第5夜 「味」
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「ねえ、アナタ」 遅い夕食をとっていると妻が話しかけてくる。
珍しいこともあるものだ。妻のほうから話しかけてくるとは。
「今日のスープ、おかしくなかった?」
「ん?・・・いや、別に。・・・なんで?」
これは、嘘だ。少し甘味が強すぎたのだが
そんなこといちいち言うのも面倒なので
そのまま黙って平らげてしまったのだ。
「そう・・・なら、いいのよ」微笑んでいる。おかしいのは味ではなく
妻の態度のほうだ。
妙に機嫌がいい。ゆったりワインを飲みながら
じっと私の顔を見つめている。
浮気がばれてからというもの、ろくに口も聞かなかったのが
今夜はいったいどうした風の吹き回しなんだ?
「じゃあ、サラダは?どうだった?おいしかった?」
これは返答に困った。多分ドレッシングを変えたのだろうが
スープ同様、やけに甘ったるくて私の口にはあわなかったのだ。
全部食べるには食べたのだが。
「んー・・・ちょっと甘味が強すぎじゃないかな?」
「そう・・・そうかもしれないわね。沢山入れたから」
「何を入れたんだ?」
「アナタのお料理にね」妻が微笑む。「毒を入れたの」
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「・・・冗談だろ?」
「心配はいらないわ。ちゃんと解毒剤はあるの」
相変わらず微笑んだまま、妻は小さなビンを取り出す。
「コレが、アナタの飲んだ毒よ」
ビンの中身は殆ど入っていない。マジか、おい!
「きれいに全部食べてくれたから、致死量には十分ね」
「脅かしっこ無しだぜ、おい。それにしちゃ苦しくも何ともないぞ」
「そうね。これ、効き目は遅いから。でも、確実に、死ぬわよ」
私は急いで電話に向かう。救急車を!
だが、妻が背後で嘲るように笑う。
「無駄だと思うわよ?何の毒を飲んだか調べてる間に
あの世行き、ってことになるわね」
「くそっ!なんだってんだ?どうかしてるぞお前!」
「アナタが助かるには・・・そうね」
妻は相変わらず、いやみったらしく笑っている。
「今から10分以内に、私の用意した解毒剤を飲むしかないの」
「だったら、さっさとよこせ!」
じりじりと妻に近づき、隙あらば飛び掛ろうとすると
「アナタの目の前にあるのよ。このテーブルの上に」
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ケチャップ、タバスコ、ビネガー、塩コショウetc・・・
テーブルの上には様々な調味料やらなんやらが
所狭しと乗っている。どれだ?どれが解毒剤だ?
・・・分かるわけもないし調べている暇はなさそうだ。
片っ端から飲み込もうとすると
「解毒剤は、一つだけ。後は全部、違う種類の毒よ」
「・・・なんのつもりだ?いったいどうしろってんだ?」
「別に。ただ、アナタを困らせてみたかっただけ」
「もう十分、これ以上ないってぐらい困ってる」
「そうみたいね。じゃあ後は、アナタの浮気について」
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それからの10分足らずは、まるで蛇の生殺しだ。
謝罪につぐ謝罪、今までの浮気の告白
今の浮気の相手に別れの電話をかけさせられたりもした。
ヘソクリは根こそぎ持って行かれ朝のゴミ出しまで約束させられた。
ようやっとお許しが出て解毒剤(ビネガーだった)を飲み
なんとか人心地がついた。さて・・・
「ところで・・・今日のワイン、変わった味じゃなかったか?」
今度は、私の番だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・Fin・・・・・・・・・・・・・・・・・
どうだったかね?それではまた、別の夜に。