第6夜 「空き地」

「あれ?」通りかかった空き地の前でふと足を止める。
子供の頃、家のそばにあった空き地とソックリなのだ。
なんとなく懐かしい気持ちになって、しばらく眺めてみる。
そう、真中に少し地面の盛り上がったところがあって・・・
木の杭が3本、中途半端な場所に打ち込まれていて・・・
背の低い木が2本、並んではえていて・・・
周りはぐるりと、杭と鉄条網で囲まれて・・・
「あ、やっぱりここから入れる・・・」
一箇所だけ、鉄条網が途切れるところまで同じだ。
体が大きくなった分、ちょっと窮屈だが
何とか中に入ることができた。

中に入ってみると、さらによく似ていることに驚かされた。
ちょっと大きな、上面が平らな岩があること。
よくこの岩の上で独楽をまわして遊んだものだ。
2本の木の間にはロープが張ってあること。
このロープにぶら下がって、サルのように往復したりもした。
・・・いや、ただ単に似ているだけで
「この岩」でも「このロープ」でもないはずなのだが。
まるで子供の頃の遊び場が
そのままの姿でまた目の前に現れた、そんな気がしていた。
そして2本の木の後ろ側には・・・・
それを見つけたとき、軽いめまいを感じた。
木の後ろ側はすこしえぐれたようになっていて
道路から死角になるその位置に
ベニヤ板で囲まれた狭い空間。
上側の板には「ひみつきち」と書かれていた。
私の字で。

「サトル?」突然の背後からの声に
心臓が止まるほど驚かされる。慌てて振り向くと
そこには私とほぼ同年代の男がいた。
どこか見覚えの有るような・・・
「シンジ・・・か?」「やっぱサトルかぁ!久しぶりだなぁおい!」
「おお、10年ぶりか?けど変わんねーなお前」
「お前もナ。後ろからでもすぐ分かったぜ」
「いやー、驚いたなー。なにしてんだよこんなとこで」
「ソレはこっちのセリフだよ。いつコッチにきたんだ?」
「へ?ナニ言ってんだコッチ来たのお前だろ?」
なんだか話が噛み合っていない。
10年前、私と幼馴染のシンジは
それぞれ別の場所にほぼ同時期に引っ越したのだ。
なのに二人とも、自分の今の「地元」から出てはいないのだ。
「じゃ・・・ここ何処だよ?」

「だいたい、この秘密基地があるのが変だぜ」
「これ、お前の字だよなぁ。じゃ、ここはあの空き地なのか?」
「そんなハズねーって。とにかくここから出ようぜ」
だが、そこにあるはずの鉄条網の切れ目がない。
入るときには確かにあったのに。
「なあ、確かここだったよなぁ」
「んー・・・そのはずだけど。周り回ってみるか」
ぐるりと空き地を一周したが、何処にも出入りできそうな隙間はない。
「なんか杭の数増えてねーか?」
「高さも高くなってるような気がする・・・」
「こんなに鉄条網びっしりだったっけ・・・」
しばらく会話が途切れる。
「あ、基地になんか道具置いてなかったかな」
「探してみるか」

「狭ぇ〜。よくこんなとこ入ってたよな俺達」
「なんかあったか?」
「ちょい待ち・・・あ!」
「どした?」
「いや、最後にさ、ここにタイムカプセル埋めたじゃん」
「・・・あーあー、そーいやんなコトしたっけか」
「ほら、このシャベルで穴掘ったんだよ」
「・・・ペンチとかはねーの?」
「んー・・・なんかろくなもんねーな」
「シャベルじゃなぁ。穴掘って出るわけには・・・ナニしてんだ?」
「思い出したんだよ。あのタイムカプセル、いつ掘り出そうっていってたか」
私も、思い出した。ばらばらに引っ越す前に
シンジと2人で埋めたタイムカプセルの期限は、10年だった・・・
「今日って・・・ちょうど10年目か?」
「たぶんそーだろ」
答えながらもシンジは手を休めない。
「あ、出た出た」

中身はたわいのないものばかりだった。
当時それぞれが宝物にしていた物を
10年経ったら掘り出して交換しようと約束して埋めたのだ。
「うわー、しょうもないモンばっか」
「お前、こんなモンいまさらいらねーって」
「そーゆーなよ。ほれ、これサトルの分ナ」
シンジがそれを私に手渡した瞬間
ぐにゃり
と周りの空間が歪んだ。
そして・・・私は道にひとり佇んでいた。
空き地などそこにはなかった。
まるで白昼夢を見ていたかのようだが
私の手にはシンジがくれた小さな化石標本が残っていた。
「ちぇ・・・いらねーってこんなの」
まじまじとそいつを見る。アイツが自分で見つけて
大事にしていたもので、私がいくらナニかと交換と言っても
頑として応じなかったものだ。
「ま、約束だからな・・・もらっといてやるよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・Fin・・・・・・・・・・・・・・・・・

どうだったかね?それではまた、別の夜に。

次の夜も覗いてみる

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