいで
滑り落ちたら谷底まで止まることは無いだろう
さらに道の山側、やはり崖になった部分にも爆薬を仕掛ける。
こちらはもっと少量。
斜面に不安定にしがみついている岩の下を選んで
小さな崖崩れを引き起こせるギリギリぐらいに。
爆薬を仕掛け終わると道の反対側の斜面に移動する。
手順はこう。
カリノスの乗った車がカーブに差し掛かったところで
まず道の上、山側の爆薬を作動させ、崖崩れを起こす。
車が避けようと山側から谷側に動いたところで
今度は道そのものを爆破する。
谷側に寄っていた車はそのまま奈落のそこまで落ちていく。
装甲車並みに頑丈なカリノスの車を襲撃して
なおかつ事故に見せかけるには
この方法しか思いつかなかった。
もう一度谷底を覗いて見る。
・・・これで中の人間が生きていられるとは思えないが
念のため谷底まで車を追って確認し
もしまだ生き残りがいればガソリンで火をかけ車を爆破する。
これでお終い。
哀れカリノスは崖崩れに巻き込まれ事故死、とあいなる。
仕掛けた爆薬は土砂に飲み込まれてしまうだろうから
そう簡単には「仕掛け」とは疑われないだろう。
・・・もっとも、標的が標的なのでその保証は無いが。
さて、後は双眼鏡片手に
お客さんが来るのを待つばかり・・・

道の彼方、遠くに砂塵が巻き起こる。
双眼鏡を覗いて、車のナンバーを確認する。
間違いない。いよいよだ。
ポジションに移動してその時を待つ。
やがて砂埃を巻き上げて
カリノスの車がやってくる。
タイミングを計り、最初のスイッチを入れる。
ボン!
それは本当に小さな爆発。
防弾仕様のカリノスの車の中からでは聞こえないぐらい。
でも、崖が崩れるには充分だった。
ガラガラと音を立てて土砂が崩れ落ち
車の行く手を塞ぐ。
カーブを出たところで気づいた運転手がハンドルを切って
タイヤをきしませながら車を谷側に寄せて行く。
・・・今!
二つ目のスイッチを押す。
・・・
何も起きない。
もう一度押す。
・・・
何も起きない!
不発!?慌てて双眼鏡を覗く。
タバコの箱ほどの爆薬のケースから
導火線が外れている・・・
車は崖の手前で転がっている岩を避けるように止まってしまった。
ちょうど爆薬の真上で。
・・・どうする?どうする!?
・・・要は、爆発が起きればいい。
距離を測る。
ここから・・・30メートルといったところか・・・
できるか?
腰のH&Kを抜く。
爆薬を撃って爆破する。これしかない。
だが、ライフルならいざ知らず、この距離をハンドガンで
タバコの箱サイズを射抜かなければならない。
失敗すれば、転がる岩を跳ね飛ばしてでも車は走り去るだろう。
そして、カリノスは身辺の警護を強化するだろう。
警戒されてしまうと仕事がやりづらくなる。
もう少し近づければ・・・
だが、今身を隠しているポジションからヤツの車までは何も遮蔽物が無い。
ここから撃つしかないのだ。
できるだろうか?
・・・・・・・・・
大丈夫よ、ジョー・モラレス。貴女なら大丈夫。
すべて上手くいく。
そして二人を取り戻す。
アタシの幸せを。未来を。全てを。
自分に言い聞かせながら狙いを定め
この一発に・・・全てを賭けて・・・
引き金を、引いた。

