DESTINY
第五話
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「後にするつもりだったけど・・・これは仕事の話よ」
困惑するキースとロイをリビングに残して、カーラと寝室に入る。
ベッドに腰掛けたアタシに、壁にもたれて立ったままカーラが話しを続ける。
「ハル・カリノスから、個人的ではあるけれど依頼があったの」
アタシは肩をすくめ、ゲーッという表情をしてみせる。
組織のNo.3。殺しの専門家。
アタシ達と同業のようで少し違う。
アタシ達が組織の「裏」の殺しを引き受けるのに対し
ヤツは専ら「表」の殺しを任されている。
対立する組織との抗争、報復、裏切り者や負け犬の粛清・・・
ヤツはアタシ達でも目をそむけるような惨いやり方で仕事をこなしていく。
見せしめの要素を持つ殺しをカリノスは得意とし、また好んでいた。
そして、そういう仕事を好んでいるカリノスという男がアタシは嫌いだった。
「アイツがアタシ達になんの用?」
「探し物よ・・・ヤツが留守にしている間に逃げ出した・・・2匹のペット」
そう言ってカーラが胸の内ポケットから紙切れを取り出すと、アタシが腰掛けるベッドに投げた。
ヒラヒラと舞い落ちるそれは、2枚の写真。
手にとって見ると、よく知っている2つの顔がそこにあった。
無表情なキースとロイの顔写真。
そのまま二人でしばらく凍りついたように無言で過ごす。
アタシの頭の中はグルグルと混乱していた。
「・・・どうして・・・なんでアナタが二人の写真を?」
「もう・・・わかってるでしょ、ジョー。あの二人は、カリノスの所から逃げ出してきたのよ」
「・・・そんな・・・アタシ・・・どうすれば・・・」
「悪いことは言わないわ・・・あの二人をカリノスに引渡し・・・」
「イヤ!」
カーラの言葉を全て聞き終える前に拒絶の言葉が口を突いて出る。
やれやれといったようにカーラは肩をすくめる。
「わかってるの、ジョー?アナタかなりヤバイ状況なのよ?」
「相手がカリノスでも・・・この子達は渡さない!」
「今まで見つからなかっただけでも運がいいのよ?ヤツのペットを・・・」
「ペットなんかじゃない!」
「・・・ねえ、ジョー。そりゃアタシだってカリノスなんかににあんな可愛い子達を渡したくない」
ため息をつきながら、カーラが何時になくゆっくりと喋る。
「あの子達が・・・どんな仕打ちを受けていたかは、アタシも大体知ってるの」
「・・・え・・・そうなの?」
「一度アイツの家に行った時にね・・・あの二人を見てるの」
「・・・どんなだったの?」
「ソファーに腰掛けるヤツの傍に、裸で鎖で繋がれていたわ・・・あんな目には、もう会わせたくない」
「だったら!・・・だったら・・・助けてよ・・・」
「でもね・・・あの子達を逃がしてしまったヤツの部下が、切り刻まれて犬の餌になったのも知ってるのよ」
・・・ソレぐらいのことはするだろう。ハル・カリノスなら。
でも、だからこそあの子達をヤツの元に返すなど出来ない・・・
「・・・カーラ・・・あの子達のこと、カリノスに報せるつもり?」
探るようにカーラを見つめる。もし・・・彼女がその気なら・・・アタシはどうするのだろう?
しばらく見つめあう。
やがて、彼女が肩をすくめてため息をつき首を横に振る。
「・・・ありがと」
「いいわよ。でも・・・このままこの街にいたんじゃマズイわね。犬の餌になるのはゴメンだわ」
「うん・・・なんとかしてあの子達だけでも逃がさないと」
「逃げる、か・・・カリノウはかなりの賞金をその子達にかけてるわ。かなりヤバイわよ?」
「街を出ちゃえばなんとかなる・・・と思うけど」
「ま、アナタは基本的にはフリーだからね・・・なんとかなるか・・・後のことはアタシがなんとかするわ」
「ゴメンね・・・」
「いいわよ・・・ちょっと寂しくなるけどね」
アタシの隣に腰をおろし、カーラはしばらくアタシを見つめると
その柔らかな胸にアタシの顔を押し付けるようにして抱きしめる。
アタシも甘える子供のように彼女の背に手を回し、少しの間そうしていた。
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行動は早いほうがいい。
すぐにこの部屋を出て、どこか遠く・・・組織の・・・ハル・カリノス目の届かない所・・・
そう、対立する組織の縄張りにでも逃げてしまおう。
隠してあった色々な物を小さなカバンに詰め込んでカーラとベッドルームを出た。
・・・ロイがいない。さっきまではリビングにキースといたはずなのに。
とてつもなく嫌な予感に襲われながら
叫ぶようにキースに尋ねる。
「キース!ロイは!?」
「え?・・・ああ、買い物に行ったよ。なんかクッキーが食べたいとか・・・」
カーラと一瞬目を合わせる。
次の瞬間にはドアに向かって走っていた。
「この子、お願い!」
「わかった!ジョー、何かあったら携帯で呼んで!」
外に出る。ドラッグストアは・・・あっちだ!
何も起きていないように。
何事もなく買い物を済ませたロイと出会えるように。
ただそれだけを願いながら走る、走る、走る。
でも。
曲がり角の向こうに見えたのは
屈強な男達に車に押し込められるロイのぐったりとした姿だった。
思わず腰のグロックを抜く。
・・・ダメ・・・ロイに・・・当たってしまう!
