第1夜 「線路」

(どうして・・・こんなトコ来ちゃったんだろう)
そこは踏切だった。すでに真夜中を過ぎ列車は走っていない。
ただ遮断機が降りていて、向こう側に行く事も出来ない。
(いやだなぁ・・・)
職を失うと同時に恋人に捨てられ、半ば茫然自失といった状態で
街をさ迷っているうちに、何時の間にか
ここへ来てしまったのだ。大嫌いなはずの、線路のそばに。
あの時から、線路のそばは、嫌いな場所だった。
そう、あの時から・・・

小さな子供の頃、線路のそばに住んでいた。
近所に年の近い子供がいなかった事もあって
一人でよく線路の中に入って遊んでは、大人に叱られた。
お気に入りの遊びは、レールを平均台の様にして
バランスを取って歩いている、ただそれだけの
遊びともいえないようなものだった。
あの日も、レールの上をただ歩いていた。
ふと気づくと、前から反対側のレールの上を
同い年ぐらいの少年が、自分と同じように
バランスを取りながら歩いてきた。
「やあ」
「キミ、どこから来たの?」
そんな風に話しながらも、二人ともレールの上から降りようとはしない。
そのうち、レールの上で競争しよう、と言う事になった。
「落ちたら負けだぞ」
「ヨーイ、ドン!」
いつもより早足でレールの上を、二人が決めたゴールへ
ただ黙々と歩いて行った。
「痛ッ」
勝負はあっけなくついた。相手の少年がレールから落ちたのだ。
「大丈夫?」
そのとき初めて、前から列車が近づいていた事に気づいた。
「早く逃げなきゃ!」
だが、少年は立ち上がれない様だった。
列車はどんどん近づいていた。私は手を差し伸べて
少年を助け起こそうとしたが・・・
恐怖に駆られ、私はその場から逃げた。
後ろから列車の警笛、ブレーキの音、色々な音が聞こえたが
振り向かず、ただその場から逃げたのだった。

(とにかく、線路沿いに歩けばどこかの駅に着くだろう)
とぼとぼと歩き始めたときだった。
「やあ」
少年に、声をかけられた。あの時の少年に。
であったときのままの姿で、彼はレールの上に立っていた。
「さあ、もう一回やろうぜ?」
なぜか頭がボーッとして、身体が勝手に動いていく。
そして、レールの上に立っていた。
「ヨーイ、ドン!」
自分の意思に関係なく足が勝手に動き
また、あの時の様に競争が始まった。
今度も勝負はあっけなくついた。
ただし、レールから落ちたのは今度は私のほうだ。
そして、前からは列車が近づいてくる・・・
「動けないんだろう?」
少年はこちらを見てニヤニヤ笑っている。
列車の音はどんどん近づいていた。

「ほらっ」
少年が、手を差し伸べる。
一瞬、なんだかわからないでとまどったが
少年の手を掴んだ。身体が動くようになっていた。
「逃げようぜっ」
慌てふためいて、線路から転げ落ちる様にして逃げた。
背後を、轟音と共に列車が通りすぎる。
(・・・助かった・・・?)
気がつくと、少年の姿がない。
ただ、遠ざかる列車の音に混じって、声が聞こえた。
「またやろうぜ。今度は落ちないで、最後までだぞ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・Fin・・・・・・・・・・・・・・・・・

どうだったかね?それではまた、別の夜に。

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