車の中ではそれは唐突に起こったように感じられただろう。
軽い振動ぐらいは感じただろうか?
アタシの放った銃弾が爆薬ケ−スを射抜き
小さな爆発音とともに道が崩れていく。
最初はゆっくり、そして加速をつけて
カリノスは車もろとも崖下に落ちていく。
落下のスピードに車が二転三転して
ひしゃげながら谷底まで落ちるのを確認して
アタシは大きく息をつく。
タイヤの後を残したくないので、バイクには乗らず歩いて谷底まで降りる。
頑丈な車はまだなんとか原形をとどめてはいるが
ひしゃげ、ひっくり返って無様な姿をさらしている。
生存者がいないか近寄ってみようとしたところで
割れた窓から一人の男が這い出してくる。
知った顔だった。
ハル・カリノス。
・・・しぶといヤツ。
H&Kを構えながら近づく。
足音に気づいてヤツが視線を上げる。
「・・・貴様・・・か」
「年貢の納め時ね。カリノス、一つ質問があるわ」
「・・・さっさと・・・ぐ・・・殺せ・・・」
「放っておいても死ぬわね。でも、質問に答えるなら楽に死なせてあげる」
「・・・ぐ・・・」
「キースとロイはどこ?」
教えてもらえれば、探す手間が省ける。
だが、質問をした途端カリノスの目がくわっと見開かれ
苦痛の表情から怒りのそれに変わる。
「・・・!貴様か!・・・ぐぅっ!貴様が・・・アレを!囲っていた・・のか!」
「囲っていたとは人聞きの悪い。逃げ出したあの子たちを匿っていたのよ」
「そして!・・・たらしこんだのか!?貴様・・・貴様の・・せいで!」
「・・・それで、二人はどこにいるの?」
「アレは!・・・オレのだ!・・・オレのモノだ!オレが買ったんだ!・・・オレのモノだったんだ!それを・・・貴様が!」
「・・・教えてもらえそうには無いわね」
「・・・オレのだったんだ・・・だが・・・もう・・・戻ら・・なかった・・・貴様のせいで!」
立ち去ろうとするアタシの背中でカリノスが叫ぶ。
「持っていくがいい!オレの山荘の地下室にいる!壊れた人形でいいなら持っていくがいい!」
壊れた・・・?
カリノスのところまで駆け戻る。
「どういうこと!?」
「また・・・オレのモノに・・・したかった・・・たとえ・・・を・・・使って・・も・・だが・・・
血を吐きながらカリノスが見せる悲しげな表情。
この男がこんな顔をするとは知らなかった。
「壊れた・・・壊れ・・て・・しまった・・・どうせ・・オレ・・のモノに・・なら・・ないなら・・壊れ・・ても・・・」
「カリノス!壊れた、ってどういうこと!二人に何かしたの!?」
カリノスを問いただす。
だが、すでに事切れていた。
カリノスの頬に伝う雫をそっと拭ってやる。
コイツはコイツなりに、二人を愛していたのだろうか。
そんな感傷も、カリノスが残した言葉から来る不安で一瞬に消え去る。
壊れた人形。
カーラに携帯で首尾を伝えるとバイクにまたがる。
行かなくては。
カリノスの山荘へ。

そこに二人はいた。
そして、そこにはいなかった。
留守番のチンピラを言いくるめて入り込んだ山荘で見つけたのは
暗く湿っぽい地下室の冷たいコンクリートの床に転がる二つの白い裸身。
「・・・キース?・・・ロイ?」
返事は無い。
震える足で近寄ってみる。
かすかに上下する腹部が、二人が生きていることを知らせた時は
ほっと胸をなでおろした。
だが、さらに近寄って愕然とする。
仰向けに転がった二人の目にはまるで生気がなく
半開きの口からは涎を垂れ流していた。
「キース!?ロイ!どうしたの、アタシよ!?しっかりなさい!」
駆け寄って二人を交互にゆすり起こす。
でも、そのたびに二人の体はガクガクと揺れるだけ。
時折焦点のあわない目でこちらを見ては
「・・・あ・・あー・・」
何も感情の無いうめくような声をあげる。
・・・違う。
違う!
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!
キースじゃない!ロイじゃない!
こんな・・・こんなのってない!
アタシが幸せになれないのは諦めてもいい。
どうせ後は地獄に落ちるだけの人生かもしれない。
でも!
どうしてこの子達がこんな目に会わなけりゃならないの!
アタシはその場に座り込んで泣いた。
そして、腰のH&Kを抜く。
もう、いい。
このまま、アタシも壊れてしまおう。
二人に・・・始末をつけて。
そして、自分自身にも始末をつけて。
そのときだった。
「・・・ジョ・・・」
キースがかすかに声を漏らした。
「・・・え・・・?」
「・・・ジ・・ジョー・・・」
今度はロイが。
「そうよ、アタシよ!ジョーよ!アナタ達の、ジョーよ!」
「・・ジョー・・?」
二人がのろのろと体を起こし、アタシに擦り寄ってくる。
気が付けば二人のペニスは勃起していた。
「そうよ・・・こうして愛し合ったのよ・・・3人で・・・これからも・・・」
アタシも服を脱ぐ。
ゆっくりとした動きで、二人の手がアタシの体を抱き寄せる。
アタシは二人の顔を胸に抱きしめ
そしてまた泣いた。
二人の手が・・・指が・・・唇が・・・舌が・・・
ゆっくりと、そして優しくアタシを癒していった。