再び走り出すアタシの目の前で、ロイを載せたシボレーが走り出す。
追いかけて、追いかけて、追いかけて・・・
でも車の速度に追いつくはずもなくて・・・
いつかアタシはグロックを握り締めたまま
泣きながら道に座りこんでいた。
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打ちひしがれて部屋に戻り、ロイが連れ去られた事を告げる。
「・・・嘘・・でしょ?」
引きつった笑いを見せてキースが問い掛ける。
「・・・ゴメン・・・追いかけたんだけど・・・アタシ、追いかけたけど・・・追いつけなくて・・・」
少しの沈黙を置いてカーラが口を開く。
「一人でもカリノスの手に渡ってしまったのなら・・・この子もアナタも危ないわ。早く逃げたほうがいい」
「・・・どうして?」
「相手はカリノスなのよ。もう一人の居場所−つまり、ここのコトををすぐに聞き出すわ」
キースが滅多に見せない怒りの表情でカーラを睨み叫ぶ。
「ロイはあんなヤツに喋ったりしない!」
「聞き出す手段なんていくらでもあるのよ、坊や・・・クスリを使えばすぐだわ」
「じゃあ・・・もう、逃げられない?」
「アタシ達だけなら・・・まだ多分大丈夫」
「・・・そう、なんだ・・・じゃあ・・・もう、しょうがないね・・・」
キースがアタシの正面に立つ。
「今まで・・・ありがとう。大好き・・・ホント、大好きだよ・・・これからも、ずっと・・・大好きだよ」
そう言いながら、ゆっくりと後ずさっていく。ドアのほうへ。
「・・・キース?」
「ボク・・・もう帰るよ」
「な・・・ナニ言ってるの!?まだ間に合うのよ!?まだ逃げられるの!アタシと一緒に・・・」
「・・・ロイを置いて?できないよ、そんなの・・・あそこは・・・地獄なんだ」
「だったらなんでそんなトコに帰るなんて言うのよ!?」
「だって・・・ロイがそこにいるんだもん・・・ロイ一人じゃあの地獄は耐えられないよ・・・だから、行かなきゃ」
「・・・アタシは!?アタシはどうなるの!?アナタ達二人とも失って、どうすればいいの!?」
「ボクだって!ジョーと逃げたい!でも・・・ロイと一緒でなけりゃ・・・ダメなんだよ!」
突然カーラがアタシを後ろから抱きすくめる。
「!?な・・・離してよっ!キース、待って!」
「行って・・・早く!・・・いつか・・・必ず借りを返すから、今はカリノスのところで耐えて!」
「ありがとう、お姉さん・・・ジョー・・・さよならっ!」
後ろ手にドアを開け、キースが走り去っていく。
「離してっ!離してよぉっ!キース、待って!アタシを置いていかないで!」
「行かせなさい!今はコレしか道がないの!あの子のほうがわかってるのよ!」
「イヤアァッ!離してっ!カーラ、お願い!アタシを行かせて!」
「ダメよ・・・追っちゃダメ・・・今は、耐えて・・・」
カーラに抱きすくめられたまま、アタシは泣いた。
泣いて、そのまま崩れ落ちるアタシをカーラがそっと支えてくれる。
気がつけば、彼女もまた泣いていた。
そのまま床に座り込んで、二人抱き合ったまま泣いていた。
何時までも。
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それからのアタシは抜け殻も同じだった。
生きている事さえも苦痛でしかなかった。
救えなかった。
二人を、過去の自分を、アタシ達の未来を・・・
何も救えなかった。
カーラが時折心配して訪ねてくれる。でも、それさえもつらい記憶に結びつくだけだった。
誰にも会いたくない。
消えてしまいたい。
「ジョー?いるの?」
今日もカ−ラが訪ねてくる。
「なんだ、いるんじゃない・・・灯りぐらいつけなさいよ・・・」
「・・・なにか用・・・」
「仕事の話よ」
「止めてよ」
「あら、いいのかしら・・・ターゲットは、ハル・カリノスなんだけど」
「・・・え?」
「ボスからの直接の指令よ・・・カリノスがストラーダ・ファミリーに内通しているのがわかってね」
知らないうちにアタシは立ち上がっていた。
「事故に見せかける事。次にヤツがストラーダのヤツらと連絡を取る2週間後より前に」
「条件はそれだけ?」
「もう一つは・・・成功、失敗に関わらず仕事が終わったら当分姿を隠すこと」
「ヤツの手下も・・・殺っちゃっていいの?」
「それも条件のうちよ。主だった者は処分するように。コレがリスト」
「・・・やるわ」
「そう言うと思ってもう引き受けてるわ。報酬は・・・」
「いらないわ、そんなもの・・・これで二人が救えるなら」
「話は最後までお聞きなさい。ギャラとは別に、アタシも条件を出したわ」
「?」
「カリノスの所に居る二人の少年を保護すること」
「ああ・・・カーラ・・・アタシ、なんて言っていいか・・・」
「あらあら・・・泣くのは、カリノスを殺ってからにしなさいな・・・あのオチビちゃん達を助けてからね」
久しぶりに気持ちが高揚する。
仕事にこれほど熱意が湧いたのは初めてだ。
今までは、ただ機械のように指示された仕事をこなしてきた。
でも、今回は違う。
皮肉な事に、少しだけカリノスが殺しを楽しむ気持ちがわかった気がした。
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