DESTINY

第二話

「どうするの、これから」
「え?」
キャンベルの缶詰スープに茹でたソーセージ。
買い置きの硬くなったパンとチーズ。
用意した簡単な食事を貪るように食べていた二人に問い掛ける。
「どうするって・・・」
「今夜は、ココに泊まればいいわ。じゃあ、その後はどうするの?」
二人の食事の手が止まる。
「どこか行くあてはあるの?」
ふるふると首を横に振る。まあ、そうだろうと思った。
「じゃあ、どうしたいの、アナタ達?」
「わからないよ、そんなの・・・」
「二人で居られれば・・・後はどうでもいいんだ」
「でも、あそこには戻りたくない」
「戻るぐらいなら・・・」
怒り。恐れ。悲しみ。諦め。
色々なものが混ざり合った複雑な表情。
二人が黙ってしまうと、それ以上何を言っても無駄なような気がした。
「スープ、冷めるわよ」
場を繕おうとしたが、我ながら間抜けなセリフだ。とっくに冷めてる。
だが、思い出したようにのろのろとまた二人が食べ始める。
しょうがないか。
拾ったのなら、ちゃんと面倒見てやるべきなのだろう。
「明日、家具を見に行かないとね」
「・・・え?」
「ウチ、ベッドが一つしかないのよ」
また二人の手が止まる。
「まさかアタシにずっとソファで寝ろってんじゃないわよね?」
ぽろぽろと二人の頬を涙が伝う。
ベッド一つでこんなに感激されるとは思わなかった。
「・・・いいの?・・・ここにいて・・・いいの?」
「まあ・・・とりあえず二人でやっていけるようになるまでは、ね。もう食べないなら片付けるわよ?」
泣きながらまた食べ始める。
さっきよりは食べるスピードが上がっていた。
やがて食卓が綺麗に片付くと二人が立ち上がる。
「・・・ご馳走様・・・ジョー?」
「ん?」
「・・・ありがとう」
食器を片付けるアタシの背中に二人の少年が寄り添う。
アタシのほうがまだ少し背が高い。
左右の肩に二人の顔がもたれかかる。
いつか、アタシよりも背が高くなるのだろう。
それまで、この子達はここにいるだろうか?
しばらく、そのままでいた。

「どう考えたって、このソファに二人寝られるわけないでしょ!」
リビングのソファを挟んで、アタシと二人がにらみ合う。
「大丈夫だってば!」
「ほら、コッチのとくっ付ければなんとかなるって!」
「で、朝になったらまた戻す訳?いいからアンタ達でベッド使いなさい!」
「そこまでしてもらわなくてもいいって!」
「今までだってベンチで寝てたりしたんだから平気だよ!」
「もう!・・・ここの家主は誰?」
「ジョーだよ」
「じゃ、これぐらい家主のいうコト聞きなさいよ!」
「だから、家主をソファで眠らせてボク達がベッド使うなんておかしいよ!」
「アタシは今夜はソファで眠りたい気分なの!」
どちらがベッドを使うかを譲り合っているうちに
なんだか馬鹿げた意地の張り合いになってしまった。
やがてキースが眠たげに欠伸を漏らしてベッドルームに向かう。
どうやら根負けしたようだ。
「ロイ、アナタも早く寝たら?」
「・・・まだ眠くないよ。それに、なんだか喉が渇いちゃった。コーヒーが飲みたいな」
そういえば、怒鳴ってたせいかアタシも喉が渇いてしまった。
「インスタントしかないけどね。いい?」
「うん、ありがと」
キッチンから戻ってみて、二人のコンビネーションを思い知らされることになった。
「早い者勝ち〜」
すでに毛布に包まった二人にソファは占拠されている。
「・・・騙したわね」
「え、そんなことないよ。コーヒー飲みたかったのホントだもん」
「よくわかったわ・・・ソファは実力で奪い取るしかないようね!」
「わっ、危ないよっ!」
強引に毛布の裾を持ち上げてソファに潜り込む・・・
「わっ!?」
勢いあまってキースの体に覆い被さるような姿勢になってしまう。
びくん、と体を震わせ、華奢な体からは信じられないような力で
キースがアタシを跳ね除ける。
「きゃ!?」
「あっ・・・大丈夫?」
「やったなぁ!・・・?」
ロイが声をかけてくるが、キースは黙ったままだ。
様子がおかしい。
頭から毛布をかぶり震えている。
ロイが毛布ごとキースを抱きかかえ、その背をさすっている。
「・・・思い出しちゃったんだね」
「どうしたの?何が・・・」
「キースはね・・・」
ロイが言いかけたところで、キースが起き上がる。
「ロイ、その話は止めよう」
「どうして?これから・・・ジョーと暮らすんだから、知っておいてもらうほうが・・・」
「・・・わかった。じゃ、ボクから話すよ」
キースがソファに座りなおしてアタシをじっと見る。
やがてゆっくりと話し始めた。
「ボク・・・女性恐怖症らしいんだ」

ソファに横になり(最終的にアタシが奪い取った)、二人の話を思い出す。
それはまるで自分の過去を聞かされるような話だった。
再婚した二人の親(そう呼べるのかは疑問だ)は
互いの相手の連れ子を欲望のはけ口にしていたのだ。
キースの父親がロイを。
ロイの母親がキースを。
まだ10歳の子供を毎晩のように犯しつづけ
時には実の親の前で奉仕させられたり
二人掛りで責められたらしい。
3年間、そんな日々が続いたのだという。
そして、キースは女性恐怖症になってしまったらしい。
直接触れられることが怖いのだという。
逆にロイが男性恐怖症にならなかったのは
大好きなキースも男だから、ということらしい。
だが、二人にとっての地獄はまだ続いていた。
キースの父親が1年前に薬物中毒で死ぬと(いい気味だ)
ロイの母親は二人を「売った」のだ。
売られた先は、何処かの金持ちだったらしい。
そこでまた・・・同じようなコトの繰り返し。
やっとのことで逃げ出してきた二人の前に現れたのが
アタシだったと言う訳だ。
この二人は、アタシだ。
10年前の。
実の父親に犯されつづけたアタシと同じなのだ。
10年前のアタシには、助けてくれる人はいなかった。
だからこそアタシはこの二人を助けなければと思う。
そうすることで、10年前の自分自身を助けられるような気がする。
ソファを抜け出して、そっとベッドルームに向かう。
起こさないように注意して、二人の寝顔を見てみる。
どんな夢を見ているのだろう。
出来るなら、この先二人には安らかな夢を見せてやりたいと思った。

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