ねぐらで荷造りをしている最中にカーラが戻ってきた。
手を止めずに二人の様子を聞く。
「かなりの重症だけど・・・回復の見込みが無いわけじゃないそうよ」
「・・・そう」
「時間は・・・かかるでしょうけどね」
あの後様子を見に来たカーラに手伝ってもらい
二人を医者に運んでわかったのは、二人が重度の薬物中毒になっていて
脳をやられてしまっているということだった。
薬漬けにして、言うことを聞かせるつもりだったのか
洗脳でもするつもりだったのか・・・
だが、カリノスを恨む気持ちは不思議と起きなかった。
専門の治療施設に二人を移すと
アタシは仕事の前のボスからの指示どおりこの街を離れることになった。
「最後に会っておかなくていいの?」
「うん・・・会えばまた・・・行きづらくなっちゃうから」
「じゃ、気をつけてね・・・向こうで仕事の当てはあるの?」
「ないけど・・・何とかする。殺しは、もうしないつもりだけど
「そう・・・向こうにいったら・・・この人に連絡しなさい」
そういってカーラが名前と電話番号の書かれたメモを手渡す。
「トニオ・・・バレッタ・・・誰?」
「えーと・・・まあ情報屋かな。アタシの・・・古い知り合い。何か仕事を世話してくれるわ」
「ありがと・・・お金は、ちゃんと送るから、二人のこと、お願いね」
「任せなさい、アンタよりちゃんと面倒見てあげるから。無理しないでね」
「・・・つまみ食いとかしちゃダメよ」
「・・・・・・・・・しないわよ、そんなコト」
「・・・今の間はナニ」
「ほら、さっさと行っちまいな!」
「・・・誤魔化してる」
「アンタがまだこの街でうろうろしてるの見つかるとアタシがボスにどやされるんだから!」
「ハイハイ・・・じゃ、カーラ・・・またね!」
「またね、相棒。たまには連絡しなさいよ」
荷物を持ってねぐらを後にする。
・・・今度ここに戻って来るときには
きっと3人で。
その時まで、しばらく留守にするだけ。
だからまだ鍵は持っていよう。
いつか、3人でこのドアをくぐる日のために。

〜エピローグ〜

朝から降り続く雨の中
新しい仲間の一人、メリルと買い物に行った帰り道
近道になっている公園を抜けていく途中のこと。
急にメリルが話しを切り出す
「ねえ・・・ちょっといいかな?」
「なに?」
「その・・・ひょっとしてお金に困ってる?」
「やだ、なによ急に」
「だって・・・今日も銀行で・・・かなりの額、送金してたでしょ?借金でもあるの?」
「うーん・・・借金じゃないんだけどね。ちょっと定期的に送金しなきゃならない先があって」
「もしアタシで力になれるなら言ってよ・・・マディの馬鹿は頼りにならないかもしれないけど」
「うん・・・ありがと、メリル。でも、大丈夫だから・・・ホントに困ったら、助けてもらうかもね」
「ホントに困る前に言って欲しいなぁ・・・仲間なんだしさ」
「あんまり優しくしないでよ、本気で落としにかかっちゃうわよ?」
「ふーんだ、その気も無いくせに」
「あ、言ったわね?今度マディが留守の晩を見てなさいよ」
「きゃ、どうしよう貞操の危機かも♪」
「・・・・・・」
「ジョー?・・・どしたの?」
「え?・・・ああ、ごめんメリル・・・ちょっと考え事」
「・・・ねえ、ホントに大丈夫なの?」
「大丈夫よ・・・ただ・・・」
「ただ?」
「雨の日は・・・思い出すことがあるだけ・・・」
つい公園のベンチに目を奪われていた。
そこに金髪の二人の少年が
雨を避けるようにうずくまっているような気がして
いるはずの無い二人の影を探してしまう。
そこには・・・誰もいない。
そして心に決める。
これからは、雨の日は公園を通らないようにしよう。
もうアタシはキースとロイで手一杯なんだから。

・・・・・・・・・・・・・・・〜Fin〜・・・・・・・・・・・・・・・

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