DESTINY
第一話
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捨てられた子犬。
それが彼らを見た時の第一印象。
10月の冷たい雨が降る公園のベンチ。
その中の木の下の一つに、傘も指さずに腰掛ける二人の少年。
少しでも濡れないように、二人抱き合うように座っているが
朽ちかけてまばらになった木の葉のすき間から漏れる雨が
容赦なく二人に降り注ぐ。
やせ細り、着ているものは薄汚れ、二人揃ったブロンドの髪も
艶を失い、色あせたように見える。
何処にでもいる、浮浪児の類。
そう思った。
このまま視線を向ける事なく、通り過ぎる。
つもりだった。
だが、実際にはアタシは彼らの前に歩み寄っていた。
未だに、何故そんな事をしたのかわからない。
極力、人との係わり合いは避けてきたはずなのに。
どうかしていたのかもしれない。
雨が少しだけ、アタシの心を湿っぽく感傷的にしていたのかもしれない。
今となっては、理由などどうでもいい事なのだが。
二人の前に立ち、声をかける。
「大丈夫?」
返事はない。
ただ二人揃ってこちらを見上げ、戸惑いの表情を見せている。
もう一度聞く。
「大丈夫?」
「・・・助けて」
少し背の高いほうの少年が、絞り出すような声で訴える。
「いいわ。ついてきなさい」
互いを支え会うように、少年達がふらりと立ち上がる。
「歩ける?」
無言のままうなずく。
「そう。それほど遠くないわ。頑張って」
さしていた傘を彼らに手渡す。
おずおずと差し出された二本の手がそれを受け取る。
アタシがコートのフードを被ると、やや小柄なほうの少年が尋ねる。
「お姉さんの傘は?」
「アタシはいいわ」
「でも・・・」
「いいから」
いつもより歩幅を狭め、ゆっくりとわが家に向かう。
時折振り返り、少年達がついてきているかどうか確かめながら。
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入り口でバスタオルで体を拭かせながら
改めて二人の様子を見る。
年齢は14、5歳といったところ。よく似ている。兄弟だろうか?
ブロンド。透き通るような白い肌。青い瞳。痩せた体。
整った顔だち。だが唇を紫に染め、歯をカチカチと鳴らす様は
美少年というよりも病的な印象が強い。
「寒いの?」
「ずっと・・・濡れてたから」
「待ってて。お風呂用意するから」
二人をソファーに腰掛けさせて、バスタブに湯を張る。
「どっちが先に入る?」
「・・・一緒に」
「一緒?狭いわよ?」
「平気」
「そう。じゃ、着てるものは洗っておいてあげるからココに入れてね」
「うん」
バスルームから水音が聞こえてくるのを待ってから
二人の服を洗濯機に放り込む。
背格好はアタシとたいして違わないから
着替えは私のTシャツとジーンズでいいだろう。
下着はないが、まあそれぐらいは我慢してもらうことにして
二人分の着替えを用意すると、バスルームに行く。
近づくと、バスルームの中から声が聞こえた。
うめき声。
どちらかはわからない。どこか具合でも悪いのだろうか?
声をかけようとして、やがて気がつく。
声色は、二人分聞こえる。
荒い息と共に。
苦痛にうめく声ではない。
歓びの声だった。
半透明の仕切りの向こうに、シャワーを浴びながら絡み合う二人の姿が見える。
色白な裸体が、時にゆっくり、時に激しく蠢く。
不思議と嫌悪感はない。
彼らが「男」というにはあまりに幼いせいだろうか。
むしろ、鼓動が高まっていくのを感じていた。
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黙って着替えを置き、その場を気づかれないように離れる。
やがて、二人がリビングに戻ってきた。
「長かったわね」
別に皮肉のつもりではなかったが、二人が上気した顔をさらに紅潮させる。
「着替え、サイズはどう?」
「うん・・・ボクは平気。キースはちょっときつそう」
「そんなことないよ。たいして変わらないだろ」
「そう・・・でも、驚いたわ」
「何が?」
「兄弟だと思ってたけど、恋人同士だったのね」
さっ、と二人の顔色が変わる。
悪戯を見咎められたような顔。
「えっと・・・」
「隠さなくてもいいわ。着替えを置いていくときに見ちゃったの」
「だから・・・止めようって言ったのに!」
「なっ・・・最初にしたがったのはロイじゃないか!」
言い争いになりそうな二人を遮る。
「いいのよ、別に咎めているわけじゃないの。ただちょっと驚いただけ」
二人が顔を見合わせる。
「・・・怒ってないの?」
「どうして?」
「だって・・・いけない事だって・・・」
「アタシはそうは思ってないの。だって・・・アタシも同じだから」
「え?じゃ・・・オニイサンだったの?」
ぽかっ。
「・・・っ痛ぇ〜」
「追い出されたいの?」
もちろん冗談だが。
「違うよロイ、この人は・・・女の人が好きな女の人なんだよ。ボク達の逆。でしょ?」
「はっきり言うわね。その通りだけど・・・ま、そういう訳だから、キミ達のことをとやかく言うつもりはないわ」
「だったら打たなくたっていいのに・・・」
二人が安心したように体の力を抜いて座り直す。
「でもまあ、いい度胸よね。拾われてきていきなり他人の家でする?」
「あ・・・それは・・・その・・・ごめんなさい」
「ずっと・・・してなかったから、裸になったら、なんか止まらなくて・・・」
「ま、いいけどね。ところで、自己紹介がまだだったわね」
「あ・・・えっと・・・キース、です」
背の高いほうが先に答える。
「キース・・・ナニ?」
二人が顔を見合わせ、困ったような表情になる。
「大丈夫よ。警察とか、誰かに言うために聞いてるんじゃないから」
「・・・フレック」
「キース・フレックね。でキミが・・・ロイね。ロイはファミリーネームは?」
また二人が顔を見合わせる。
「どうしたの?キースは教えてくれたわよ?」
「・・・フレック・・・」
「え・・・じゃ・・・やっぱり兄弟なの!?」
「ち、血は繋がってないんだよ!」
「ロイの母親がボクの親父と再婚したんだよ。ボク達が10歳の時」
「はあ・・・もう、どうでもいいわ・・・」
二人の言っていることが本当かどうか、確かめる手段はないし
そのつもりもない。確かめてなんになるというの?
「お姉さんは?」
「え?」
「お姉さんの名前。まだ聞いてないよ」
「あら、そうだったっけ?」
「うん」
「ジョー・モラレスよ。ヨロシクね」
「ジョー?・・・やっぱり・・・オニイサン?」
ぽかっ。
「そんなに追い出して欲しいとは思わなかったわ」
「冗談だよ!ぽかぽかぶたないでよ!」
雨の中拾った子犬達は、とびっきりおかしな子犬達だった。
それもいいかもしれない。
私だって似たようなものなのだから。
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